外国人留学生に直撃!日本人学生のGood&Bad

Vol.1 九州大学 ステファン・エマニュエル・フシェさん

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ステファン・エマニュエル・フシェ●1992年10月12日カナダ生まれ ハイチ出身。2004年、ハイチでのクーデターの影響を受け、12歳でニューヨーク(アメリカ)へ転校。高校卒業後、奨学金制度を利用し、ハーバード大学へ入学。社会学を専攻しながら、副専攻として東アジア研究を選択。日本、中国、アメリカなどでさまざまなインターンシップを経験。13年、ハーバード大学を休学し、九州大学へ国費留学。14年8月に留学を終え、9月からはハーバード大学4年生として復学する。クレオール語(ハイチ語)、スペイン語、フランス語、英語、日本語の5カ国語に堪能で、現在中国語を勉強中。

 

教科書代から旅費まで、充実しているアイビーリーグの奨学金制度

ハイチはカリブ海に浮かぶ美しい島国ですが、政変が激しく、12歳の時、クーデターによる武力衝突で、私の通っていた学校周辺が攻撃をうけ、学校は廃校となりました。その年(2004年)の夏休みに「ニューヨークの叔父さんの家に遊びに行ってらっしゃい」と母に言われ、バカンスのつもりでアメリカへ行ったんです。夏休みが終わりに近づきハイチへ戻る準備をしていると、母から電話があり「アメリカでの転校の手続きは全部終わっているから、新学期は叔父さんの家から学校へ行きなさい」と言われて。「だまされた!」と思いました。母は最初から、ハイチの学校は危険なので、アメリカへ転校させるつもりで私を飛行機に乗せたのです。本当のことを言うとハイチの友達と別れたくない私が飛行機に乗らないのがわかっていたので、転校のことを隠していたんですね。

 

ニューヨークでは、叔父宅での居候生活だったので、すべての問題を自分で解決しなくてはいけませんでした。高校卒業後もアメリカの大学に進学したいと思うようになっていましたが、叔父夫婦には私の従弟にあたる子どもがいましたし、大学の学費がネックになりました。国立大学は学費が高い、アイビーリーグ(アメリカ東海岸中心に点在する名門私立大学)はもっと学費が高い。ただ、アイビーリーグの奨学金制度はとても充実していて、両親の収入で学費を賄えない学生でも、大学が必要だと認めた学生には、大学が親の所得に応じた奨学金を出してくれるのです。私の場合は、大学までの飛行機代、寮費、教科書代など全額大学が負担してくれています。私には、どうしても奨学生として合格する必要がありました。

 

無事ハーバード大学に入学することができ、3年生まで社会学を専攻し、副専攻として東アジア研究を選択しました。もう少し日本の社会を掘り下げてみたくなり、今は専攻を東アジア研究に、副専攻を社会学という形にしています。九州大学への国費留学は、留学中の単位がハーバード大学で認められ、ハーバード大学を4年で卒業できるシステムになっています。けれども、私は自由に単位を取りたかったので、ハーバード大学を休学し、2013年の夏から1年間、九州大学で好きな授業を受けるコースを選択しました。私のような1年間だけの国費留学生は九州大学に20人いて、8月中旬に修了式があります。その後、約1カ月間は日本の国内を旅行して、14年の秋からまたハーバード大学の4年生に戻ります。

 

“飲みにケーション”重視のクラブ活動は卒業して、もう一段上のステップへ

私は、今、大学内の留学生会館に住んでいますが、九州大学はキャンパスの近くに住んでいる学生が多いですね。徒歩か自転車で通学できて、環境としてはハーバード大学とそんなに変わらないです。でも、東京の大学へ留学している同級生の話を聞き、びっくりしました。東京では親と同居し、1時間以上かけて電車通学するのが普通だというのです。一日往復3時間ですよ。無駄だなと思います。東京の大学には構内に寮がないのが問題でしょう。寮がないから、地方から出てきて一人暮らししている人と、親元から通う人とコミュニケーションする場がない。クラブ活動や授業やゼミが同じなど、そういう特別な関係じゃないと、自分と違う環境の人と交流できない。アメリカの大学だったら、寮や食堂でたまたま前の席に座った人とあいさつして、交流が生まれる。大学生なのにそういう異文化交流の場がなくて、通学に3時間というのは損失が大きすぎますね。

 

また、日本の「部活」を見ていて思うのは、将来の仕事のために自分の役割を考えるためのものにはなっていないということ。将来就職したときに役に立つ「飲みにケーション」の予行練習って感じで、もったいないですね。ハーバード大学にももちろん部活はありますが、部活の価値は400万ドル(約4億円)と試算されています。運営しているのは全員学生です。予算をつくっているのも学生なら、利益を上げているのも学生。だから、学生という立場でありながら、本物のビジネス社会に触れているような体験ができる場所です。例えば、ハイチから大統領がボストンに来ることがわかったら、私を含めたハイチ出身の学生で、大統領との会合の場を設け、企業にスポンサーになってもらうように頼む。そんな企画を立案し、運営して利益に結びつけていく体験をする場が、「部活」です。そういう部活動を通して、日本の実業家である三木谷浩史さんのような自分だけの力では会うことができない人物に会うことができ、とても刺激的な体験をしました。日本の大学の部活動は、ただ集まって一緒にスポーツや音楽などの活動をするだけで高校までの部活動と大差がない。大学時代にしか体験できない、一歩進んだ部活動の仕方があるのに、そのレベルまで到達していないのはとても残念だと思います。

 

箱から出てみよう。越えなければならないのは言葉の壁ではなく心の壁

日本人を見ていて思うのは、その人が異文化での生活を経験したかどうかによって、留学生との交流に大きな差があるということです。帰国子女はもちろんですが、少しの期間でも海外へ行って異文化で生活をしたことのある人は全然違うので、すぐわかります。

 

日本人との会話は、いつも「私、英語できないので」という言葉から始まりますが、それで大丈夫。そこからがスタートです。

日本人の英語が上達しないのは、ずばり、英語で話をしなくてはならない機会が少ないからでしょう。でも、本当に大切なのは、相手の国と自分の国の文化の違いを理解すること。例えば、誘われて「行けない」と思ったとき、日本人はよく「ちょっと、用事があって」と言います。言葉だけなら「ちょっと」の意味も「用事があって」の意味も理解できます。でも文化の違いを知らないと、そのことが「行けない」ということにつながることを想像できません。「行かない」なのか「行きたいけど、行けない」なのか。理解して越えなくてはならないのは、言葉の壁ではなく文化の壁であることがほとんどです。私自身、ハイチからアメリカへ転校した時に、言葉よりも心のルールや文化の違いを理解することの方が大切だということに気がつきました。だから、日本人の「ちょっと、用事があって」の意味を探ろうと考えます。けれども、文化の温度差を一度も経験したことがないと、異文化のルールを推し量ることは難しいかもしれません。文化の交流は、言葉には関係なく、人の心に寄り添って生まれるのです。

 

僕はよく日本の友達に、自分を囲む壁の中だけで行動していると、その箱から出ていくのがだんだん大変になるよって言います。年を重ねれば重ねるほど、それは難しくなる。ほんの少しでもいいから、できるだけ若いうちにその箱から出てみてください。なぜなら、箱の外でも、ルールさえ理解すれば危なくないことが身をもってわかるからです。できれば、誰もが知っているような大都会ではなく、文化交流がしやすい地方都市がお勧めです。「先輩や友達がそんな場所で留学なんて無理だと言ったから」と躊躇(ちゅうちょ)している人がいますが、留学したいと思ったら、できるだけ自分で情報を集め、チャレンジしてみてください。意外なところで道は開けるものです。

 

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ステファンさんに質問!

Q1.日本で一番お気に入りの場所はどこですか?

2011年の夏に日本での語学研修で初来日した時にホームステイした石川県小松市です。北陸は昔の町並みと日本の自然美が残っていて、今でも私の心のふるさとです。写真はお祭りに行った時のもの。

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Q2.日本の好きな食べ物は?

もちろん、博多ラーメンの「バリカタ(※)」です。ラーメン店のカウンター席に座って「豚骨、バリカタ、大盛り!」と大声で注文して食べています。ニューヨークでも、ラーメンは人気メニューでよく食べましたが、博多のとは比較にならない。本当においしいです。
(※)バリカタとは、博多ラーメンの麺の硬さの種類のこと

Q3.気分転換にやっている趣味はありますか?

アメリカ時代から競技ダンスをずっと続けています。今も、定期的にスタジオで稽古を続けています。サルサとかラテンが得意ですね。カリブのリズムに似ていますから。

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Q4.今までどんなインターンシップを経験しましたか?

11年には、アメリカと中国の会社でマーケティングなどの業務にかかわり、ドミニカ共和国で「国境なきエンジニア」のメンバーとして浄水ビジネスの通訳を担当しました。12年には、ガス会社など日本と中国の企業でインターンシップを行いました。

Q5.将来の目標は?

15年5月にハーバード大学を卒業する予定です。その後、一度日本に戻って、日本で働く予定です。しばらく働いたら、アメリカのビジネススクールに進みたいと考えています。アメリカでは学士から直接大学院に進むことはめったにありません。一般的に社会で少し働いてみて、自分に足りないところを補うために大学院に進みます。ハイチでは、日本企業はブランド力が高いので、実際に工場や会社を誘致すれば雇用も生まれるし、双方にとって大きな利益をもたらしたい。ハイチと日本、2つの国の懸け橋になることが夢ですね。

取材・文/川瀬美加 撮影/鈴木慶子

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