外国人留学生に直撃!日本人学生のGood&Bad

Vol.5 慶應義塾大学 パイ・ハオカイさん

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

パイ・ハオカイ●1992年10月15日生まれ、台湾出身。小学校5年生の夏休みまで台湾で過ごす。父を台湾に残し、英語教育のため母と弟とアメリカに移住、マサチューセッツ州の公立中学校に転入する。その後奨学金制度を利用しハーバード大学へ進学、経済学を専攻。日本の歴史に興味があり、英語と中国語に加え日本語をマスターするため2013年9月より慶應義塾大学に留学。14年9月からはハーバード大学に復学。趣味は台湾にいたころから続けているバイオリン。

ph_ryugakusei_vol05_01
インターンシップの仲間と奈良に旅行した際の1枚。歴史的な空気の下でバイオリンを演奏したのはとても気持ち良かったそう。

 

厳しい成績基準が求められるアメリカ社会

台湾の小学校では3年生から授業で英語を習い始めます。私は学校だけではなく塾でも英語を勉強していましたが、両親の方針で、私の中学進学を機に、家族でアメリカに移住することになりました。父は仕事の都合でしばらく台湾に残らなくてはならなかったため、母と弟と3人で渡米。日本ではあまり見かけませんが、韓国や台湾ではときどき、子どもの教育のために英語圏へ移住する家族がいます。転居先は、アメリカ東海岸マサチューセッツ州のボストン郊外のレキシントンという歴史ある町で、すぐに公立中学校での新生活が始まりました。自宅から車で20分くらいのところにハーバード大学がありましたが、引っ越したばかりのころは、中学校の英語の授業についていくのに精一杯で、まさか自分が10年後にハーバード大学の門をくぐるとは思ってもいなかったですね。幸い、ESL(English as a second language=英語以外を母国語とする人たちのための英語)コースのいい先生と出会い、1年ほどで英語力は現地の生徒たちに追いつきました。

 

高校時代から、大学では政治学か経済学を学び、大学卒業後は、ロースクール(法律の大学院)に進み、弁護士になりたいと考えていました。ハーバード大学などアメリカの多くの大学では、親の所得の高低にかかわらず受験生に門戸を平等に広げたいという方針を明確にしていて、大学側が必要とした学生に対しては、成績だけではなく親の所得額によって奨学金の種類が決まることが多いです。私は、奨学生としてハーバード大学に入学し、慶應義塾大学に留学する時も、留学生を支援する日本企業の奨学金制度を利用しました。

 

私には、奨学金やロースクール入学という目的があるので、常にAの数を意識するなど、自分の大学の成績を頭の中で計算し、興味と難易度のバランスを取りながら授業を選択しなくてはなりません。一方日本では、一般的に、就職のための厳密な成績基準が設けられていない。そして大学時代の課外活動や打ち込んだことも評価の対象に入るようなので、もっと難しい授業や面白そうな授業をどんどん受ければいいのにと感じています。成績のことを気にせず、興味のある授業に挑戦できるのはうらやましいですね。

 

ハーバード大学の学生による授業評価のフィードバックは貴重な情報源

慶應義塾大学では、日本語研修課程のほか、商学部の「Global Passport Program」の授業もとりました。これは商学部で2014年度から始まった国際プログラムで、国際社会の中で企業や組織が直面する諸問題に英語で取り組み、ディベートやプレゼンテーションなど英語で意見交換することが多かったですね。大学3、4年生を中心とした30名くらいのクラスで、中には帰国子女も数人いましたが、日本の学生は、他人と意見をぶつけ合うということが少なかったです。私は、10歳まで台湾で育ち、アジア人の血が流れていますから、日本人の奥ゆかしさとか人と違うことが恥ずかしいという気持ちは何となくわかります。「あぁ自分も渡米したころはこんな感じだったなぁ」と懐かしく思う気持ちさえありました。でもアメリカの教育に慣れてくると、人前で自分の意見を言うことが平気になってくる。というより、言わざるを得ない。言わないとわかってもらえないということが身についてきました。日本の授業でも、もっと学生がお互いの意見をぶつけ合うような授業が増えたら面白いと思います。

 

ハーバード大学には、授業改善のためのフィードバック情報として、“Q guide”とよばれる学生による授業評価システムがあります。全学生が授業を受けた後、その授業や教授に関する情報をハーバード大学のシステムに入力するんです。入力された情報は、全学生がアクセスして閲覧でき、先生の講義の評判や、レポートは難しいか、宿題は多いかなど、毎学期、授業を申請する時や試験前の貴重な情報源になっています。実際に、専攻を経済学に決める時には、このフィードバックされた情報がとても参考になりました。15年度中に副専攻を決めなくてはならず、今、東アジア研究か政治学が迷っているのですが、このQ guideを使って、詳しく調べてみようと思っています。

 

言葉の壁は音楽で越える、サークル活動でのコミュニケーション

私は図書館が好きで、大学図書館としては世界トップレベルの規模を誇るハーバード大学の図書館はもちろんですが、慶應義塾大学の図書館もよく利用しました。台湾にいたころは、ドラえもんをはじめ日本文化がもっと身近だったのですが、渡米してからは、日本語とは疎遠になり、家の中では中国語、学校では英語という環境になりました。弟は中国語より英語の方が慣れていると思いますが、意識的に家族と話すときは中国語を使うようにしています。日本語は、同じ意味を表す言葉がたくさんあって、とても難しい。場面に応じた正しい使い方ができているかいつも不安になってしまいます。

 

台湾でバイオリンを習い始め、慶應義塾大学では、カデンツァ・フィルハーモニーという室内楽のサークルに入っていました。新潟で合宿したり、みなとみらいホール(横浜)で演奏したりしましたね。日本のサークルは何事もきちんとしていて、用意周到。アメリカの場合は、いろんな人が意見を出すので、その場で臨機応変に決まることが多いので、組織化された日本文化を感じましたね。高校時代は、マサチューセッツ州のオーケストラや全米高校オーケストラに属し、高校卒業の時に、オーケストラを率いてショスタコーヴィチのバイオリン協奏曲を弾きました。一番好きな曲目は、サラサーテのチゴイネルワイゼンです。台湾にいたころに、渡米した時に言葉の壁が少しでも低くなればと親が勧めたバイオリンですが、日本に留学中も役に立ちましたね。言葉ができなくても、楽器があればどんな国の人たちともコミュニケーションがとれるということが実感できました。

 

ph_ryugakusei_vol05_02

 

パイさんに質問!

Q1.日本のどこにひかれますか?

日本の歴史が好きなので、司馬遼太郎の『坂の上の雲』や大河ドラマの『龍馬伝』、『軍師官兵衛』などをテレビや映画で見るのが大好きです。特に戦国時代や幕末の武将の話などが面白いですね。京都に旅行した時(写真)、坂本竜馬が暗殺された寺田屋など、歴史の舞台が見れて、とても感動しました。

ph_ryugakusei_vol05_03

Q2.尊敬する人物はいますか?

日本人なら『学問のすゝめ』を説いた福澤諭吉です。中国人では、梁啓超(りょうけいちょう)。清末期の政治家で、戊戌(ぼじゅつ)の政変で日本に亡命していた学者です。アメリカ人では、独立宣言を書いたトーマス=ジェファーソンか、プリンストン大学の学長を務めた後、第28代大統領になったウィルソンです。

Q3.インターンシップの経験は?

大学2年の夏休みには、日本の政府系研究機関でインターンシップを経験しました。現在も、そこに在籍しているアメリカ人の先生に頼まれ、貿易輸出に関するレポートを書いているところです。2014年は、日本の教育関連企業で日本の学生に能動的な学習法を教えるプログラムを行いました。私は、自分の将来に役に立つかという視点でインターンシップやアルバイトを選んでいます。どちらのインターンシップも日本社会を学ぶ貴重な機会になりました。

Q4.日本で一番便利だと思うものは?

PASMO(パスモ:関東中心に使用されている鉄道系の電子マネー)です。アメリカやそのほかの国にも、交通機関のプリペイドカードはありますが、これほど正確で、多くの場所で使えて、反応が速いカードは世界にないと思います。それから日本食も世界一!

Q5.将来の夢は?

ハーバード大学を卒業したら就職して2年ほど働き、ロースクールに入学して弁護士になりたいです。弁護士としてアメリカで経験を積んで、将来的には東アジアで働きたいと思っています。それから、ハーバード大学在学中に、大先輩である世界的チェリストのヨーヨー・マさんに会ってみたい。13年の夏、ハーバード大学に公演にいらしたのですが、日本でのインターンシップ中で会えませんでした。これが、最初にかなえたい夢ですね。

取材・文/川瀬美加 撮影/刑部友康

  • このエントリーをはてなブックマークに追加