外国人留学生に直撃!日本人学生のGood&Bad

Vol.7 早稲田大学大学院 ヘイリー・ボーラさん

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ヘイリー・ボーラ●1992年7月24日ロンドン生まれ、グレナダ共和国出身。高校卒業後、奨学金制度を利用しセントジョージ大学へ進学し、心理学部を専攻。2014年4月に国費留学で初来日し、早稲田大学大学院へ。現在、日本語を勉強しながら、国際コミュニケーション研究科で修士号獲得を目指す。母国語の英語に加えフランス語、スペイン語が堪能で、日常会話程度のイタリア語もこなす。

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グレナダ唯一の大学で妹2人と卒業式に出席するヘイリーさん。

 

授業の合間にカリブ海で休憩という生活が一変

グレナダと聞くと日本人は、スペインのグラナダという町を思い起こすかもしれませんが、私の母国、グレナダ共和国はカリブ海に浮かぶ美しい島国です。人口はおよそ11万人。島には日本大使館がなく、日本に留学するための手続きには隣国のトリニダード・トバゴへ渡らなくてはなりません。イギリスの植民地時代が長く続いたグレナダの公用語は英語で、イギリスやカナダなどの国々とは往来があり、私は両親が働いていたロンドンで生まれました。両親がグレナダ出身だったので、3歳の時に家族でグレナダに帰国。二人の妹はグレナダ生まれです。私自身、ほとんどロンドンの記憶はありませんが、イギリスやカナダやオーストラリアなどには今も親戚が住んでいます。

 

教育制度はほぼイギリス国内と同じで、18歳で義務教育は終了。大学の学費は米ドルで高額なため、大学進学には奨学金試験に合格しなくてはなりませんでした。公立のカトリック系女子高を卒業後に合格しなくてはならない奨学金試験は、英語、仏語、スペイン語を含め11科目に及ぶ難関だったため、高校時代は勉強に追われましたね。勉学に必要な費用は奨学金でまかなうのが普通で、アルバイトをしている学生はほとんどいません。奨学金制度を利用した海外留学は、募集がほとんどなく、さらに狭き門です。

 

卒業した私立のセントジョージ大学は、国内で唯一の大学です。医学部には医師免許獲得を目指すアメリカからの留学生が多いのですが、私のような現地の奨学生のほとんどは文系学部に在籍しています。私はそこで4年間心理学を専攻しました。卒業後は、大学で学んだことを生かし、グレナダでアメリカ系保険会社のコールセンターで医療手続きに関する仕事をしていました。新卒で仕事につけるという貴重な機会を逃したくなかったし、国費留学生の募集はめったになかったからです。

 

日本を留学先に選んだのは、これまで育った環境と正反対の未知の国で勉強してみたかったから。言葉も文化も想像を超えるような、そんな国で生活してみたかったんです。グレナダで留学を希望する学生は英語やフランス語ができるので、身近なアメリカ、カナダ、イギリスを留学先に選ぶのですが、私はちょっと冒険してみたくなって…。留学先が日本に決まった後、複数の大学のサイトでキャンパスの写真を見て、一番グレナダと異なる大都会の風景が印象的だった早稲田大学を選びました。私が卒業した大学は、カリブ海に浮いているようなキャンパスで、授業の合間に海に飛び込むような学生生活でしたから。その自然美がアメリカ人留学生からは人気のようです。

 

大都会で言葉の壁以上に不安なのは、人とのつながりの薄さ

日本のアニメや音楽は世界中の若者に受け入れられていると思います。アメリカから専用番組がどんどん配信されてきて、『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』やJ-POPは、グレナダの若者にも人気があります。でも、面白いことは知っていても、それが日本でつくられていると知っている人は少ないです。車もそう。島にはアメリカ経由の日本車がたくさん走っていますが、商品名を聞いたことはあっても、ほとんどの人はそれが日本製だとは知らない。日本は商品ではなく日本という国を海外に積極的にPRすればいいのに。私は宇多田ヒカルやX JAPANが好きなので、彼らの音楽を通して日本語を聞いたことはありましたが、日本の知識は何もないままに早稲田大学へやってきました。大学院のクラスはほとんどが留学生なので、出身地と日本の文化を比べ、意見交換するのがとても楽しいです。例えば、学校の新年度は9月から始まるという生活に慣れてきた私にとって、4月に行われた入学式は新鮮でした。春、桜の開花と同時に新しい学年がスタートするのは、とても心がワクワクしていいですね。私たちカリブ出身者は、幼いころから、脳の言葉スイッチを素早く切り替えて、英語、フランス語、スペイン語や地元の言葉を使い分け慣れているので、語学の習得は早いのですが、それでも日本語は難しい。韓国や中国などアジア系の留学生に助けてもらって何とか生活しています。

 

授業を通して日本人の学生と交流する機会が少なく残念なのですが、食堂などで見かける日本の学生はとてもきちんとしていますね。女子学生は、ネイルやメイクに工夫をしているし、男子学生も髪形や髭の手入れなど、徹底しています。例えば、スマホや携帯電話にストラップやケースを付けていない人はいないし、些細なことにもこだわりを感じます。きっと日本の企業が研究熱心なのは、小さなことにも手を抜かない学生が就職するからだと思います。

 

もっと深く日本の文化を知るには、部活動やサークルに参加すればいいのですが、留学生は勉強に追われ、なかなか時間的な余裕がないので残念です。日本の大学生の交流は部活やサークルが中心のようですが、グレナダでは授業中に意見をぶつけ合いながらお互いを理解し、どんどん仲良くなっていくので、社交場としての部活は必要ありません。もちろん、グレナダの大学にもサークルはありますが、練習は義務ではないし、出入りも自由で、同じ趣味を楽しむための場になっています。早稲田大学では部活には入れなくても、在学中に早慶戦に行ってみたいです。グレナダには大学が1校しかなかったので、6大学対抗戦など大学同士の交流戦は憧れです。日本の大学は精神的なつながりが深く、就活でもOB・OGの講演会が開かれるなどいつでも相談できる体制になっていて家族のようですね。

 

日本に来て言葉の壁以上に心細かったのは、人とのつながり。グレナダでは島内の誰とでもどこかでつながっているという安心感がありましたが、東京では知り合いが一人もいない。大学へは地下鉄で通っていますが、通勤ラッシュ時に『こんなに人が多いのに、知り合いが一人もいない』と考えるたびに、グレナダとは真逆の世界にいることを実感し、とても不安になります。異文化との遭遇、これこそ私が最もしたかったことなのですが…。でも、私の大学生の妹たちも卒業後は国費留学生を目指しているので、私が挫折してしまうと彼女たちの夢もつぶしてしまうと思い、頑張っています。つらいときは、スカイプを通じて地元や外国で働いている友達に相談しています。留学から半年たち、ルームシェアする友達ができ、日本社会にようやく慣れてきました。

 

日本では、グレナダからの留学生は珍しいと思いますが、実は、私に続き、後輩の男子学生が日本へ国費留学することが決まりました。彼は京都の大学を選んだので、機会があれば訪ねていきたい。少しずつでも、日本の中にグレナダのことを知っている人が増えていけばいいですね。自動車産業はもちろん農業や漁業に従事しているグレナダ人にも、日本の技術や水産加工業に興味がある人は多い。私が留学したことが、二国の交流につながることを信じています。

 

学生時代は、異文化に触れて「心の声」に耳を傾けるチャンス

日本は暮らしやすい国と言われていますが、それは物質的な側面が大きいのではないでしょうか。何もかもそろっていて、お金さえあれば何でもできるという点では、世界一生活しやすい国でしょう。日本に来て驚いたのは、人々が皆いつも追い立てられるように急いでいること。満員電車で眉間にしわを寄せて下を向いて階段はかけ上がり…と、本当に忙しそう。でも、その忙しい日々の中で、それぞれが小さなこだわりを持って次から次へと新しいものを作り出しているのがすごいと思います。ストラップや安いアクセサリーでさえ、何色も何種類もあって、それでもどんどん新しいデザインが生まれてくる。制服姿の高校生やスーツ姿のビジネスパーソンが、新しい小さなデザインの流行を生み出していく。休みの日や通学中に地下鉄の構内でベンチに座り、行き交う日本人の格好や行動を見るのが大好きです。サブカルチャーが生まれる現場にまさに自分がいると実感できるのです。

 

それから、驚くべき日本の老人パワー。グレナダは定年を迎えると家に引きこもりがちになる人がほとんどですが、日本では美術館めぐり、登山、ショッピング、飲み会…どこでも老人がとてもイキイキしています。

 

グレナダには求人がほとんどないので、若い間は、外国で働いて貯金をし、50歳前後になって島へ戻ってくる人が多いです。求人が極端に少ないせいかもしれませんが、根本的に、仕事に男女差は感じられません。『男だから働く、女だから家を守る』という考え方もないですね。例えば、私の母は、3人の子どもを育てながら学校の先生をしていましたが、朝は弁当を作って洗濯をして、学校へ出かけていました。でも、それは母が女だからではなく、母の方が弁当づくりや洗濯が好きだったからであって、嫌々やっていたわけではありません。父はおいしい魚を釣ってきて料理をしてくれ、学校への送迎をしていました。家事も仕事も、できることをできる人がやるって感じでしょうか。

 

島では仕事が少なくて一種類の仕事ではとても生活していけないから、父は、公務員、ビル管理や車のセールスなどいろいろな仕事に就いていました。バーを経営しながら、農業、宝石業、観光業をしている人もいます。『これもやってみようかな』と仕事をする人がほとんどだから、好きなことを仕事にしているとも言えるのかもしれません。グレナダの朝は、太陽の光を浴びてリラックスし、海風を感じることから始まりますから。

 

生き方や社会の仕組みを変えるのは難しいと思いますが、私は若い時に外国で人々がどのように暮らしているかを実際に自分の目で見て知ることが大切だと思っています。私自身、来日してから、日本人や留学生の意見や正反対の価値観を聞き、とても刺激を受け、自らの精神的な変化を感じています。日本の学生も異文化に触れることで、自分の心の声に気づくことがあるかもしれません。学生の間が、心のままに学べる最後のチャンス。今の自分の気持ちを押し殺さないでほしいです。

 

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ヘイリーさんに質問!

Q1.日本の大学生を見ていて驚いたことはありますか?

学生なのに男女共とてもおしゃれですね。特に女子大生はお化粧をして、ヒールの靴を履いて、バッグを持って教室に入ってくるので驚きます。グレナダでは、学生は皆Tシャツに短パンやGパンで、授業の合間にそのまま海にザブンと入ってまた授業を受けるという感じでしたから。

Q2.懐かしいグレナダの食べ物はありますか?

ずばり、トロピカルフルーツです。グレナダでは、至る所にマンゴーの実がなっていて、バケツに何杯も飽きるほどマンゴーを食べていたけれど、日本では高価でびっくり。新鮮なマンゴーが時々とても食べたくなり困っています。

Q3.髪の毛をピンク色にしたのは?

もともとの髪の毛は黒色ですが、髪を明るい色に染めるようになったのは、X JAPANのHIDEの影響です。自分で明るい色の髪の毛に染めると、気持ちが軽くなって自分に自信が持てるような気がするのです。ここ数年は、このピンク色がとても気に入っています。

Q4.日本で行ってみたいところはありますか?

まだ関東近郊の筑波山などの山登りや長野くらいまでしか行ったことがないので、ぜひ関西方面に行ってみたい。大阪や京都の伝統的な建物や暮らし方が見たいです。大学で友人に日本の浴衣を着せてもらったのですが、とても楽しい体験でした。それから、沖縄にもとても興味があります。日本の南国の島々と自分たちのカリブの島々の暮らしを比べてみたいです。

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Q5.将来の目標は?

具体的な将来はまだ決めていませんが、できれば、早稲田大学で博士課程が取りたい。そのためには絶対に奨学金が必要だし、一生懸命勉強しなくてはいけません。博士課程に進めなかったら、就職を考えなくてはいけませんが、日本に残って就職できればいいなと思っています。グレナダに戻っても仕事はないので、日本で就職できなければ、ロンドンに行こうかなと漠然と考えています。日本のサブカルチャーに興味があるので、メディアで働きたいですね。

 

取材・文/釣田美加 撮影/鈴木慶子

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