【香港編】大切なのは異文化理解と歴史認識

Reported by HM
メーカーでの海外技術営業の豊富な経験を生かし、香港現地法人の日本側責任者として出向中。週末には、トレッキングなどのスポーツを家族で楽しむ。

心の垣根を取り払う勇気を持ってこそ真の国際人になれる

こんにちは。HMです。香港にいると、東アジアの一員として、香港と中国、日本との関係を考えされられることがあります。今回は、転換期を迎えた香港に居合わせた日本人の目線で、感じたことをお伝えしたいと思います。

赴任してから、何度か交通事故を目撃しましたが、警察が来るまで加害者が逃げないように声をかけながら現場を囲む人、被害者のケガを確認する人、救急車を呼ぶ人、状況を説明する人と、合わせて30人くらいの人々が声をかけ合って助けていました。それは、香港人だけでなく、フィリピン人、欧米人など人種はさまざま。地下鉄やトラム(路面電車)でも、高齢者や体の不自由な人に席を譲るのは日常的です。道を渡るお年寄りに手を差し伸べたり、段差のある道で車いすを押してあげるなど、ちょっとした親切な行為をスマートに行う人が多い印象を受けています。インフラだけを見れば日本の方がはるかに整っていますが、香港には、それをカバーする人の優しさがありますね。

また、土地が狭い香港では、2人以下でレストランに行くと他人と相席になりますが、私たちが香港人ではないとわかると、相席の地元の方が、注文の仕方やお勧めメニューを教えてくれることがあります。日本人だとわかると日本語を教えてほしいと言われることもあり、私からも広東語の言い回しやお勧めの場所を気軽に聞けます。プライベートを守ることも大切ですが、人と人との垣根が低い、こうした香港の習慣がほほ笑ましく思えるようになりました。

一方、不正や間違いに対しては厳しく、並んでいる列に割り込んだりする人がいると、必ず注意する人がいます。それで口論になることもありますが、多くの人種がルールを守って生活するためには「話しかけること」が大切だと気づかされる毎日です。

語学力はあるに越したことはありませんが、海外駐在をする上で最も大切なのは、異文化理解と教養(出身国と相手の国の歴史認識)です。日本は地理的に島国なので、日常の生活で、異文化理解について話し合う機会がほとんどありませんが、アジアの国々の中でさえ、それはとても特異なことだということをよく肝に銘じておくことが大切です。

海外生活には、健康と体力が重要ですが、鈍感力(過剰に反応せず、流せる力)も必要だと感じますね。海外では、日本の生活から想定外のことが起こると、自分なりに状況を理解してその場で判断を迫られることがあります。あとで、その判断が間違いで、誤解が生じることがあっても、過ぎてしまったことや悔やんでもどうにもならないことは気にしない。自分はベストを尽くしたと思いこむというように、自分の心を整える力が大切になってきます。日本には以心伝心という言葉がありますが、海外では「説明しないことは理解してもらえない」と思っていた方がいいでしょう。

アジアの一員としてできることを考えよう

現在、香港の正式名称は「中華人民共和国香港特別行政区」です。長く続いたイギリス植民地時代、第2次世界大戦中の日本軍による占領時代、終戦後のイギリス再統治時代、そして「一国二制度(※)」の現在と、常に歴史に翻弄されてきました。そのため、教育環境や社会福祉制度が整わないなど、貧富の差が膨らみ格差が社会問題となっています。日本では当たり前だった環境が、実は恵まれた特殊な条件がそろった社会であることを痛感する毎日です。

(※)中国統治下においても、特別行政区として、中国とイギリス植民地時代の経済制度の2つが実行されていることを指す。

香港という場所柄、日本より中国との関係に目が向きます。特に2014年は、若者による反政府デモが起こり、私たち駐在員も国の在り方について考えさせられました。ただし、交通機関の乱れはあったものの、日本で報道されているような過激な場面はまったくなく、デモ自体はとても統制がとれていて、真面目で賢い若者を応援したい気持ちに。民主化を守るデモには外国人の姿も多く、金色や黄色のリボンをつけ、賛同を表明していました。

ビジネスの場面では、立場上、日本人としての立ち位置を守りながら、出向元の日本と、現地法人の香港の円滑な関係を築くように常に配慮が欠かせません。プライベートでは、広東語で話しかけるなど、地元の人と積極的にかかわるよう努めています。スーパーやレストランでは、日本人だとわかると日本語で話しかけてくる人も多く、香港は反日より親日という印象を強く持ちました。

実際、香港のトップニュースに日本のニュースが流れることが多く、14年の北京サミットの際も習近平主席より安倍晋三首相の方を多くテレビ画面で見かけたほどです。日本の情報は、電車やバスのモニターで常に流れており、大雪や地震などの自然災害のニュースは速報で流れます。日本の雑誌はいたる所で売られていますし、テレビドラマや映画もすぐに流通されるため、簡単に入手できます。OLは日本の女性誌の写真を見てファッションや髪形を参考にしているようです。

とはいっても、第2次世界大戦中に、日本軍が香港でしてきたことはきちんと把握しておく必要があります。香港の「海防博物館」には戦争当時の資料や展示物が飾られており、家族で学びました。外国で仕事をする上で、相手国と自国の歴史は悲劇であっても目をそむけず事実を把握することが大切です。

アジアには、中国、インド、インドネシアなど、これから発展する可能性を秘めた国がたくさんあります。官民両方の立場から日本人が貢献できる分野も多いでしょう。香港に赴任して以来、そうした国々とWin-Winの関係を築き、アジアの発展に寄与できればいいなと思うようになりました。貢献できることは誰にでもあるはずです。千里の道も一歩から。学生の皆さん、初心を忘れず、いつの日か無限の可能性を秘めた世界という舞台へ飛び出せるよう、どんな小さい事でも継続し、頑張っていきましょう。

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中国語、英語、日本語、フランス語…。デモに参加できなくても、世界中の支持者から寄せられたメッセージがぎっしり貼られている。子どもたちもメッセージを読みながら、この国の未来を考える。

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日本の雑誌は、オフィス街のOLに人気。どこでも買える。

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地元の人が利用するのは、もっぱら下町の市場(マーケット)。食料品だけではなく、化粧品、洋服、靴から海外ブランドのコピーまで何でもそろう。

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香港には100メートル間隔でゴミ箱があり、香港環境保護署が常に掃除する人を派遣している。デモ内には立ち入れないため、ゴミ分別や掃除は意識が高いデモ隊が自ら積極的に行っていた。

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抗議デモは夜通し続き、テントで生活した若者たち。

構成/釣田美加

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