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Vol.357 日本技術貿易株式会社

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くさの・ちひろ●商標部商標グループ。東海大学法学部法律学科卒業、 Franklin Pierce Law Center LL.Mコース(当時)修了。2007年入社。大学4年時の就職活動で商社から内定を得たが、自分のやりたいことではないと感じて辞退。米国のロースクールに留学し、知的財産について学び、知財業界で英語力を生かしたいと考えて現社に入社。知的財産に携わり、海外の弁護士や弁理士と日常的にやりとりできる仕事内容が決め手になった。

入社1年目から商標登録を担当する部署に配属。世界各地における制度の違いを学んでいく

特許や実用新案、デザイン、商標など、知的財産(知財)の権利にかかわる仕事がしたいと考え、日本企業における国際的な知財戦略を支援する現社に入社した草野千尋さん。入社後、新人研修を受けたのち、日本企業の外国商標出願と、日本企業の海外における商標関連の係争・交渉業務サポートなどを行う部署に配属された。
「最初の半年は、先輩の実務をサポートする形で、事務の仕事から学んでいきました。お客さまに進捗状況を伝えるための報告書作成がメインでした。教育係の先輩に指導してもらいながら、一つひとつ学んでいきましたが、お客さまによって出願先の国や地域が違うため、制度の内容や法律、許可されるまでの経緯などが違います。世界で200の国と地域における出願を請け負っているので、各地の制度内容や過去の事例を一つひとつ調べながら必死で把握していきました」

 

商標出願の実務においては、まずお客さまとなるクライアント企業の海外での事業展開についてヒアリングするところから始まる。「どの国に」「どのようなロゴや文字を」「どの製品やサービスについて」「どのような方法で」登録しようとするのか方針が決定したら、現地の代理人となる弁護士・弁理士に連絡・指示出しをして、現地の法律・審査基準に合わせた最適な形で申請手続きを進める。
「審査官に裁量が与えられているため、現地の法律や審査基準に則した内容で出願を行ったとしても、出願案件がすんなり通らないことも意外とあります。その際には、各国の特許庁・商標局から拒絶理由を通知する“オフィスアクション”が届くので、実務を担当している者がお客さまにその内容を報告した上で対応策を提案します。どう反論もしくは補正すればいいのかを現地の代理人と相談しながら進めていきますが、出願から登録に至るまでにかかる時間は、早くて半年、長いと10年以上かかることもあるんですよ」

 

草野さんが初めて実務を任せてもらったのは、入社1年目の10月。大手ゲーム会社の出願において、審査官から補正の指令が発せられたため、補正案の検討を担当したという。
「有名なゲームのタイトルとロゴの商標登録出願の案件でした。先輩から引き継いだので、一から任されたわけではありませんが、誰もが知っている企業の知財に携われることにワクワクしましたね。しかし、自分が間違った判断をすれば、権利の確保に失敗する可能性もあります。時間は巻き戻せないので、責任の重さをあらためて実感しました。社内に保管されている過去の事例ファイルをチェックし、少しでも効率的に申請を進めていける方法を探していきました」

 

それから3カ月後、草野さんは実務の担当として独り立ちし、10社程度の企業を任される。医薬品メーカーや自動車会社、メーカーなど、クライアントの業界はさまざまで、各企業の新規出願から登録まで責任を持って対応していくことに。
「お客さまとのやりとりも自分で行うようになりましたが、まだまだ経験が足りないため、断片的な知識をつなぎ合わせながらの対応でしたね。月に15件程度の出願申請を手がけていましたが、報告書に対する質問をされても、すべての国の制度や事例に精通しているわけではないので、即答できなくて。返事を保留にして先輩にどうすればいいか聞くこともしょっちゅうでした」

 

出願の準備では、事前にチェックしておく項目がかなり多いという。当初は経験の浅さから一つひとつの項目の重要性を認識できていなかったため、検討が不十分で、審査官から補正の指令がかかることもあった。
「失敗は次に生かしていきましたが、『なぜ先輩のようにスムーズに進められないのか』という悔しさを感じました。そこで、出勤時間を早め、確認作業をより丁寧に行うよう心がけたり、自分なりに情報のまとめ方を改善しようと考えたんです。知財の知識は必要な場面に遭遇してこそ身につくものです。そこで、自分が経験の中で学んだ国ごとの制度の違いや注意点を文書としてまとめ、ノウハウや知見を体系化していくことにしました」

 

効率的な出願登録を目指し、改善策を常に考えていく中、独り立ちから半年後には任される担当社数は倍増する。しかし、どの企業からいつ依頼が来るのかはわからず、すでに出願している案件のオフィスアクションが発生するタイミングも読めないため、作業のスケジュールは常に不確定。常時、平均15件の出願案件が並行する中、優先順位をつけることが難しかったという。
「出願案件の2件に1件はオフィスアクションが発生しますし、対応しなくてはならない法的な期限もバラバラなんですよ。内容によっては、法定期限が1年以上ある案件もあるんです。何社からも出願依頼が集中した時期に、急ぎの案件を優先し、出願済みの案件のオフィスアクションの報告が遅れてしまい、お叱りを受けたこともありました。適切に優先順位をつけられるようになるまでには、実務を担当してから数年はかかりましたね。積み重ねた知見の下、自分の対応能力がようやく追いついてきた手応えを感じるようになりました」

 

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お客さまと新規商標出願についての打ち合わせ。ロゴや文字などの申請したい内容、出願先の国などについてヒアリングし、どんな方法があるかを提案する。

 

入社4年目、代理人事務所の選定プロジェクトに参加。お客さま向けセミナーの企画・運営も担当

草野さんは、経験を重ねていく中で、現地の代理人とのやりとりもブラッシュアップしていった。
「例えば、類似商標が登録されているとの理由で審査官が拒絶の判断を下し、代理人もそれが妥当だと伝えてきたことがありました。『類似商標が登録されている商品は高級スポーツカーのみ。こちらが登録したいのは大衆車なので、審査官に出願対象の商品にスポーツカーは含まないと明示すれば、登録が認められるのでは?』と代理人に提案したところ、代理人の同意が得られ、クライアントへその手法を提案することができました。入社したころは、代理人のアドバイスを正確にお客さまに伝えるので精いっぱいでした。しかし、それだけではお客さまの満足度を高めることはできません。経験を積むにつれ、状況に即した提案を行い、積極的にお客さまに対してアドバイスを行うように心がけていきました。また、弊社への報告書に盛り込んでほしい内容を吟味して、基本的な要求をまとめたService Level Requirement(通称SLR)をグループのメンバーと協力して作成し、代理人に配布して、代理人の品質を標準化していく努力もしました」

 

 

入社4年目には、取引先とする各国の代理人事務所を絞り込むプロジェクトチームに参加。従来は1つの国に数十という代理人が併存し、サービスやコミュニケーションのレベルがまちまちであった。そこで、出願件数の多い30カ国を対象に、これまで取引してきた事務所の中から国ごとに対応の良い事務所をいくつか選択し、案件を集中させようとするプロジェクトである。「選択と集中」により、代理人のサービス品質を標準化するとともに、相互の関係をより緊密にし、コミュニケーション・レベルを上げるミッションであった。
「実際の申請を行うのは現地の代理人で、われわれはお客さまとの間を橋渡しする立場。ですから、腕のいい事務所を選ぶことが重要です。代理人のミスは弊社のミスでもあるため、お客さまからの信頼を高めるためにも、このミッションは非常に大切なものでした」

 

草野さんの会社は、代理人にとっては「仕事の依頼をくれるお客」だが、出願登録に向かうという目的は同じ。同志としてしっかり対応してくれる事務所を探すため、過去に出願した案件や取り扱った訴訟実績、従業員数、料金などのデータを集め、チームのメンバーと精査していった。
「途中からプロジェクトリーダーの立場を任せてもらうことになり、数年かけて質の高い事務所を選別し、国別一覧リストを作成しました。それまでは出願前に部長に向けて、『この国の、この事務所に案件を出したい』という申請をし、その都度承認をもらう必要がありました。しかし、リストの中から自分の裁量で選択できる仕組みができたことで、効率化はもちろん、『ここなら信頼できる』という事務所を各自が自由に選べるようになったんです。一つの成果を出し、会社に貢献できたことが大きな自信になりましたね!」

 

また、入社4年目以降は、お客さまに向けたセミナーの担当として、企画から運営まで手がけていくことに。
「年に3〜4回、海外の代理人事務所の弁護士・弁理士を招き、外国商標制度のレクチャーをしてもらっています。セミナーで扱うテーマを何にするか考えることから始まり、どうわかりやすく発信していくかという内容を代理人とメールでやりとりしていきました。国によって考え方や国民性が違うので、相手に合うアプローチ方法を考えながらテーマを理解してもらうよう説得していきました。世界各国の事務所に依頼して連携するようにしたことで、各地の代理人との信頼関係も深まりましたし、何より、『お客さまが何を求めているか』を日々念頭に置くようになり、ニーズをつかめるようになったと感じます」

 

このセミナーを通じて、平時の仕事に役立つ人的ネットワークを形成することもできた。連携先となったイギリスの代理人事務所を訪問し、現地の作業の流れの研修を受けるなどもした。
「さらに打ち解けることができ、代理人を弊社に招いて研修を開催してもらったり、先方の南アフリカの支社で再度研修を受けたりもしました。この仕事では、各国の代理人のネットワークを構築していくことが重要なので、部門のメンバーで分担して、毎年数カ国、現地の事務所と特許庁・商標局を訪問しています」

 

入社7〜8年目には、世界各国から商標権のプロフェッショナルが集結する「国際商標ミーティング」に2年連続で参加。国際商標協会が開催する国際会議に、草野さんは上司と共に出席した。
「入社する前から、この集まりに参加することが夢だったので、すごくうれしかったです! 会期中には、会場の一角で30カ国の代理人と1時間ずつ面会しました。自社の窓口として、今後の要望を伝えたり、先方からの意見を聞くなどしましたが、代理人を選定するプロジェクトで調査をした経験が役立ちましたね」

 

入社10年目となる現在、この仕事にどんな魅力を感じているのだろうか。
「商標登録の申請は、出願から時間が経過してから登録に至るので、仕事の結果が出るまでに時間がかかり、すぐに達成感を得られるわけではありません。しかし、商標が登録となり、その後、商標登録された国でお客さまが製品の販売や販促活動を開始され、自分の携わった商標が重要な役割を果たしていることを確認すると、安堵感を覚えるとともに、大きな達成感を味わいます。自分の仕事で、日本の企業の海外進出を支えていくというのは、スケールも大きく、やりがいがありますね。今後は、商標以外の知財の知識も身につけ、領域をまたぐ提案をしていきたいです。多角的な視点の知財コンサルティングを確立し、新たなビジネスとして成立させる。それが私の目標です」

 

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海外の代理人と国際電話でやりとりする。出願登録の内容について指示出しや、オフィスアクションの前例についての質問などをする。電話はもちろん、メールでも日常的に英語を使う機会は多い。

 

草野さんのキャリアステップ

STEP1 2007年4月 新人研修時代(入社1年目)

入社後、1カ月半の新人研修を受ける。最初の1週間は、ビジネスマナーを学んだり、役員との食事会で事業内容の説明などを聞いた。その後、すべての部署を回り、仕事を疑似体験する研修を受けたという。「部門配属後も一人ひとりの意識がタコツボ化しないようにという趣旨で実施されました。弊社の強みである総合力を発揮するために、有用な研修であったと思います。例えば、特許調査担当の部署では、特許庁のデータベースを使って調査を体験するなどしました。印象的だったのは、役員との食事会で聞いた『情報漏えいに対する危機管理』の話です。弊社は、お客さまから最高機密情報をお預かりしているため、情報セキュリティ管理は生命線になることを意識するきっかけになりました。学生から社会人となったばかりでしたが、これから携わる仕事の、責任の重さを実感しました」。

STEP2 2007年5月 商標登録を手がける部署に配属(入社1年目)

商標部商標グループに配属。外国商標出願対応(オフィスアクション・不服申立審判などを含む)、係争対応(主に異議申立・不使用取消請求、まれに権利侵害訴訟など)、係争業務と関連した交渉(和解交渉・ライセンス契約・譲渡など)を手がける部署で仕事の知識を学んでいった。「実務を担当するメンバーと事務を担当するメンバーに分かれていて、私は実務担当として配属されましたが、最初のうちは先輩の事務サポートから学んでいきました。商標出願の証書の添付や、お客さまへの進捗報告などを段階的に任せてもらいました。1日に30件前後の請求書付き報告書の作成をしていました」。

STEP3 2008年1月  実務担当として独り立ちする(入社1年目)

実務担当となった当初は、お客さま10社程度を担当。その後、数十社を任されるようになる。日々の業務では案件の検討や提案内容を考えるデスクワークが中心。日によって作業内容は異なり、代理人への指示書の作成とお客さまへの報告書の作成を優先度合いに応じて行っていた。「当時は、メールよりも紙の報告書やファックスでのやりとりが多く、効率も悪かったですね。また、これは現在でもあることなんですが、世界中のありとあらゆる国に出願しているため、国によっては、商標登録の仕組み自体が発達していないこともあり、案件が進むまでに時間がかかったり、出願した書類を特許庁が紛失するなどの事態もあります」。

STEP4 2010年 代理人事務所選定プロジェクトやセミナーの企画・運営に携わる(入社4年目)

取引先とする各国の代理人事務所を絞り込むプロジェクトに参加し、途中からプロジェクトリーダーを任される。また、お客さま向けのセミナーの企画・運営も担当。世界各地の代理人を招く形式で、企画段階から内容を一緒に練っていくため、信頼関係を深めることができた。「信頼関係を築くことで、代理人もいいパフォーマンスを見せてくれるようになりますし、仕事を依頼すること自体があちらにとって利益につながるので、お互いにWin-Winの関係になれるんです」。また、2013年、14年には2年連続で「国際商標ミーティング」に参加。15年、16年には参加するメンバーのバックアップを担当し、開催期間中に面会する代理人の選定とオファー、日程決めを手がけた。16年から世界百数十カ国に向けた大規模な出願プロジェクトも担当。先に商標登録されているケースが20カ国で発生しているが、係争を避けるために、譲渡の交渉なども手がけている。

ある日のスケジュール

9:00 出社。30分程度、メールをチェック。
9:30 優先的に処理の必要な案件の指示書・報告書を作成。また、アジア・オセアニアの代理人に対して指示・問い合わせの連絡を行う。
11:45 昼休み。マネージャーとグループリーダーの先輩と一緒に定食屋さんでランチ。
12:45 案件の進捗状況を共有するグループ全体のミーティング・勉強会に参加。
13:30 新規商標出願のオーダーレターを確認し、内容をチェック。
14:00 至急案件以外の報告書・指示書作成。欧州・中東の代理人に対して指示・問い合わせの連絡を行う。
15:00 新規出願の打ち合わせのためクライアントを訪問。
17:00 帰社後、訪問時の内容報告を作成。
17:30 至急案件以外の報告書・指示書を作成。北米・南米の代理人に対して指示・問い合わせの連絡を行う。
18:45 退社。

プライベート

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休日は、家族と一緒に過ごす。写真は、2016年6月に保育園の遠足に参加した時の写真。「週末に、私と妻の地元のお互いの実家を訪ねることも多いです。また、毎朝、保育園に子どもを送り届けることも担当しています」。

 

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地元に帰省した際には、近場で開催されている個人参加形式のフットサルを楽しむ。「実家に子どもを預けられるので、身軽に動けるチャンスなんです(笑)。学生時代にサッカーをやっていましたが、参加するようになったのは社会人4年目ごろからですね。ここで出会った仲間と一緒に大会に参加したこともあります」。

 

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小学校のころ、東京ヴェルディの前身である読売クラブに所属していた。以来、応援を続け、ホームで試合がある際には、ユニフォームを着て観戦している。「『自分のチーム』という思いがありますね。ヴェルディで育った選手が、東京オリンピックで活躍してくれることを楽しみにしています!」。

 

取材・文/上野真理子 撮影/刑部友康

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