ビジネスパーソン研究FILE

Vol.359 株式会社ニチイ学館

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
おばた・かずあき●社長室中国統合経営部中国事業企画課 係長。上智大学総合人間科学部社会福祉学科卒業。2009年4月入社。社会福祉を専攻し、特別養護老人ホームなど3カ所で約半年間現場実習を行った経験から、介護業界を志望し、数社にエントリー。「現場や業界の声を届け、自分の両親や自分たちが安心して介護を受けられる制度づくりに貢献したい」との思いから、現社の企業規模に魅力を感じ、入社を決意。

「ニチイのファンを増やす」を目標にIR業務に従事。社内外から幅広い知識を吸収

医療関連事業、介護・ヘルスケア事業、教育事業、保育事業を通して、誰もが安心して暮らせる社会の実現を目指しているニチイ学館。「日本の介護を変えたい」という強い思いを抱いて2009年に入社した小幡一瑛さんは、約2週間の新入社員研修を経て、広報部に配属。IR(投資家向け広報)を担当することになった。
「IRのミッションは、投資家向けに企業のPRを行い、株価を上げ、株主を増やしていくこと。成果の見えにくい仕事ですが、『ニチイのファンを増やすこと』を部員共通の目標としています」

 

配属となった5月は、3月締めの決算を発表する月。6月には株主総会も控えている超繁忙期だ。小幡さんは、先輩に指示された決算業務を一つひとつ覚えながら、決算書の読み方や株式などの専門知識は、本を読んで勉強した。

 

6月になると、担当役員から09年4月に実施した株式分割による効果をまとめた報告書を作成するよう指示を受けた。
「上司からは『こういう指標を参考にするといい』とアドバイスを受けましたが、その指標が何なのかがわからない(笑)。自分の知識不足を痛感しながらも、約1カ月かけて報告書を完成させました。この仕事を通して幅広い知識が身につき、ひと回り成長できたように思います」

 

夏から秋にかけて、今度はインベスターズガイドの制作を任された。インベスターズガイドとは、IRツールの一つで、業界や市場、企業比較データなどを盛り込んで、わかりやすくまとめた外国人投資家向け資料のこと。小幡さんは、過去のガイドを参考に企画から提案することになった。
「ところが、私の提案はどれも却下されました。過去のガイドを踏襲する部分と、新しくすべき部分との区別ができていなかったからです。会社を取り巻く環境が前回とは変わっていれば、引用すべきデータも変更した方が、理解はより深まる。ところが、私は目先のことで頭がいっぱいで、『誰が読む資料なのか』という本質を忘れていて、そこまで考えが及んでいませんでした」

 

上司の指摘を受けて企画を練り直し、インベスターズガイドは無事期日内に納品。
「この経験から、きちんとゴールを見据え、どんな視点で考えるべきかを意識して仕事に取り組む大切さを学びました」

 

社内外の情報に広く触れながら、視野を広げてきた小幡さん。入社2年目からは株主総会の運営事務局も任され、3年目には、代表取締役がシンガポールで行う海外投資家向けIR活動に同行するなど、経営トップが出席する投資家向けイベントも運営するようになった。
「次第に大きな仕事を任されるようになり、自分で考えて動く主体性と責任感が養われましたし、3年目からは経営トップの言動に間近で接する機会が増えて、良い勉強になりました」

 

3年間、IR担当として投資家対応に当たってきた中で、最も印象に残っていること。それは、東京証券取引所が主催するIRイベントにブースを出展し、接客していた時のことだ。
「ある個人投資家の方が、私の声を聞いて『以前、電話で話したことがあるね』と話しかけてくださった。株価が変動すると、心配して広報に電話をかけていらっしゃる方がいて、その時に対応したのが私だったのです。その方から『応援しているから、これからも頑張って』という言葉を頂いた時は、『少しはニチイのファンを増やせたのかな』と実感でき、心からうれしく思いました」

 

ph_business_vol359_02
現在は、15年に入社した中国出身の部下が1名。小幡さんがOJT担当として、新人時代から育ててきた。

 

外国との交渉に臨んだ外務省での経験を生かし、中国での介護事業の普及に注力

入社4年目、外務省への2年間の出向が決まり、役員からは「外の世界を見られる貴重なチャンス。たくさんのことを経験し、吸収して、戻ってからの力にしなさい」と送り出された。

 

主な仕事は、アジアを中心としたEPA(経済連携協定)・FTA(自由貿易協定)のサービス貿易の交渉担当。FTAとは、ある国や地域との間で関税を削減・撤廃し、モノやサービスの自由な貿易を推進するための協定。FTAに加えて、投資の促進やさまざまな分野での協力など、幅広い分野で経済連携を強化していくことを目的とした協定がEPAである。
「日本は、EPAに基づいてインドネシアやフィリピン、ベトナムから外国人看護師・介護福祉士候補者を受け入れています。外務省がその折衝窓口ですが、省内に看護・介護知識を持った専門家がいないため、私が折衝窓口の一員として業界の実情に合った交渉を進めていくこととなりました」

 

仕事の進め方の違いや、交渉スピードを求められる政治的プレッシャーなど、最初の数カ月は戸惑うことが多かったが、ASEAN各国、モンゴル、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド、ベルギーなど、多いときは月に3回海外に出張し、相手国との交渉の場についた。
「私を介護分野の専門家として認めてくれ、相手国との交渉や他省庁との調整なども任せてくれました。会議で意見を述べるときは、テーブルにあるJAPANのプレートを立ててから話すのがルール。留学経験も仕事で英語を使った経験もなかったので緊張しましたが、アジア諸国の交渉では、相手もネイティブスピーカーではないので、多少間違っていても伝えたいことを伝えることに専念しました」

 

13年末には、数年間交渉が暗礁に乗り上げていたAJCEP(日・ASEAN包括的経済連携協定)サービス貿易交渉が合意に達した貴重な場に同席。日・モンゴル経済連携協定は、スタート段階から合意まで携わった。小幡さんが外務省を離れる際には、相手国の交渉担当者がお別れパーティを開いてくれた。
「“国レベル”というあまりのスケールの大きさに、仕事をしていてもどこか漠然としていましたが、こうした場面に立ち会えて、ようやく実感が湧きました。また、出向中に自分の会社を外から客観的に見られたことも良かった。企業として、もっと改善できる点があることがわかりました」

 

ニチイに戻ってからは、中国事業本部の企画担当として、中国進出の推進に携わっている小幡さん。中国では、家政婦を雇って自宅で世話をする“養老”が一般的。今まで“介護”という文化のなかった中国で、新たな市場を開拓し、定着させていくことが課題だ。
「異文化や言葉、法律の壁を乗り越えてきた外務省での経験を生かせることに、ワクワクしています。すでにオーストラリアやフィリピンなどには進出していますが、社内ではまだグローバル事業の進め方を模索している段階。日本の当たり前を当たり前と思わず、現地事情に合わせてローカライズするなど、融和をもって事業を推進していこうと考えています」

 

16年4月には武漢で介護事業がスタートし、現在は中国18都市で事業を展開中だ。全土での本格稼働までには時間がかかるが、ケアマネジャーのプランに基づいてサービスを提供するような“プロによる日本式の介護サービス”は、中国という巨大市場において、大きなアドバンテージになると見込んでいる。
「高齢化が進む中国で日本式の介護ビジネスを普及させることは、国際貢献にもつながるはず。まずは中国での事業を成功させることが目標ですが、将来的には、入社時からの思いでもある『現場の声や業界の声を力にして法制度を変え、日本の介護を変えていきたい』と考えています」

 

ph_business_vol359_01

打ち合わせ以外は、ほぼデスクワーク。事業推進上の課題などについて、中国に赴任している日本人スタッフから相談の電話が入ることも多い。

 

小幡さんのキャリアステップ

STEP1 2009年 2週間泊まり込みの新入社員研修に参加(入社1年目)

同期35名と、千葉県柏市にある研修センターで行われる新入社員研修に参加。約2週間泊まり込みで、ビジネスマナーや事業概要などを学んだ。模擬職場を使ってのオフィスワークの研修では、電話の受け答えや書類作成などの実務だけでなく、報連相(報告・連絡・相談)という仕事の基本や、内容を整理してから話しかける大切さ、上司に話しかけるタイミングなど周囲への気配りを学んだ。学生気分が抜けないまま参加した研修だったが、「若手にも積極的に仕事を任せていくために、入念な研修を行っているのだ」ということを実感した。

STEP2 2009年 広報本部・経営企画本部にて、投資家向け広報を経験(入社1年目)

4月、広報本部広報部広報課に配属。決算関連業務、株主・投資家・メディアなどの対応、投資家向けイベントへの出展や機関投資家説明会の運営、インベスターズガイドやアニュアルレポートなどのIRツールの企画・制作などに携わる。入社3カ月目には、個人株主からの電話に3時間近く対応し、広報部員として、相手の表情が見えない中で相手の立場を尊重し、伝えたいことを伝えていく難しさと大切さを実感。11年4月に経営企画本部IR部IR課に、12年1月に経営企画本部広報部IR課に異動したが、業務内容は継続。

STEP3 2012年 外務省に出向し、経済連携協定の調整や交渉を経験(入社4年目)

4月、外務省に出向し、経済局サービス貿易室のEPA/FTA調査員、同局国際貿易課と経済連携課を併任。辞令を受けた瞬間は、驚きのあまり二度聞きしたが、外務省への出向は社内で2人目とわかり、自分への期待の大きさに身が引き締まった。ニチイで培った業界の知見を生かし、医療・介護・教育分野の専門家として、日モンゴル、AJCEP、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、日中韓、日EUの新規EPA・FTA交渉、フィリピン、インドネシア、ベトナム、タイ、インドの発効済み協定の見直し、関連省庁との規制改革関連の調整などに携わる。13年10月、主任に昇進。

STEP4 2014年 中国事業本部にて、中国への事業進出業務に携わる(入社6年目)

7月、帰国して本社に戻り、国際事業統括本部中国事業本部企画管理部企画課の主任となる。10月、経営管理統轄本部経営企画本部中国事業企画課に、15年10月には社長室中国統合経営部中国事業企画課に異動するが、業務内容は継続。中国の家政事業者との合弁契約交渉や出資スキームの提案・検討、中国事業の管理、行政手続き支援、内部統制、事業戦略の策定、決算関連業務などを担当。中国に出張することはなく、日本から現地をサポート。中国政府高官との人脈を現地スタッフに紹介するなど、外務省時代の経験を生かす。16年4月、係長に昇進。

ある日のスケジュール

8:45 出社してメール確認。9時から朝礼後、業務開始。
9:15 経理や経営企画などの関連部門と中国現地での事業推進について打ち合わせ。
10:00 銀行の来訪に対応。中国の最新事情などについて情報交換する。
11:00 上長に作成資料について内容を相談する。
12:00 ランチ。弁当を買ってきて、社内で食べることが多い。
13:00 中国に赴任している現地スタッフ、国内の事業部門と事業推進についてWeb会議。
15:30 デスクワーク。企画推進関連の伺い書類を作成。
16:30 デスクワーク。中国のスタッフと電話やメールで打ち合わせ。翌日の業務整理をして17時30分に退社。子どもを保育園に迎えに行く。

プライベート

ph_business_vol359_04

大学1年時から「子どもと一緒に遊び隊」というボランティア活動に参加し、現在も続けている。写真は15年8月に東京・桧原村で行った2泊3日のキャンプ(小幡さんは前から2列目の右端)。

 

ph_business_vol359_03

夫婦ともホームパーティ好きで、月に1回は友人を自宅に招いて料理をふるまう。写真は15年の冬に、高校と大学時代の友人や会社の同僚を招待。「このときは、おつまみとパスタを作りました」。

 

ph_business_vol359_05

2歳の長男と。写真は16年8月に家族で軽井沢に出かけた時。「毎朝私が保育園に送り、週1、2回はお迎えも。そして、土日は公園へ。子どもとの時間がオン・オフの切り替えになっています」。

 

 

取材・文/笠井貞子 撮影/刑部友康

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
1年生も、もちろん!
大学生・院生・短大生・専門学校生になったら!

リクナビで詳しく見てみよう!

この企業についてリクナビで研究する