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Vol.368 株式会社三菱総合研究所 

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いとう・ようすけ●社会ICT事業本部 ICT・メディア戦略グループ 主任研究員。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了(開放環境科学専攻)。2006年入社。学生時代、海でライフセーバーとして活動していたこと等から、「人を支える裏方の仕事がしたい」と考えて多様な業界を支えるコンサルティング業界やシンクタンクに興味を抱く。現社に入社を決めた理由は、「選考で出会う社員の穏やかな人柄に相性の良さを感じ、自分が働く姿が想像できたため」。

入社後、情報収集・分析・資料作成を担当。5年目に後輩の指導を経験し、物事の捉え方が変化

「多様な業界の人々に出会いながら、多くの人の役に立てる」と感じ、シンクタンクの道を選んだ伊藤陽介さん。入社後、2週間の新人研修(現在は半年間となっている)を終えたのち、情報通信技術研究本部に配属される。
「お客さまは、携帯やITなどの通信に関わる事業会社、メーカー、官公庁です。情報通信分野におけるさまざまな調査・研究、コンサルティングだけでなく、事業戦略や経済政策・施策などに役立つ提案等も手がける部署でした。配属後は先輩のプロジェクトチームに入り、情報収集や分析、資料作成など、できる範囲のことからどんどん任され、先輩の指導を受けていきました」

 

最初は、通信業界の事業者の経営状況や、業界全体の市場動向などの調査を担当。企業のIR(投資家向け広報)資料や財務諸表、海外の調査データなどを基に、要点を整理していったが、必要なポイントをピックアップできず、先輩からダメ出しを受けることもしょっちゅうだったという。
「当初は体当たりで調べていたので、どんどん深掘りしてしまい、調査そのものの目的を見失うこともよくありました。仕事には納期があるものですが、それも考えずにひたすら調査し続けていましたね。『何を目的に調査し、どのくらいの期間で作業を行うのか』という作業計画の見積もりを立てることが大事だと気づきました」

 

業務は、複数のプロジェクトチームの案件を抱え、並行して調査や資料作成を進めていくことが基本。入社1年目を終えるころには、ただデータや情報を調べるだけではなく、コンセプトやテーマなどを自分で決め、筋道を立てて調査を行うようになった。
「例えば、業界動向を調査する場合も、近い分野の業界と比較したり、過去と現在でどんな違いがあるかを調べたり。同じ情報であっても、その数字や状況が意味することをどう表現し、どう浮かび上がらせるかが重要です。裏付けが取れていることはもちろん、お客さまにとってわかりやすく、インパクトを与えられる成果を目指すようになりました」

 

一方で、お客さまとの打ち合わせに同行する際、自分が担当する調査について説明する機会も増えていく。作成した資料に対する厳しい指摘を受けながら、自分の仕事を見つめ直すことに。
「こちらが新人であろうとも、クライアントからはプロとしての仕事を求められるのは当然のこと。また、お客さまは自分よりも経験豊富な上、大企業や国の仕事の第一線で活躍する頭脳明晰な方ばかり。『この資料の意味がわからない』『無駄なものは必要ない』とのご指摘を受けて、このままではマズイと焦りました」

 

「自分の仕事の質が会社の評価に直結する」と痛感した伊藤さんは、仕事の精度を上げようと努力する。作業の方向性から資料における細かい修正点まで先輩に相談し、意見をもらいながら修正する方針を決めた。
「まず、作成した資料においては『言葉や表現がしっかりと伝わる内容になっているか』が大事だと気づきました。私たちの仕事では、さまざまな情報を扱いながら、論理的に日本語や英語でわかりやすく表現したり、また多くの利害関係者の方々をコーディネートしたりリードしていくことが求められます。誰しも文章にはクセがあるものですが、その表現がわかりにくければ致命的なマイナスになるんです」

 

また、アウトプットの方向性に間違いがないか、問題認識や仮説そのものにズレはないか、そして、資料におけるストーリー展開や全体の流れが「説得力あるわかりやすい内容」となっているかという点にも重点を置き、細かい部分まで見つめ直していった。
「自分では問題ないと思っていても、客観的な意見をもらうと『これではダメなんだ』とよくわかりましたね。また、お客さまによって、ズバッと結論から入る方がいいケースもあれば、細かい表現を積み重ねて結論を導く展開の方が伝わりやすいというケースもあります。それぞれのお客さまの特徴をつかみながら、ベストな表現をしていくように注意を払うようになりました」

 

伊藤さんがさらに大きく成長したのは、入社3〜4年目のころだ。自分の下に新人が配属され、直属の後輩ができたことで焦りを感じたという。
「当社では、部署によって長く新人が配属されないケースもあります。それまでずっと自分が一番下の立場だったため、先輩たちに許されてきた部分も多くあったんです。『これからは自分が先輩として指導する立場なのだ』と感じ、気を引き締めていこうと思いました」

 

後輩に仕事を教える中で気づいたのは、「自分では理解していると思っていたことを、きちんと説明できない」ということだった。
「人に教えることで、いかに自分がわかっていないかに気づきました。それまでは、業界知識もあるお客さまに短時間で調査結果を説明することが基本でしたから、 感覚的な理解のみでも話は十分通じました。しかし、後輩の場合には、業界知識がまったくなく、視点も客観的。『それはどういうことですか?』と、素朴な疑問についてあらためて聞かれ、うまく答えることができない自分に焦りましたね。お客さまの専門領域や調査の方法論など、自分では理解していたつもりでも、体系立てて説明できるほどには理解できていなかったんです」

 

この時から、伊藤さんは後輩からの質問を受けるたび、そこに関連する不明点を調べるようになったという。
「また、自分の作業の一つひとつを振り返るようになり、調査の終わった案件についても『もっと踏み込んだものにするためには、どうすればいいのか』を考えるようになりました。この経験のおかげで、物事を把握する際、より踏み込んだ捉え方をするようになり、調査や分析にも深みが増したと感じます」

 

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プロジェクトチームのメンバーと打ち合わせ。お客さまの反応を基に、今後の進め方の方針について話し合う。

 

入社6年目、大型案件を担当し、大きな壁を乗り越える。現在、チームリーダーの立場を任される

後輩の指導を続ける中、伊藤さんはプロジェクトチームの中心を担う立場となり、お客さまへの調査結果の部分的な説明だけでなく、全体についての提案も任されるようになる。着々と成長を遂げる中、さらなる壁にぶつかったのは、入社6年目が終わる時期だった。
「官公庁から依頼された大型案件を担当しました。プロジェクトのテーマは、『通信業界における制度改革の推進施策』でした。社内メンバー7〜8人でチームを組み、お客さまサイドからも10人が参加するほどの案件でしたが、プロジェクト始動から2カ月が過ぎてから、双方の認識がすれ違っていることが判明したのです」

 

根本的な方向性に問題があったため、調査をやり直せばいいというレベルではなく、お客さまから「君たちがやっていること自体がズレている」という厳しい指摘を受けることに。
「最初に立てた方向性そのものが違っていたのだと気づきましたが、今さら後戻りもできず、かといってすぐに挽回することもできません。先方からの質問については、調査・分析の作業を担当していた自分にしか答えられないことが多く、チームのメンバーは『伊藤が一番理解しているから、窓口は任せる』と。打ち合わせのたびに『一体どうなっているんだ』『この部分の調査の必要性はどこにあると考えているんだ』という厳しい追及を受け、どんどん追い詰められていきました」

 

逃げ出したくなるような苦しい状況の中、「誰に頼ることもなく、自分の力で切り抜けねば、どうにもならないのだ」と伊藤さんは決意する。そこで、打ち合わせをレコーダで録音した音声も含め、記録を細かく振り返るようにした。

「自分の言ったことと、お客さまの言ったことを客観的に何度も聞き返し、一体どこがズレているのかを確認・把握すると同時に、どんな説明をし、どう打ち合わせを進めれば信頼してもらえるようになるのかを考え続けました。『自分はあの時、こんな不安げな受け答えをしていたのか』と気づき、『もっとしっかりと答えよう』と、打ち合わせ時の自分の姿勢そのものを見直したり、『このように説明をしたら、お客さまはこう答えていたから、次回はすべて想定した対策を打って臨もう』など、より戦略的に提案を進める方策を立てていきました」

 

それから3カ月間、苦しみながらも必死で取り組み、ようやくプロジェクトを終了することができたという。伊藤さんが「この案件をやり遂げることができたのだ」と納得したのは、それから数年後のことだ。
「官公庁を訪ねたある日、あのプロジェクトのお客さまの中で最も厳しかった方とばったり出会いました。すると、『あの時はお疲れさまでした。プロジェクトチームの中で一番信頼できたのは伊藤さんでした』と言ってくれたんです。自分が汗をかいた分だけ、認めてくれた人がいるんだと実感し、『頑張ってきたことは、間違いではなかったのだ』とジーンとしましたね。また、私自身の仕事への取り組み姿勢は大きく変化しました。あの案件以降、『どんな案件にも全身全霊で取り組み、より慎重に、より誠実であれ』と考えるようになったんです」

 

もちろん、それまでも一生懸命にやってきたが、「まず相手の意図を考え、その上で結果を出さなくてはならない」という本質に気づいていなかったという。
「調査を進める中、お客さまは不安になることもあり、合理的に効率的に業務を進めるだけでは解決できない気持ちがある。私たちは、マラソンにおける伴走者のようにお客さまと一緒に走り、『振り返ればそこにいるんだ』という安心感を持ってもらうことが大事なんです。いくつもの仕事を並行する中でも、それぞれのお客さまに対し、必要な時に必要な情報を提供し、安心してプロジェクトを進めていける体制を作ることが重要です。コンサルティングは、人間同士の信頼関係の上に成立するものなのです」

 

2016年4月から、伊藤さんは主任研究員となり、プロジェクトリーダーも任されるようになる。現在は、多くの案件を抱えながら、自分で方針決定の判断を下し、プロジェクトごとのメンバーへの指示や全体の進捗管理などを行っている。
「上司がセーフティーネットとなってくれていたころとは違い、すべて自分の責任のもとに方針を立て、実行していかねばならないので、プレッシャーは大きいですね。その一方、新たなやりがいも感じています。主任研究員には、自ら仕事を取ってくるというミッションが課せられますが、自分やメンバーの考えを生かし、新たなマーケットを形成していくことができるんです。世の中のニーズや業界のトレンドを捉え、その視点を生かした戦略をお客さまに提案し、実行していけることに可能性を感じますね」

 

入社してから現在まで、一貫して感じている仕事のやりがいは、「多くのお客さまと人間関係を築き、裏方として支えていけること」だと話す。
「私たちの提案が正しいかどうかは、あくまで結果論でしかなく、客観的な絶対値として評価することはできません。けれど、最も近くにいるお客さまから鮮烈な反応をもらうことができるんです。数年間お付き合いしている方が、第三者に向けて『私が絶対的な信頼を置いている伊藤さんです』と紹介してくれることもありました。これから先も、人としてより成長しながら、より信頼される提案を目指し、もっともっと多くの人々を支えていきたいと思っています」

 

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お客さまへのレポートやプレゼン資料を作成。自分自身の調査・分析作業だけでなく、チームのメンバーの進捗状況や資料のチェックも行う。

 

伊藤さんのキャリアステップ

STEP1 2006年4月 新人研修時代(入社1年目)

入社後、2週間の新人研修を受ける(現在の新人研修期間は半年間となっている)。ビジネスマナーや会社の事業概要、仕事の全体像を座学で学んだのち、現場に配属されることに。「学生気分が抜け、社会人のライフスタイルに慣れてきた矢先、早くも執務室に座ることになり、『これが社会に出るということなのか』と。ついていけるのかという不安もありましたが、同時に、新たな環境を楽しみにしている自分もいました」。

STEP2 2006年4月 情報通信業界の担当となり、調査の手法を実践的に学んだ(入社1年目)

情報通信技術研究本部に配属。情報通信関連の事業会社やメーカーなどの民間企業、官公庁をお客さまとする部署で、事業戦略や経営戦略、政策・施策に役立つ調査・分析、資料作成を担当。5〜6名程度のプロジェクトチームの案件を並行して抱えていくことに。「入社3年目ころまでは、5〜6本程度しか調査を並行できなかったけれど、細かな努力を一つひとつ積み重ねていくうちに、調査の精度も作業効率もアップしたと感じます。入社4年目以降はより生産的になり、2ケタの案件を任せてもらえるようになりました」。

STEP3 2009年 後輩の指導を担当し、自分の仕事への取り組み方も変化(入社4年目)

自分の下に直属の新人が入り、調査方法から分析の考え方、業界知識などについての指導を担当することに。「自分がお手本にならねば」と決意したことにより、また一つ成長を遂げる。また、後輩が得意とする専門領域から新たな視点を学ぶことができたという。「この部署では、メンバーそれぞれが何らかの専門性を持っていて、面白いことに、各自の尖っている部分が重ならないんですよ。私の場合、学生時代に無線通信の研究をしていましたが、後輩はまた別の分野の研究をしていたので、持っている知識もこだわる部分も違っていました。指導する中、『こいつの方がよく分析できている!』と気づかされることも多く、いろんな面で刺激をもらえたと感じます」。

STEP4 2016年4月 主任研究員となり、プロジェクトリーダーも任される(入社11年目)

2016年4月より、管理職・主任研究員の立場となり、同時にプロジェクトリーダーも任されるようになる。「現在、管理職としての自分のスタイルや方針を模索中です。部下を引っ張っていくためには、ぶれない軸が必要だと考えています。また、主任研究員は、自ら仕事を取ってくることも評価の対象となっています。それはつまり、私が所属するグループそのものが『今後、どんな方向性に仕事の幅を広げ、 自分たちのマーケットと事業をどう拡大していくか』という部分に直接かかわっているということ。そこに大きなやりがいを感じますね。職責が大きくなったことで、より忙しくなりましたが、今後は、仕事とプライベートにさらにメリハリをつけながら、自分のキャパシティーにかかわらずできることを広げていきたいと思っています」。
※15年10月、組織改編による他部署統合に伴い、所属部署の名称が「社会ICT事業本部」に変更。

ある日のスケジュール

9:00 出社。プロジェクトチームのメンバーと打ち合わせ。本日のお客さまとの打ち合わせに向け、情報共有と方針共有を行う。
10:00 外出。通信事業者の顧客を訪問。今後の市場参入について検討する会議に参加し、調査報告を行う。
12:00 チームのメンバーと一緒に、外出先近くのレストランで昼食。
13:00 帰社。チームのメンバーと打ち合わせ。顧客との会議で話し合った内容について振り返り、今後の方針ややるべき作業を再度確認・共有する。
14:00 お客さまへの報告資料作成。打ち合わせで決めた方針を資料に落とし込む。
16:00 外出。霞が関にある官公庁を訪問し、「海外の情報通信関係の政策動向」の調査結果を報告。
18:00 帰社。チームのメンバーと先ほどの訪問案件の振り返りと方針確認を行う。
19:00 資料作成。部下の進捗状況や作成資料の内容をチェック。
21:00 退社。

プライベート

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休日は基本的に家族とのんびり過ごしている。写真は2016年9月に長男が通う幼稚園の運動会に参加したときのもの。「近場のショッピングモールや、公園、海、河川敷など自然を楽しめる場所に出かけています」。

 

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学生時代にドラマーとしてバンド活動をしていた。現在も年に1回程度、会社の音楽仲間と一緒にライブ活動を楽しんでいる。「ライブの数カ月前から、月1度のペースでスタジオに入り、本番はライブハウスで演奏しています。いいリフレッシュになりますね」。

 

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特技の水泳を生かし、学生時代はライフセーバーとして活動していた。写真は、月1回のビーチクリーン(清掃)活動に、長男を連れて参加した時のもの。「社会人になってからは、少しでも時間を見つけては海に通っています」。

 

取材・文/上野真理子 撮影/刑部友康

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