水野 学さん(アートディレクター)の「仕事とは?」

みずのまなぶ・1972年東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、株式会社パブロプロダクション入社。その後、株式会社ドラフトを経て98年good design company設立。ブランドづくりの基盤からロゴ、商品企画、パッケージ、インテリアデザインまで、トータルにディレクションを行う一方、慶應義塾大学では特別招聘准教授として教鞭も執る。おもな仕事にNTTドコモ「iD」、熊本県公式キャラクター「くまモン」、農林水産省CI、宇多田ヒカル『SINGLE COLLECTION VOL.2』『桜流し』、「東京ミッドタウン」のブランディングなど。世界的な広告賞の「ONE SHOW」で金賞、「CLIO AWARDS」で銀賞ほか国内外で受賞歴多数。著作に『グッドデザインカンパニーの仕事』(誠文堂新光社)、『アイデアの接着剤』『アウトプットのスイッチ』 (朝日新聞出版)ほか。

いい仕事をしているのは、自分の「武器」を認めてあげてそれを使える人

すでにいろいろなところでお話ししていますが、「くまモン」は「おまけ」だったんです。そもそもは脚本家で放送作家の小山薫堂さんから、九州新幹線の全線開業を盛り上げる「くまもとサプライズ」という企画のロゴを依頼されたことが始まり。すぐにロゴをデザインしましたが、「熊本県のPRをするなら、キャラクターもあった方が効果的なんじゃないかな」と考えて、頼まれもしないのに提案したのが「くまモン」でした。くまモンをデザインしたのは僕ですが、「くまモン」がここまで大きくなったのは、「おまけ」に目を向けてくれた熊本県庁の皆さんや小山さんのおかげ。「くまモン」が多くの人に愛されて、全国の人たちが熊本県に注目してくれたことがうれしいです。

依頼された以上の提案をなぜしたのかというと、僕は人に「ありがとう」と言われるのが好きなんです。お礼を言われなくても平気なら、かっこいいんですけどね。「おまけ」を差し出すときも、気づいてほしいのに、さりげない素振りをする。それで、相手が気づいて喜んでくれると、飛び上がりたいほどうれしいのに「いやいや別に、当たり前のことをやっただけなんで」なんて言ったりして。面倒くさい人間なんです(笑)。

人を喜ばせるのが好きなのは、子どものころからです。母から「たくさんの人に助けられて生きているのだから、そのことを感謝して、自分が人に何をできるのかを考えなさい」と言われて育った影響もあるかもしれないですね。僕の原点というのは、デザインが好きといったことよりも「人の役に立ちたい、喜んでもらいたい」という気持ち。だから、自分のデザインした商品が売れてクライアントが喜んでくれると、「いいデザインですね」とほめられるよりずっとうれしい。「この仕事をしていて良かった」と心から思います。

仕事を楽しみ、成果を出していくための秘訣(ひけつ)は、自分が好きなことや、大切にしていることを仕事に結び付けていくことなんじゃないかなと思います。ここで僕が言いたいのは「好きなことを仕事にしなさい」という話ではありません。例えば、僕の事務所には小さいころから音楽をずっとやっていたデザイナーがいるんですけどね。彼女には、レイアウトをするときにリズムを意識するなど音楽的にデザインを考えさせてあげるとうまくいきます。例えばプレゼンテーションのときも彼女が「このデザインはベートーベンの交響曲第6番に限りなく近いと思うんです」なんて言うと、クライアントが興味を持ってくれたりするかもしれません。どんな仕事であれ、いかにして相手を自分の得意分野に引っぱりこむかが大事なんです。

好きなことや、得意なことがないと悩む人も多いですよね。そういう人には、「子どものころの趣味や、好きだったことを思い出してみるといいよ」と僕はよく言うんです。学校に入ると人は良くも悪くも社会性を学び、自分というものが希薄になってしまう。でも、「とにかく友達と外を駆け回っていた」とか「迷路ばかりやっていて、難しい問題をクリアするとうれしかった」というような、社会の影響をまだあまり受けていない子どものころに理由もわからず好きだったことには自分がよく表れていますから、いいヒントになるはずです。

世の中で活躍している人を見ると、生まれつきの才能や特殊な技術などすごい「武器」を持っているように勘違いしがちですが、いい仕事をしているのは特別な「武器」を持った人ではありません。自分が持っている「武器」を認めてあげて、それを使える人です。どんな知識や技術を持っているかよりも、自分が何をしてきたか、それを与えられた仕事にどう生かせるかの方が、仕事をしていくには何百倍も何千倍も大切だと思います。

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 10個仕事を与えられたら、11個自分で仕事を見つけ、21個返す

僕が社会に出た1990年代半ばの広告デザインの世界は、「アートディレクター」と呼ばれる人たちが大活躍していたころ。彼らは広告や商品をデザインするだけでなく、クライアントの思いを理解して、それに応えるために全体を俯瞰(ふかん)したデザインワークをしていて。僕も彼らのような仕事をしたいと思っていましたが、広告デザインの会社でデザイナーとして働き始めたころは、クライアントを理解するどころか、先輩から与えられた仕事をやるだけで精いっぱいでした。

でも、悔しかったんですね。日々の仕事に忙殺されて生きるのがイヤだった。だから、例えば10個仕事を与えられたら、自分で11個仕事を見つけ、21個返していました。与えられた仕事の倍やるだけでは気が済まなくてさらにやって、「先輩よりも俺の方が絶対に深くこの仕事について考えているぞ」というのを自分自身に証明したかった。そういう負けず嫌いなところは26歳で独立してからも変わらなくて、自分の限界を「ここまで」と決めるのが悔しくて、目の前の仕事を全力でやりました。それが次のステップにつながっていったんです。

つくづく思うのは、仕事って絶対に裏切らないんです。やったらやった分だけ返ってくるし、手を抜けばそれなりにしか返ってこない。一生懸命やってもあまり評価されない時期もあるかもしれないけれど、長い目で見たら必ず報われる。人は平気で裏切ったりするけど(笑)、仕事ってヤツは裏切らない。地球上でも希有(けう)な存在なんですよ。

仕事を一生懸命やっていると、仕事に愛される。すると、本当に笑いながら、楽しみながら仕事ができるし、お金までもらえる。さらに、いろいろな人に出会えたり、幸せになれたりといいことずくめです。仕事は裏切らないということを、若い時に知っておくと後々生きてくるんじゃないかなと思います。

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INFORMATION

著書『センスは知識からはじまる』(朝日新聞出版/税抜き1400円)では、「センスは生まれついたものではなく、あらゆる分野の知識を蓄積することで向上する」と説き、センスを磨き、使いこなして新たな企画を生み出すための実践的な手法を明かす。広告やテレビ業界などマスコミを目指す人はもちろん、「クリエイティブな仕事には興味がないから、センスは必要ない」「自分にはセンスがないから、クリエイティブな仕事はできない」と思っている人にこそ読んでほしい一冊。

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取材・文/泉彩子 撮影/鈴木慶子

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