上田大樹さん(アートディレクター)の「仕事とは?」

うえだたいき・1978年富山県出身。早稲田大学第一文学部中退。在学中から主宰していた劇団iNSTANT WiFEの活動の一環として映像制作を始める。2000年、第22回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリ受賞。03年、第25回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリ受賞。09年、クリエイティブスタジオ「&FICTION」を設立。「ナイロン100℃」、「劇団☆新感線」、「大人計画」、「阿佐ヶ谷スパイダース」などの劇中映像や、ミュージックビデオおよびCMのディレクション、テレビや映画のタイトルバック、ライブの演出映像、ショートフィルム、グラフィックデザインなどを手がける。最近の仕事に映画『バクマン。』オープニング映像&プロジェクションマッピングの制作、スーパー歌舞伎II『ワンピース』の映像、宮本亜門氏演出の舞台『SUPERLOSERZ SAVE THE EARTH 負け犬は世界を救う』における映像・舞台美術のディレクションなど。

とがったことはひとりではできない。周りに理解してもらい、力を借りることが必要

映画『バクマン。』で「主人公ふたりが漫画の執筆に没頭する場面を、プロジェクションマッピング(現実の空間にコンピュータグラフィックスなどの映像を投影する映像技法)を使って演出したい」と大根仁監督からお話を頂き、渡された脚本を開くと、僕の担当シーンのト書(脚本において、俳優の動きや音楽・照明・効果などの指定を台詞の間に書き入れたもの)はわずか1、2行。どんな映像ができあがるのか、最初は見当もつきませんでした。これまで舞台の映像を中心に活動してきて、最終形がイメージできないまま仕事に取りかかるのはいつものことだったりはするんです。ただ、映画という物語性の高い表現の中で俳優さんの演技に絡めてプロジェクションマッピングを行うのは初めてでしたから、「本当にうまくいくのかな?」という不安はずっと感じていましたね。ショーなどの演出としては見慣れたものになっていますが、プロジェクションマッピングを映像作品として物語の中に違和感なく組み込んだ事例はほとんど見たことがないので。

僕が担当したシーンでは、白い紙に漫画が浮かび上がり、下書き、ペン入れ、ベタ塗り…と作品が仕上がっていく過程をアニメーションにして撮影セットに投影。その中で役者さんたちに演技をしてもらいました。映像自体はそれほど複雑なものではないのですが、映像を映し出すのは、主人公たちの仕事場のセット。広いスクリーンに映像を投影するのとはわけが違い、漫画がぎっしり詰まった本棚や机が並ぶごちゃごちゃした空間です。プロジェクタの位置や照明を細かく調整したり、映像をくっきりと見せるために床や壁を少し明るい色の素材に張り替えたりと、美術部・撮影部のスタッフと共に準備に丸一日かけました。

このシーンについては撮影のディレクションも任せていただいたのですが、もちろん大根監督もその場にいました。監督がいる横で演出をするのは緊張しましたが、役者さんもスタッフも雰囲気がよく、アイデアをたくさんもらって助けられました。完成した映像は僕自身のイメージを超えるものに仕上がったと思います。

映画にしても舞台にしても、大きなプロジェクトほど分業になり、監督も細部まではとても把握しきれません。担当する仕事に関して大まかな方向性は示してもらえても、「後は任せた」ということは多いです。物事は誰かにこうだとはっきりと決めてもらえると安心と言えば安心ですよね。でも、それでは個々のスタッフの力が十分に出ない気もするんです。「自分がなんとかしなきゃ」とちょっと不安な方が人って頑張る。みんなが「自分が何とかしなきゃ」と作品に自主的に貢献するような状況は活気があって、仕事をしていて楽しいです。

一方、映画や舞台はたくさんのスタッフで作るので、「自分だけで頑張らなくてもいい」という感覚も大事だと思っています。困ったときや行き詰まったときは、誰かが助け舟を出してくれたりする。みんな自分にはないものを持っているので、アドバイスをもらうと「面白いなあ」と感じます。

僕はもともとコミュニケーションがそれほど得意な方ではなくて、学生時代に映像の仕事を始めたころは相手に対して失礼なことをしてしまったこともあります。プロモーションビデオの制作を頼まれて、プロデューサーに「こんな普通の感じではやりたくない」と言ったりして…。お恥ずかしい話ではあるのですが、学生のころってそういうものだと思うんです。特に何かを作ろうとしている人にとっては、「世に認められたい」「できるだけとがったことをしたい」という気持ちも原動力になりますから。

ただし、とがったことってひとりではできないんですよね。とがったことだからこそ、たくさんの人に助けてもらわないと成し遂げられないし、みんなに伝わるよう説明しないと動いてもらえない。新しいことをやろうとするときほど、周りに理解をしてもらい、力を借りることが必要になると思います。

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どんな道を選んでも、続けてさえいれば、意外とモノになる

富山県ののどかな町で生まれ、実家は魚屋さん。エンタテインメントとは縁のない環境で育ちましたが、高校の決まりで何かの部活に所属しなければならず、入ったのが演劇部でした。演劇部には少し「帰宅部」的な雰囲気があり、「ユルそう」という消極的な理由だったんです。ところが、僕の脚本・演出で高校生演劇コンクールに出場したところ、県の代表に。ちょっとした成功体験になったんでしょうね。次第に演劇が大好きになって、大学入学後は演劇サークルの中でユニットを立ち上げました。サークルの中にユニットと呼ばれるいくつかの劇団が存在しているような状態だったんです。その劇団の演出のひとつとして映像を作っていたところ、大学の先輩たちが主宰する劇団からちょこちょこと映像制作を頼まれるようになりました。

本格的に映像の世界で仕事をするようになったのは、大学4年生の時に劇作家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんが主宰する劇団「ナイロン100℃」から声をかけていただいたのがきっかけ。最初は舞台のオープニングで使う短い映像を作っていたのですが、次第に全体の映像を担当させてもらうようになりました。さらに、KERAさんの紹介で三谷幸喜さんから依頼が。テレビドラマのエンディングの映像を作ったことから仕事が増え、忙しくなって大学をやめました。

現在でこそプロジェクションマッピングをやったり、CGを作ったりしていますが、もともとは演劇が好きで、その一環として独学で映像を作っていただけなので、たいした技術は持っていなかったんですよ。「こんなことをやりたい」と依頼をされて、それに応えているうちに、自分では思いもよらない引き出しがたくさんできていった感じです。割と流れに身を任せて、流れの中でベストを尽くそうということでやってきたので、映像を作るだけでなく舞台美術を任されたり、観客が主人公と一緒に謎解きに参加する映画の監督をしたりと今も「え!?」と驚くような依頼があります。

舞台や映画の効果映像を作るときに強く意識しているのは、作品を壊さないこと。例えば、映画『バクマン。』にしても、プロジェクションマッピングをもっと派手に使うことはできます。でも、技術があまり前面に出ると、作品全体のバランスが崩れてしまう。効果映像は作品の世界観ありきだと思っています。消極的な意味ではなく、「物語の体験をさらに高める」という目的を忘れずに積極的に貢献するということが大事かなと考えています。

映像の技術はどんどん進み、観客はもうちょっとしたことでは驚かなくなっています。これから映像の世界で仕事をしていくには、単に映像を作るだけでなく、全体の演出を踏まえて「見せ方」の可能性を開拓していくことが重要でしょうね。僕ももっと演出に深くかかわる仕事をしていきたいと思っていますが、それが具体的にどんな形なのかはまだわかりません。いろいろやっていくうちにどこかにたどり着くのかなと考えています。

学生時代は将来自分が今のような仕事をしているとはまったく想像していませんでした。在学中に映像の仕事を始めたころだって、卒業後は会社員になろうと就職活動の情報を集めたりもしていたんですよ。演劇を続けている先輩たちを見て、正直なところ、「未来はないのでは!?」と思っていました。でも、30代後半の今、僕を含めてやりたいことを続けてきた人って、結局は何とかなっていたりするんです。学生時代に思い描いていた通りの仕事ではなくても、脚本家として活躍していたり、役者としてテレビに出ていたり…。その姿を見ると、「ああ、続けるって大事なんだな」と思います。どんな道を選んでも、続けてさえいれば、意外とモノになるもの。やりたいことがあるのなら、すぐに将来が見えないからといってあきらめる必要はないんじゃないかなと思います。

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INFORMATION

2016年1月8日(金)よりテレビ東京系で放映されるテレビドラマ『ウレロ☆無限大少女』(毎週金曜日 深夜0:52〜)。「在日ファンク」の曲に乗せて、ストップモーションの手法で制作したオープニング映像を上田さんが担当している。また、1月末からスタートするGLAYの全国ホールツアー『GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2016』の映像も担当。4代目市川猿之助さんによるスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』の映像も手がけ、2015年秋に新橋演舞場で行われた東京公演は大好評。2016年3月1日(火)〜25日(金)は大阪・松竹座、4月2日(土)〜26日(火)には福岡・博多座で公演が予定されている。

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取材・文/泉彩子 撮影/刑部友康

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