矢島 里佳さん(株式会社和える 代表取締役)の「仕事とは?」|前編

やじまりか・1988年、東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳のころから全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想(おも)いから、大学4年時である2011年3月、「株式会社和える」を創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。12年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、赤ちゃん・子どもたちのための日用品を、日本全国の職人と共につくる「0から6歳の伝統ブランドaeru」を立ち上げる。14年7月に東京・目黒に直営店「aeru meguro」、15年11月には京都・五条に直営店「aeru gojo」をオープン。日本の伝統や先人の知恵を、暮らしの中で生かしながら次世代につなぐためにさまざまな事業を展開。

13年、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程修了。同年、世界経済フォーラム(ダボス会議)「World Economic Forum – Global Shapers Community」メンバーに選出される。14年、書籍『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』を出版。15年、第4回 日本政策投資銀行(DBJ)「女性新ビジネスプランコンペティション女性起業大賞」受賞。

将来の仕事について考える前に、自分が心からやりたいことを探した

-「青森県から 津軽塗りの こぼしにくいコップ」や「愛媛県から 砥部焼(とべやき)の こぼしにくい器」などaeru(アエル)の商品は普遍的で機能的なデザインですね。大人も使いたくなります。

よくお客さまからもそう言っていただけるのですが、とてもうれしいです。というのも、aeruは『0から6歳の伝統ブランド」ですが、「子ども用品のブランド」ではありません。例えば『こぼしにくいコップ」は赤ちゃんが両手で持つときも、成長して日本酒や梅酒などを飲むのにもぴったりな大きさにデザインされています。子どものころから暮らしの中で自然となじみ、大人になっても使い続けたいと思えるもの、次世代に受け継いでいきたいと思えるものを日本の伝統産業の職人さんたちと一緒に作りたいと思って立ち上げたブランドなのです。

-矢島さんが「和える」を設立したのは大学4年生の時。なぜ起業しようと思われたのですか?

最初から「起業しよう」と思っていたわけではありませんでした。もともとはジャーナリストになりたくて、大学1年生のころから新聞記者やニュースキャスターの先輩を訪問してお話を聞かせていただいていました。私は「自分の本当に伝えたいことを伝えたい」と想(おも)っていたのですが、当時は自分が何を伝えたいのかが、はっきりしていませんでした。そこで、将来の仕事について考える前に、まず自分が心からやりたいことを見つけようと、興味を持ったことは何でもやるようにしました。そのひとつが、全国各地の伝統産業の産地を訪ね、若手職人さんを取材する連載記事の仕事です。中高時代に茶華道部に所属していたことから、日本の伝統産業品に関心があり、「日本の伝統的なのものづくりの現場をこの目で見たい」と企画書を作り、想いを話して回ったところ、JTBさんの会報誌内の1ページを任せていただけることになったのです。この仕事が会社を立ち上げる原点となりました。

自分がやりたいことを事業にしている会社が見当たらないから、起業を選んだ

-伝統産業の現場を訪ね、起業を考えるほど心を動かされたことは何だったのでしょう?

職人さんたちの技術や考え方、その土地の風土や、時代と産業のかかわりなど「伝統産業」のすべてに魅力を感じました。特に心を動かされたのは、伝統の受け継がれ方についてです。伝統や文化は先人たちがお金では換算できない価値を認めたからこそ長く受け継がれてきました。そして、ただ受け継がれるだけでなく、そこには必ず革新がありました。伝統は革新と「和(あ)えられる」ことによって、新しい伝統として次の世代に伝わる。そして伝統と革新を和えてつなぐのは、今を生きる私たちです。私もそうやって日本の伝統を次世代に伝える仕事がしたいと思いました。

私自身にとっては、魅力的だと思える要素が伝統産業にはたくさんあるのに、どうして衰退していくのか。職人さんを取材する中で、その要因は、若い世代が日常的に伝統産業品に触れる機会が少なく、日本の文化や伝統産業品について、よく知らないまま大人になっているからだと気がつきました。まさに、私自身がそうだったのです。それならば、生まれた時から日本の伝統に触れられる環境を作ればいい。自分と同世代の人たちが普段の暮らしの中で触れることができ、子どもたちに使ってもらえるような伝統産業品を生み出し、次世代に日本の伝統をつなげていきたいと思いました。そこで「伝統産業×赤ちゃん・子ども」を事業にしている会社で働きたいと思い探してみましたが、見当たらなかったので、自分で会社を作るところから始めました。

「現実」の積み重ねがあったから、ビジネスへの自信は失わなかった

-大学卒業を控えた2011年3月に起業。5年目の今でこそオンライン直営店と東京と京都に直営店があり、矢島さんや「和える」の取り組みもメディアで知られるようになりましたが、第1号商品の「徳島県から 本藍染の 出産祝いセット」が誕生したのは起業から1年後。起業2年目には資金が底をついた時期もあったとか。不安も感じたのでは?

不安は常にありましたし、職人さんたちに支払いを待っていただく事態になった時は本当に申し訳なかったです。ただ、「和える」のビジネスに自信をなくしたことはありません。その理由は、頭の中だけで考えて始めたビジネスではなかったからです。自分の足で伝統産業の現場を訪ねて、見て、聞いて、そこで生まれたアイデアを同世代の友人たちに話すと、賛同してくれた友人がたくさんいました。職人さんたちも「自分にできることは協力したい」と言ってくださいました。そこで、自分のアイデアが社会に求められているのか確認してみようとビジネスコンテストに応募したところ優秀賞を頂き、賞金を資本金にすることができました。行動し、「現実」の積み重ねがあったから、「『和える』は、社会に必要とされている」と信じ続けることができたのです。

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後編では、商品やサービスを企画するにあたっての姿勢や、「働く」ということに対する考え方をお話しいただきます。

→次回へ続く

(後編 11月24日更新予定)

INFORMATION

著書『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』(早川書房/1400円+税)。矢島さんの幼少期から「株式会社和える」を創業するまでの経緯や想いがつづられており、矢島さんの行動力に驚かされる。起業を考える人だけでなく、「やりたいことがあるけれど、一歩踏み出す勇気がない」「やりたい仕事が見つからない」など将来の仕事について悩む人たちに勇気を与えてくれる一冊。
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取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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