仕事とは?

Vol.194 【後編】矢島 里佳

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やじまりか・1988年、東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳のころから全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想(おも)いから、大学4年時である2011年3月、「株式会社和える」を創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。12年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、赤ちゃん・子どもたちのための日用品を、日本全国の職人と共につくる「0から6歳の伝統ブランドaeru」を立ち上げる。14年7月に東京・目黒に直営店「aeru meguro」、15年11月には京都・五条に直営店「aeru gojo」をオープン。日本の伝統や先人の知恵を、暮らしの中で生かしながら次世代につなぐためにさまざまな事業を展開。

13年、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程修了。同年、世界経済フォーラム(ダボス会議)「World Economic Forum – Global Shapers Community」メンバーに選出される。14年、書籍『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』を出版。15年、第4回 日本政策投資銀行(DBJ)「女性新ビジネスプランコンペティション女性起業大賞」受賞。

前編では、ジャーナリストを目指していた矢島さんが「株式会社和える」を設立するまでをうかがいました。
後編では商品やサービスを企画するにあたっての姿勢や、「働く」ということに対する考え方をお話しいただきます。

これまで挑戦してきたことは、何ひとつ無駄になっていない

-ホテルの一室が、日本の伝統を次世代につなぐ。ホテルのお部屋の空間を、私たち和えるがプロデュースをさせていただく「aeru room」やオーダーメイドの商品を誂(あつら)える「aeru oatsurae」など新しい事業も、少しずつ形になってきています。

『aeru room」は2016年9月に、長崎で第1号がスタートしたばかりですが、このアイデアは創業当初からありました。日本の伝統を伝える方法は、たくさんあっていいと思うのです。「空間」もそのひとつ。さまざまな可能性を探る中で各地のホテルの一室を、日本の伝統の魅力を体感できる場所にするという構想が固まり、3年ほど前から具体的な計画を進めてきました。実は「和える」の事業のうち、短期間で立ち上がったものはひとつもなく、商品ひとつを開発するにも2、3年かけています。始まりのアイデアは、直感を大切にしていますが、アイデアをいろいろな人に伝わるかたちにするためには、思考する時間を取ることが大切なので、短期で結果を出そうとは考えていません。10年でいろいろな事業が少しずつ根づき「和える」が20歳を迎えるころには、10個の事業それぞれがひとり立ちしていればいいなと考えています。

 

-理想的な考え方ですが、今は多くの企業が経営に余裕をなくしていて、短期で結果を出すことを求められがちです。

そうですよね。だから、若い世代にも「失敗したら、終わり」とか「就職で人生が決まる」と考えてしまう人が多いように感じます。そう言う私も、学生時代から、今のように考えていたわけではありません。でも、20歳の時にある人から「10年好きなことをやって失敗しようが、まだ30歳。10年自分のために好きに生きてみなよ」と言われて、「そうだなあ」と思ったのです。本当に自分がやりたいことを、いろいろな方々が喜んでくださる方法で実現する。それを10年かけてやってみようと。その10年までまだあと2年ですが、これまで挑戦してきたことは、失敗も含めてひとつも無駄になっていません。1、2年で結果を出そうとする方が何も身につかず、流されるまま10年が過ぎることになってしまうのではないでしょうか。急がば回れ。これからも一歩ずつ、歩んでいきたいと思います。

 

「働く」というのは「生きる」ことのひとつに過ぎない

-「和える」の採用説明会はフリートークの時間も大切にされているそうですね。学生さんとお話しされて感じることはありますか?

「和える」に興味を持って事前に調べ、私たちの考えに共感して参加してくださる方がほとんどなので、和えるで働くかどうかにかかわらず、「これからもつながっていきたい」と感じる出会いが多いのがうれしいですね。ただ、「無理をして会社に自分を合わせなくてもいいんだよ」と声をかけたくなることはよくあります。例えば、「新卒の選考はいつからですか?」とか「東京直営店と京都直営店の配属はどのように決めますか?」という質問を受けると、私たちは「いつから働きたいの? あなたの希望を聞かせて」「どこに住みたいの? 住みたい場所で働けばいいのですよ」と答えます。すると、みんな目を丸くするのですが、説明会が終わるころには、疑問が解消され、晴れ晴れとした顔になります。「働く」というのは「生きる」ことの一部に過ぎないのだから、自分がどう生きたいか、どうしたいかをもっと大事にしていい。会社に人が合わせなければいけないなんておかしな話だと思いませんか? 会社と働く人、お互いが協調性を持って尊重し合う。それが働くことのあるべき姿だと私は思います。

 

かつての私が「ジャーナリストになりたい」と思っていたように、仕事を職種名で考えるのも社会の実情には合わなくなっているのかもしれません。既存の職種というのは、20代から50代の男性がメインで働いていた20世紀に生まれたものがほとんど。限られた属性の人たちによって生み出されてきた社会システムやサービスというのは偏っています。かつてより女性が社会に進出し、高齢者も働く現在は、多様な価値観の人たちによって職業観の切り替えが起きている時代だと思うのです。だから、今就職活動をする方々にとっては、「なんかちょっと違うな」と半歩くらいズレていると感じる仕事が多いのではないでしょうか。そのズレに自分を合わせようと苦しむのではなく、素直な感覚を信じて行動していただければと思います。

 

学生へのメッセージ

これから社会に出る皆さんには、疑問を持つということの大切さをお伝えしたいです。今ある社会や企業というのは、大人たちが作ってきたもので、「絶対」ではありません。「不完全である」という前提で物事を見た方がいい。ただし、それは物事を斜めに見るということとは違います。自分の直感に素直になった時に感じる違和感。新しい時代の芽というのはそこにあると思うのです。だから、何でもかんでも大人たちの言うことが正しいと思う必要はありません。ただし、疑問を相手にぶつけるだけでは「文句」にしかなりません。「疑問を持ち、その背景を考察し、解決策を提示する」という一連のプロセスがあって初めて「疑問」は「提案」になります。論理性を持って物事を考え、相手を納得させる「提案」のできる人材は、どこの職場でも求められる存在だと思います。

 

矢島さんにとって仕事とは?

−その1  将来の仕事を考える前に、自分が心からやりたいこと、今の自分にできることは何かを探した

−その2 本当に自分がやりたいことを、いろいろな人が喜んでくれるようなかたちで実現する

−その3 会社と社員としての上下関係ではなく、みんなで会社を育てるという風土。お互いが尊重し合う生き方

 

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INFORMATION

著書『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』(早川書房/1400円+税)。矢島さんの幼少期から「株式会社和える」を創業するまでの経緯や想いがつづられており、矢島さんの行動力に驚かされる。起業を考える人だけでなく、「やりたいことがあるけれど、一歩踏み出す勇気がない」「やりたい仕事が見つからない」など将来の仕事について悩む人たちに勇気を与えてくれる一冊。
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編集後記

ひところ「社会起業家」という生き方が大きな注目を浴びた時期がありました。「社会起業家」とは「社会の課題を事業によって解決する人」のこと。「伝統産業を次世代に伝えたい」というコンセプトで起業したことから、矢島さんも「社会起業家」のひとりとして見られることが多いそうですが、「私は社会の課題を解決するために『和える』を始めたのではなく、自分のやりたいことをやってきただけ」と言います。「講演などで学生さんから『社会に役立つことをしたい』と相談されることがあります。それ自体は素晴らしいことですが、『社会のために、何をしたいの?』と聞くと、黙り込んでしまう人が多いことが気になります。社会のためになることをしようとしても、自分が本当にやりたいことをやっていなければ、幸せは感じられない。自分が幸せでないと、人を幸せにするのは難しいのではないでしょうか」と矢島さん。柔和な雰囲気ながら、一つひとつの言葉に芯の強さを感じさせる方でした。(編集担当I)

 

取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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