仕事とは?

Vol.207 【前編】和田正人

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わだまさと・1979年、高知県生まれ。日本大学文理学部体育学科卒業。大学時代は陸上部に所属し、箱根駅伝第76回(2000年)、第78回(02年)に出場。02年、NEC(日本電気株式会社)に入社し、陸上部に所属。03年にNECを退職後、2005年俳優デビュー。13年、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』で泉源太役を熱演し、注目される。近年の出演作にNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』、舞台『世界』、日本テレビ系『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』、映画『14の夜』など。2017年4月8日(土)に放送開始されるテレビ東京系『マッサージ探偵ジョー』に加藤虎雄(タイガー)役にて出演が決まっているほか、2017年は映画『花戦さ』(6月3日公開)、映画『関ヶ原』(8月26日公開)も控える。

大学を出て、社会人陸上の選手に。走ることが「就職活動」だった

-陸上選手として活躍されていたのは有名ですね。

中学、高校、大学と陸上をやり、卒業後はNECの陸上部に入りました。最初はただ好きで走っていましたが、高校にスポーツ推薦で入ったころから、陸上を人生にもかかわる大事なものとしてとらえていたように思います。大学時代は箱根駅伝に出場して結果を残すことが目標で、1日のほとんどを練習に費やしていました。生きていくために自分のできることが陸上しかなくて、それが自然と「食いぶち」になっていったというのがリアルなところ。走ることはある種、僕にとって就職活動のような側面もありました。

 

-大学卒業時、陸上選手としてどんな将来像を描いていましたか?

実業団の日本一を決める「ニューイヤー駅伝」の出場メンバーになり、チーム優勝することを大きな目標にしていましたが、具体的な将来像は何もなかったです。社会人になって環境が変わって学生時代に比べて練習の質もはるかに高くなり、先のことを考える余裕がありませんでしたし、まずは一生懸命練習をして、続けていくことで展望も開けていくかなと考えていました。

 

芝居とは縁のなかった「陸上選手」が俳優を志した理由

-ところが、社会人2年目にNEC陸上部が廃部に。

はい。部員に知らされたのは、なんと公式発表の日の朝でした。その後、チームメートの大半は移籍し、数名は陸上を引退してNECに残りました。「じゃあ、俳優になろう」などとおかしなことを言い出したのは僕だけです(笑)。

 

―なぜ俳優に?

きっかけは社会人1年目のけがによる不調です。大会に出られず、練習にも行けないという時期が続き、ものすごく苦しんだんですね。どんなに前向きに考えようとしても、「走れなくなったら、どうしよう」という不安にさいなまれて。そんな中はたと、このまま陸上をやっていても、プレーヤーとして続けられるのはせいぜい30代半ばくらいまでだよなと。毎日何10キロも走って陸上しかない青春時代を過ごしてきたのに、最終的にはやめる日が来ると気づいて、将来に軽く絶望して。「陸上とはまったく関係ない生き方もあるかもしれないな」とぼんやり想像するようになりました。

 

そこで選択肢として頭に浮かんだのが俳優でした。お芝居の経験はおろかテレビドラマも数えるほどしか見たことがなく、振り返れば、よくそんな発想が出てきたなと思いますが、「俳優なら引退がなく、死ぬまでできる」と考えたんです。お芝居は人生経験を生かせるから、陸上の世界でやってきたことも無駄にはならない。素晴らしい職業だなと。そんなことを考えていた時にちょうど廃部が決まり、背中を押された気がしたんです。

 

「身近な人の誇りでありたい」という思いがいつも根底にあった

―ゼロからのスタートだったんですね。周囲の反応はどうでしたか?

家族や友人には心配されました。でも、生涯をかけてひとつの道を極めていく生き方をしたいという思いが強くあったので、僕に迷いはなかったです。かねてから陸上の先輩たちに聞かされていた「スポーツである程度のところまで登りつめた人は、ほかのジャンルでも結果を残せる」という言葉も後押ししてくれました。もちろん、どんな仕事をやるにも新たに学ぶことはたくさんあり、謙虚に取り組んでいくことが必要です。ただ、スポーツ選手というのは壁にぶつかるという経験をイヤというほどしてきているので、壁の乗り越え方を知っている。だから、死に物狂いで頑張れば、俳優としても絶対に何とかなると思っていました。

 

―NEC退職の翌年に現事務所のオーディションに合格し、デビュー。俳優としてやっていけると思われたのはいつごろですか?

少しカッコつけたことを言わせてもらうと、陸上選手として活動していたころに「家族の誇りでありたい」という思いが根底に強くあったんです。大学時代に箱根駅伝に出場した時に、家族や周りの人がすごく喜んでくれたんですね。その表情を見た時に、「ああ、お世話になってきた人たちの気持ちに報いるというのはこういうことなのか」と思ったんです。俳優になってからも、身近な人たちが僕を誇らしく感じてくれるような仕事をしたいと思って活動をしていて。そういう意味では、デビュー10年目にNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』で泉源太役をやらせていただいたのが節目でしたね。みんなに「よかったね」と言ってもらえて、やっと俳優としてのスタートラインに立てたと感じました。

 

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後編ではキャリアの壁に対する考え方や演技に対する姿勢についてお話しいただきます。

→次回へ続く

(後編 3月15日更新予定)

 

INFORMATION

和田さんが出演する映画『花戦さ』は、2017年6月3日(土)公開予定。織田信長、豊臣秀吉といった戦国武将たちと同じ時代を生きた華道の家元・初代池坊専好の物語。専好が前田利家邸に豊臣秀吉のお成り(外出のこと)に合わせて幅7メートルを超える立花を生けた史実を題材に、権力者に対して花を使って「静かに戦う」様子を描いた。和田さんは野村萬斎さん扮する専好の弟弟子・専武を演じる。

 

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『花戦さ』公式サイト http://www.hanaikusa.jp

 

 

取材・文/泉彩子 撮影/鈴木慶子

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