仕事とは?

Vol.209 【前編】矢島 光

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やじまひかる・1990年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学中に『週刊モーニング』主催の「MANGA OPEN」(現「THE GATE」)で奨励賞を受賞。2012年、株式会社サイバーエージェントに入社。フロントエンジニアとしてアメーバピグの運営に携わる。15年に退職し、専業漫画家に。新潮社のWebマガジン『ROLA』にて連載中(17年3月現在)の『彼女のいる彼氏』が注目され、書籍化もされている。

漫画を描きながら、Web系企業に勤務。漫画も仕事も中途半端に思えた

-Webマガジン『ROLA』で連載中の漫画『彼女のいる彼氏』の舞台はWeb系広告代理店。矢島さんも以前はサイバーエージェントに勤務されていたとか。

子どものころから漫画家に憧れていて、大学生になって漫画雑誌の賞に応募するようになったのですが、4年生になっても芽が出ず…。就職活動もしていて、サイバーエージェントから内定をもらったんです。ところが、あと少しで卒業という時期に、雑誌『週刊モーニング』に応募した作品が奨励賞を受賞したと連絡があって。「ありがとうございます! いただいている内定をお断りして漫画家になります」と出版社の方にお話ししたら、「社会経験は漫画の肥やしになる。ましてや人気企業で働くなんて誰もができることではないのだから、しっかりと勉強してきなさい」と諭されました。私自身は受賞の喜びに舞い上がって、「とにかく漫画が描きたい」という思いが強かったのですが、社会勉強も大事かなと納得して就職することにしました。

 

-「社会勉強」はできましたか?

そんな余裕はありませんでした(笑)。私はフロントエンジニアというデザイナーとエンジニアをつなぐ仕事をしていたのですが、周りは才能やセンスがあり、エネルギーにあふれた人たちがいっぱい。全力を出さないととてもやっていけず、それがすごく楽しいと感じました。ただ、夜遅くまで仕事をして早朝と深夜に漫画を描き、休日は漫画家さんのアシスタントをするという毎日だったので…。

 

-大変だったでしょうね。

最初は「若さ」で乗り切っていたのですが、だんだん追いつかなくなりました。会社では思うような成果が出せないし、寝る間を惜しんで描いた漫画もボツ。漫画も仕事も中途半端な自分がイヤで、つらかったです。結局、心身共に疲れ切り、半年間休職させてもらうことになりました。その間は何もする気が起きず、漫画も一切描きませんでした。

 

漫画一本で行こう! 覚悟を決めたら、迷いがなくなった

-退職を決めたのは?

実は、復職する時にはもう漫画をやめると決意していたんです。ところが、つい描いてしまうんですよ、漫画を。もう、病気ですよね(笑)。その時に、こんなに好きなことがあるのなら、一度真正面から向かい合わないとダメだと思ったんです。そうしないと、会社にまた迷惑をかけてしまうなって。連載も決まっていなかったし、「漫画家としてやっていける」という確信めいたものもありませんでしたが、漫画一本でやっていこうと決めたら、なんかスッキリしました。「ここまで来たら、命をかけて描いて、成果を出してやる!」という気持ちでしたね。

 

いい出会いも、ダメな出会いも自分自身が引き寄せている

―退職した年に『彼女のいる彼氏』の連載をスタートされていますね。「会社員時代の経験を武器に勝負に出よう」というお気持ちだったんですか?

それが、違うんです。『ROLA』編集部に最初に持ち込んだのは、4コマのギャグ漫画だったんですよ。

 

―4コマ漫画!?

はい。ストーリー漫画を描く体力や気力は回復していないけれど、4コマならいけるかなというなめた発想でした。そこで4コマで活躍されている漫画家を調べたら、「まずりん」さんという方が『ROLA』で連載をされていたので、ブログに描いていた作品を編集部に持ち込んだんです。ところが、編集者さんから「矢島さんはギャグのセンスがないから、ストーリー漫画にしましょう」とバッサリ斬られまして…。「会社員時代の経験を基に恋愛漫画を描いてみたら? 人気企業で働くキラキラ女子について、みんな知りたいと思うよ」と提案されて描いたのが、『彼女のいる彼氏』でした。

 

―いきなりの方向転換ですね。抵抗はありませんでしたか?

それまで恋愛漫画を描いたことがなかったので、恥ずかしくはありましたが、抵抗はなかったです。会社を辞めて、「漫画家として生きていくためには、何でもやってやる」という気持ちでしたし、編集者さんの魅力も大きかった。家庭を持ち、子どもも育てながら、愛情を持って仕事をしている女性で。「一緒にいい作品を生み出そう」と真剣に考えてくれていることが伝わってきたので、「彼女について行こう」と思えた。ダメ出しをされても、「力を引き出してもらっているな」とありがたく感じました。
『彼女のいる彼氏』はかっちりプロット(筋書き)を決めずに描き始めて、描いているうちに読者が何を求めているのか、何を描けばいいのかをつかんでいった感じです。連載が決まった時から「絶対にこの作品で成果を出す!」という気持ちで描いていましたが、6話目くらいだったかな。編集者さんが「矢島さんをスターダムにのし上げます」と言ってくれたんですよ。ドライブがかかってきたのはそこから。私は恵まれていて、どの媒体の編集者さんも「一緒に天下取ろうぜ!」というノリの人たちばかりなんです。やはり、熱い思いというのは人を動かすし、そういう編集者さんが寄ってくるような仕事をしていきたいなと思っています。いい出会いも、ダメな出会いも、引き寄せるのは自分ですから。

 

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後編ではキャリアの壁に対する考え方や演技に対する姿勢についてお話しいただきます。

→次回へ続く

(後編 3月29日更新予定)

 

INFORMATION

『彼女のいる彼氏』2巻(新潮社/税込799円)。Web系大手企業・サイダージャパンで働く入社4年目のUIデザイナー・咲。自分の実力のなさに悩む咲は、見守ってくれる同期・徳永への恋を自覚したばかり。ところが、後輩クリエイターから、突然のアプローチが…!!  Web連載にて爆発的人気を博した第11回『恋するフォーチュンナイト』を収録。

 

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取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子

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