仕事とは?

Vol.238 <後編>山崎 亮

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やまざき・りょう●1973年、愛知県生まれ。大阪府立大学農学部卒業(緑地計画工学専攻)。在学中にメルボルン工科大学環境デザイン学部(ランドスケープアーキテクチュア専攻)にてジョン・バージェス氏に師事。大阪府立大学大学院(地域生態工学専攻)修了後、 SEN環境計画室勤務。2005年に「studio-L」を設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。町づくりのワークショップ、住民参加型の総合計画作り、建築やランドスケープのデザイン、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトを多く手がける。現在は、東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)、慶應義塾大学特別招聘(しょうへい)教授も務める。

前編では設計事務所から独立し、仕事が軌道に乗るまでの経緯をうかがいました。
後編ではコミュニティデザインの仕事に必要な資質・スキルや、今後の活動についてお話しいただきます。

持てる力を総動員して、地域の人たちの「やる気」に火をつける

-コミュニティデザインの仕事にはどのような資質やスキルが求められるのでしょうか?

課題の解決策を提示する「コンサルタント」とは異なり、僕たちの仕事は、地域に住む人たち同士がつながって、自分たちで課題を解決しようと行動を起こすお手伝いをすること。目的を果たすには、地域の人たちのやる気を引き出していかなければいけません。地域の人たちにとって、僕たちは「よそ者」。「おまえらに何がわかる」「一体何をしにきたのか」と怒鳴られることもあります。そこから信頼関係を築いていけるだけのコミュニケーション力だったり、粘り強さといった全人的な力が土台として求められますよね。その上で、「楽しさを生み出す力」と「正しさをきちんと伝える力」を併せ持っていることが大事です。

 

-「楽しさ」と「正しさ」ですか。

課題の解決に向けて議論をする場というのは、「正しさ」が先に立ちがちなのですが、「正しさ」だけで動ける人というのは多くありません。「カッコいい」「おしゃれ」「面白い」といった感性に訴えかける「楽しさ」がないと、自発的な行動にはなかなか結び付かないものです。ただし、「楽しさ」だけでは「お祭り騒ぎで盛り上がったけれど、みんな飽きてしまい、最終的には何も残らなかった」というようなことが起きがち。「楽しさ」と「正しさ」のバランスをきちんと取れないと、地域での活動はなかなか前に進まないんです。

 

この「楽しさ」と「正しさ」を実現し、地域の人たちの「やる気」を引き出していくために、僕たちはあらゆることをやります。地域の課題を理解するためのリサーチに始まって、現地でヒアリング、ワークショップの企画・運営をし、皆さんの意見がまとまってきたら、それを実行に移すためのチームビルディングや、総合計画実施計画書(※1)の編集・デザインもする。皆さんがワークショップに足を運ぶのが楽しくなるよう地元のちょっとおしゃれなカフェを会場に選んだり、参加者間の情報共有やモチベーションを次回につなげることを目的に議論を当日中にニュースレターやSNSで発信するといった細かいサポートもします。

※1 町づくりの方向性とそれを実現するために実施する事業を中長期の視点からまとめた計画書。

 

これらの仕事をプランナー、ワークショップのファシリテーター(※2)、ライター、デザイナー、写真家など専門家を集めたチームで分業するという方法もあるでしょう。でも、「studio-L」ではスタッフそれぞれの得意分野を生かして協働はしますが、分業はしません。最近では規模の大きなプロジェクトが増えているので、実際には難しい場合もあるものの、全員が最初から最後まですべての工程にかかわります。分業すれば、作業効率は良くなるかもしれませんが、「プロジェクトを自分たちで動かしている」という感覚を得にくくなり、仕事への責任感や情熱が失われがちです。第一、地域のこれからを一緒に考えていこうという時に「それは私にはわからないので、担当者に聞いてください」なんて言っていたら、地域の人たちの信頼は得られません。ですから、いざとなったら1人でプロジェクトを進めることができるだけのスキルや知識を意欲的に身につけていく姿勢も必要になります。

※2 議論に対して中立な立場を保ちながら話し合いに介入し、議論をスムーズに調整しながら合意形成や相互理解に向けて深い議論がなされるよう調整する役割。

 

-オールラウンドなスキルや能力が求められるんですね。

結構、大変そうでしょう? でも、大丈夫(笑)。コミュニティデザインの仕事では、ハイレベルなスキルや知識を使って、完璧に物事をやる必要はありませんし、完璧にやってはいけません。「あの人たちに任せれば大丈夫」と思われてしまったら、地域の人たちは自分で動くことをやめてしまうからです。僕たちがプロとしてやるべきことは、持てる力を総動員して、皆さんのやる気に火をつけること。完璧なアウトプットを目指すことではないんです。

 

周りの人たちの表情を明るくできるような働き方をしたい

-「studio-L」のWebサイトを拝見すると、プロジェクトのテーマは食・農、環境・エネルギー、空間活用から医療・福祉、防災まで多岐にわたります。地域の抱える課題はさまざまなんですね。

最近では医療福祉の分野からの相談を受けることが多くなりました。自治体の福祉部門に限らず、病院や社会福祉法人などからも問い合わせがあります。「地域包括ケア」ということが言われるようになって、医療や福祉の業界と地域のつながりの重要性に気づいた人が増えてきたようです。僕自身も各地の町や村を訪れて高齢者の方と接したり、北海道・沼田町で廃校の跡地に診療所や高齢者住宅を造るプロジェクトに携わったりする中で社会福祉や社会教育(※3)について学びたいという気持ちが強くなり、2年ほど専門学校に通って、社会福祉士の資格を取りました。現在は、社会福祉の分野でコミュニティデザインができることを石川県・野々市市で住民参加型の地域包括ケアシステムづくりなど実践を通してカタチにしつつ、社会教育について学び始めたところです。

※3 学校・家庭以外の広く社会で行われる教育のこと。

 

設計事務所から独立し、モノではなく、コミュニティというソフトをデザインするようになって10年あまり。依頼される仕事も僕自身の関心も、比重が建築や空間の設計から福祉や医療に移ってきました。おそらく、次の5年は公民館活動の新しいカタチをデザインするなど地域と教育をつなげる活動が増えていくのではと思っています。でも、さらに先のことはわかりません。その時々で今、自分が「これをやりたい」と思うことをやって、生きることを楽しみ、周りの人たちの表情を少しなりとも明るくできるような働き方をしていければと思っています。

 

学生へのメッセージ

おそれながら言わせてもらいたいのは、「自分がやってみたいことを、やってみたらどうだ」ということです。こんなことをわざわざ話すのは、今の世の中に「やりたいことをやれ。食っていけるかどうかは知らん」と言える大人が少なすぎるから。ひと昔前なら、いっぱいいたんですよ。でも、今は「あいつは時代や環境に恵まれただけ」「あんな無責任なことを語るから、若者が貧困に陥る」とSNSで叩かれるから、うっかり口にできない。僕もドキドキしながら言っています(笑)。

 

食べていけるかどうかを基準に仕事を選ぶこと自体は、悪いことではありません。だけど、その結果、好きでも嫌いでもないことをやり続け、疲れ切っている人たちが世の中に多いのが気になります。疲れた顔で仕事をするのは本人も楽しくないし、そういう人が増えれば、社会をどんよりさせます。だから、やっぱり、若い人たちには「稼ぎのことなんて気にするな。まずはやりたいことをやれ」と言いたいですね。それから、「やりたい」と思ったことを数年は腰を据えてやってみてほしい。コミュニティデザインの仕事は最初、誰からも見向きもされませんでしたが、5年を過ぎたころから応援してくれる人が増えていきました。一方で、キャリアを重ねるにつれてやりたいことが変化していくのも、自然なこと。新しくやりたいことが出てきたら、それをまたじっくりやってみればいい。一定期間何かに熱を入れて取り組んだ経験は、次のステップにも必ず生きます。

 

山崎さんにとって仕事とは?

−その1 地域を元気にするために、人と人がつながる仕組みを作る

−その2 苦境を乗り越えるすべを、仲間と一緒に面白がって考える

−その3 自分が「やりたい」と思ったことを、数年は腰を据えてやるのが大事

 

INFORMATION

若者向けに、コミュニティデザインの仕事についてわかりやすく書かれた『ふるさとを元気にする仕事』(筑摩書房/920円+税)。コミュニティデザインの基本知識やプロジェクトの事例が丁寧に説明されている。山崎さんの学生時代の過ごし方や、現在の仕事の進め方、ワーキングスタイルについても具体的につづられており、キャリアや働き方について考える上でのヒントもいっぱいだ。

 

編集後記

「コミュニティデザイン」日本では実践例がなかったジャンルで、パイオニアとして道を切り開いてきた山崎さん。記事では「コミュニティデザイナー」の肩書きで紹介させていただきましたが、頂いた名刺にその文字はありません。「便宜上“コミュニティデザイナー”と名乗っていますが、“人と人がつながる仕組みにかかわる仕事”というくらいのざっくりとした感じで言っているだけなんです。“コミュニティデザイナーってこういう仕事なんです”と定義を固めてしまうと、自分でそれを信じ込んで、仕事の内容が限定されてしまう。そうなると、自分の仕事がちょっと面白くなくなっていくような気がするんですよね。ただ、最近は時々、“コミュニティデザイナー”と名刺に書いている人に出会うことがあって、そのことはすごくうれしいんです。“studio-L”でできる仕事の量には限りがあるけれど、コミュニティデザインにかかわる人が増えれば、地域の人たちと面白いことをやっていこうという動きがさらに活発になっていくのではと期待しています」と山崎さん。熱のこもった語り口と明るくて気さくなお人柄が記憶に残る方でした。
(編集担当I)

取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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