仕事とは?

Vol.252 <後編>石原安野

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いしはら・あや●1974年、静岡県生まれ。1998年に東京理科大学理学部卒業、2004年アメリカ・テキサス大学大学院博士課程修了。翌年より南極点の国際共同ニュートリノ観測施設「IceCube」実験に中心メンバーとして参加。2012年、世界で初めて高エネルギー宇宙ニュートリノ事象を同定することに成功、翌年に宇宙線・粒子天文物理学分野では日本人初の国際純粋・応用物理学連合の若手賞受賞。2016年、超高エネルギー宇宙線起源における長年の有力仮説を覆す研究結果を発表。2017年には、自然科学分野で優れた業績を挙げた女性科学者に贈られる猿橋賞を受賞した。2016年より千葉大学大学院理学研究院附属ハドロン宇宙国際研究センター准教授。

前編では南極の国際共同施設の中心メンバーとして世界初の超高エネルギーニュートリノを見つける過程での試行錯誤についてうかがいました。後編では物理学者になった経緯や次世代の研究者たちへの思いをお話しいただきます。

「勉強」と「研究」の違いを知った大学時代

-そもそも、物理学に興味を持ったのは?

私が物理学にひかれたのは、異なっているように見える複数の事象が、実は関係性を持っているんだということに気づいた時。高校1年生の物理の授業で習ったニュートンの運動方程式に心を動かされたんです。鉛筆が地球に落ちる力と惑星の運動が同じ小さな式で計算できる。そこに面白さを感じ、「ああ、私は一つひとつの事象を解明するというより、目には見えない関係性というものにひかれるんだな」と気づきまして。一見関係のないように見えることをつなぐ。そういう勉強をしたいと思って大学の理学部に進学しました。

 

いざ大学で物理学を学んで感じたのは、「物理学は難しいな」と。もっと勉強しなければ、わかった気にすらならない。だから、もっと勉強したいと思いました。物理学の勉強というのは先人たちが構築してきた理論体系があるので、少しずつ学んでいくと、自分の中では別の事象だと思っていたことが一つに融合されていく楽しさがありました。「すごい。今まで私はそんなことを考えてこなかったな」と刺激を受ける日々でしたね。その後、卒業研究のために研究室に入ってからは、「勉強」と「研究」の違いも知りました。

 

-どう違いましたか?

勉強というのは教科書に書いてある、正しいとされる結果があって、それを学んでいくわけですよね。でも、研究というのはどこに向かっていくのか決まっていません。誰も答えを知らなくて、自分で何かを想像して方向性を見定め、方法を探っていく。想像力や創造性がより求められるのが勉強との一番の違いだと感じました。

 

努力をして未来を目指しつつも、今の状況を楽しむ

-学生時代、就職についてはどのようにお考えになっていましたか?

物理学の研究が面白くて、米国の大学院に進みましたが、「物理学者しか道はない」と思ったことはないんです。10代のころから一人旅の資金を稼ぐために新聞配達をしたり、大学時代はフランス料理店でアルバイトをして学費をまかなったりといった経験があったので、「何をやっても食べてはいける」と勝手に思っていました(笑)。大学院を修了したばかりの自分が研究者として就けるポストは任期付きがほとんどだったので、まずはやってみて、向いていなければ別の道を考えようと「IceCube」のプロジェクトに応募。米国・ウィスコンシン大学、千葉大学と所属先を移動しながらも、途切れることなく研究を続けてくることができました。

 

実は、研究者って結構不安定な職業なんですよ。昔とは違い、大学や研究機関で任期なしのポストを得られる研究者はもはや少数派。だから、あまり「物理学者としてずっとやっていけるかな」と先を考え過ぎてしまうと、足がすくんでしまうと思うんですね。不安定さには束縛されない自由もあります。努力をして未来を目指しつつも、今の状況を楽しむという姿勢がこれからの研究者にはより重要になってくるのではないでしょうか。

 

-最後に、現在取り組んでいるお仕事について教えていただけますか?

「IceCube」の次世代実験として計画されている「IceCube-Gen2(アイス・キューブ ジェンツー)」に向けて、日本の責任者として新型検出器の開発指揮に当たっています。「IceCube-Gen2」は「IceCube」の容積の8倍規模の巨大な実験ですが、8倍の予算をかけたのではニュートリノ天文学の裾野が広がりません。低コストを目指し、従来の数倍の検出性能を持つ検出器を作るのが私に与えられたミッションです。
私が「IceCube」実験に参加した時、検出器はすでにできていて、お膳立てがされている状態でした。今度は自分の番。次世代の研究者たちが最高のパフォーマンスを上げられるような検出器を作って、次世代につなげていきたい。そう願って日々頑張っています。

 

学生へのメッセージ

社会に出るための準備として一番大切なのは、自分がやりたいことは何か、どんなものが好きなのかを考える時間をつくることだと思います。私の場合、中学、高校時代によく本を読んでいて、『十五少年漂流記』や『コロボックル物語』といった冒険談が大好きでしたし、鈍行列車で北海道や九州を旅するなど「冒険」が好きでした。その「冒険」ができる仕事が、私にとっては物理学者だったんです。
そして、やりたいこと、好きなことを見つけたら、ある程度大胆になってみてください。私も大学院を出た時に自分が物理学者としてずっとやっていけると自信を持っていたわけではありません。「なれるかな、なれないかな、でも、ちょっとやってみよう」という感じでした。でも、あの時、「私なんかには無理」と言って一歩踏み出さなかったら、今はありません。「ちょっと無理かもしれないけど、やってみる」という感覚が非常に重要だと思います。

 

石原さんにとって仕事とは?

−その1 見えないものを探り、未知を知る「冒険」の喜びがある

−その2 結果が出なくてもあきらめず、挑戦し続ける

−その3 努力をして未来に備えつつも、今の状況を楽しむ

 

INFORMATION

石原さんが所属する「千葉大学大学院理学研究院附属 ハドロン宇宙国際研究センター」のWebサイト(http://www.icehap.chiba-u.jp)。「IceCube」実験の情報のほか、南極での研究員の生活を紹介したページもあり、読み物としても楽しめる。

 

編集後記

東京理科大学卒業後、米国・テキサス大学の大学院に進んだ石原さん。研究室の担当教授からテキサス大学への進学を勧められた時、研究内容への関心はあったものの、テキサスで学ぶことへの迷いがあったそうです。「もう少し都会がいいかなあと思って(笑)。でも、教授から『3日以内に結論を出しなさい。迷い続けても、結論は出ないよ』と背中を押され、すぐに『行きます』と返事をしました。結果的には行って本当に良かった。以来、大きな決断ほど2、3日で決めるようにしています」と石原さん。悩みがちな人は、まねをしてみるといいかもしれません。(編集担当I)

取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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