理系のシゴトバ

Vol.105 株式会社シナノ

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今回の訪問先 【シナノ 技術開発部】
スキーポール(ストック)やトレッキング(山登り)ポール、ウォーキングポール、さらには歩行杖など、私たちの身の回りでは身体を支えるさまざまなポールが使われています。長野県佐久市に本社を構えるシナノは創業以来、そんなポール技術に特化した製品を開発、提供しています。もともとスキーポールの専門メーカーとして設立したシナノ(創業当時の社名は信濃スキー製作所)。高度成長期以降、スキーの人気が拡大するのに伴い、同社の事業も発展。スキーポールの専門メーカーとして、業界をけん引するまでに成長しました。バブル最盛期とも言える1990年の同社のスキーポールの年間出荷量は100万組。その後、バブル崩壊、人口の減少などの理由によりスキー人気は94年を境にどんどん低迷していきます。そんな社会の変化に対応するよう、シナノでは、長年スキーポールで培ったポール技術を生かして、トレッキングや歩行杖の分野に進出します。トレッキングポールの販売を開始したのは93年。またその6年後の99年には歩行杖「Kainos(カイノス)」ブランドを立ち上げ、販売を開始します。そして2006年には健康ブームを先取りし、ポールウォーキング(※)用のポールを開発しました。今回はそんなポール技術を生かしたさまざまな製品を開発しているシナノ 技術開発部のシゴトバを訪れました。
※専用のポールを持って行うウォーキング。正しい姿勢が維持されるだけでなく、歩幅を広げて歩くことができるため、通常のウォーキングより高い運動効率が期待できる。昨今の健康ブームにより、人気が高まっている。

 

トレッキング、ウォーキング用ポールを開発する仕事とは

シナノの本社および工場があるのは、長野県佐久市。JR長野新幹線の佐久平駅から10分ほど歩けば、シナノ本社および工場に着きます。佐久平駅周辺には、ロードサイド型の大型店舗が立ち並んでいますが、シナノ本社周辺はのどかな住宅街となっています。
内陸にあるため、気候は寒暖の差が激しいですが、冬場は晴れの日が多く降水量が少ないため、毎年、雪が積もることはあまりないとのこと。しかし2014年2月の豪雪では、ここ佐久市も1メートル以上の雪が積もったそうです。
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技術開発部のシゴトバを古屋(ふるや)陽一さんが案内してくれました。写真は技術開発部の執務エリアです。
「このフロアに私たち技術開発部をはじめ、総務部、営業部、デザインなど、製造を除くすべてのスタッフの席があります。そして社長の席も。私たち技術開発部の仕事は、新商品の開発や既存商品の改良など、商品開発の一切を担当します。その際には、営業やデザインの人たちに意見を聞いたり、相談したりすることがしょっちゅうあります。席が近いため、気軽に話しかけることができ、すごく仕事がしやすいんです」(古屋さん)
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古屋さんが主に担当しているのはトレッキング用(写真手前2本)とウォーキング用(奥2本)のポールです。用途に応じてシャフト(柄の部分)の強度、グリップ(握りの部分)のデザイン、地面と接する石突きの部分や先ゴムの形状などが異なるそうです。
「例えばウォーキングポールであれば、軽く握っても姿勢が保持できるようなグリップに、手をホールドするストラップをつけています。一方のトレッキングポールの場合は、しっかり握れるようなグリップに、場面に応じてシャフト部分を握ったりすることもあるため、持ち替えしやすいようなストラップにしているんです」(古屋さん)

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シナノが開発している歩行杖です。
「従来の杖はあまりデザイン性がなかったんです。しかしエンドユーザーである高齢者の方の声を聞くと、年寄りくさく見えるのは嫌だという声が多かったんです。そこで当社ではこのようなカラフルで意匠性に富んだ歩行杖を開発し、提供しています。すごく人気があるんですよ」(デザインを担当している片桐修征さん)

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新商品の開発や既存商品の改良は企画会議をするところから始まります。
「企画会議に参加するのは営業とデザイン、製造部、技術開発部のすべての部署のメンバー。販売店の声や展示会の会場で聞いたエンドユーザーの声、さらには当社のモニターの声などを参考に、どんな商品にするか、話し合いをします。お客さまの声に迅速にかつ柔軟に対応できるところが当社の商品開発の強みなんです」(古屋さん)

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企画会議で決まった内容を形にすべく、3次元CADを使って設計します。写真はグリップの設計をしているところ。
「私たち開発者は材料の選定から各部品の設計、試作、品質管理のための試験や検査、さらには出荷の際の検品作業まで一貫して携わります。ここで設計したデータを向かいの工場の一角に設置されている切削機に送り、サンプルを作製します」(古屋さん)
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切削機でサンプルを作ったところ。写真左が商品となったグリップで、右が切削機で作ったそのサンプルです。
「一度の設計で量産にいたることはほとんどありません。このようなサンプルを作り、実際に自分や営業担当者、場合によってはモニターの方など人に握ってもらって、企画通りのイメージになっているか確かめます。不具合があれば設計を見直して、サンプルを作る、という工程を繰り返します」(古屋さん)
サンプルはケミカルウッドという人工的に木材の性質を持たせたポリウレタン素材を用いて作成します。加工しやすく環境にも配慮されていますが、強度などの実用性はないため、主に形状や使い勝手の確認用に用いられます。

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実際に試作品が上がってきたら、ちゃんと設計通りにできているか、ノギスを使って計測します。
「材料によって成形条件が異なるので、思った以上に膨らんだりすることがあるんです。公差(許容される差)内に収まっているか、設計図と比較して確認します」(古屋さん)

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品質を担保するための試験も行います。写真は耐久性の試験を行っているところ。
「ポールの耐久試験とひと口に言っても、さまざまです。当社では製品安全協会(製品の安全性を保証するブランドであるSGマークを発行する機関)が定めた基準よりもさらに厳しい独自の基準を設けて、安心・安全な品質を確保しています」(古屋さん)

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写真は伸縮式のポールの組み立て現場で製造担当者と話をしているところです。
「新商品が初めて量産されるときは、製造現場に足を運び、組み立てやすさなどについて、現場の話を聞きます。話を聞いて組み立てにくさが見つかれば、次の設計に反映することができます。このように製造現場に近いというのも、私たちの強みなんです」(古屋さん)

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出荷前の検品作業も、技術開発部の仕事です。
「検品はまず長さを測り、傷やすれがないかをチェックするところから始めます。次にシャフト先端の石突きの部分をはずしてビスがちゃんと取り付けられているか、ねじ山がきちんと回るかを確認します。折り畳み式の場合はスムーズに折り畳めるか、実際に試します。出荷の多い日は、ほぼ1日、検品作業にかかることも。でも私たち技術開発部が当社製品の品質の砦(とりで)。自信を持って製品を提供するためには、欠かせない作業です」(古屋さん)

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ハタラクヒト オープンな雰囲気ながらも、品質には頑固なほどこだわる

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引き続き、古屋さんに「シナノ 技術開発部」というシゴトバの魅力、やりがい、職場の雰囲気などについて話をうかがいました。

 

古屋さんは2009年に転職でシナノに入社しました。学生時代の専門は建築学。
「新卒で入社したのはゼネコン。約5年、施工管理に従事していました。しかし地元である佐久に戻ることになり、最終製品を作れる会社に就職したいと思ったんです。これまでとは畑違いですが、人が使うモノを作るという根本では建築もポールも同じ。生かせることはある、と思いました」

 

製造研修を経験した後、技術開発部に配属。それから一貫して、トレッキングポールやウォーキングポールの開発に携わってきた古屋さん。
「ウォーキングポール一つとっても、シャフト、グリップ、ストラップ、石突きというようにさまざまな部品で構成されています。それらを一つひとつ材料から選定し、設計していくんです」

 

この工程は既存製品のグリップに新しい色を追加するというような改良でも、変わらないと古屋さんは言います。というのも色によって材料が変わることがあるからです。
「成形条件は材料によって異なります。だから色を追加するという改良でも、開発工程は変わりません」

 

ウォーキングポールの開発で大変なところは、「いろんな人が使うので、どこまでユーザーの意見を反映すれば良いのかの見極め」と古屋さんはいいます。
「若い人も年配の人も使います。手の大きい人、小さい人もいます。どこを基準にして設計すれば良いのか、その辺の判断が難しいところです。営業やモニターの意見を聞きながら、最良のポイントを探っていくことは、本当に大変。でもそうやって悩みながら作った製品を使っているお客さまを街で見かけたり、直接『これいいね』という声が届いたりすると『作って良かった』と心から思える。開発者冥利に尽きる瞬間です」

 

「仕事で使う知識のほとんどはOJTで身につけていくので、理工系の基本的な知識があれば十分活躍できる」と古屋さん。それよりも「いろんなものに興味を持つこと。そして自分から情報を求めていく姿勢が大事」と言います。
「例えば何かモノを見ても、『これはどうやって形にしたんだろう』『もっとこういうものがあれば便利になるのでは』と考えるようにするんです。それが発想やひらめきにつながると思うからです」

 

古屋さんにシナノという会社の文化や風土について聞いてみました。
「組織が小さいということもありますが、営業や製造、デザインなど部署の垣根もなくオープン。困ったことがあればすぐ相談できる環境です。ただ、人を支えるポールや杖を開発しているだけに、品質や安全・安心に対するこだわりは非常に頑固なものがあります。社員全員が一丸となって、ユーザーに対して高品質なモノを届けようとしている。そんな実直さもシナノらしさ。業務の幅は広く大変ですが、楽しいシゴトバですよ」

 

社員旅行で、社員間の交流を深める

シナノでは社員旅行を実施しています。写真は2012年の屋久島旅行での一コマ。
「屋久島では自社製品を使って、トレッキングをしました。自分たちで使うことで、ますます自社製品に愛着が湧きました」(古屋さん)
13年の社員旅行は台湾へ行ったそうです。
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シナノにまつわる3つの数字

スキーポールの専門メーカーとして設立され、そこで培ったポール技術を生かしてトレッキングポールやウォーキングポール、歩行杖などポール技術を活用したさまざまな製品を提供しているシナノ。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!

1. 95

2. 9650平方メートル

3. 4分の1

 

前回(Vol.104 株式会社テルミック) の解答はこちら

 

取材・文/中村仁美 撮影/平山諭

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