理系のシゴトバ

Vol.145 出光興産株式会社

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今回の訪問先 【出光興産 生産技術センター】
火力発電や家庭用暖房の熱源、自動車や飛行機、船などの動力源としてはもちろん、プラスチック製品や化学繊維の原料など、私たちの生活に欠かせない一次エネルギー、石油。油田から採掘された原油はガスや水分、異物など、さまざまな不純物が混ざっているため、熱源、動力源、原料として利用するには精製が必要です。1911年に創業した出光興産は、そんな石油精製(製造)はもちろん、原油調達から販売まで石油製品のバリューチェーン(原材料から最終顧客で消費される段階までにおける付加価値全体の流れ。価値連鎖)をカバーする一貫した事業を展開している石油の元売り会社です。現在、製油所を国内に3カ所(北海道、千葉、愛知)有するほか、2013年より、ベトナム北部の町、ニソンに製油所建設を進めています。実は日本の石油元売り会社が海外で製油所を建設するのは同社が初。この「ニソン製油所・石油化学コンプレックスプロジェクト」は、同社が目指す海外事業の象徴的な存在として位置づけられています。なぜなら同プロジェクトを共同で進めているベトナム、クウェートは産油国であり、このプロジェクトを通して両国との連携を深めることで、日本のエネルギーセキュリティ確保にも大きく貢献するからです。もちろん生産されたガソリンなどの石油製品は、ベトナム国内に優先的に供給されるので、ベトナム経済の発展にも貢献することが期待されています。また出光興産は石油だけではなく、石炭、ウランなどの多様なエネルギー資源の開発にも取り組んでいます。今回はそんな私たちの生活に欠かせないエネルギーの安定供給を行っている出光興産 生産技術センターのシゴトバを訪れました。

 

石油製造プロセスの改造案を検討し、性能最大化を図る

出光興産 生産技術センターがあるのは千葉市美浜区中瀬2丁目。最寄り駅のJR京葉線海浜幕張駅からは徒歩5分という好立地にあります。
海浜幕張駅は幕張新都心の玄関口で、周囲にはオフィスビルやホテル、ショッピングセンターなどが立ち並んでいます。また国際展示場「幕張メッセ」やQVCマリンフィールド(千葉マリンスタジアム)の最寄り駅としても有名です。
写真は生産技術センターが入っているワールドビジネスガーデンという複合ビルの外観です。同建築物は幕張新都心のランドマーク的存在で、2棟のオフィス棟(マリブイースト、マリブウエスト)とレストランモール、アネックス棟で構成されています。マリブイースト(写真右)の34階に生産技術センターのオフィスがありました。
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生産技術センターは、プロセス技術の総合テクノロジー・エンジニアリングセンターです。役割は大きく2つ。1つは製油所、工場、事業所が保有する各装置の安全・安定運転・性能最大化、省エネルギー化を図り、競争力強化に技術面で貢献すること。もう1つは社内各部門が計画する海外展開や新規事業への技術支援や設計検討支援です。同センターは出光興産の事業を支える、石油精製、石油化学プロセスの開発、設計~建設~運転・品質・保全にかかわる技術の専門家集団なのです。
この専門家集団のシゴトバを紹介してくれたのが、同センタープロセス技術室 国内事業技術2グループの黒澤有起さんです。写真はプロセス技術室の執務エリアです。黒澤さんは2人の子どもを持つ女性エンジニア。同部署には黒澤さん同様、結婚して子どもを育てながら活躍している女性エンジニアが、ほかにもいました。
「生産技術センターはプロセス技術室、エンジニアリング室、燃料油技術室、基盤技術室、プロジェクト室、管理課で構成されています。私の所属しているプロセス技術室は製油所や工場、事業所の安全・安定運転およびより効率化を図るための触媒の検討、装置や設備の切り替えなどを担当しています。もともとプロセス部隊は千葉製油所(千葉県市原市姉崎海岸)にあり、装置や設備、機械設計を担当しているエンジニアリング部隊は幕張地区に拠点がありました。でもこのように分かれていては、先の役割を効率的に担うことができません。そこでこの2つの部署を現在の場所に集約し、新たな組織として2014年10月に生まれ変わってできたのが、現在の生産技術センターです。生産技術センターは今日の仕事から明日の出光のために新しい技術を生み出すことを任されているのです」(黒澤さん)

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写真は千葉製油所の常圧蒸留装置(通称トッパー)。これで高温に熱した原油を大気圧より少し高い圧力で蒸留して、異なる沸点によって、ガソリン(ナフサ)、灯油、軽油、液化石油ガス(LPG)などの留分に分けられていきます。そして触媒を用いた化学反応により、各石油留分から、自動車の燃料やジェット機の燃料、ストーブになくてはならない灯油、トラックやバスの燃料となる軽油、ペットボトルの原料となるパラキシレン、各種容器や包装材に使われるポリプロピレンなどの製品が生み出されていくのです。
「原油には個性があります。密度の重い原油もあれば軽いもの、硫黄分が多いもの、少ないもの、各産地、油田によって個性さまざま。そのさまざまな原油をどのように処理すれば配管や触媒にダメージを与えることなく安全・安定運転できるかを検討し、提案していくのが私の役割です」(黒澤さん)
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「製油所にはトッパー以外にも、ナフサや軽油から硫黄分を低減する脱硫装置やガソリンの自己着火のしにくさを指すオクタン価を上げる装置(ハイオクガソリンを生み出す装置)など、さまざまな装置が設置されています。装置にはたくさんの触媒が使われており、短いものだと1年で交換しなければなりません。その場合、現在と比較してどのような触媒を入れるとより発揮できる能力を高めることができるのか、その確からしさを示す根拠を検討していき、提案資料にまとめます。したがって、私たちの仕事の多くはデスクでの検討作業となりますが、自分が改造やメンテナンスを担当した装置でトラブルがあったり、検討を進めていく中で現物確認が必要となるため、現地に出向き、連携を密にとって検討を進めています。新しい装置を立ち上げる場合は、長期で現地にとどまることも珍しくありません。現在、ベトナムに製油所を造るプロジェクトが進行しており、部署の中には、そこに出向いているメンバーもいます。海外で活躍できる機会も増えています」(黒澤さん)
写真は装置改造の検討を行っているところです。デスクでの検討作業が多いということは、いすに座っている時間も長いということ。生産技術センターは明日の出光のために、新しい技術の創成に貢献する技術者集団で、事業推進の要。そんな重要任務を任されている生産技術センターの技術者のいすは、長時間座っていても疲れない人間工学に基づいてデザインされた多機能な高級デスクチェアを採用しています。
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装置の改造や触媒の検討をする際には、関数電卓をよく使うそうです。
「パソコンの表計算ソフトを使ってももちろんできるのですが、関数電卓には関数電卓ならではの良さがあるんです。連続して計算できること、記録ができることが関数電卓を使うメリットだと思います」(黒澤さん)
プロセス技術室のメンバーは、皆さん関数電卓を持っているそうです。
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実際の装置を見ることなく検討ができるのには理由があります。生産技術センターのほとんどの技術者は、製油所で交替勤務を経験しているのです。
「私は2年間、愛知製油所で実際に装置の運用に携わっていました。この間に装置の基本や製油所の運営の仕方を理解していくのです。装置の運転をより効率的にするためとはいえ、プロセスを改善するということは、その装置に携わっている何人かの現場の人たちの業務が変わることになります。製油所がどういう組織で動いているか、また現場で働いている人たちの想いがわからなければ現場を混乱させることになるかもしれません。つまり現場を知っているからこそ、どこにいても検討業務ができるようになるのです」(黒澤さん)
写真は黒澤さんが愛知製油所で勤務していた時のひとコマです。
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第2子を出産し、2015年4月に育児休暇から復帰した黒澤さんは、現在短時間勤務で働いています。
「子どもが熱を出して、急に休んだり、早退したりしても、業務に支障が出ないよう、自分の仕事は見える化しています。とにかく周囲の人たちとコミュニケーションをとって、フォローしてもらいやすくなるように努めています」(黒澤さん)
写真はプロセス技術室のメンバーと、担当案件の進捗の報告など、ミーティングをしているところです。
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ハタラクヒト 人を育てて行く風土が浸透した、風通しの良いシゴトバ

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引き続き黒澤さんに「出光興産 生産技術センター」というシゴトバの魅力、やりがい、職場の雰囲気などについてうかがいました。
黒澤さんは大阪大学大学院理学研究科化学専攻前期課程を修了し、06年に出光興産に入社しました。

「社会貢献につながる業界・業種に就きたいと思っていました。エネルギー分野は今後、ますます重要になる上、技術開発によって社会貢献もできます。しかし当時のエネルギー系の会社では、女性だと最初はセールスエンジニアからと言われることが多かったんです。そこで女性でも理系職で活躍ができそうな出光興産を選びました」

 

入社後2年間、愛知製油所で交替勤務を経験したのち、現在の仕事に従事。

「やりがいを一番感じる瞬間は、改造が反映されたときです。例えば触媒の変更ひとつとっても、その結果が装置に反映されるのは半年から1年後となります。というのも変更は製油所にとってリスクを伴うからです。製油所は24時間365日止まることはありません。しかも安全・安定運転が求められます。結果が装置に反映されたということは、それだけの重要な任務を達成できたということ。非常に大きな喜びに包まれます」

 

もちろん、いいと信じたものが、検討の詰めが悪く、思ってもみなかった装置トラブルにつながったこともあるそうです。

「そんなことが起こると現場はあっという間に混乱します。私も胃が痛くなりました。人間が検討することなので、完璧はあり得ませんが、とにかく提案内容の確からしさを証明するため、さまざまな角度から幾重にも裏づけしていくことに努めています。また装置の癖を知ることも重要なんです。例えば同じ機能の装置でも、それぞれの製油所によって特徴が異なります。とはいえ、稼働していると装置の中が見えないため、容易にわかりません。そこで数年ごとに行われる定期修理の際に、装置を見に行くんです。定期修理の時は装置が止まるので、中が見えますからね。育休から復帰したら、装置の特徴が変わっていたことがありました。私は子どももいるため、今はなかなか現地には行けません。それを補うためにも、メンバーや現地の担当者とコミュニケーションして情報を仕入れておくことを大事にしています」

 

生産技術センターのメンバーは、プロセス技術だけではなく、装置や施設の設計を行っているエンジニアリング室もあるため、化学、化学工学、電気、機械、物理、安全工学などさまざまな専攻の出身者がいるそうです。

「専門知識は入社してから十分、身につけられます。それよりも大事になるのは、論理的思考力を中心とした知的能力、つまりストーリーを組み立てられること、そしてそれを確実に伝えられる能力です」

 

最後に出光興産 生産技術センターというシゴトバの文化・風土について聞いてみました。

「理系のシゴトバというと、パソコンの音だけがカタカタと聞こえるという静かな印象があるかもしれません。そういう時期もありますが、私たちのシゴトは比較的電話もよく鳴りますし、グループを超えたコミュニケーションもあちこちで行われています。当社には新入社員が独り立ちするまで先輩社員がマンツーマンで指導するブラザー制度があり、気軽に先輩に相談する雰囲気が整っています。ベテランの先輩に聞くには勇気がいるかもしれませんが、勇気さえ出せば、みんな優しく答えてくれます。人を育てていこうという文化がちゃんと浸透しているんです。風通しも良いですし、働きやすいですよ」

 

窓から千葉製油所が見える、見晴らしの良さも自慢

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休憩室です。休憩コーナー(テーブルといす、飲み物の自動販売機や無料給茶機、テレビ、簡易ベッド)とロッカーコーナーに分かれています。
「この周辺は飲食店やコンビニなどもたくさんあるため、ランチに困ることはありません。お弁当を買ってきてここで食べる人もいます。また終業後に有志でちょっとしたイベントを開くこともあります。例えば15年の秋にはボジョレーヌーボー飲み比べの会などが開催されるなど、日ごろより社員懇親の場として利用されています」(管理課 山本まゆみさん)

 

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33階にある会議室の窓からの景色です。写真ではなかなかわかりづらいですが、写真左端(海と空の間)の小さな白い建物が千葉製油所です。

 

出光興産にまつわる3つの数字

原油調達、製造から販売までを一貫して提供している石油の元売り会社、出光興産。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!

1. 159リットル

2. 100パーセント

3. 360度

 

前回(Vol.144 株式会社ソディック)の解答はこちら

 

取材・文/中村仁美 撮影/臼田尚史

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