理系のシゴトバ

Vol.147 ポーラ化成工業株式会社

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今回の訪問先 【ポーラ化成工業 横浜研究所】
いつまでも若々しく、イキイキと輝いていたい──。誰もが抱くこの願いをかなえるために、さまざまな業種・業界の企業が取り組んでいます。化粧品メーカーもその一つ。国内に複数社ある化粧品メーカーの中でも、特にスキンケアとベースメークに注力して商品展開をしていると自負しているのが、ポーラ・オルビスグループです。ポーラ・オルビスグループの主力事業であるビューティケア事業では、現在、ポーラ、オルビスという主力ブランドをはじめ、Julique、H2O PLUS、ORLANEという海外ブランドなど9種類の化粧品ブランドを展開しています。そんなポーラ・オルビスグループで唯一、化粧品の研究開発および生産を担っているのが、ポーラ化成工業です。ポーラ化成工業の創業は1929年。鈴木忍氏が手の荒れた妻のために独学でつくったクリームが、化粧品事業の始まりです。鈴木氏はそのクリームを自転車に載せて自らお客さま先に出向き、一人ひとりに説明して必要な量を量り売りするという方法で販売。同氏の「最上のモノを提供したい思いおよびお客さまニーズに応えた販売方法」からお客さまの信頼を獲得し、事業を拡大、成長させてきました。そんな創業者の思いは今も受け継がれており、企業理念「わたしたちはお客さまが喜び感動する新しい価値の創造を通じて世界中に笑顔をもたらす技術集団であり続けます」にも表れています。今回は世界中の人々に笑顔と感動を届けるため、最高の製品づくりにまい進しているポーラ化成工業 横浜研究所のシゴトバを訪問しました。

 

ヒトの見た目年齢に関する研究で新しい老化兆候を見つける

ポーラ化成工業 本社・横浜研究所は横浜市戸塚区にあります。最寄り駅はJR戸塚駅。そこから路線バスに10分ほど乗ると、ポーラ前というバス停に着きます。

戸塚駅までは東京駅からJR東海道線で36分。横浜駅からは約10分の距離にあります。本社・横浜研究所は国道1号線(東海道)に面しており、車でもアクセスしやすい場所にあります。社員の方は多くがバスに乗ったりしていますが、車やバイク、自転車で通勤している人もいるそうです。

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横浜研究所のシゴトバを研究員の黒住元紀(くろすみもとのり)さんが紹介してくれました。

「ポーラ化成工業は、ポーラ・オルビスグループの商品開発と生産を担っている会社です。化粧品メーカーの研究所というと、化粧品の中身を作る処方設計をイメージするかもしれませんが、この横浜研究所では化粧品に関する幅広い研究開発が行われています。アンチエイジングや美白の基盤研究として、シミやしわ、たるみなどの発生メカニズムを解明する研究や、それらに対する有効成分の探索研究。より良い感触や化粧機能を達成するためのスキンケアやメークアップの処方研究。お客さまが使用する際の安全性、安定性などの品質研究。さらには化粧品容器などの包材の研究・開発も行っています」(黒住さん)

ポーラ化成工業の研究成果は、国内外の学会で高く評価されています。それだけの研究技術力の背景にあるのが、肌に関するデータを大量に蓄積していること。

「APEX(アペックス)というブランドでは、その人に合ったスキンケア、メークアップ商品をカウンセリングして提供するため、スキンチェックを行っているんです。そのデータが毎日、2000~3000件も蓄積されていきます。スキンチェックにおいては、肌カメラで肌のキメや毛穴、肌色を調べたり、テープストリッピング(粘着テープを皮膚表層に貼り付け、剥がして試料を採取する方法)による角層診断で、角層(皮膚の最外層)の成熟度や規則正しく細胞が整列しているかなどをチェックします」(黒住さん)

写真は採取した角層を染色し、電子顕微鏡でのぞいて肌の状態を確認しているところです。

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アンチエイジング分野を中心に細胞レベルの研究や遺伝子発現解析を行い、肌にダメージを与える要因について調べることも行っています。

「例えば抗老化(老化を防止すること。アンチエイジング)素材の有効成分の探索など、新しいコンセプトの商品開発を行う際に、細胞や遺伝子レベルでの実験は欠かせません。以前、私が携わった新しいサンスクリーン剤(日焼け止め)の開発では、ヒト真皮線維芽細胞(表皮の下の真皮にあるコラーゲンやヒアルロン酸などの成分を作り出す細胞)を使って日常浴びうる近赤外線がどの程度皮膚に影響を及ぼすのか、またその光老化(ひかりろうか:光による老化)作用をきたすメカニズムとはどのようなものかなどについて調べました。実は紫外線だけではなく、近赤外線も光老化作用を示すという報告があったからです。そして実際に研究を行ったところ、真皮細胞において重要な生体成分であるバーシカン(肌誕生因子の一つである糖タンパク)の産生を減少させることがわかりました。そこで近赤外線の防御素材を探索し、化粧品にふさわしい近赤外線をカットする製剤を開発しました」(黒住さん)

写真は遺伝子解析装置にかけるサンプルを準備しているところです。

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写真は黒住さんが開発した近赤外線防御機能が含まれたサンケアクリーム「B.A ザ プロテクターS」です。2014年に発売されました。ユーザーの評価も良く、さまざまな女性誌でベストコスメ賞(UVケア部門)を受賞しました。
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黒住さんが現在、取り組んでいるのは、ヒトの見た目年齢に関する研究です。

これまでヒトの見た目の年齢印象に関する研究では、多くは正面から見た真顔の画像を用いていました。一方、実生活では正面や真顔だけではなく、会話時など表情を含めた動いている顔をさまざまな方向から見ています。つまり私たちはそんな顔や皮膚の動き、観察角度により感じられる皮膚の状態などのさまざまな情報を総合して、年齢印象を判断しているのです。そこで私のチームでは顔の向きや顔の皮膚の動きが見た目年齢にどう影響を及ぼすのか、より老けて見える顔の向きや表情とはどのようなものかという新しい老化兆候(老徴)を探索する研究に従事しています。このような研究はすべて次世代の商品につなげるため。いずれは現在の研究により見つかった老徴の原因となる皮膚の物性やメカニズムなどを明らかにし、それを防止するのに有効な成分の探索、最終的には商品開発へとつなげていくのです」(黒住さん)

三次元顔画像撮影装置を使って、被験者の顔を撮影しているところです。

「この装置には6つのカメラがついており、被験者の顔の3Dの情報を取得します。老けて見える顔の向きや角度を調べるんです。これまで一般の女性300人に被験者として参加してもらいました」(黒住さん)

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ヒトは見た目年齢をどこで判断するか、それを明らかにするために視線解析も行います。

「被験者に『この方は何歳ぐらいに見えますか』と問いかけ、人の顔の画像を見せるんです。そのときの視線の動きを表したのが、この画面です。赤いところはよく見られている部分です。人は個人を特定する際、目や鼻や口を見るのですが、年齢判断をする際は、ほほにも視線が集まることがわかりました。『見た目年齢を左右するのは顔の向きや皮膚の動きである』という研究結果は、15年11月27日に開催された第77回日本化粧品技術者会(SCCJ)研究討論会で発表し、最優秀発表賞を受賞しました」(黒住さん)

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写真は第77回SCCJ研究討論会で発表した時の様子です。

「月1回は学会などに参加しています。化粧品関係の学会だけではなく、皮膚科学や生理学、薬学、解剖学、心理学など、さまざまな学会にも積極的に参加し、情報を収集しています。さまざまな研究や研究者たちに触れることで、新たなアイデアや発想が生まれたりするからです。研究者だからといってずっと実験ばかりをしているわけではありません」(黒住さん)

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現在、黒住さんが従事している「ヒトの見た目年齢に関する研究」は、生物学、計測学、心理学などの分野を複合した学際的なアプローチが必要になるため、それらの知識にたけたメンバーとのディスカッションは欠かせません。

「見た目年齢の研究は、本当に幅広い知識が求められる分野です。近年は、三次元データや動画を解析できる環境になりました。こういった領域の研究は、これまでほとんど化粧品メーカーでは取り組まれていませんでした。そんな新しい分野だけに、いろいろなアプローチが必要になります。メンバーから意見をもらうことはすごく重要なことです」(黒住さん)

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ハタラクヒト 一番のやりがいは研究結果が商品につながり、お客さまに喜んでもらえること

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引き続き黒住さんに「ポーラ化成工業 横浜研究所」というシゴトバの魅力、やりがい、職場の雰囲気などについてうかがいました。

 

黒住さんは2012年に岡山大学大学院医歯薬学総合研究科を修了し、ポーラ化成工業に入社しました。

「学生時代の専門は薬学で、アルツハイマー病などを制御するタンパク質に作用する化合物を創る研究に従事していました。化粧品業界を就職先に選んだのは、大学院時代の知識が生かせる分野であり、お客さま自身が自ら選ぶことができる商品であること。そしてお客さま自身が鏡を見ることで、その効果を日常的に実感できる商品だったからです。そういった日常的にお客さまが喜びを感じられるモノを研究対象にしたいと思いました」

 

数ある化粧品メーカーの中でもポーラ化成工業を選んだ理由について、「第一に『世界中の人々に笑顔と感動をお届けする』というグループ理念に共感したこと。第二は1つの専門にとらわれることなく、さまざまな分野にチャレンジさせてくれる風土があると感じたことです。実際に社員の人たちにお会いして、皆さんがイキイキと働いている姿を目にしました。そして、会社としても常に変化・進化しており、ここに入れば成長できるという期待が持てました」と語ります。

 

入社後、横浜研究所に配属された黒住さんは、抗老化素材の有効成分の探索や新しい日焼け止め剤の開発を経て、現在はヒトの見た目年齢に関する研究に携わっています。

「やりがいを最も感じる瞬間は、自分の研究結果が商品に応用され、市場に出た時ですね。お客さまの喜びの声などが届くと、人の役に立ったと実感できるからです。近赤外線をカットする製剤を含んだ『B.A ザ プロテクターS』が発売された時は、本当にうれしかったです。今の研究は商品化につながるにはまだ時間がかかります。しかし、化粧品業界ではこれまであまり注目してこなかった分野なので、日々新しい発見がある。そういった分野にチャレンジできることが楽しいんです。もちろんこれまで培ってきた生物学や化学的な知識以外に、心理学や計測学、情報処理技術、解析技術などさまざまな知識が求められるので、苦労することも山のようにありますが、それさえも面白いと感じられる。毎日が充実しています」

 

黒住さんが携わっている新たな研究をはじめ、横浜研究所ではスキンケアやメークアップ化粧品、さらには包材などさまざまな研究開発が行われているため、研究員の専門分野も多岐にわたるそうです。

「多いのは生物系や化学系の人たちですが、物理学や工学の出身者もいます。いろんな専門性を持ったメンバーで構成されています。研究員のうち半数は女性というように、女性比率も高くなごやかな雰囲気です。また若手の育成に力を入れており、『やりたい』と言えば任せてくれる風土もあります。仕事がしやすい、居心地の良いシゴトバです」

 

自由に発想する場「イノべるーむ」、気分転換の場「社員食堂」「フットサルコート」

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「イノべるーむ」です。これまでの考えにとらわれることなく、新しい発想を促すための部屋として16年1月に設置されました。

「イノべるとは『イノベーション』と『述べる』を組み合わせた造語です。若手の有志でこの部屋に集まり、化粧品にとらわれることなく新しいモノを生み出す『イノべる』活動を、実施しています。私も業務時間の5~10パーセントを、このイノべる活動に費やしています」(黒住さん)

 

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社員食堂のある日のランチメニューです。

「Aランチは200円、Bランチでも240円という安さ。もちろん味も大満足。ヘルシーメニューは、1食につき20円がアフリカの子どもたちの学校給食費として寄付される『TABLE FOR TWO(TFT)』活動なんです。食べるだけで社会貢献もでき、おなかだけでなく心も満たされます」(黒住さん)

 

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ポーラ化成工業の昼休みは45分。「そのうち30分はフットサルに費やしています」と黒住さん。

「食堂でランチを食べ、すぐに着替えてフットサルで汗を流しています。市のリーグ戦やコスメ業界のリーグ戦(コスメリーグ)などの公式戦にも参加しているので、昼休みの少ない時間も真剣に練習しています。メンバーも大所帯で30人ぐらいいます」(黒住さん)

 

ポーラ化成工業にまつわる3つの数字

創業以来、ポーラ・オルビスグループで唯一、化粧品の研究開発および生産を行っているポーラ化成工業。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!

1. 1600万件

2. 10人

3. 7回
前回(Vol.146 伊藤超短波株式会社)の解答はこちら

 

取材・文/中村仁美 撮影/清田征剛

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