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理系のシゴトバ

Vol.149 株式会社ユーグレナ

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今回の訪問先 【ユーグレナ社 中央研究所 研究開発部】
「ミドリムシ(学名:ユーグレナ)」がどんな形をしていたか思い出せないとしても、「中学校の理科の時間に習った」ことは覚えているのではないでしょうか。「ミドリムシ」は5億年以上も前から生息していたにもかかわらず、1660年代にオランダの科学者によって発見されるまで、その存在が明らかになっていませんでした。そして「ユーグレナ(ラテン語で、美しい眼)」と名付けられたのです。ミドリムシという名前から「ムシ」の仲間というイメージを持たれることもありますが、ユーグレナ藻網に分類されていて、昆布やワカメと同じ藻の仲間です。ミドリムシの最大の特徴は、藻(植物)でありながら、鞭毛(べんもう・毛状の細胞小器官。これで遊泳する推進力を生み出す)運動するという動物的性質を持っていること。この特徴により、ミドリムシはビタミンやミネラル、アミノ酸、不飽和脂肪酸などの豊富な栄養素を備えているのです。これを応用することで、世界の栄養問題を解決できると考え、ミドリムシを屋外で大量に安定的に培養する技術に着手し、2005年に東京大学発のバイオテクノロジー企業として創業したのがユーグレナ社です。現在、同社ではミドリムシを原料として、食品や化粧品はもちろん、飼料、バイオ燃料などにも活用する段階へと入っています。今回はミドリムシを私たちの生活に浸透させるべく、研究開発に取り組んでいるユーグレナ社研究開発部のシゴトバである中央研究所を訪れました。

 

ミドリムシを大量培養するための研究開発

ユーグレナ社中央研究所は、神奈川県横浜市鶴見区末広地区にある横浜新技術創造館リーディングベンチャープラザ1号館内にあります。リーディングベンチャープラザは新技術開発や新事業展開を目指す中小企業、ベンチャー企業などの事業拠点として活用されている建物で、公益社団法人横浜企業経営支援財団によって運営されています。周囲には同法人が手がける横浜市産学協同研究センターがあるなど、横浜市が京浜臨海部開発拠点(横浜サイエンスフロンティア)として整備を進めているエリアで、新たな技術や事業の創出を目指す企業や大学などの研究機関が集積しています。
最寄り駅はJR鶴見線鶴見小野駅。5分ほど歩くと、リーディングベンチャープラザの入り口に着きます。
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シゴトバである中央研究所を研究開発部バイオ燃料開発課の鈴木秀幸さんが紹介してくれました。
「私たちが取り組んでいる研究内容を説明する前に、なぜ、私たちがミドリムシに着目しているかお話しします。ミドリムシの最大の魅力は、動物と植物の双方の性質を有しており、栄養素が豊富に含まれていることです。そのため、従来から多くの研究者が大量培養をする研究に取り組んできました。ですが、ミドリムシは自然環境下の食物連鎖において一番下に位置する微生物。培養している部屋にたった1匹のほかの生物が入り込むだけでも、ミドリムシは食べ尽くされてしまう可能性があるのです。それほど大量培養の実現は非常に困難なことでした。そんな中、弊社はミドリムシだけが繁殖する培地の開発に成功し、2005年12月に世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功しました。その技術が確立したことで、現在、ミドリムシを新しい素材として食品や化粧品、燃料、飼料などへ商品展開しています。私たち研究開発部で行っているのは基礎研究。つまりそれらの商品の素材となるミドリムシの生産プロセスの効率化やミドリムシ自体の能力向上につなげる品種改良などにかかわる研究をメインに行っています」(鈴木さん)
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写真がミドリムシです(顕微鏡写真)。体長はわずか約0.05ミリメートル。肉眼では見ることができません。
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ユーグレナ社ではミドリムシを活用した食品や化粧品を生産、提供しています。写真はその一例です。
「最もご愛飲いただいているのは『ユーグレナ・ファームの緑汁』です。弊社は沖縄県石垣島に生産拠点を有しています。『ユーグレナ・ファームの緑汁』はここで生産された石垣産ユーグレナ粉末と有機栽培の大麦若葉や明日葉を合わせた水で溶かすタイプのドリンクです。このほかにも、ユーグレナから抽出したエキスを活用したエイジングケアのスキンケアシリーズ『B.C.A.D(ビー・シー・エー・ディー)』などもあります」(経営戦略部 広報IR課 椋木(むくのき)直人さん)
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鈴木さんが現在、担当しているのはミドリムシの品種改良です。写真は研究室に設置されているインキュベータ(温度を一定に保つ装置)から培養しているミドリムシを取り出しているところです。
「ミドリムシは池や湖、川などはもちろん、ちょっとした水たまりの中など、水がある場所ならどこでも生息している非常に身近な生物です。そのため種類も100を超えており、それぞれに異なった特徴があります。例えば海水でも生息できる種もあれば、酸性の環境下でも生息できる種、さらには育ちが早くて生産量の多い種など多種多様です。燃料用のミドリムシであれば、生産性の高さに加えて体内に油脂をためる性質が高くなければなりません。目的とする商品によってミドリムシの種を選定していくことはもちろんですが、その候補となる種にさらに遺伝子組み換えを行ったりして新たな品種を生み出して培養し、従来のミドリムシと性能比較するために、増殖試験を行います」(鈴木さん)
ちなみに品種改良に遺伝子組み換え技術を用いるのは、燃料用のミドリムシに対してのみだそうです。
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ミドリムシがどれだけ増殖したか、顕微鏡で確かめるための準備をしているところです。ほかの生物が入らないよう、クリーンベンチ内でマイクロピペットを使って試験管に取り分けます。
「培養がうまく行われているか、毎日顕微鏡で確認します。ミドリムシの動きが活発だと安心しますし、動きが鈍いと『培養がうまくいっていないのでは』と、その原因を考えたりします」(鈴木さん)
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顕微鏡でミドリムシの状態を確かめているところです。
「培養がうまく進んでいることは、見た目の色が濃くなることでもわかりますが、実際にきちんとミドリムシの数を数えて確認します。従来はカウンター(手持ち数取器。日本野鳥の会でよく使われている)を用いて数えていましたが、今は自動でカウントしてくれる装置もあり、計測も楽になりました」(鈴木さん)
顕微鏡横の画面に映っているミドリムシは約100倍に拡大したもの。
「一般的に10マイクロリットル(1ミリリットルの100分の1)に約1万~10万匹のミドリムシが生息しています。数字だけを聞くと、すごく多く感じるかもしれませんが、食品や燃料に活用するには、非常に大量のミドリムシが必要になります。例えば食品に応用するにはミドリムシを粉末にしますが、1グラムの粉末には約10億匹のミドリムシが必要です。また私たちは将来的にミドリムシをバスやジェット機の燃料の原料として実用化することを視野に入れているのですが、その場合はさらに大量のミドリムシが必要になります。より生産性の高いミドリムシをつくるため、品種改良は欠かせません」(鈴木さん)
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沖縄県石垣島にあるミドリムシの生産工場です。
「工場では1年間に最大で60トンの食品用のミドリムシ粉末を生産しています。この工場の隣には生産技術研究所(写真)があり、生産工程の効率化や品質の安定化を実現するため、10人の研究開発部のメンバーが生産現場と密接に連携しながら研究に従事しています」(鈴木さん)
現在、生産拠点は石垣島のみですが、燃料や飼料などに利用するには、さらに大規模な生産工場が必要となります。15年5月、ユーグレナ社ではミドリムシを培養する場所としての可能性を探る新たな実証実験がスタートすることが決まりました。国土交通省が実施する「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」に、ユーグレナ社が佐賀市下水浄化センターなどと共同で提案した「バイオガス中のCO₂分離・回収と微細藻類培養への利用実証事業」が採択されたのです。
「下水処理の過程で発生するCO₂、および汚泥に含まれるリンや窒素などを培地として活用してミドリムシを培養するんです。16年4月より現地に赴き、研究に従事します」(鈴木さん)
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ハタラクヒト 世間の注目を集める分野で責任のある大きな仕事に携われることがやりがい

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引き続き鈴木さんに「ユーグレナ社中央研究所」というシゴトバの魅力、やりがい、職場の雰囲気などについてうかがいました。
鈴木さんは東京大学大学院理学系研究科科学専攻修了後、東京大学大学院総合文化研究科で博士研究員(ポスドク)として、ガンなどの疾患に関する基礎研究に従事していました。
「ポスドクとしての契約期間は5年間です。4年半たった時にこのまま大学に残るかどうかを考えたんです。その時あらためて自分のやりたいことは何だったのかと振り返りました。大学に進学する時、タイやヒラメのクローン制作に成功したというニュースを聞いたことがきっかけで『誰もが安くておいしいモノが手に入り幸せになるよう、食の問題を解決したい』と思い、東京農工大学 工学部 生命工学科に進んで、遺伝子工学を専攻していたのです。ポスドク時代に従事していた研究ももちろん大事なテーマですが、食の問題を解決することからは少し遠い。そこで初心に戻って、本来やりたかった食に関する問題を解決することに取り組んでいる会社はないか、探すことにしました」

 

そんなある日、鈴木さんは東京大学駒場キャンパス近くにあるラーメン屋さんで、「みどりラーメン」というミドリムシを使ったラーメンを食べたそうです。そこでユーグレナ社を知り、調べてみるとちょうどバイオ燃料開発の研究員を募集中。迷わず就職を決めました。13年10月に入社し、現在に至っています。
「今、ミドリムシには社会的関心度が高まっていると思います。そのような中この分野に携わっていることもやりがいにつながっていますが、なんといっても任される仕事の範囲が非常に大きいことが仕事の魅力です。今は国土交通省のプロジェクトに携わっていますが、そういう大きな仕事にチャレンジできることはやりがいにつながります。今回は下水を使うミドリムシの培養になりますが、これが実現すればエネルギー問題という大きな社会課題の解決に貢献することができます。そういうことに携われることが、研究者にとってうれしいことなんです」

 

研究開発部ではミドリムシの培養に携わっていますが、「私も含め、学生時代にミドリムシや藻類の研究に携わっていなかった人もたくさんいます」と鈴木さんは言います。学生時代の専門で多いのは生物系の出身者。中でも農学部などで微生物の研究をしていた人が多いそうです。鈴木さんのように遺伝子工学に携わってきた人ももちろんいます。
「生物に関する知識は必要ですが、私たちは大量にミドリムシを作らなければなりません。そのような生産プロセスも考える上で欠かせないのが、エンジニアリングの知識。具体的に言うと物理や化学の知識です。そのほかには統計学の知識。そして意外に重要なのは表計算ソフトが使えること。分析には表計算ソフトが欠かせませんからね」

 

最後にユーグレナ社という会社の文化・風土についてたずねました。
「研究開発部にはとにかくミドリムシが大好きな人たちが集まっています。私も一日中、顕微鏡でミドリムシを見ていても飽きることはありませんからね(笑)。日ごろは非常にアットホームな雰囲気なのですが、みんな自分の研究にプライドを持っているため、ひとたび、研究の話になると熱い議論が交わされます。ミドリムシが好きな人にとっては、本当に楽しくて働き心地の良いシゴトバです」

 

本社もミドリムシをイメージできる空間

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ユーグレナ本社(東京都港区芝)のエントランスです。
「部長との会議や総務や経理に用事があるときはよく本社に行きます」(鈴木さん)
会社ロゴの右にあるフラスコは飾りではなく、実際にそこでもミドリムシが培養されています。

 

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エントランスからオフィスへと続く自動ドアには、「another future」の文字が記されています。これは「another future. -ミドリムシが地球を救う-」という同社のスローガンです。オフィスに入るということは、ミドリムシの力で未来を明るいモノへと変えるために日々、研究に取り組むということ。それを常に意識するためにこのような作りにしたそうです。
ちなみに緑の円の先に見えるのは、フリースペースで、打ち合わせをしたり、一人で考え事をしたり、お昼にはランチを食べたりするなど、自由に使えるようになっているそうです。この部分のカーペットは緑となっており、スペースの形もミドリムシ型となっているとのことでした。

 

追加photo

ユーグレナ社には10箇条からなる行動指針「ユーグリズム」があり、それを記したポケットサイズの冊子を全メンバーに配付し携帯することを推奨しているそうです。ユーグリズムは15年の春に開催された全社会議(全メンバーが出席)のグループワークで出た意見を生かして作成されたそうです。そして同社では半期に1回、このユーグリズムを体現している人やチームをアンケートで選び表彰することを行っています。
「私は第1回目に選ばれました。弊社全メンバーへのアンケートで選ばれたのですごくうれしかったですね。役員に食事に連れて行ってもらえる特典もありました」(鈴木さん)
また半期に一回、最も会社に貢献した人をMVPとして表彰する制度もあります。
「MVPの受賞者には特典として、バングラデシュへの研修旅行に招待されます。バングラデシュは『ユーグレナGENKIプログラム(※)』などの拠点もありますが、『世界の食料問題を解決したい』という弊社創業の思いを抱いたきっかけの地でもあります。MVP受賞者にはバングラデシュを肌で実感してもらう機会が設けられています」(椋木さん)

※バングラデシュの現地NGOなどと協力し、小学校に通う子どもたちにミドリムシ入りのクッキーを配布し、定期的な健康診断を行いながら栄養改善を目指すというプログラム。

 

ユーグレナ社にまつわる3つの数字

世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功し、ミドリムシを素材に食品や化粧品、バイオ燃料などに活用、提供しているユーグレナ社。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!

1. 59種類

2. 16億円

3. 2020年
前回(Vol.148 株式会社東京アールアンドデー)の解答はこちら

 

取材・文/中村仁美  撮影/飯島隆

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