理系のシゴトバ

Vol.155 株式会社マーレフィルターシステムズ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
今回の訪問先 【マーレフィルターシステムズ テクニカルセンター 潤滑・燃料系システム設計&先行開発グループ】
マーレは1920年にドイツ・シュツットガルトで設立された自動車部品のグローバルメーカーです。自動車業界で求められている排出ガスのクリーン化、燃費効率の向上、運転の快適さというテーマに注力し、革新的なソリューションを提供しています。数ある中でも、特に得意としているのがエンジン用ピストン。マーレはピストンメーカーとしては世界のトップクラスのシェアを占めています。グローバルで積極的な事業展開を行っているマーレは、自動車産業の主要マーケットである日本にも現地法人を構えて、高品質な製品提供を行っています。マーレフィルターシステムズは日本法人の1社で、輸送機器のオイルフィルタ(エンジンオイルから異物を取り除くためのフィルタ)やオイルポンプ、オイルクーラー(エンジンやトランスミッション潤滑油の温度を安定化させる装置)などのオイルマネジメント製品の開発、提供を行っています。マーレフィルターシステムズの創業は1912年。第2次世界大戦後の45年に土屋製作所株式会社を設立し、以来日産自動車系列の部品メーカーとしてカーボンキャニスター(燃料蒸発ガス放出を防止する装置)やエアクリーナなどを提供してきました。2001年に日産自動車が保有する株式を独マーレに譲渡。05年に現在の社名に変更するとともに、マーレジャパンの100パーセント子会社となりました。今回はマーレグループの日本における研究開発拠点の一つ、埼玉県川越市にあるテクニカルセンターを訪ねました。

 

オイルフィルタやオイルクーラーなどの燃料系部品を開発する

マーレグループでは研究開発に力を入れており、売り上げの点で重要な市場に15カ所のテクニカルセンターを設置しています。その所在地は、独シュツットガルト(バートカンシュタット、フォイアバッハ)、英ノーサンプトン、ルクセンブルク・バシャラージュ、米デトロイト(ファーミントンヒルズ、トロイ)、米ロックポート、米アムハースト、ブラジル・ジュンディアイ、インド・プネー、中国・上海、そして日本は埼玉県(川越市と桶川市)、静岡県沼津市です。川越市にあるのがマーレフィルターシステムズのテクニカルセンターで、オイルフィルタやオイルクーラーなど、エアや燃料、オイルマネジメントの研究開発を行っています。この拠点は同グループの中でフィルター&エンジンペリフェラルズ(エンジンの周辺機器)事業の最重要拠点として位置づけられています。
今回訪れたマーレフィルターシステムズ テクニカルセンターは埼玉県川越市の郊外にあります。同じ敷地内にはテクニカルセンターで設計・開発された製品を製造する埼玉工場もあり、この川越の拠点だけで390人の社員が働いています(全拠点における総社員数は723人)。そのうち約170人がテクニカルセンターで設計(約100人)および実験・解析(約70人)という研究開発業務に従事しています。最寄り駅は東武東上線の上福岡駅。そこから社用バスが出ていますが、車の部品メーカーだけに、ほとんどの社員は自家用車で通勤しているそうです。
ph_rikei_vol155_01

 

テクニカルセンターのシゴトバを潤滑・燃料系システム設計&先行開発グループの小柴裕貴さんが案内してくれました。

「私が所属する潤滑・燃料系システム設計&先行開発グループは、オイルフィルタやオイルクーラーなどの熱交換・冷却システムの設計および先行開発を行っています。グループに所属する大半の人たちは、お客さまが求める要件を満たすよう、その基準となるオイルフィルタやオイルクーラーなどをカスタマイズ設計するプロジェクトチームに所属しています。私はグループの中でも5~8人のチームで編成された、一歩先のオイルクーラーやオイルフィルタなどを開発する先行開発チームに所属しています」(小柴さん)
写真は潤滑・燃料系システム設計&先行開発グループの執務エリアです。
ph_rikei_vol155_02

 

写真は小柴さんたちが開発しているオイルフィルタ(写真左)とオイルクーラー(写真中・右)です。
「真ん中と右はいずれもオイルクーラーです。形状が違うのは、搭載される車の大きさの違いです。真ん中にある小ぶりですが高さがあるものが、軽自動車など小型車向けのオイルクーラーです。大きさは10センチメートル弱。小型車の場合、エンジンルームのスペースが小さいので、やはり小型にしなければスペースに収まらないからです。右側は普通車に搭載されるオイルクーラーです。ホースの取り付け場所や車に組み付ける際に必要となるネジ穴の位置などは、自動車メーカーのオーダーによって変わるため、その車専用に設計します」(小柴さん)
ph_rikei_vol155_03

 

「先行開発ではまず、どんな形状にするのかというアイデアを出すところから始まります。そして開発コンセプトを決め、熱量や強度などの詳細な設計を行います。試作品を作るため3次元CADで図面を描き、必要な部品を発注して試作します。試作品ができれば、設計した通りの性能を有しているか試験を行います。そこで達成していれば完了ですが、試作が1回で終わることはほぼありません。この一連の流れを何度も繰り返し、数年先の車に搭載される部品を開発していきます」(小柴さん)
写真は熱量などの計算式をまとめた資料を参考に、新しいオイルフィルタを設計開発しているところ。写真右下の銀色の箱状のものが、オイルクーラーです。先行開発では、将来、スポーツカーや普通車など、さまざまな車に搭載されるベースとなるものを開発します。つまりスポーツカー向けのオイルクーラーであれば、すごく冷えるものが求められますが、普通車向けには燃費が良いものが求められます。そのいずれにも対応できるようなものを設計開発していくのです。
「私たちが所属する先行開発チームでは、当グループで扱っているすべての製品の先行品の開発を担当します。したがって私が現在、抱えているプロジェクトは5件。それぞれプロジェクトの進行度合いが違うので、企画段階のものもあれば、すでに試作段階に進んでいるものもあります。やることがバラバラなので大変ですが、やりがいも大きいですね」(小柴さん)
ph_rikei_vol155_04

 

テクニカルセンターにはさまざまな実験装置があります。写真中央の銀色のチャンバー(小さな室)で囲まれているのが、オイルクーラー大型試験機です。
「これはトラックなどの大型自動車に搭載されるオイルクーラーの冷却性能試験を行うための装置です。試作ができたら試験機で性能を測定し、評価します」(小柴さん)
テクニカルセンターには実験や解析を専門に行っているグループがあり、このような装置を使った試験を行うときは、専門の担当者にお願いするそうです。
「長時間かかる試験などは立ち会うことはありませんが、短時間で終わるものやどうしても気になる箇所の性能を調べる試験などでは、立ち会うことも多いですね」(小柴さん)
ph_rikei_vol155_05

 

写真は材料分析室にある金属顕微鏡で金属の組成を確認しているところです。
「この部屋には、金属や樹脂などの材料の組成を確認するための、さまざまな顕微鏡が設置されています。私もたまに使うことはありますが、多くの場合、実験グループのメンバーにお願いをして解析してもらっています」(小柴さん)
ph_rikei_vol155_06

 

ポンプ試験室です。写真の中央にあるのがオイルポンプ性能試験装置。オイルポンプとはエンジンオイルをエンジン内部に循環させるためのポンプ。この装置で擬似的にオイルポンプを回転させ、回転数に比例した性能が発揮されているか、確認します。
ph_rikei_vol155_07

 

無音室もあります。無音室とは、外部からの騒音の侵入を防ぐとともに、内部で発生する音を吸収してしまうことで反響を完全になくした部屋のこと。天井や壁床は高い吸音性を持つ素材で仕上げられています。この部屋で騒音テストなどを行います。
「例えば当社には『サウンドクリエーター』いう、加速時のエンジンの音を意識的に室内に導き、ドライバーにその音を聞かせる装置があります。ドライバーが心地よく加速感を感じられる音量、音質とはどんなものか。この装置の開発では、このような試験設備が欠かせないんです」(小柴さん)
ph_rikei_vol155_14

 

テクニカルセンターから5分ぐらい歩いたところに、車両実験棟もありました。ここでは開発した部品を実際の車に装着して、性能を満たしているかを試験します。
ph_rikei_vol155_15

 

打ち合わせも頻繁にあります。
「開発は、所属しているグループの人たちとはもちろん、営業や購買、生産技術などさまざまな人たちと話をしなければ進められません。したがって、自席に座っているよりも歩き回っている時間の方が多いかもしれません(笑)」(小柴さん)
写真は同じグループのメンバーとオイルクーラーについて打ち合わせをしているところです。
ph_rikei_vol155_10

 

ハタラクヒト 仕事は個人の裁量に任されるので働きやすい

ph_rikei_vol155_11
引き続き、小柴さんにマーレフィルターシステムズで働く魅力、やりがい、職場の雰囲気などについてうかがいました。

 

小柴さんは芝浦工業大学工学部機械機能工学科を卒業後、2014年マーレフィルターシステムズに入社しました。
「幼稚園児のころからモータースポーツが大好きだったんです。そして普通自動車免許を取得する前から、ジムカーナー(舗装路面で行うスラローム競技)やダートトライアル(設定された未舗装のコースを走り、タイムを競う)というモータースポーツ競技に参加していました。最初は車をいじることの方が好きだったのですが、大学で自動車部に所属してからは、走ることも大好きになりました。大学での専門もエンジンに関する研究に従事していました。とにかく車が好きだったので、自動車業界に絞って就職活動を行いました。完成車メーカーではなく、サプライヤを選んだのは、各部品の根本となる技術はサプライヤにあると感じたからです。その中でも独立系であり、エンジン周りの部品を開発していることから、当社に入社を決めました。マーレはフォーミュラ1(F1)やルマン24時間耐久レースなどのモータースポーツにも参加しており、その世界では非常に有名なサプライヤですからね」

 

約8カ月間の研修期間を終え、現在の部署に配属。最初はお客さまの要件を満たす製品を設計するプロジェクトチームに所属していた小柴さん。そのチームに入って半年ぐらいたった時に、お客さま先(ある完成車メーカー)に出向き、製品の説明をするという大役を任されたことがあったそうです。
「ちょうどその時、ほかに説明できる担当者がいなくて、まだ新人だった私が任されることになりました。製品の知識は頭に入っていたので乗り切れるだろうと思っていましたが、『何トンのプレス機を使うのか』など、生産方法など細かいところまで聞かれ、そこまでは勉強していなかったので答えることができませんでした。これまでで最も大変だったことを振り返ると、この時のことが思い出されますが、同時に設計や開発に携わる人は、生産方法までも知っておかなければならないということを学んだ良い機会になりました」

 

一方、最もやりがいを感じる瞬間は、「自分が設計して試作したものが、目標通りの数値を達成した時」だそうです。
「その時はテレビドラマのように、みんなでガッツポーズになります! 本当に苦労が報われる瞬間です」

 

オイルフィルタやオイルクーラーなどの、エンジン関連部品の設計、開発を行っているだけに、小柴さんのように機械系出身者が多いとのことですが、材料系や電子系、環境学の出身者も活躍しているそうです。
「例えば軽量化を図るには材料の知識、また部品の電子制御には制御の知識が欠かせません。二酸化炭素の排出量を抑える仕組みなどを検討する際に、環境学などの知識が生かせます。先行開発では、これまでの概念を覆すようなものを創出していかなければなりません。そのためには、いろいろな視点を持った人が集まっていることが大事なんです。自動車工学と呼ばれる、自動車にかかわる幅広い知識があるにこしたことはありませんが、それも入ってから身につけていけば良いこと。学生時代の専門に関係なく活躍できる土壌はあります」

 

最後にマーレフィルターシステムズという会社の文化、風土についてうかがいました。
「オンとオフのメリハリがある会社です。仕事も個人の裁量に任されているので、納期さえきちんと守れば、仕事のスケジュールも自分なりに組み立てることができます。バイクの免許を取得するため、平日、教習所に通えるのもそういう風土があるからです。もう一つは手を挙げればチャレンジさせてくれるという風土もあります。私は先行開発に携わることになった際、もう少し自動車の知識を身につけたいと上司に申し出たところ、東京工業大学で1週間、電子制御や生産技術に関する講義に参加させてもらうという機会を得ました。このようにやりたいと言うことに対してはチャレンジさせてくれる。働きがいのあるシゴトバです」

 

ミニ四駆大会を開催! 車の構造を学べる機会に

ph_rikei_vol155_16
同社では年1回、ミニ四駆大会を開催しています。
「食堂でコースを作って開催するんです。単に競うことを楽しむだけではありません。速く走らせるためにミニ四駆を改造するのですが、それを通して車の構造などを学ぶことができるんです。この大会にはグループでも、個人でも参加することができます。私は毎年、個人で参加。自分のアイデアをみんなに見てもらいたいですからね」(小柴さん)

 

ph_rikei_vol155_13
3次元CADの作成などは、オフショア先に委託・発注することもあるそうです。写真はタイのオフショア先で働くメンバーが、研修を受けるため来日した際の一コマ。
「研修期間は約3カ月間。その間、メンバーのお世話係を担当しました。ネイティブではない者同士、なんとかつたない英語でコミュニケーションを取り、最後の方は川越祭りの屋台を一緒に巡れるまでに仲良くなりました。この経験により、英語で話す度胸がつきました」(小柴さん)

 

マーレフィルターシステムズにまつわる3つの数字

輸送機器のオイルフィルタやオイルポンプ、オイルクーラーなどのオイルマネジメント製品の開発、提供を行っているマーレフィルターシステムズ。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!

1. 2020

2. 7万6000

3. 250

前回(Vol.154 株式会社タイカ)の解答はこちら

 

取材・文/中村仁美  撮影/平山諭

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
1年生も、もちろん!
大学生・院生・短大生・専門学校生になったら!

リクナビで詳しく見てみよう!

この企業についてリクナビで研究する