株式会社オービック 代表取締役社長 橘昇一【企業TOPが語る 仕事とは?】

1961年、大阪府生まれ。85年関西大学商学部卒、オービック入社。2004年取締役、05年常務取締役、07年専務取締役、08年取締役副社長を経て、13年より現職。

お客さまに寄り添う仕事が性に合った

社会に出たら営業をやってみたい、と漠然と思っていました。しかも、最初からお膳立てされた目に見えるものを売るのではなくて、プロジェクトのような目に見えないものの営業がやりたかった。企業が抱える問題を、自分たちの技術や知識、アイデアで解決していく仕事。今でいうソリューションビジネスですね。最初にイメージしたのは、商社や金融だったんですが、やがて出合ったのが、オービックだったんです。

事業内容に、コンピュータの開発、販売、サービスと書かれていて、なるほどシステムで企業の課題を解決する会社なんだ、と。

当時はまだ上場もしていなくて、会社の規模も今より小さかったんです。大手の会社からも内定をもらっていたんですが、最終的に規模は考えず新しくて勢いのある会社を選んだのには、理由がありました。

ひとつは、時代の方向性と一致していたこと。ちょうど卒論のテーマが、システムにかかわるものだったんです。今でこそコンピュータはビジネスや日常生活に欠かせないものになっていますが、当時はまだごく一部だった。ところが卒論を書くための資料として、将来、コンピュータが社会に対していかに活用されかかわっていくかを見る機会があったんですね。そこでこの分野の重要性に大きな衝撃を受けた。すごいことが未来に起きるんだ、と。

そしてもうひとつが、この会社はどうもちょっと違うぞ、と感じたことでした。採用担当者もそうでしたが、会う人がみんな面白かった。イキイキと仕事をしているな、と思いました。若いころというのは、漠然と自分の未来の可能性を探ってみたいと感じていますよね。

自分で企画して、提案するような仕事をするなら、大きな組織の歯車ではなく、何が待っているかわからない大きな可能性に挑んでみたかった。ここなら、きっと自分の幅を広げられるチャンスがあるんじゃないか、という直感があったんです。

入社して、営業の仕事を始めると、これが面白かった。当時はコンピュータというものの利用価値をまったく見いだしていない会社に対しても、新規で仕事を獲得していく時代。でも、まったく苦になりませんでした。とにかく、お客さまと話がしてみたいという一心だったから。いろんな話をして、コンピュータの話はちょっとだけする。それで、また伺います、と繰り返す。このスタイルが良かったのかもしれませんが、よく売れました。

幸運だったのは、契約してもらうまでに時間がかかる仕事だったことです。長期にわたって、お客さまと話をして、信頼を蓄積していく。すぐに何とかなるようなものではないんですね。しかも、オービックはたとえ、新入社員でもお客さまである経営者と直接かかわって話をする。なぜならシステムは、経営の根幹にかかわるものだからです。

だから、一つひとつの商談においてお客さまに寄り添い、会話をしていく中で方向性を突き詰めていく作業には大変重きをおいてじっくりと取り組む。この部分に妥協しないといったスタイルが私にとても合っていたのだと思います。

企業は厳しい環境の中で勝ち抜いていかなければいけません。ずっと同じことをしていたら、勝てない。経営の考えや方法を変えていかないといけない。そのときにシステムは、経営効果を上げる重要な手段になるんです。

お客さまにシステムを導入して終わりなのではない。お客さまの変化と同時にわれわれも変わっていかないといけない。こうして時間をかけた継続的な関係性の中で、共に成長していくことができるビジネスを今後も作っていきたいのです。

話を戻しますと、営業当時はもちろん必死で頑張っていました。では、どうして頑張れたのか。振り返って思うのは、先輩や上司や会社が、私の仕事をしっかり見てくれていたことです。時には苦しいとき、悩むときもある。そんなとき、決まって「おい、ちょっとメシに行こう」と誘ってもらえた。先輩、上司だけではなく、当時の社長(現在の会長)もふらりと現れて、声をかけてくれました。

それで話をしてみると、とにかくいろんなことを知っているわけです。表面的な実績の裏側で、私がどんな苦労をして、どんな努力をしていたか。こんなことはまさかこの人は知らないだろう、と思うことまで知ってくれていた。これは本当にうれしかった。ますます頑張ろう、と思いましたね。

オービックは今も社員の状況をきちんと把握しています。会社の文化になっている。なぜなら、社員はその方がうれしいから。離職率がとても低いことや、新卒採用のみにこだわっていること、1年間で1カ月分の研修に代表される教育制度の充実がよく語られますが、それだけじゃない。とにかく人をやる気にさせてくれる会社なんです。

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お互いに信用し、お互いに儲けるのが、ビジネス

社員一人ひとりを本当によく見ているんだな、という経験は昇格してからも同じでした。私は20代後半には部下を持ち、中には私よりも年上の人もいましたね。緊張を感じる一方それが励みとなって私はますます頑張りました。

仕事も順調に進み、そろそろ次のステップが見え始めたというころ、上司に飲みに誘われたんです。こう言われました。「お前、昇進すると思っているだろう」。そう思っている、とはさすがに言えませんから、「いいえ」と答えるとこう言われました。「良かった。オレが断っておいたから」。

実は、この時の上司の思いを知ったのは、もっと後になってからです。チームと言いながら、実績のほとんどは私個人の営業活動によるものでした。本当の意味でチームとして機能していなかったんです。

その後、部下がごっそり変わり、最も厳しい状況にあるメンバーばかりがそろったんです。とても私一人で成果を上げることはできなくなりました。ここで気づいたんです。チームを機能させるというのは、私が一人で奮闘することじゃない、これこそが上司が私に伝えたかったことなんだ、と。

大事なことは、部下にどう動いてもらうか。ただ教えたり、命じたりしているのではダメ。部下を信頼し、可能性を信じて自由に任せる。考えてみれば、自分もそうしてもらっていたんです。自発的に頑張れる環境を作ることこそ、リーダーの仕事だということです。

その年は散々な実績でした。ところが私は、その年に昇格するんです。本当に、ニクいことをする(笑)。このように人を表から見える部分だけでは判断しない上司であり、会社なんです。結果ではなく、中身。本当に一人ひとりをちゃんと見ている。

これは昔からの習慣ですが、経営者がよくフラリと社内を散歩している会社です。そして、社員に気軽に声をかける。私は東京に転勤になって以来、本社ビルの隣のカフェに座って、出社してくる社員の表情を見ることを今も続けています。私がいることは、すっかり社員にはバレてしまっているのですが(笑)。

それともうひとつ、緊張と緩和を大事にしています。ずっと緊張ばかりしていたら、うまくいかない。ときどき緩和があるから、活気が出てくる。経営陣が社員を笑わせようと知恵を絞るのも、ひとつの文化ですね。お互いユーモアを大切にしていることも非常に良いことではないでしょうか。

事業所別の運動会は、もう30年以上続けています。このようなイベントには家族にもお越しいただいて、私がごあいさつをさせていただく機会になっています。最も、回るたびに「まぁ、一杯どうぞ」とお酒をつがれるので、本当に大変なのですが(笑)。

緊張と緩和といえば、仕事のメリハリですよね。かつてIT業界は、全体として長時間労働が常態化する傾向にありました。これでは社員が疲弊してしまうのでは。と、業界に先駆けて改革を行いました。「労働集約」から「知識集約」へ。労働時間に依存して勝負するのではなく、社内のノウハウを活用してお客さまの経営の発展に貢献する、つまり、時間ではなく経験や知識の蓄積で勝負するのです。

私は社員の成長こそが会社の成長であると考えます。だからこそ、これからも社員の働きがいを高めながら、顧客満足をさらに高めることに挑戦していきます。

仕事とは何か。私は端的にいえば、「儲けること」だと思っています。でも、拝金主義とか、そういうことではない。儲けるという字を見てみると、信じる者、と書いてある。利益というのは、信用から生まれます。信用がなければ、儲けられないんです。目先の利益だけを追求していたのでは、長くは続けられない。お互いに信用し、お互いに儲けることができることが、本当のビジネスであり、仕事だと思うんです。

新人時代、初めて受注したお客さまが、途中で業績が厳しくなり、最後まで納品することができませんでした。でも、私はかかった費用をどうしても頂かなければいけなかった。「橘さんは誠心誠意、頑張ってくれた」と快く支払ってくださいました。

でも、これがつらかった。お客さまのお役に立てていないのに、お金をもらってしまったからです。これは儲けたということにはまったくならないんです。このときの悔しい思いが、私の原点です。長期にわたって信頼関係を継続し、お互いにきちっと儲けないといけない。これこそが、仕事の本質だと私は思っています。

最後に言いたいのは、会社という組織に入ったら既存の枠にはまろうとはせず、自分の持ち味を生かしやりたいことを貫いて挑戦していってほしいということです。型にはまってしまうと個人も会社も可能性を広げることができないし、変化をもたらすことができない。それは顧客に対しても同じことです。これはお互いにとっての幸せにはなりませんから。だから何事も最初から不可能だと決めつけずに意思があるならとにかくやってみてほしい。私がかつて会社にそうしてもらっていたように、社員一人ひとりが持つ前向きな気持ちというものをいかに受け入れていくかを考え続ける会社でありたい。

規模にかかわらず会社を選んだ私ですが、入社後会社が上場し、社員数も増えた。企業として成長した今でもあのころのつたない自分を受け入れ成長させてくれた会社の温かい風土はしっかりと存在していますし、この精神は普遍的なものとして受け継いでいきたいと思っています。

新人時代

営業職を希望していたものの、入社して最初に行われたのが、全員必修のプログラム開発研修。初めての経験で最初はとても苦戦しましたし、最後まで講師には迷惑をかけた思い出があります。しかも研修中から、どうしても営業がやりたい、と人事に言い続けていた問題児で(笑)。ワガママを聞いてくれた会社に感謝しています。

プライベート

ゴルフによく行きます。ゴルフの面白さは、思い通りにならないところ。同じコースでベストのスコアを出したかと思えば、ワーストのスコアを出したりもする。季節も大きく影響する。決して思った通りにはならないわけですが、それでも気持ちを切り替えて次に向かえるか。これは経営にも、人との関係にも、人生にも言えると思っています。

取材・文/上阪 徹 撮影/刑部友康

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