重工編・2014年【業界トレンド】

新興国需要に後押しされ業績は回復傾向。官民一体で世界市場への売り込みを目指す

重工メーカーとは、超大型の機器・プラントなどを製造・構築する企業。船舶、鉄道車両、旅客機、発電所などのエネルギー関連設備、防衛産業、宇宙産業、橋梁などの大型公共建築物などが事業領域だ。主だった企業としては、三菱重工業、IHI、川崎重工業、住友重機械工業などが挙げられる。また、三井造船や日立造船といった企業は、船舶のみならず、大型船舶用エンジンや橋梁などでも豊富な実績を持つ重工メーカーだ。さらに、日立製作所や東芝も火力・原子力発電プラントなどを手がけており、重工メーカーとして分類されるケースがある。

リーマン・ショックが起きた2008年以降、業界は厳しい経営状況にさらされた。しかし09年を底に、重工メーカー各社の業績は回復傾向にある。背景にあるのは円安による競争力の回復と、新興国の旺盛なインフラ需要だ。12年10月、三菱重工業はマレーシア・クアラルンプールに建設される地下鉄の鉄道システムを受注。13年11月には、東芝が丸紅、東日本旅客鉄道(JR東日本)と共同で、タイ・バンコクで建設中の都市鉄道事業を受注した。現在、中国、インド、ベトナム、ブラジルといった国で大規模な鉄道整備計画が進められており、日本メーカーにとっては大きなビジネスチャンスが到来している。また、発電所関連分野も活況。東芝は、14年2月にインド、14年4月にメキシコの火力発電所向け蒸気タービンを受注している。

鉄道や発電所は、設備や機械などの「ハード面」のみならず、運用ノウハウや情報システムなどの「ソフト面」も重要だ。そのため、各社は「フルターンキー」(下記キーワード参照)を意識して、トータルサービスを提供することを心がけている。加えて、重工メーカーが扱う製品・サービスは、地域社会が大きな決断をして導入を決めるものばかり。そのため、輸出時には企業の営業力のみならず、日本政府の支援体制も受注の可否を大きく左右する。重工メーカー・総合商社・政府などが一体となって、「オールジャパン体制」で売り込みを目指すケースは、今後も増えそうだ。

航空機に関する分野も有望だ。三菱重工業などが開発・製造している新型小型旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」は、全日本空輸(ANA)や米スカイウェストなどから受注を獲得。ほかにも、導入を検討中の航空会社があると言われる。米ボーイング社の最新鋭機「ボーイング787」でも、日本の重工メーカーがエンジンや主翼などの製造を手がけている。航空需要は世界的に高まっており、今後も業績を伸ばすチャンスがあるだろう。また、海洋開発も期待が集まっている分野だ。日本付近の海底に眠る「メタンハイドレート」や「レアアース」(キーワード参照)などの採取は、将来、収益の柱となる可能性がある。

これまで見てきたように、海外事業の強化は各社にとって共通の課題だ。そこで、グローバル市場攻略を目指した提携戦略に注目しておきたい。例えば三菱重工業は、14年5月に独シーメンス社と、製鉄機械の合弁会社を設立することで合意。また、下記ニュース記事で紹介しているような事例もある。海外企業と提携を進める動きは、ぜひチェックしておこう。

押さえておこう <重工メーカー志望者が知っておきたいキーワード>

フルターンキー
設計・建設から試運転までの全工程を一貫して手がけ、顧客に提供するスタイルのこと。「鍵を回すだけで、簡単にすべてのシステムを動かせる」という意味合いの言葉。
メタンハイドレート
メタンと水が、低温・高圧の状態で結晶化した物質。日本の周辺海域にかなりの量が埋蔵されていると見込まれており、将来の天然ガス資源として期待されている。
レアアース
特殊な性質を持った元素のこと。蓄電池や磁石の性能アップに使われ、ハイテク産業に欠かせない素材。近年、日本付近の海底に堆積していることがわかって話題となった。
LNG船
LNG(液化天然ガス)を運ぶための船のこと。世界的なエネルギー需要の高まりにより、同船へのニーズも高まっている。

このニュースだけは要チェック <企業買収で競争力強化を目指すケースが目立つ>

・三菱重工業が独総合電機大手シーメンスと共同提案していた、仏重電大手アルストムのエネルギー部門買収案が不成立となる見通しに。フランス政府の意向により、米ゼネラル・エレクトリック(GE)による買収が成立する公算が大きくなった。ただし、今後も国際的な事業再編が起きる可能性は高く、動向に注目が必要だ。(2014年6月20日)

・三井造船が、航空機向け機器を手がける昭和飛行機工業を、株式公開買い付け(TOB)によって完全子会社化した。技術やノウハウの共有、共同開発の推進などを通じて経営基盤の強化を目指す。このように、他企業の買収によって競争力を高める取り組みは今後も起こりうるだろう。(2014年3月18日)

この業界とも深いつながりが <インフラ企業や総合商社との連携に注目>

鉄道
海外の鉄道整備プロジェクトにおいて、鉄道会社と協力する機会は多い

電力・ガス
海外における原子力発電所・火力発電所の建設で協業するケースが増加

総合商社
海外の大型プロジェクトでは、総合商社の支援を受けることが少なくない

この業界の指南役

日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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