出版編・2015年【業界トレンド】

市場は縮小傾向が続く。コンテンツの多メディア展開に活路を見いだせるか?

全国出版協会・出版科学研究所の「2014年版 出版指標年報」によると、13年における書籍・雑誌の出版販売金額は、対前年比3.3パーセント減の1兆6823億円。ピーク時の1996年(約2兆6500億円)に比べると、6割近い水準にまで落ち込んでいる。

苦戦が目立ったのは雑誌分野だ。2013年の出版販売金額は、対前年比4.4パーセント減の8972億円。返品率は38.8パーセントに達し、初めて書籍の返品率(37.3パーセント)を上回った。それに伴い、広告収入も落ち込んでいる。とりわけ厳しい状況なのがコミック誌。『週刊少年マガジン』『週刊少年サンデー』といった少年向けコミック誌が、売り上げを大きく落としている。一方、書籍の出版販売金額は、対前年比2.0パーセント減の7851億円。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹)をはじめとするミリオンセラーが3冊出るなど話題の本は好調だったが、それ以外は振るわないという二極化現象が目立った。

出版不況の背景の一つは、他メディアとの競争激化だ。電車内などでの「すき間時間」は、スマートフォンなどによるインターネットの閲覧や、携帯ゲームなどに奪われつつある。また、自宅においてもインターネットの利用時間が延びているし、DVDや動画配信サイトの視聴時間も増えている。雑誌・書籍は、「消費者の時間の奪い合い」において劣勢に立たされているといえるだろう。

こうした中、出版各社はさまざまな手段で生き残りを図っている。その一つが「クロスメディア」(キーワード参照)の推進だ。出版・映画・アニメ制作などを手がけるKADOKAWAは、2014年10月、動画サービス「ニコニコ動画」などを運営するドワンゴと経営統合。KADOKAWAが得意とする書籍やアニメといったコンテンツを書店など「リアル」な場で流通させるだけでなく、ドワンゴの主戦場である「ネット」でも流通させることで、多様なビジネスチャンスを生み出すのが狙いだ。KADOKAWAに限らず、今後はさまざまなメディアでコンテンツを同時展開する動きが、さらに活発化するとみられる。

特に注目したいのが、ゲーム会社などと協力する試み。例えば、ゲーム会社レベルファイブが発売しているニンテンドー3DS用ゲーム『妖怪ウォッチ』シリーズは、企画段階からアニメ化(KADOKAWAが担当)、コミックス化(小学館が担当)が進められていた。こうした流れを受け、出版社には「書籍・雑誌」という枠組みを超えて新しいコンテンツを生み出す企画力が求められるだろう。また、テレビ・映画・おもちゃ・音楽といった他業界と連携をはかり、大きなプロジェクトを動かす力も重視されそうだ。

電子書籍への対応も、引き続き重要だ。インプレス総合研究所の「電子書籍ビジネス 調査報告書2014」によれば、13年度における電子書籍の市場規模は1013億円。11年度(651億円)、12年度(768億円)に比べると着実に成長を遂げている。スマートフォンやタブレット端末、さらに「Amazon Kindle」(Amazon.com)や「kobo」(楽天)といった専用端末が普及し、今後も市場拡大が期待できるだろう。出版市場全般が落ち込む中、電子書籍市場の取り込みは、各社の業績のカギを握りそうだ。

出版業界志望者が知っておきたいキーワード

クロスメディア
キャラクターや物語といったコンテンツを、さまざまなメディアに展開すること。人気のあるコンテンツを、書籍だけでなくテレビ、ゲーム、モバイル端末などに流通させることで、新たなビジネスチャンスを生み出すことができる。
DRM
Digital Rights Management(デジタル著作権管理)の略で、デジタルコンテンツのコピーを防ぐ技術のこと。雑誌や漫画などのデジタル化が進むと、違法コピーなどの問題が生じる恐れがあるため、著作権の適切な保護・管理が不可欠。
タブレット端末と専用端末
電子書籍の閲覧用端末としては、画面の大きさから、iPad(アップル)やNexus7(グーグル)などのタブレット端末と、Amazon Kindleやkoboなどの専用端末とが広く使われている。専用端末の方が読みやすさの面で優位と言われるが、タブレット端末の方が多機能というメリットもある。
EPUB
イーパブと読む。電子書籍フォーマットの一つで、iPadやAndroidタブレット端末、koboなど幅広い端末で読むことができる。ほかのフォーマットとしては、Kindle向けの「AZW」、シャープが開発した「XMDF」などもある。また、パソコンやインターネットで広く使われているPDF形式で公開されている電子書籍もある。

このニュースだけは要チェック <他メディアとの連携に注目しよう>

・講談社、集英社、小学館の大手出版3社が、音楽大手エイベックス・グループ・ホールディングスの子会社であるエイベックス・ピクチャーズとの共同出資で、映像配信サービス向けアニメ作品の供給を行う新会社を設立。出版社のコンテンツ力を生かす試みの一つとして注目されている。(2014年11月25日)

・講談社と小学館が、コミュニケーションツールを手がけるLINE、電子書籍取次のメディアドゥとともに合弁会社を設立。人気マンガを英語と中国語に翻訳し、海外でも広く使われているLINEを通じて海外に紹介。アジア圏を中心に、新たな顧客を掘り起こす考えだ。(2014年10月8日)

この業界とも深いつながりが <ゲーム系企業とのかかわりが深まる>

ゲーム(ソフトメーカ-)
マンガなどのキャラクターを、ゲームに同時展開するケースが増えている

eコマース
Amazon.com、楽天などの大手eコマース企業が、電子書籍端末市場に参入

ポータルサイト・SNS
出版社が抱えるコンテンツをネットに流す際に協力することが多い

この業界の指南役

日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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