業界トレンドNEWS

Vol.272 石油編

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シェールガスの採掘量拡大、国内需要の低迷などで環境激変。業界再編と異業種進出が急務に

石油業界は、原油や天然ガスの開発・生産を行う「川上」の企業(国際石油開発帝石などが該当)と、製油・元売り・販売などを担当する「川下」の企業(JXホールディングス、出光興産、東燃ゼネラル石油、コスモ石油、昭和シェル石油など)とに大別できる。また、総合商社などは石油開発事業に出資して資源権益(資源開発に加わることにより、出資額などに応じた資源や配当金を得る権利のこと)を確保しており、「川上」の一角と考えることも可能だ。

 

現在、石油業界では大きな環境変化が起きている。まず、「川上」で起きているのが、「シェールガス革命」と「原油価格の低下」だ。

 

シェールガスとは、地中深くの頁岩層(けつがんそう。別名シェール層)から採れる天然ガスのことで、アメリカなどで採掘が盛んになっている。この結果、シェールガス由来のエチレン(ポリエチレンなど、さまざまな化学製品の原料となる物質)などが豊富に供給され、化学業界における石油需要を奪っているのだ。また、シェールガスと同時に生産されるプロパン(家庭用ガス燃料として使われるほか、ポリプロピレンなどの原料にもなる)が米国から欧州市場に流入した余波で、欧州でだぶついた石油製品がアジアに流入しているのも、国内企業にとって悩みの種となっている。ただし、このところの価格低迷によって一部業者がシェールガス採掘を中止するなどの動きもあり、状況は極めて流動的。ぜひ、関連ニュースには気を配っておきたい。

 

原油価格は、中国経済の先行き不安を背景に低迷を続けている。15年8月25日には、ニューヨーク原油先物市場で1バレル(約159リットル)=37.75ドルを記録し、約6年半ぶりの安値水準となった。これにより、「川上」側企業の採掘事業は採算性が悪化。例えば、国際石油開発帝石の15年度第1四半期売上高は、対前年同期比で28パーセント減、営業利益は47パーセント減だった。また、「川下」の元売り各社にも、ガソリン価格値下がりに伴う利益率の低下、油田開発などに投資した分の減損処理などが発生し、決算に悪影響を与えている。

 

一方、「川下」では石油需要全般が落ち込んでいる。日本で石油精製・元売りを行う企業の団体である石油連盟によると、1999年度における国内の石油(重油・ナフサ・ガソリン・灯油・軽油などの合計)需要は、2億4597億キロリットルに達した。しかし、石油火力発電から原子力発電、天然ガス火力発電などへの切り替えが行われたり、地球温暖化対策のために省エネが進められたりした結果、2000年度以降は需要が減少。13年度の石油需要は1億9352万キロリットルで、ピーク時より2割以上減っている。人口減少、若年層の車離れや自動車燃費の改善、自動車輸送システムの合理化が進んでいるため、今後も石油需要は右肩下がりとなる見込みだ。

 

これらの環境変化に対応するため、劇的な業界再編が進んでいる。10年4月には、新日本石油と新日鉱ホールディングスが経営統合してJXホールディングスが誕生。そして、15年7月、業界2位の出光興産と同5位の昭和シェル石油が、経営統合の基本合意を交わしたと発表(ニュース記事参照)。両社の連結売上高は約7.6兆円となり、業界トップのJXホールディングスと肩を並べる。これら「2強」と対抗するため、3位の東燃ゼネラル石油、4位のコスモ石油がどう動くか注目しておきたい。

 

また、元売り各社は異業種への参入にも積極的だ。特に目立つのが、電力小売事業への参入。また、ガス事業への取り組みも引き続き進められている。各社の事業領域は、「石油」から「エネルギー全般」に拡大中。業界志望者にとっても、エネルギー業界に対する幅広い情報収集が求められる。

 

石油元売り各社の2014年度売上高ランキング

1位
JXホールディングス 10兆8825億円(営業赤字2189億円)
2位
出光興産 4兆6297億円(営業赤字1048億円)
3位
東燃ゼネラル石油 3兆4511億円(営業赤字729億円)
4位
コスモ石油 3兆358億円(営業赤字384億円)
5位
昭和シェル石油 2兆9980億円(営業赤字181億円)

※各社の決算資料より。各企業ともに、営業赤字を出す厳しい状況だ。こうした中、2位の出光興産と5位の昭和シェル石油が経営統合することで、JXホールディングスとの「2強」体制となる。

このニュースだけは要チェック <出光興産と昭和シェル石油の統合は大ニュース>

・出光興産と昭和シェル石油が、2016年にも経営統合することで基本合意したと発表。生産・輸送体制を効率化するなどして経営基盤を強化する一方、アジアなどに進出して売り上げ拡大を目指す方針。今後、さらなる業界再編が起こる可能性も十分にある。(2015年7月30日)

 

・東燃ゼネラル石油が、オーストラリアの港湾運営・物流企業と合弁会社を設立。2017年に大型の石油製品貯蔵設備を建設し、ガソリンや軽油など石油製品の販売・供給を行う予定だ。オーストラリアやアジア地域は今後の需要増が見込まれており、進出を目指す企業も多い。(2015年8月11日)

この業界とも深いつながりが<化学業界は重要な取引先>

化学
化学品生産に欠かせないエチレンなどの供給で、シェールガスとの争いが激化

電力・ガス
今後の火力発電所用石油需要は、原子力発電所の稼働状況に大きく左右されそう

コンビニ
ガソリンスタンド併設型のコンビニが登場。今後、協業が進む可能性もある

 

この業界の指南役

日本総合研究所 未来デザイン・ラボ シニアマネージャー 田中靖記氏

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大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修修了。同大学院工学研究科客員研究員。専門は、未来洞察、中長期事業戦略策定、シナリオプランニング、海外市場進出戦略策定など。主に社会インフラ関連業界を担当。また、インド・ASEAN市場の開拓案件を数多く手がけている。

 

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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