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Vol.300 テレビ編

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テレビ離れを止めるため視聴者を巻き込む番組作りに腐心。放送外収入を増やす取り組みも活発

公共放送を担う日本放送協会(NHK)は、受信者から集める受信料によって運営されている。一方、民放(民間放送)各社にとって最大の収益源は、テレビCMの放送枠を販売して得られる広告収入だ。電通がまとめた『2015年(平成27年)日本の広告費』によれば、15年における日本の総広告費(テレビ、新聞、雑誌、ラジオの「マスコミ四媒体広告費」、「インターネット広告費」、屋外広告や折り込み広告などの「プロモーションメディア広告費」を合計した額)は6兆1710億円。このうち、テレビメディア広告費(地上波テレビ+衛星メディア関連)は1兆9323億円で、全体の3割以上を占めている。広告業界におけるテレビ広告の存在感は、依然として大きい。

 

ただし、インターネットの普及などにより「テレビ離れ」が進んでいるのは悩みの種。NHKが15年11月に実施した「全国個人視聴率調査」によると、05年の平均テレビ視聴時間は1日あたり4時間1分(民放2時間52分、NHK1時間9分)。ところが、10年は3時間52分(民放2時間49分、NHK1時間4分)、15年は3時間40分(民放2時間41分、NHK59分)と減少傾向が見て取れる。特に、10~20代の若い世代ほど視聴時間は短くなる傾向。このまま進むとテレビ視聴者数は先細りとなり、広告媒体としての価値が低下する危険性が高い。

 

そこでテレビ各局は、番組を盛り上げるためにさまざまな工夫を凝らしている。例えば、ツイッターなどで視聴者から意見を集め、テレビ画面上で紹介する番組が増えているのはそうした動きの一環。自らの書き込みが紹介されたり、他人の意見をリアルタイムで読めたりする仕組みを作ることで視聴者の興味をひこうとしている。また、テレビに関する話題がインターネットを通じて拡散する効果も期待できるだろう。ほかにも、デジタル放送の投票機能を活用して視聴者投票を行い、「ながら視聴者」(キーワード参照)の取り込みを強化しようとする番組もある。

 

ネット配信への対応も重要だ。「見逃した番組をどうしても見たい」「話題のドラマを第1話からチェックしたい」というニーズを満たすため、各局はオンデマンド(キーワード参照)サービスの充実を急いでいる。15年10月には、在京キー局5社が共同で、番組の無料配信サービス「TVer(ティーバー)」(ニュース参照)をスタート。一部の番組を、放送から1週間程度の期間、広告付き動画としてストリーミング(キーワード参照)配信する。今のところ配信されているのは各局10番組程度だが、今後、対象番組数は拡大される予定だ。

 

また、定額の動画配信サービスにも注目したい。日本テレビ放送網は14年2月、月額料金を支払えば多くの番組が見放題となる「Hulu(フールー)」の日本事業を買収。15年9月には動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」が日本でのサービスを開始した(ニュース参照)。こうしたサービスは、新たな視聴者や収益源を取り込めるメリットもある半面、インターネットでの視聴習慣が広がり、さらにテレビ離れを加速させる危険性もある。今後、各局が定額制動画配信サービスとどう付き合っていくのか、ぜひ注目したい。

 

広告収入の落ち込みに備え、「放送外収入」を伸ばそうとする取り組みも活発だ。例えば、映画は重要な収入源。テレビドラマを映画化すれば、映画の興行収入、関連グッズの物販収入、DVDやブルーレイディスクのソフト販売収入、テレビ放送時の広告収入など幅広いチャネルで売り上げを得られる。テレビ局が蓄積してきた宣伝・制作に関するノウハウが役立てられるのも利点だ。また、「お台場夢大陸」(フジテレビジョン)などテレビ局周辺の自社イベント、「ドリームフェスティバル」(テレビ朝日)などの音楽イベントなどを主催し、収益を伸ばそうとする動きも活発化している。

 

通信販売事業に注力するテレビ局も多い。例えばフジテレビジョンは、売上高が1000億円を超える通販会社ディノス・セシールをグループ傘下に抱え、テレビ通販・カタログ通販・インターネット通販を連携させることで魅力を高めている。また、自社番組を海外に販売する取り組みにも注目。さまざまな障害物のクリアを目指す番組『SASUKE』(TBSテレビ)は海外でも人気が高く、多くの国や地域にフォーマット販売(キーワード参照)されている。また、日本で作られたアニメやドラマが輸出され、海外で人気になるケースもある。

 

テレビ局志望者が知っておきたいキーワード

ながら視聴者
何か別のことをしながらテレビを見ている人のこと。総務省の『平成26年版 情報通信白書』によると、19時台から22時台にテレビを見ている人のうち、約2割がインターネットを見ながらテレビを見ていた。若い世代になるほど、ながら視聴者の比率はさらに高まる。

オンデマンド
視聴者の要求(=デマンド)に応じて番組を提供するサービスのこと。通常のテレビでは放送されている番組を視聴することしかできないが、インターネットを活用することで、好きな時に好きな番組を選んで楽しむことが可能なサービスが提供されるようになった。

ストリーミング
映像データを一度サーバーからPCやスマホなどの端末に取り込み、再生するのが「ダウンロード形式」。これに対し、サーバーからデータを受信しながら同時に再生する方式を「ストリーミング(形式)」と呼ぶ。再生までの待ち時間が少ないのが利点で、違法コピー防止にも効果があるとされる。

フォーマット販売
制作した番組・映像そのものを販売するのではなく、番組のコンセプトや番組作成ノウハウなどを売ること。TBSテレビの『SASUKE』やフジテレビジョンの『料理の鉄人』は米国や欧州にフォーマット販売され、各国版が制作されている。

このニュースだけは要チェック <動画配信サービスはテレビ局にとって諸刃の剣>

・在京民放キー局5社(日本テレビ放送網、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビジョン)の番組が視聴できるサービス「TVer(ティーバー)」がスタート。スマートフォンで楽しむためのアプリは、サービス開始から4カ月で200万ダウンロードを達成した。(2015年10月26日)

 

・アメリカ発のオンラインDVDレンタル・動画配信サービスの「Netflix(ネットフリックス)」が日本での事業を開始。ストリーミング形式で映像を提供しており、月額定額制でさまざまな映像が楽しめる。民放と協力し、オリジナル番組の制作・提供も実施中。(2015年9月1日)

 

この業界とも深いつながりが <eコマース企業との連携が強まるか?>

eコマース
通販番組を通じた売り上げは、テレビ局にとって有力な収入源の一つ

映画
映画会社などと協力し、テレビ番組の映画化を目指すケースは多い

広告
大手広告会社は、テレビCMを販売するために欠かせないパートナー

 

この業界の指南役

日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏
yoshida_sama

東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

 

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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