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Vol.306 繊維編

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安価な製品は中国メーカーが席巻。国内メーカーは付加価値の高い繊維素材の開発に集中している

繊維には、植物や動物を原料とする天然繊維(綿、絹、羊毛など)と、石油やセルロースなどの原料に処理を施し、人工的に生成する化学繊維(ポリエステル、ナイロンなど)がある。国内繊維メーカーとしては、東レ、旭化成、帝人などが代表格だ。

 

日本化学繊維協会によると、2015年における全世界の主要繊維生産量は9064万トン。前年より1.4パーセント増え、史上最高を記録した。このうち、化学繊維生産量は6652万トン。前年より7.5パーセント増え、こちらも史上最高となった。新興国では衣料品用繊維や産業用繊維の需要が伸び続けており、グローバル市場でのニーズは今後も伸びそうだ。一方、天然繊維の需要は徐々に小さくなっている。15年における全世界の綿生産量は対前年比12.7パーセント減の2289万トン、羊毛は対前年比5.0パーセント減の110万トン、絹は対前年比0.1パーセント減の14万トンだった。

 

化学繊維の73パーセントにあたる4848万トンは、中国で生産されている。15年には生産量が11.9パーセントも伸びており、化学繊維の生産拠点が中国に一極集中する傾向は強まるばかりだ。これに対し、他の地域では軒並み生産量が減っている状況。経済産業省の「生産動態統計年報 繊維・生活用品統計編」によると、15年における国内の化学繊維生産量は96万トンで、01年(156万トン)に比べ3分の2程度の規模に落ちこんでいる。

 

背景にあるのは、中国企業の台頭による世界的な競争激化だ。汎用品の分野では、何よりも価格競争力が重要。中国企業は、先進国に比べて生産コストが低い点を生かし、安い製品を生み出してシェアを高めている。また、中国は繊維の大消費地でもあり、現地の企業にとって流通コストがそれほどかからない点も強みだ。

 

こうした中、国内メーカーは中国企業との価格競争を避けるため、高い性能・機能を持つ繊維素材の開発によって「高付加価値化」を目指している。例えば、航空機や自動車向けの炭素素材は典型的。燃費向上のためには機体・車体の軽量化が大切で、その際にうってつけなのが軽くて丈夫な炭素繊維なのだ。14年11月、東レは航空機メーカーである米ボーイング社から、新型航空機向け炭素繊維の大型受注に成功。高い技術力を生かして大きな売り上げにつなげた。また、次世代自動車の車体にも炭素素材が採用されるケースが増えている。さらに、高度な技術が求められる自動車用エアバッグ向けの糸や生地、寒さを防ぐ・熱気や湿気を逃がす・臭いの発生を抑える・しわになりにくいなどの機能を持つ衣料品用繊維、軽量化が進むゴルフクラブやテニスラケットなども、今後需要が高まるだろう。

 

海外における生産・販売の強化も課題だ。たとえ高付加価値製品であっても、グローバルな競争を勝ち抜いていくためには、極力安く短納期で顧客に提供する必要がある。例えば東レは、韓国・中国・インドネシアで、紙オムツなどに使われる高機能ポリプロピレン長繊維不織布の生産能力を増強。急成長中の地域で需要を取り込む構えだ。

 

非繊維分野への展開も進められている。例えば、液晶ディスプレイなどに使われるフィルム、海水を淡水化する設備に用いられる膜、燃料電池やリチウムイオン電池に必要な「セパレーター」(電池の中で、プラス側とマイナス側を分ける材料のこと)といった製品の多くは、繊維メーカーの技術が欠かせない。また、樹脂製品や医薬品の製造を手がける繊維メーカーも現れている。長年蓄積した技術・ノウハウを、いかに他分野で適用していくかは、各社にとって重要な課題と言えそうだ。

 

非繊維事業を強化するには、M&Aなどで新規事業を取り込むことも有効だ。旭化成は15年8月、セパレーターの大手企業である米ポリポア社を買収したが、このような他社買収は今後も進む可能性がある。

 

繊維業界志望者が知っておきたいキーワード

炭素繊維
カーボンファイバー(Carbon fiber)。アクリル繊維などに高温の熱処理を加えることで製造する。鉄の4分の1程度の重さで10倍の強度を持つが、加工が難しいため、生産にはかなりの技術力が必要。

不織布
「ふしょくふ」と読む。織ったり、編んだりせずに作った布地のこと。繊維を紙の製造方法のようなやり方でシート状にしたり、繊維を接着剤で接合したり、特殊な針で絡ませあったりして布地にする。医療、建築、自動車、生活用品、家具など幅広い分野で使われている。

川上・川中・川下
加工・流通の流れを、川の流れに例えた言い方。繊維業界では、川上は原糸を製造すること。川中は原糸に加工や染色を行ったり、織って生地にしたりすること。川下は生地を縫製し、衣料品として販売することを指すことが多い。

このニュースだけは要チェック <高付加価値素材の開発・販売がカギを握る>

・帝人は、自社開発の高機能不織布を用いた自動車用防音材が、トヨタ自動車の新型車「プリウス」のフロア用防音材に採用されたと発表。自動車業界では、燃費向上などの観点から軽量化へのニーズが強く、より高い機能・性能を持った繊維素材に関心が高まっている。(2016年3月1日)

 

・東レがタイで、フィルム製品の在庫管理から流通サービス、ロール状フィルム(原反)の加工などを一括で管理するワンストップサービスの提供を開始。これまでは各工程を外部の企業に委託するケースが多かったが、自社の関与を強めることで、多様化する顧客ニーズに応えようとしている。(2016年5月30日)

 

この業界とも深いつながりが <自動車メーカーとのつながりが強まるか?>

自動車メーカー
低燃費を目指し、次世代車の車体などに炭素繊維を採用するケースが増加

スポーツ用品・アパレル
ゴルフクラブやテニスラケットを軽量化するため、炭素繊維が使われている

アパレル
東レとユニクロの「ヒートテック」のように、新素材を共同開発することも

 

この業界の指南役

日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

 

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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