広告編・2016年【業界トレンド】

ネット広告が好調。海外市場や、広告の枠を超えた「ソリューションビジネス」への進出が盛んだ

広告業界には多彩なプレーヤーが存在する。大手の総合広告会社としては、電通、博報堂DYホールディングス、アサツー ディ・ケイがよく知られた存在。また、サイバーエージェント(インターネット広告)など特定分野に注力する専門広告会社や、ジェイアール東日本企画(東日本旅客鉄道)やデルフィス(トヨタ自動車)のように親会社の広告を中心に扱うハウス・エージェンシーなどもある。モバイル動画広告は、最も勢いのある分野。消費者の好みに合った動画を表示させ、広告効果を高めようとする研究が進められている電通が公表している「2015年 日本の広告費」によると、国内における15年の総広告費は前年より0.3パーセント増の6兆1710億円だった。東日本大震災後の12年以降、市場は4年連続で拡大している。

新聞、雑誌、ラジオ、テレビの「マスコミ4媒体」は厳しい状況だ。新聞(15年の広告費は5679億円で、対前年比6.2パーセント減)、雑誌(同2443億円、2.3パーセント減)、ラジオ(1254億円、1.4パーセント減)の広告費は、長期にわたって低迷している。また、14年まで3年連続で拡大していたテレビ分野も、BS・CSの「衛星メディア関連」は対前年比1.5パーセント増だったが、地上波テレビが1.4パーセント減と苦戦。その結果、15年のテレビ広告費は1兆9323億円で、対前年比1.2パーセント減となった。

これに対し、好調が続いているのがインターネット広告。15年の広告費は対前年比10.2パーセント増の1兆1594億円となり、06年(4826億円)に比べると約2.4倍に拡大している。ポータルサイトのトップページなどに掲示される「枠売り広告」は前年より減ったが、「運用型広告」(キーワード参照)が対前年比21.9パーセントも伸びて市場を引っ張った。また、スマートフォン向けの広告費は着実に伸びているし、動画広告市場も急激に拡大中だ。インターネット広告の市場が拡大しているのは世界的なトレンドで、電通の海外子会社であるCarat(カラ)社によると、 16年には世界の広告市場の27%を占めると予想されている。

背景にあるのは、ビジネスモデルの変化だ。以前の広告会社は、広告枠をマスメディアやポータルサイトから買い、それらを顧客企業に販売して手数料を稼ぐのが収益の柱だった。ところが今は、技術を活用してユーザーに適した広告を表示するなど、広告の価値を高める提案を積極的に行っている。つまり「手数料ビジネスだけでなく、ソリューションビジネス(顧客企業の課題を解決することで利益を上げるビジネスのこと)への拡張」が進んでいるわけだ。また、広告という枠を飛び越え、ビジネス全般の「支援」「創造」「開発」を手がける取り組みも盛ん。下のニュース記事でも紹介しているように、広告関連の会社がソリューションビジネスを手がける企業を買収したり、逆にソリューションビジネス系企業が広告会社を買収したりするケースが目につく。

国内の広告市場は成熟しており、急激な拡大は期待しづらい。また、国内の顧客企業はグローバル化を進めており、広告会社にも海外対応力が求められている。そこで大手を中心に、海外展開を進める企業が増加中。例えば、業界最大手の電通(15年1月~12月の売上高は5.0兆円)は13年3月、イギリスの大手広告会社イージス・グループの買収を完了した。その後も同社は、13年4月から15年12月にかけ、全76件の海外M&A投資を実施。海外での事業基盤を拡大することで、15年決算の「売上総利益に占める海外事業構成比」を54.3パーセントにまで伸ばしている。また、業界2位の博報堂DYホールディングス(16年3月期の売上高は1.2兆円)も、19年3月期における売上総利益の海外比率を20パーセントまで高める目標を立てた。広告業界を志望する人は、海外拠点の強化・新設や、海外企業の買収といったニュースにぜひ注目しておきたい。

広告業界志望者が知っておきたいキーワード

運用型広告
クリック数などの成果を見て広告の修正を行えるなど、機動的な運用ができるネット広告のこと。ユーザーの検索結果に応じて表示する広告を変える「検索連動型広告」が代表的。

アドテク
「アド・テクノロジー(Ad Technology)」の略。主にインターネット広告において、広告効果を最大化・効率化するために使われる技術を総称した言葉。ユーザーの属性や、広告が表示される場所などの情報を分析した上で、最適なインターネット広告を売買して表示する広告配信方式の「リアルタイム入札(RTB)」などがある。

スマホ向け動画広告
スマートフォン向けの広告市場は順調に拡大中。また、サイバーエージェントの調査によると、2015年における動画広告の市場規模は506億円で、対前年比60パーセント増となった。スマホ向け動画広告はそのうち46パーセントを占め、市場規模は前年度に比べ約2.7倍に拡大している。

このニュースだけは要チェック <「広告関連会社+ソリューション企業」の動きに注目>

・博報堂DYホールディングス傘下の戦略事業組織「kyu(キュー)」が、世界的に知られているデザインコンサルティング企業IDEO社の株式のうち30パーセントを取得。博報堂DYホールディングスは「専門マーケティングサービス企業の取り込み」を目指しており、今回の出資もその一環。(2016年2月10日)

・経営コンサルティング企業であるアクセンチュアの日本法人が、デジタルマーケティングを手がけるアイ・エム・ジェイを子会社化することで合意したと発表。このところ、アメリカではコンサルティング企業が広告関連会社を買収する動きが活発化しており、この買収劇はその代表的な事例と言える。(2016年4月5日)

この業界とも深いつながりが <食品業界などが大口の顧客>

食品
食品業界の広告費は、マスメディア広告費の約1割を占めている

eコマース
ネット通販に関する広告は、今後、伸びが期待されている分野

テレビ
テレビCM枠の販売手数料は、広告会社にとって依然として大きな収益源

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント
市岡敦子氏

市岡敦子

東京大学大学院農学生命科学研究科国際開発農学専攻修士課程修了。未来洞察による新規事業構築支援、官公庁・自治体におけるビジョン策定支援などのコンサルティングを中心に活動。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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