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Vol.321 医薬品メーカー編

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国内各社は得意領域への注力や新興国市場の開拓を進行中。業界再編の動きにも注目しよう

医薬品は、医師の処方箋が必要な「医療用医薬品」と、ドラッグストアや薬局などで処方箋なしで売られる「一般用医薬品」(キーワード参照)に大別される。そして医療用医薬品は、先発医薬品(キーワード参照)と、先発医薬品の特許が切れた後に製造されるジェネリック医薬品(キーワード参照)に分けられる。国内医薬品市場の9割程度は医療用医薬品によって占められており、さらにそのうちの9割程度が先発医薬品である。

 

アメリカのヘルスケア情報サービス会社であるIMSヘルス(現クインタイルズIMS)によれば、2014年における世界の医薬品市場規模は109兆円。前年より8.4パーセント増で、05年(63兆円)以降成長が続いている。また、国内市場も2000年以降は伸びており、15年の国内医薬品市場は10.6兆円と初めて10兆円の大台に達した。日本市場は世界市場の1割近くを占め、北米に次ぐ世界第2位の規模だ。ただし、日本では医療費抑制のため薬価が引き下げられる傾向が強まっている。また、安価なジェネリック医薬品の使用拡大が進められていて、国内市場の急激な伸びは期待しづらい状況だ。

 

医薬品業界は、ハイリスク・ハイリターンの構造だ。「ブロックバスター」(キーワード参照)を開発できれば、莫大な利益が得られる。例えば、ギリアド・サイエンシス(アメリカ)は、C型肝炎特効薬「ハーボニー」など2つのC型肝炎特効薬により躍進。13年当時の売上高は世界20位に過ぎなかったが、15年には一気にトップ10入りを果たした(ニュース参照)。一方、新薬の開発には失敗の危険性も高い。日本製薬工業協会によれば、1つの薬を開発するのには9~17年の期間が必要とされる。また、新薬の有効性や安全性を確かめる治験(キーワード参照)などを経た結果、莫大な研究開発費と期間を費やした新薬が、開発中止に追い込まれるケースも多い。有効な新薬を生み出す余地は年々小さくなっており、そうした中でブロックバスターをいくつ生み出せるかが、各社の業績を大きく左右するのだ。

 

前述の通り、薬価の引き下げやジェネリック医薬品の使用拡大により、日本市場は大きな成長が見込めない。また、多額の研究開発費をまかなうためには、グローバル市場でのシェア拡大が不可欠だ。そこで国内大手企業は、海外展開を進めている。例えば武田薬品工業やアステラス製薬は、05年度に40パーセント台だった連結海外売上高比率を、15年度には60パーセント台にまで高めている。ただし、外資系の巨大企業との競争は熾烈だ。IMSヘルスのデータによると、14年度におけるノバルティス(スイス)の売上高は5.3兆円(1ドル=103円で換算。以下同)、ファイザー(アメリカ)の売上高は4.6兆円。一方、国内トップである武田薬品工業の売上高は1.4兆円に過ぎず、規模で劣る国内企業が研究開発費負担能力や販売網拡充の点で不利な点は否めない。

 

そこで各社は、「選択と集中」を進めて得意領域に専念しようとしている。武田薬品工業は「消化器」「がん」「中枢神経系疾患」領域を成長分野と位置づけ、重視している。また、アステラス製薬は得意分野である「泌尿器」や「移植領域」(臓器移植時の免疫抑制剤など)に加え、「がん」領域を第三の柱とすべく新薬開発を進めている。

 

業界再編の動きにも注目しておきたい。このところ目立つのは、「選択と集中」を目指して事業の一部を交換・整理する事例だ。例えば15年3月、ノバルティスとグラクソ・スミスクライン(イギリス)がそれぞれの得意分野に集中することを目指し、両社が持つワクチン事業とがん領域事業の交換を完了している。日本でも、武田薬品工業が経営資源の集中を計るため、ジェネリック大手のテバ・ファーマシューティカル・インダストリーズ(イスラエル)と合弁会社を設立して特許切れ薬を移管。また、アステラス製薬はバイオベンチャーのオカタ・セラピューティクス(アメリカ)を買収し、眼科や再生医療などの領域で事業拡大を目指している。今後も、得意領域を補強、拡大するための再編が増えていきそうだ。

 

医薬品メーカー志望者が知っておきたいキーワード

一般用医薬品
ドラッグストアや薬局などで市販されている薬のこと。OTC(Over The Counterの略)医薬品と呼ばれることもある。近年、医療用医薬品の成分を転用した「スイッチOTC」(解熱・鎮痛剤のイブプロフェン錠、ロキソニン錠などが代表格)が増えつつある。

先発医薬品とジェネリック医薬品
先発医薬品は、莫大な研究開発費と長い期間をかけて開発される。一方、ジェネリック医薬品(後発医薬品、ゾロ薬とも呼ばれる)は、特許期間が終了した医薬品を他社が製造・販売するもので、先発医薬品に比べ研究開発費がケタ違いに低い。そのため薬価も安く、医療費抑制を目指す国によって普及が進められている。

ブロックバスター
大きな売り上げをもたらす大ヒット医薬品のこと。一般には、年1000億円以上の売り上げがある医薬品をブロックバスターと呼ぶことが多い。

治験
新薬の候補として選ばれた化学物質を開発の最終段階で人に投与し、効果と安全性を確認する試験を「臨床試験」と呼ぶ。そのなかで、特に厚生労働省から審査・承認を受け、医薬品として認められるための臨床試験を「治験」と呼ぶ。

このニュースだけは要チェック <薬価引き下げの圧力は今後も強まりそう>

・厚生労働省が、高額な抗がん剤「オプジーボ」(小野薬品工業)に対し、薬価の引き下げ案を提示。この薬は画期的な効果を発揮する可能性がある半面、「1人あたり年間約3500万円」と言われる高価な価格でも話題になっていた。今後、薬価引き下げの圧力はさらに強まる可能性が高い。(2016年10月5日)

 

・米医薬品メーカーのギリアド・サイエンシスが、2015年の総収益が3.4兆円に達したと発表。前年(2.6兆円)より約3割増えており、売上高で世界トップ10に入った。うち、C型肝炎の2つの特効薬である「ハーボニー」と「ソバルディ」の売り上げが大きな割合を占めている。(2016年2月2日)

 

この業界とも深いつながりが <医薬品卸との関係はきわめて強い>

CRO(医薬品開発業務受託機関)
有効な新薬を素早く開発するため、CROの助力を得るケースが増えそう

医薬品卸
医療用医薬品を薬局や病院に流通させるため、医薬品卸と協力する

病院・診療所
治験などを行う際に病院・診療所の協力を仰ぐケースも多い

 

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント 
橘田尚明氏

橘田尚明

東京大学大学院技術経営戦略学専攻修士課程修了。中長期経営計画策定支援、新規事業テーマ構築支援、未来洞察などのコンサルティングを中心に活動。米国公認会計士。

 

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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