証券編・2017年【業界トレンド】

売買手数料収入以外に収益の柱を求める動きが活発化。個人投資家の取り込みも焦点に

証券会社の業務には、大きく分けて2つある。1つは個人顧客向けの「リテール業務」。もう1つは、法人顧客を相手にする「ホールセール業務」である。リテール業務の収益源は、株式や投資信託(投資家から集めた資金を、専門家が株式や債券などで運用して利益を増やそうとする商品のこと)の売買手数料や、顧客から預かった資産の管理にかかる信託手数料などだ。一方、ホールセール業務の場合は、株式や債券などの売買仲介をしたり、企業の資金調達のためIPO(新規株式公開。キーワード参照)や社債発行、M&A(Mergers and Acquisitionsの略。企業の合併・買収のこと)への助言を行ったりして得られる手数料などが収益源である。

証券会社は、業態によって2タイプに分けることもできる。1つは、店舗を構えてサービスを提供する、従来型の証券会社。もう1つは、インターネットを使った取引に特化したネット専業証券会社だ。従来型証券会社は、リテール業務とホールセールの双方を手がけているケースが多い。大手としては、資本面で独立性の高い野村ホールディングスと大和証券グループ、メガバンクと強い結びつきを持つ三菱UFJ証券ホールディングス、SMBC日興証券、みずほ証券などがある(以上の5社は「国内大手5社」とも呼ばれる)。一方、ネット専業証券会社は店舗を持たないため、店舗維持費や人件費などの負担が軽いのが特徴。従来型証券会社より売買手数料を安くできることを訴求し、個人投資家を中心にシェアを拡大している。

株式の売買手数料は、株価に大きく左右される。株価が上がっている時は売買が活発化して売買手数料収入が増え、株価が下がる局面では投資家が株式売買を手控え、売買手数料が落ち込みやすいからだ。2012年12月初頭の日経平均株価は9400円台だったが、12年12月下旬の第2次安倍政権発足後に株価が上昇し、15年6月には2万900円台と約18年ぶりの高値を記録。これにより、証券各社の業績は上向いた。ところが、15年8月の中国株式市場暴落を機に世界同時株安が起き、さらに新興国経済の減速、資源価格の低迷、英国のEU離脱なども重なって状況は一変。世界経済が急速に不安定化したことで、日経平均株価は乱高下を繰り返しつつも値下がり傾向となり、一時は1万5000円を割り込んだ。その結果、国内大手5社のすべてが16年第3四半期決算で減収となるなど、各社の業績は悪化している。

17年に入り、トランプ新大統領が打ち出す経済政策への期待感から、アメリカの株式相場は上昇に転じた(いわゆるトランプ相場)。これを前向きにとらえ、日経平均も回復基調にあるが、世界経済の先行きには不透明な部分が多いと言えるだろう。また、ネット専業証券会社が個人顧客を中心にシェアを伸ばしていることもあり、従来型証券会社の中には売買手数料以外に収益源を求めるところが増えている。とりわけ目立つのが、株式相場の変動に影響を受けにくい手数料収入を増やそうとする試みである。例えば、投資信託や「ラップ口座」(顧客と投資一任契約を結び、運用から管理まで一括で行う契約のこと。口座残高に応じて手数料が発生する)は、売買額ではなく資産の管理額に応じて手数料が得られるため、多くの企業が注力している分野だ。

また、国内での競争が激しくなっている状況を受け、海外進出を強める企業もある。例えば、みずほ証券の親会社であるみずほフィナンシャルグループは15年、イギリスの大手銀行であるロイヤル・バンク・オブ・スコットランドから、アメリカにおける一部事業と資産を買収した。ほかの大手証券会社の中にも、海外進出を目指す動きが見られる。

もちろん、個人顧客を取り込むための施策も重要だ。政府は「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、NISA(少額投資非課税制度。キーワード参照)などの制度を導入。個人投資家が株式市場に参加しやすい環境が整いつつあるのに対応し、証券各社は資産運用の助言をするスマホ向けアプリの提供、投資セミナーの拡充などを行って個人顧客の取り込みを図っている。

証券業界志望者が知っておきたいキーワード

IPO(新規株式公開)
Initial Public Offeringの略。未上場の企業が、株式を証券市場で一般の投資家に向けて売り出すことを指す。IPOにより売り出された株の株価は公募価格よりも値上がりすることが多く、投資家の注目を集めている。手がけた証券会社には、その取引規模に応じた報酬がもたらされる。

NISA(少額投資非課税制度)
Nippon Individual Savings Accountの略で、「ニーサ」と読む。株式の値上がり益や配当金に対する税金が、5年間にわたり、年120万円まで非課税となる仕組み。2016年には、未成年を対象にした「ジュニアNISA」(非課税枠は年80万円)も始まった。個人投資家を株式市場に呼び込む効果があるとされている。

投資銀行業務
法人顧客を対象としたホールセール業務のうち、株式や債券の引き受けによる企業の資金調達の支援、M&Aの仲介や助言などの業務を指す。大手証券会社の中には、投資銀行業務に力を入れているところも多い。

このニュースだけは要チェック <株価に影響を与えるイベントは常に確認を>

・国民投票によってイギリスのEU離脱が確実となり、世界の株式市場が大荒れとなった。東京株式市場の日経平均株価も、前日比7.9パーセント安と大幅に下落。株価は、政治・経済などのイベントに左右されるケースが多いため、証券業界志望者は国内外のニュースに目配りしておこう。(2016年6月24日)

・東京証券取引所が「2016年9月中間期 東証総合取引参加者 中間決算概況」を公表。2016年9月における「総合取引参加者(東京証券取引所で有価証券の売買ができる証券会社のこと)」の委託手数料(顧客から受け取る売買手数料)は、前年同期(3603億円)より33パーセント減の2410億円にとどまった。売買手数料だけに依存したビジネスが成り立たなくなっていることがわかる。(2016年12月5日)

この業界とも深いつながりが <銀行との結びつきが強い>

メガバンク
グループ内の銀行と協力し、投資信託などを個人顧客に販売する動きが活発化

生保・損保
保険や年金を手がける証券会社がある一方、生保が投資信託を扱うケースもある

マンションディベロッパー
不動産会社が手がけるREIT(不動産投資信託)分野は証券業界と密接に関係

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 関西コンサルティンググループ コンサルタント
木下直紀氏

kinosita-

東京大学法学部卒業。大学卒業後、大手都市銀行を経て現職。民間企業向けの事業戦略策定、業務プロセス改革、組織風土変革等の調査・コンサルティング業務に従事している。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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