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Vol.335 海運編

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需要は上向きだが、先行きには不透明な部分も。各社は事業統合やIT活用で合理化を図る

海上輸送を手がける「海運業」は、日本と海外、および外国間の輸送を担う「外航海運」と、国内での輸送を担う「内航海運」とに大別される。また、運行スケジュール・輸送形態により、運行スケジュールや運賃が公開され、1隻の船にさまざまな荷主の荷物を搭載する「定期船輸送」と、特定の大口荷主の求めに応じてその都度輸送する「不定期船輸送」に分けることも可能だ。なお、海運会社は貨物と旅客の双方を手がけるが、現在では売り上げのほとんどを貨物が占める。したがって、世界経済や他業界の動向に応じて貨物量が増減すると、海運会社の業績に大きな影響が出る。

 

海運で運ぶ貨物は、原油やLNG(液化天然ガス)、鉄鉱石などの資源、穀物などの食料、自動車など幅広い。そこで海運会社には、原油などを運ぶ「タンカー」、石炭や穀物などを梱包されていないバラバラな状態のまま輸送する「バラ積み船」、さまざまな貨物を収めたコンテナを運ぶ「コンテナ船」、自動車を専門に運ぶ「自動車運搬船」などを用意する必要がある。

 

国内企業では、日本郵船(略称NYK)、商船三井(略称MOL)、川崎汽船(略称KLINE)の3社が代表的だ。2015年度の売上高は、日本郵船が2.2兆円、商船三井が1.7兆円、川崎汽船が1.2兆円。4位企業の売上高が1500億円であることから、この3社は抜きんでた存在だと言える。

 

2007年までの海運業界は、好調な世界経済を背景に活況だった。社団法人日本船主協会によると、2007年における日本商船隊(日本の外航海運会社が運航する船全体を指す)の総運賃収入は3兆3980億円。しかし、リーマン・ショック後の2009年には、2兆240億円にまで落ち込んだ。その後は、経済の立ち直りに歩調を合わせて徐々に回復。2015年は、最大の資源輸入国である中国で景気が持ち直して鉄鉱石などの輸送量が増えたこともあり、総運賃収入は3兆2660億円まで戻ってきた。ただし、今後には不透明な部分もある。例えば、保護主義的な政策を掲げるトランプ政権がアメリカで発足したことなどが、外航海運の輸送需要を押し下げる可能性も考えられるからだ。

 

世界的な船舶の供給量も、海運会社の業績を大きく左右する。2007年までの好況期に大量発注された船が、2010年以降に相次いで完成。その結果、船が余ってしまって運賃の値下げ合戦が起き、海運市況の悪化を招いた。また、2017年には海運各社において大型船の竣工が多数予定されており、船舶は引き続き供給過多になるだろうと予想されている。世界の海運運賃の総合指数である「バルチック海運指数」(ロンドンのバルチック海運取引所が発表している外航不定期船・バラ積み船の運賃指数。1985年1月4日の指数を1000として算出されている)は、2008年5月に1万1793ポイントを記録。しかし、その後は船舶の供給過多や世界経済の減速などが影響して落ち込み、1000ポイント前後で推移していた。2017年3月、中国の輸入量改善を背景に2年4カ月ぶりに1300ポイントを回復したが、本格的な回復はまだまだ先になりそうだ。

 

運賃収入が伸び悩む中、各社は輸送の効率化によって利益増を目指している。国内大手3社はそれぞれ国際的なアライアンス(企業連合)に属し、海外の海運会社と共同運航などを行ってコスト削減を目指している(下記参照)。また、気象情報や船舶の運航データなどのビッグデータを活用して燃料節約を目指すなど、輸送効率の向上に向けた取り組みも進行中だ。さらに、経営合理化を目的とした業界再編も、世界規模で活発に行われている。日本も例外ではなく、2016年10月には国内大手3社が定期コンテナ船事業を統合すると発表した。この統合が実現すれば船隊規模では世界6位となり、年間1000億円以上の統合効果が期待されている。

 

また、各社が新しい収益の柱として積極的に投資を進めているのが、海底ガス田・油田などの「海洋資源開発分野」だ。運賃収入が低迷している中、世界的なエネルギー需要増加を見込み、将来的に安定した収益源を確保することが狙いだ。ただし、「シェールガス(地中深くのシェール層から採掘される天然ガス)革命」は不安材料。北米大陸で産出されるシェールガスに比べ、海洋ガス田・油田から算出される資源は高コストになることが多く、規模縮小や開発中止になっている事業も少なくない。例えば日本郵船は、2016年6月に出資した海洋開発会社関連の特別損失を、2016年12月期決算で130億円計上している。海洋資源開発は各社にとってチャンスである半面、投資をした事業が不採算になり損失を抱える危険性もあるのだ。投資案件を見極める力が、一層重要になっていると言えるだろう。

 

国内「3強」は国際的な企業連合を組み、採算性向上を図る

ザ・アライアンス
日本郵船、商船三井、川崎汽船が属するアライアンス。3社に加え、ハパックロイド(ドイツ)、陽明海運(台湾)が参加している。

2Mアライアンス
A.P. モラー・マースク(デンマーク)とMSC(スイス)が参加しているアライアンス。

オーシャンアライアンス
CMA CGM(フランス)、中国遠洋運輸集団(中国)、OOCL (香港)、長栄海運(台湾)が参加しているアライアンス。

※以前は、日本郵船が「グランド・アライアンス」、商船三井が「ザ・ニュー・ワールド・アライアンス」、川崎汽船が「CKYHEアライアンス」に属していたが、業界再編の進行とともにアライアンスの枠組みが変化。2017年4月以降、国内大手3社はすべてザ・アライアンスに属することになった。今後も、アライアンスの動向には注目が必要だ。

このニュースだけは要チェック <運賃収入を左右しそうなニュースに注目しよう>

鉄鉱石を運ぶ大型バラ積み船の運賃が上昇。運賃と連動して動く「スポット(随時契約)用船料」の主要航路平均が、1年8カ月ぶりに2万ドル台を回復した。中国での鉄鉱石需要増加が背景にある。海運は世界の経済・政治の動きに大きな影響を受けるため、グローバルな情報も得るようにしたい。(2017年3月29日)

 

商船三井がサムスン重工業(韓国)に発注していたコンテナ船「MOLトライアンフ」が完成。長さ400メートル、幅58.8メートルという大型船で、世界最大級の積載量を誇る。低摩擦船体塗装や高効率プロペラといった技術を積極的に採用し、CO2排出量の抑制にも成功しているという。(2017年3月28日)

 

この業界とも深いつながりが <総合商社と協力する機会はさらに増加か?>

総合商社
海洋資源の開発プロジェクトなどで協力する機会が増えそう

自動車メーカー
自動車運搬船から得られる利益は、海運会社にとって大きな柱

陸運
海運会社と陸運会社が協力し「トータル物流」を提供するケースも多い

 

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 関西コンサルティンググループ コンサルタント
木下直紀氏

木下直紀

東京大学法学部卒業。大学卒業後、大手都市銀行を経て現職。民間企業向けの事業戦略策定、業務プロセス改革、組織風土変革等の調査・コンサルティング業務に従事している。

 

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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