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Vol.339 化学編

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付加価値の低い基礎製品・中間製品から撤退し、高付加価値な分野に注力する動きが活発に

化学業界には、原油・天然ガスなどからエチレン(キーワード参照)・ナフサ・エタン・プロピレンなどの基礎製品を生み出す企業、基礎製品を原料としてプラスチック・合成繊維・合成ゴムなどの中間製品を作る企業、中間製品から最終製品を生み出す企業という3種類の企業が属している。

 

基礎製品を生み出す企業としては、三菱ケミカルホールディングス(2015年度売上高3兆8231億円)、住友化学(同2兆1018億円)、旭化成(同1兆9409億円)、三井化学(同1兆3439億円)などがある。これらの企業は中間製品や最終製品も手がけているため、総合化学メーカーと呼ばれることもある。また、中間製品を手がける企業としては、半導体に使われる「シリコンウェハー」などを生産する信越化学工業(同1兆2798億円)、化学繊維メーカーの東レ(同2兆1044億円)や帝人(同7907億円)、合成ゴムが主力のJSR(同3867億円)などが挙げられる。そして最終製品を手がける企業には、自動車・家電製品・日用雑貨・アパレル・医薬品など幅広い分野のメーカーがある。

 

近年、中国・中東を中心に、基礎製品や中間製品を生産するプラントが数多く新・増設されている。経済産業省「世界の石油化学製品 今後の需給動向」によると、2014年末時点で1億5570万トンだった世界のエチレン生産能力は、2020 年末には1億9990万トンと、4420万トンも拡大する見通し。このうち、中国・中東の拡大分は1000万トンを超えると予測されている。すでに中東では、エチレンの供給が需要を大幅に上回っている状況。今後も生産能力は伸び、中東からの輸出量も増加するだろう。

 

中国・中東からの輸出量が増えれば、世界的に基礎製品・中間製品が供給過多となり、価格競争が激化する危険性が高い。こうした状況に対応し、日本の化学メーカー各社は「事業ポートフォリオ」(企業が手がけているいくつかの事業の組み合わせ方を指す)の再構築を急いでいる。例えば、三菱ケミカルホールディングスは2017年4月、傘下の3社を統合。今後は、最終製品の3分野に注力する方針を示している(下記ニュース参照)。また住友化学は、2015年5月までエチレンを生産していた工場を利用し、高機能樹脂の量産を始めると発表した(下記ニュース参照)。こうした、「基礎製品・中間製品から最終製品へ」「低付加価値製品から高付加価値製品へ」という流れは、今後も続きそうだ。

 

中国・中東の新興勢力と競争しているのは日本メーカーだけではない。欧米の大手企業も、競争力の強化に勤しんでいる。例えば、アメリカの大手化学メーカーであるダウ・ケミカルと、やはりアメリカの大手化学メーカーであるデュポンは、合併に向けた動きを2015年12月から開始。2017年3月には、欧州委員会から条件付きで合併の承認を得た。今後はアメリカや中国からの承認も必要となるが、統合が実現すれば、世界最大の化学企業が誕生することになる。このように、経営規模の拡大によって開発力の強化やコスト削減を図り、世界市場における競争力の強化を目指す企業も増えそうだ。

 

ベンチャー企業の動向にも注目しておきたい。日本メーカーが優位とされる高機能素材の領域では、ベンチャー企業が開発した新製品によって業界地図が変わるケースも多いからだ。例えば、慶應義塾大学先端生命科学研究所発のベンチャー企業Spiberは、クモの糸の特性を生かした新素材「QMONOS(クモノス)」を開発。鋼鉄より強くてナイロンより伸縮性が高く、軽くて熱に強いといった特徴を持ち、自動車や医療機器、アパレルなどの分野で需要拡大が期待されている。また、東京工業大学発のベンチャー企業Zettaは、「セルロースナノファイバー」(キーワード参照)の量産化を実現した。こちらは、電子機器などへの応用が有望視されている。付加価値の高い製品の比率を高めようとする大手メーカーが、斬新な技術を持つベンチャー企業と組むケースは、今後さらに増えていくだろう。

 

化学業界志望者が知っておきたいキーワード

エチレン
C2H4の化学式で表される物質で、さまざまな化学製品の基礎となる。日本では、原油を精製してできたナフサからエチレンを作る場合がほとんどだが、アメリカでは天然ガス中のエタンからエチレンを作るケースが増えている。

エチレンセンター
エチレンを生産する設備「エチレンプラント」を中心とした、石油化学コンビナートのこと。エチレンを精製する過程でプロピレン、ブタンなども得られるため、中間製品の生産工場も併設されることが多い。2022年には国内の半数以上が稼働50年を超えるため、メンテナンスコストの増大が懸念されている。

セルロースナノファイバー
木材繊維を太さ数ナノ~数十ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)という細さに微細化した繊維のこと。CNFと略されることもある。鉄より軽くて強度が高く、透明で熱を加えても膨張しにくい。また、食物由来であるため、環境負荷が小さい点も特徴だ。

高機能素材
材料に特殊な機能を持たせることで、最終製品の付加価値向上を実現した素材。代表的なものとして、炭素繊維・セルロースナノファイバー・リチウムイオン電池材料(正極材、負極材、電解液、セパレータ)などが挙げられる。

事業ポートフォリオを再構築する動きが盛んだ

・三菱ケミカルホールディングスが傘下の三菱化学・三菱樹脂・三菱レイヨンの3社を統合し、三菱ケミカルを発足させた。各社が保有していた機能を統合し、事業・技術の相乗効果を起こすことで、500億円の効果を期待している。今後は、ヘルスケア・素材・機能商品の3分野に注力する方針。(2017年4月1日)

 

・住友化学は、2015年5月にエチレンの生産を停止した千葉工場で、2018年を目途に高機能樹脂のポリエーテルサルホン(PES)の量産を始めると発表。競合との差別化が難しいエチレンから撤退し、高い成長が見込める環境・エネルギー分野で需要が伸びそうなPESに力を入れる動きの一環と言える。(2016年7月21日)

 

この業界とも深いつながりが<化学製品をさまざまな業界に提供>

石油
化学製品の基となるエチレンなどを生産するには、原油や天然ガスが不可欠

自動車メーカー
軽くて強い新素材が、自動車の車体などに採用されるケースが増えている

アパレル
アパレルメーカーと協力し、機能性の高い繊維を作る繊維メーカーもある

 

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 未来デザイン・ラボ コンサルタント
小林幹基氏

kobayashi_sama

京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。大手電機メーカー、ニューヨーク大学客員研究員を経て現職。専門は、海外進出戦略、事業戦略、未来洞察による新規事業開発。

 

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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