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Vol.350 地方自治体編

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より良い公共サービスの提供を目指し、地方自治体同士で連携を目指す動きが進みそうだ

地方自治体は「基礎自治体」(市町村と、東京にある23の「特別区」が該当)と、いくつかの基礎自治体が集まった「広域自治体」(都道府県が該当)とに分かれる。どちらも、その地域に住む人々に対して福祉・保健、教育、警察、消防などのサービスを提供するのが役割。中でも基礎自治体は、住民にとって非常に身近な存在だ。

 

日本では1999年から2010年にかけ、財政基盤の強化などを目指して市町村の合併が進められた(いわゆる「平成の大合併」)。これにより、1999年3月末時点で3232あった市町村は、2010年3月末時点で1727まで減少している。なお、2017年8月時点の市町村数は1718で、内訳は市が791、町が744、村が183だ。また、「平成の大合併」に伴い、地方公務員の削減も進んでいる。1994年時点で328.2万人いた地方公務員は、22年連続で減少。2016年には273.7万人となり、1994年に比べて6分の5程度になっている。

 

多くの地方自治体は、2つの共通課題を抱えている。1つ目は、出生率の低下などがもたらす「人口減少」。もう1つは、団塊の世代(下記キーワード参照)が高齢者の仲間入りをしたことなどで加速する「高齢化」だ。中でも深い悩みを抱えているのが、都市部以外の地方自治体である。地方の若い人たちの中には、働く場を求めて都市部に移住するケースが少なくない。それにより、地方では働き手や子育てをする世代が減って、少子高齢化がさらに進んでしまうのだ。すると税収が落ち込む一方、高齢者の割合が高まって福祉などの負担が増す。その結果、公共サービスの質が下がったり、地域の活力が失われたりして、さらなる人口流出を生むのである。

 

こうした流れを押しとどめるため、各地方自治体は政府と協力しながら対策を講じている。その1つが、「地方創生」への取り組みだ。例えば、地域の農産品や観光資源の魅力を再発見し、それをほかの地域や世界に向けて発信することで、商業の活性化や観光客の呼び込みを目指す動きが盛んになっている。また、地方自治体が中心となって「産学連携」(下記キーワード参照)を進め、地域活性化を目指すケースも多い。そこで今後の地方自治体には、多様な関係者を一つにまとめる力や、地方の「稼ぐ力」を高めるための企画力などが求められそうだ。

 

都市から地方へと、人の流れを変えようとする動きもある。例えば、人口減で増えた空き家を都市圏の住人に貸し出して休暇を楽しんでもらったり、空きビルを企業の「サテライトオフィス」や「テレワーク」(下記キーワード参照)の拠点として活用したりする試みが代表的だ。近年は、労働・通勤時間の短縮や、一人ひとりの状況に合った柔軟なワークスタイルを目指す「働き方改革」に注目が集まっており、こうした動きは活発化しそうだ。また、官公庁や公的研究機関の一部を地方に移転させる取り組み(下記ニュース参照)や、退職したシニア世代に地方への移住を促す「日本版CCRC構想」(下記キーワード参照)にも注目が必要だ。

 

少子高齢化のデメリットを最小限に抑える工夫も表れている。例えば、地域住民が健康への取り組みを継続すると、それに応じて商品券などが手に入る「健康ポイント制度」を導入する地方自治体が登場。これは医療費抑制につながるだけでなく、健康な高齢者の就労や地域活動への参加を促すことで働き手を増やそうという狙いがある。また、出生率を高める取り組みも重要だ。保育園などの増設や、出産前後の女性が働きやすい職場環境の整備を企業と協力しながら進めることなどが求められている。

 

限られた予算や人員を最大限に生かすため、複数の地方自治体が協力し、住民向けサービスの提供を行う動きも増えそうだ。例えば、ゴミ処理や道路・河川の管理、自治体が使うITシステムの整備・運用などは、各地方自治体が自前で行おうとすると、どうしても非効率な面がある。そこで、複数の地方自治体が連携し、いくつかの住民向けサービスを集約・一元化することができれば、サービスに必要な人手を減らしたり、設備をより有効活用したりできるようになるだろう。

 

地方自治体志望者が知っておきたいキーワード

団塊の世代
第2次世界大戦直後の1947年~1949年に生まれた人々のことで、「第1次ベビーブーム世代」とも呼ばれる。年間出生数は260万人以上(2016年の年間出生数は97.7万人)で、この世代が高齢者(65歳以上)に達した2012年以降、日本の高齢化はさらに加速した。2016年の高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)は27.3パーセントとなっている。
産学連携
企業や金融機関、大学などの研究機関が連携し、新たな技術や商品、サービスなどの開発を目指すこと。さまざまな関係者が人手・資金・アイデア・販路などを持ち寄り、互いの得意分野を生かしながら協働することで、大きな効果が期待できる。近年、地方自治体が旗振り役となって産学連携が進められるケースが目立っている。
サテライトオフィス/テレワーク
サテライトオフィスとは、衛星(satellite)のように本社などから離れたオフィスのこと。テレワークとは、「遠く」という意味の接頭辞のteleとworkを組み合わせた言葉で、自宅や外出先、サテライトオフィスなどで働くことを指す。ネットワーク技術の進化などによって企業と離れた場所での勤務が可能となったことは、「都市から地方へ」という流れを後押ししている。
日本版CCRC構想
CCRCとはContinuing Care Retirement Community(継続的なケア付きの退職者向け共同体)の略。都市部に住むシニア層が健康なうちから地方に移住し、介護や医療が必要となる時期まで継続的なケアや生活支援サービスなどを受けたり、生涯学習や社会活動などに参加できたりする地域のこと。シニア層が健康なうちは、地方での再就職や地域活動への貢献が期待できる。
RESAS(リーサス)
地方創生の検討を行う際のデータ分析などをスムーズに行うため、経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が提供している「地域経済分析システム」のこと。地方自治体がRESASを使って地域の現状・課題を分析し、解決策を考える政策アイデアコンテストが開催されており、注目されている。
空き家率
総住宅数に占める空き家数の割合。5年に1度行われている「住宅・土地統計調査」によれば、2013年の空き家率は過去最高の13.5パーセント。上位には、山梨県(17.2パーセント)、愛媛県(16.9パーセント)、高知県(16.8パーセント)などが入っている。

このニュースだけは要チェック<中央省庁の地方移転はどの程度進むか?>

・文化庁が京都府京都市に「地域文化創生本部」を設置し,本格移転への準備を開始した。東京に集中している官公庁の機能を地方に移転することで、「都市から地方へ」という人の流れを作る試みとして注目されている。(2017年4月1日)

 

・総務省統計局が、平成27年(2015年)国勢調査結果の確定値を発表。日本の総人口は1億2709 万4745 人で、前回調査(2010年実施)に比べて96 万2607 人の減少となった。国勢調査で人口減の結果が発表されたのは、1920年(大正9年)の調査開始以来、初めてのこと。(2016年10月26日)

 

この業界とも深いつながりが<他業界と連携した地域活性化の取り組みが増える>

地方銀行
資金力と地域ネットワークを持つ地方銀行と連携して地域創生を目指す機会は多い

旅行
旅行会社と協力して地域の観光資源を発掘し、国内外からの旅行者を呼びよせる

鉄道
鉄道・バスなどの公共交通機関と協力し、住みやすい街づくりを目指す

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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