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Vol.352 損害保険編

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国内市場の停滞に備え、各社は海外事業の強化や新保険商品の開発などで成長を目指す

損害保険とは、自然災害や事故などによって生じた損害を補償する保険商品のこと。火災保険、自動車保険、傷害保険、海上保険など、さまざまな種類がある。日本では自動車関連の保険のシェアが大きく、自動車保険と自動車損害賠償責任保険を合わせると、全体の約6割を占めている。

 

この業界の特徴の一つが、参入している企業数が少ないことだ。加えて、2010年前後から業界再編が進んだ結果、国内の損害保険会社(以下、損保会社)は東京海上ホールディングス(東京海上日動火災保険などに出資)、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険などに出資)、SOMPOホールディングス(損害保険ジャパン日本興亜などに出資)の「3メガ」に集約された。現在、この3社で市場シェアの約9割を占めている。

 

一般社団法人日本損害保険協会によると、2016年度における同協会加入26社の正味収入保険料(損保会社が保険契約者から受け取った保険料から、保険契約者に払い戻した解約返戻金、積立型保険の貯蓄部分の保険料を引き、さらに他社とやりとりした再保険料を足し引きした額のこと)は8兆2439億円。前年度より1.4パーセント減だった。自動車保険は保険料率の引き上げなどが追い風となって前年度比1.8パーセント増と堅調だったが、2015年の商品改定で「駆け込み需要」が発生していた火災保険が、その反動によって14.9パーセント減となったのが響いた形だ。ただし、景気回復や各社の保険料値上げなどを背景に、正味収入保険料は右肩上がりの傾向。2010年度(6兆9710億円)に比べると、市場は2割近く拡大している。

 

だが将来的には、楽観視できない要素もある。国内では若者の自動車離れや少子高齢化・人口減少などにより、自動車保有台数の減少が危惧されている。また、国内経済の停滞や、企業の海外進出の加速などにより、企業の設備投資の大きな伸びは期待しづらい。そうなると、自動車保険や企業向けの損害保険などの売り上げに悪影響が出る可能性がある。そこで各社はさらなる成長を目指し、経営の効率化や保険料率の柔軟な見直しを進めている。また、海外進出や、既存の顧客基盤を生かした経営の多角化にも積極的だ。

 

2016年度の海外売上高比率は、東京海上ホールディングスが約37パーセント、MS&ADインシュアランスグループホールディングスが約17パーセント、SOMPOホールディングスが約15パーセント。この比率は、年々上昇傾向にある。2016年10月には、SOMPOホールディングスが米エンデュランス・スペシャルティ・ホールディングスを約6400億円で買収すると発表。2017年6月には、東京海上ホールディングスがインドの損保会社であるイフコトキオ・ジェネラル・インシュアランス社に、約430億円を出資した。そして2017年8月には、MS&ADインシュアランスグループホールディングスがオーストラリアの企業への出資を発表している(下記ニュース記事参照)。このように、国内市場の頭打ちが危惧される中、企業の買収・出資などを通じて海外事業を強化する動きは今後も続いていくだろう。

 

多角化に向けた取り組みの一つが、生命保険分野への進出だ。例えば、東京海上ホールディングス傘下の東京海上日動あんしん生命は、生命保険業界で10位前後の契約数を獲得している。生命保険と損害保険が一体になった保険など、「損保系生保」という特徴を生かした商品を開発・提供していることが、業績向上の一因と言えそうだ。

 

消費者ニーズの多様化や産業・技術の発展に対応し、新たなタイプの保険商品を開発する取り組みも盛んである。例えば、自動運転車に対応した自動車保険、サイバーテロに備えたサイバー保険、仮想通貨決済サービスに関する補償を提供する保険などが登場。ほかにもユニークな保険商品が提供され、注目を浴びている。

 

損害保険業界志望者が知っておきたいキーワード

新タイプ保険の開発
各社は今後の成長が見込める分野で、新しいタイプの保険を開発中。例えば、東京海上日動火災保険はプロスポーツチームに対し、選手がケガなどで長期離脱した際の損害を補償する保険を開発。また、三井住友海上火災保険は、人工衛星を打ち上げる企業向けの「宇宙保険」を開発した。

自動車保険の進化
自動車メーカーが自動運転に向けた取り組みを進めているのに対応し、自動運転で起きた事故の補償を行う試みも進んでいる。また、自動車に搭載されたセンサーで急ブレーキ・急発進の頻度などをチェックし、安全運転をしている人の保険料を割り引く損害保険が登場するなど、自動車保険の分野でも変化が表れている。

介護業界への進出
2015年から2016年にかけ、損保会社が介護業界に参入する動きが目に付いた。成長著しい介護業界を取り込むことで、新たな収益の柱を作ることが各社の狙い。また、介護保険の契約者に介護サービスを提供するなどの相乗効果も期待できる。

このニュースだけは要チェック<大手各社は海外市場に注力>

・MS&ADインシュアランスグループホールディングスが、オーストラリアの金融サービス会社チャレンジャー社に出資すると発表。個人年金保険に強いチャレンジャー社を買収することで、オーストラリアの年金市場で成長を目指している。(2017年8月15日)

 

・三井住友海上火災保険が、国内最大級の仮想通貨取引所を運営するビットフライヤー社と共同で、「ビットコイン」を使った決済で生じた損害を補償する損害保険を開発。三井住友海上火災保険は、仮想通貨を取り巻くリスクに対応した商品・サービスの開発を引き続き検討するとも発表している。(2017年6月30日)

 

この業界とも深いつながりが<自動車保険から得られる利益は大きい>

自動車メーカー
正味収入保険料の約6割が、自動車関連の保険収入から得られている

介護サービス
介護関連企業を買収するなどして介護業界に進出する損保会社もある

IT(情報システム系)
ネット直販中心の企業はもちろん、一般の損保会社でもIT強化は重要課題

 

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 関西コンサルティンググループ コンサルタント
木下直紀氏

木下直紀

東京大学法学部卒業。大学卒業後、大手都市銀行を経て現職。民間企業向けの事業戦略策定、業務プロセス改革、組織風土変革等の調査・コンサルティング業務に従事している。

 

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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