WOMAN'S CAREER

Vol.185 独立行政法人 国際協力機構

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たけだ・さちこ●広報室報道課 課長。東京都出身。44歳。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。アメリカン大学行政学修了。2004年に嘱託社員として入構。2006年より正社員。現在、夫と高校1年生の娘と3人暮らし。

家でも職場でも、周りのサポートがあったから、実績を重ねてこられた

年間事業規模約1兆円を誇る世界トップレベルの援助機関、独立行政法人 国際協力機構(JICA)。人々の生活に欠かせない、保健医療や教育、エネルギー資源、都市開発などあらゆる分野での課題解決に取り組み、対象の国と地域は世界150を超えている。

 

国際開発援助の仕事に興味を抱いていた竹田さんは、日本の大学卒業後にアメリカの大学院に進学し、開発援助のシンクタンクなど複数のNGO団体でインターンシップを経験した。その後、国際協力に政策立案の段階からかかわりたいという思いから、米国コンサルティング会社の日本法人立ち上げを担い、JICAの開発プロジェクトに対するサービス提供を7年間行ってきた。JICAへの転職は、「政策内容をもっと深く理解したい」という思いが強くなったからだという。

「コンサルティング会社では、JICAが手がけるプロジェクトの実現可能性や、予想される課題への対処策などを調査していました。プロジェクトを取り巻く状況を把握するため、援助対象国を頻繁に訪れて実地調査を行うなどやりがいがあった一方、『この調査結果は、JICAが本当に求めているものだろうか』『もっと違う方法があるのではないか』と仕事の成果に疑問を抱くようになりました。プロジェクト全体をもっと深く、包括的に知りたいと思ったんです」

 

JICAが持つ情報リソースの豊富さにひかれ、嘱託社員として入構した竹田さん。前職の経験を生かし、プロジェクト実施前調査を専門コンサルティング会社へ発注する業務を担当。「それまでと立場が逆になり、コンサルティング会社にどんな情報を提供すれば仕事が進めやすいのかが、手に取るようにわかった」という。さらに業務の幅を広げるため、2006年には正社員となり、ベトナムでのプロジェクト審査業務を担当した。

「ベトナム政府から日本政府(外務省)に支援要請が入ると、具体的な支援計画の立案から実施までの長期プロジェクトが動き出します。審査業務は、要請があった支援事業は本当に必要か、予算はどの程度かかるのか、事業を進めることでどんな成果を見込めるのか、環境・社会配慮面の留意点としては何があるのかといったさまざまな観点から現状把握と、予測分析をする仕事です。難しいのは日本と途上国では当たり前の価値観が異なるところ。例えば下水プロジェクトに、対象地域の環境・社会配慮の一環として『文化遺産への配慮のための活動も追加しましょう』と提案しても、予算を取って環境に配慮する理解を簡単には得られないことがあります。対象国の法律や制度にない対応を求めるときは、それにかかる時間や費用との兼ね合いで議論になることが多く『その予算があるならもっと開発を進めましょう』となってしまう。環境・社会配慮面でJICAが求める水準まで、途上国内で議論が成熟していない場合が多いんです。1年間に少なくとも3回は出張し、地道にコミュニケーションを重ねて相互理解が得られた時は、あきらめずにやってきてよかったとほっとしますね」

 

開発援助は、一定の成果が見えるまで長期間かかるため、自分が携わったプロジェクトの具体的成果を見届けられないことも多い。その中で、入構8年目にフィリピン事務所に2年半駐在した時は、JICAが綿々と行ってきた支援の成果を実感し、感激したという。

「フィリピンは日本と同じ自然災害大国。火山や地震、津波や台風で毎年多くの方が被害に遭っています。日本は、防災技術の移転を30年以上前から続けており、気象データの活用から気象警報の正確さを上げるよう努力を重ねてきました。私が駐在している間も大きな台風に襲われたのですが、警報がきちんと出され、多くの自治体で自治体長が避難指示を出すことで、スムーズな住民避難が実現している例を見ました。日本の専門家が中心となって災害対策を考え、技術移転を行ってきた結果として被害が最小に抑えられたことに、うれしさを感じました」

 

フィリピン事務所では、案件管理を進めながら、約20名のメンバーをマネジメントする次長職を経験。現在は、広報室報道課の課長として7名のメンバーを持つなど、着実にキャリアアップを重ねてきた。課された役割にしっかり応えたいという思いで、目の前の仕事にコツコツ取り組んできた過程で、子育てとの両立には常に葛藤があったと話す。

「JICAに入構した当時、娘は保育園通いの3歳でした。夫婦で話し合い、一般企業に勤める夫が育児時短を3年間取得することになりました。夫の勤務先で、男性が時短勤務を取ったのは社内で初めてのこと。しかも3年間ですから、大変な思いをたくさんしたはずです。私が仕事に集中できる環境を作ってくれたことに、とても感謝しています。フィリピン事務所への駐在が決まった時は、娘は小学5年生。母親を必要とする多感な時期なので、娘と一緒に駐在することを考えていました。でも、中学受験を頑張りたいという彼女の意思を大切にしようと、単身赴任をすることに決めました」

 

究極の選択だった、と当時を振り返る竹田さん。実の両親が近くに住んでいたことや、夫と娘との距離がとても近かったことなどが、竹田さんの決断を後押しする安心材料になったという。

「運動会などの学校行事に合わせて帰国し、月曜日朝にフィリピンに戻る生活を1~2カ月に1回繰り返しました。中学入学当初は不安定な時期が続き、メールやインターネット電話で話をするのが日課に。両親や夫と『あの時期は大変だったね』とよく笑いながら話していますが、当時は自分の選択を後悔したり、大丈夫だと言い聞かせたり、心が揺れ動くこともありました」

 

現在は全国紙やテレビ局などのメディアに向け、JICAの活動内容を発信する広報業務を担当。JICAの事業に関心を持ってもらうべく取材対応やニュースリリースの発信も積極的に行っている。

「今注目されているのは、民間企業の技術を途上国の開発課題解決に生かすプロジェクトです。例えば、ケニアの劣悪なトイレ環境を改善すべく“水も電気も使わないトイレ”を導入した日本の民間企業の事例があります。報道されることで、知られざる技術力に注目が集まり、自分たちの技術を活用して開発援助に参画したいという企業も増えていく。地方の中小企業とプロジェクトを組めば、地域活性化につながる可能性もあります」

 

JICAで働く大きな魅力は、民間企業や地方自治体、政府研究機関、NGO団体など、さまざまな組織へのアプローチがしやすい点だと話す竹田さん。

「やりたいと思ったことを実現させられるリソースが社内外にあふれています。私は、いろんなことを同時にこなせる器用なタイプではないので、家でも職場でも、周りのサポートを受けてばかり。豊富な情報や人脈リソースにいい意味で頼り、活用する力を生かして、これまで以上にコツコツと仕事の幅を広げていきたいです」

 

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途上国への民間企業の技術移転プロジェクトについて、報道課メンバーでミーティング。メディアに事例を取り上げてもらうよう、アプローチ方法を話し合う。

 

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JICAの活動内容について報道機関から問い合わせを受ける。正確な情報を伝えるべく、資料を手にしながら応対。

 

竹田さんのキャリアステップ

STEP1 入構1年目、嘱託社員としてプロジェクト実施前の調査を担当

入構前は、コンサルティング会社でJICAのプロジェクトの調査業務を担当していた。業務全般の知識を広く浅く持っていたが、プロジェクト全体を深く知りたいとJICAへ転職。「調査を(コンサルティング会社に)依頼する側になり、プロジェクト計画の策定と事後の評価業務の発注、上がってきた調査報告書の品質管理を担当していました。JICAがどういう意図で発注し、どんな点を詳細に調べてほしいと思っているのかを細かく伝えることができ、前職の経験が生きました」。

STEP2 入構2年目、正社員試験に合格。ベトナムにおける案件審査を担当

正社員採用試験に合格後、ベトナムでの実施事業の計画、審査業務を担う。案件一つひとつが大プロジェクトなので、計画の実現可能性、予算の確認、予想される成果など、チームで調査分野を分担し、担当した。「知識がなく入構しても、社内研修やマニュアルがしっかり整備されているので、審査ではどんな観点で何を確認すべきかなどを体系的に学ぶことができます。そうした知識の蓄積の多さは、JICAの強みだと思います」。

STEP3 入構6年目、フィリピンの案件審査を担当したのち、フィリピン事務所勤務へ

2年半、フィリピンの首都マニラにある事務所の次長となり、単身赴任生活を送る。前職のコンサルタント時代から、フィリピンに何度も訪れ慣れていたこともあり、生活する上で苦労することはほとんどなかった。フィリピンで進行中の案件の進捗管理や、案件を詳細に詰める上での情報提供サポートなどを行った。「現地のメンバーは、仕事熱心で真面目な方ばかり。週末も業務上の連絡がすぐつくので、ストレスに感じることはありませんでした」。

STEP4 入構11年目、事業評価部第一課課長に。13年目より広報室報道課課長になる

帰国し、事業評価部に配属される。評価後に出てきたさまざまな教訓をまとめ、案件形成担当にフィードバックしていく役割を担う。「事業評価は2億円以上の全案件について実施しており、年間200件程度の事業評価の実施監理を行ってきています。例えば、5年計画を立てて案件を進めていても、自然災害に見舞われ物理的に作業が止まってしまったり、選挙で国政が大きく変化したことで承認手続きが遅れたりと、いろいろな問題が起きます。そうした教訓をまとめることで『事業期間の設定が楽観的すぎないか』と、より現実的な計画に修正していくことができるのです」。課長となり、“メンバーの成長”という新しい面白さも感じている。「メンバーが難しい案件の教訓を苦労してまとめ、それが社内で高く評価されると、自分のこと以上にうれしいですね」。

ある一日のスケジュール

5:30 起床。夫が家族2人分のお弁当を作る。
7:30 朝食を終え自宅を出る。娘は同じ時間に部活の朝練へ。電車の中でWeb記事をチェック。
8:15 出社。始業前に関連報道、プレスリリースにざっと目を通す。
10:00 報道課内ミーティング。業務の進捗を共有する。
11:00 取材依頼に対し、適切な部署のメンバーをアテンドする。
12:30 社内でお弁当を食べる。同僚と外にランチに出ることもある。
13:30 他部署と情報共有ミーティング。
15:00 個別事案の広報計画の確認。
17:00 関連報道の確認。電話の問い合わせ対応やメールチェック。
20:00 退社。自宅近くの実家で娘が夕食を食べているので、迎えに行く。
21:00 帰宅。自分は簡単に夕食を済ませ、娘と学校であったことなどを話しながら家事をする。
23:00 読書後、就寝。

竹田さんのプライベート

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2015年8月に家族でアメリカ・グランドキャニオンへ。娘が大きくなり家族3人の予定を合わせるのが大変になってきたが、年に一度は旅行に行くようにしている。

 

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2015年12月、友人家族と一緒に志賀高原(長野県)にスキーに行った際、地獄谷野猿公苑に立ち寄ってぱちり。

 

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2015年8月、宮島(広島県)へ。数カ月に一度、週末を使って日帰りか1泊の一人旅に出かける。歴史が好きなので、歴史的名所やさまざまな特別展示をじっくり時間をかけて回る。

 

取材・文/田中瑠子 撮影/鈴木慶子

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