WOMAN'S CAREER

Vol.186 公益財団法人 日本財団

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あいざわ・かよ●経理部 部長。千葉県出身。52歳。成蹊大学文学部文化学科卒業。1986年入社。大学時代は文化人類学を専攻し、人間社会と文化について学んでいたことから、社会貢献活動に興味を持っていた。現在、夫と中学1年生の息子、実の両親と5人暮らし。

財団設立から高齢者向けプログラムの開発、犯罪被害者支援まで、多岐にわたる業務を経験

「痛みも、希望も、未来も、共に。」を組織ビジョンとして掲げる、日本最大規模の財団・日本財団。モーターボート(ボートレース)収益金の一部を交付金として受け入れ、非営利組織への活動資金援助に充てる「助成事業」や、災害支援や寄付金による社会課題の解決など、幅広く社会貢献活動を行っている。

 

相澤さんが日本財団に興味を抱いたのは、「人がより良く生きられる社会を作りたい」という思いからだった。
「社会人になった1986年はちょうど男女雇用機会均等法が施行された年。いち社会人として自分の人生に責任を持とう、自分が興味のある分野で長く働き続けようと思っていました。日本財団(当時は財団法人日本船舶振興会)の活動は、“華やかなビジネスの世界”とは違って、青少年の健全育成や福祉事業など成果が目に見えにくいものが多い。でも、その中にこそ大切なものがあるんじゃないかと心ひかれるものがありました」

 

配属された総務部では、入社半年後に、国際交流や国際協力を推進する「笹川平和財団」の設立準備業務に携わった。組織づくりのイロハを学ぶ機会に恵まれ、財団がどう生まれていくのかを目の当たりにする貴重な経験だったという。
「日本財団は、国内外のあらゆる社会問題を解決するために、自ら事案を企画・実施するほか、資金を助成して事業を実施する組織です。事業分野が多岐にわたるため、ときには、その領域を得意とする財団を生み出し、ニーズにしっかりと応えられるようにするのもわれわれの役割。『笹川平和財団』の設立に向けては、定款、規程(執務規則)、就業規則、会計体系など、組織の基本的な骨組みを作っていきました。ただ、当時はまだまだ『女性は男性のアシスタント』という考えが根強い時代。20代は、指示された仕事をこなすべく懸命に走り回っていた下積み時代でしたが、小さな仕事を丁寧に積み重ねる大切さを、この時学んだ気がします」

 

「人がより良く生きられる社会を作りたい」という思いを形にすべく、入社10年目にはあるプロジェクトを企画。仕事を思いきって任せてくれる上司の下、総務部企画課の係長になった相澤さんは、日本にフィランソロピー(社会貢献活動)を根付かせるための3年間のプロジェクトを実施したのだ。
「学者やマスコミ関係者、NPO団体関係者など各分野の有識者を10名以上招集し、年に1回、2泊3日かけて議論を重ねるのが、主な内容でした。発起人として、フィランソロピー研究を進めていた林雄二郎先生(※1)に立っていただき、1年目のディスカッションには心理学者の河合隼雄先生を、2年目には日本文化に造形の深いイギリスの歴史学者、イアン・ニッシュ氏、3年目にはイギリスの社会学者、ラルフ・ダーレンドルフ氏をゲストに招きました。泊りがけの議論はいつも白熱。『公と私』『個を考える』などディスカッションテーマを設け、その内容を雑誌などに継続的に取り上げてもらいました。当時は、国境を超えて、経済、法律、教育など分野の異なる専門家が一堂に会し、意見をぶつけ合うのは珍しいこと。新しい意見を持ち帰る姿、次年度の参加を希望する声に、オピニオンリーダーを刺激する会議を実施できたことを実感しました。日本財団の活動は、明確に結果が見えるものばかりではありませんが、こうした“機会の提供”を重ねることで、社会が少しずつ変わっていくのだと思える経験でした」

 

(※1)1994年に日本財団の顧問に就任した未来学者。財団の活動理念である「フィランソロピー実践のための七つの鍵」を作成した。日本フィランソロピー協会前会長も歴任。日本財団入団前は、東京工業大学社会工学科教授、東京情報大学初代総長などを務めていた。

 

その後、教育や文化、芸術などの「公益福祉」事業を支援する部署に異動。ブルーシー・アンド・グリーンランド(B&G)財団(※2)や笹川スポーツ財団など、青少年の健全育成を担う組織と、スポーツを通して社会課題を解決する新プログラム立案に携わった。そこで作ったのが、高齢者に対する「転倒・寝たきり予防プログラム」だ。これは、日本財団の助成先であるみまき福祉会(長野県・社会福祉法人が設立した身体教育医学研究所)が開発していた、高齢者の転倒予防のための運動法。B&G財団の新しいプログラムとして、同財団が持つプールや体育館施設を活用して展開していった。当時は小さな芽だったが、今では多くの海洋センターで実施されるまでになった。
「私の役割は、専門家同士を結び付け、適切な場所で適切なプログラムが、それを必要とする人にきちんと届くように、機会を作り出すことです。私には専門知識はないけれど、旺盛な好奇心とアイデアを出し合える同僚がいて、財団には長年培ってきたネットワークがある。新しい分野に興味を持ち、視野を広く持っておくことがとても大切な仕事だなと思います」

 

(※2)1973年に日本財団が設立した、青少年の心身の育成を目的とした公益財団法人。競艇事業の収益金により「地域海洋センター」が全国480市町村に作られているほか、海洋性レクリエーションを楽しめる組織として「B&G海洋クラブ」が全国に300カ所近くある。

 

入社17年目に1年4カ月の産休・育休を取得したあとも、入社1年目に設立に携わった笹川平和財団への出向や、犯罪被害者を支援する団体への助成事業と奨学金事案の実施など、さまざまな領域のプロジェクトを手がけてきた。

 

現在は、経理部の部長として16人のメンバーを束ねる相澤さん。予算策定、決算業務、固定資産管理など、経理という専門性の高い仕事においては、「メンバーの方がプロフェッショナルでまだまだ勉強中」と話す。
「経理部には、他部署から『こんな新しい事業を始めたい』『こんな契約をしたい』『この資金を使いたい』といった相談が頻繁に入ってくるので、契約内容や予算取りについて打ち合わせをしていることが多いです。経理業務に関してはメンバー一人ひとりを信頼していますし、専門知識は私よりも豊富です。私が、かつての上司に、仕事を任され自由にやらせてもらって仕事が楽しくなった実体験があるので、メンバーにも思い切って任せ、責任を持ってもらうことを大切にしています」

 

経理部を束ねるポジションとして強く意識しているのは「透明性」だと話す相澤さん。ボートレースからの交付金や寄付金、受託金などさまざまな資金を預かって事業を展開している組織特性上、会計の明瞭さは必要不可欠だという。
「日本財団だからこそ、誰が見てもわかりやすい財務報告書を作成し、透明性の高さを求め続けなくてはいけません。毎年、新事業が生まれていきますし、会計状況を適正に説明できているかどうか、経理部の責任はとても大きいと思っています。学ぶことばかりで大変ですが、これまでのように好奇心を持って新しいチャレンジを楽しみたいですね」

 

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他部署から相談された新事業の契約内容について、経理部メンバーと打ち合わせ中。

 

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決算報告資料内の確認事項を、メンバーと共有する。

 

相澤さんのキャリアステップ

STEP1 総務部配属を経て、入社6年目に業務第一部業務課 海洋チームに配属

入社後5年間は総務部で、新しい財団の立ち上げ業務などを担当。その後、業務第一部業務課に異動し助成業務に携わった。「造船や船舶など海洋関係の活動をしている非営利団体から助成申請がくるので、日本財団はその内容を審査し、年間でどの程度助成するのかを決定します。私はその進捗状況を管理しながら、助成事業の基本的な流れを学ぶことができました」。

STEP2 総務部企画課の係長を経て、入社17年目に長男を出産

1年4カ月の育児休暇後、復帰。経理部に配属され、3年間は時短勤務を続けた。ワーキングマザーの先輩は2人いたが、育児と仕事の両立に不安は大きかった。「子どもを犠牲にする働き方はしたくないと思い、復帰先の上司に『優先順位の一番は家庭なので、多くの残業はできません』と宣言して働き始めました。自宅は職場から1時間半と遠いのですが、実の両親と2世帯住宅だったので、子育ての面ではかなり助けてもらいましたね」。

STEP3 入社22年目、笹川平和財団への出向

入社1年目で設立に携わった笹川平和財団に出向となる。「日本財団では、多くの職員が、財団やNPO法人への出向を経験します。笹川平和財団に行くことになるとは、巡り合わせだなとしみじみ思いましたね」。

STEP4 入社25年目、公益ボランティア支援グループに配属。その後、現職

出向から戻り、公益ボランティア支援グループ預保納付金事業チームのチームリーダーに。2008年6月に施行された振り込め詐欺救済法に基づく預保納付金を活用する民間団体として日本財団が選定され、その事業実施のための仕組みづくりに携わった。「振り込め詐欺救済法は、被害を受けた方の財産的被害の回復を図るための法律です。犯罪被害によって資金の振り込まれた口座を金融機関が凍結し、口座名義人の権利を消滅させた後に、被害者に返金するのですが、被害者からの申請がないなどして返金できなかったお金は預金保険機構(※)に納付されます。振り込め詐欺被害が拡大し、納付累計約45億円までになったことから、関連省庁より、この資金を犯罪被害者の子どもへの奨学金、犯罪被害者を支援する団体への助成として支出することになったんです。日本財団がこの両事業を担当することになり、従来の交付金とは異なる資金の受け入れの仕組みづくりから進めていきました」。2015年6月からは、経理部長に就任。これまで多岐にわたる分野でプロジェクトを動かしてきた経験を生かし、さまざまな相談に対応している。

(※)預保保険法(預金者を守るため、金融機関が預金の払戻しを停止した場合に必要な保険金の支払いなどを行う措置制度)に基づく認可法人。振り込め詐欺救済法に基づく被害回復分配金の支払い手続きを行っている。

ある一日のスケジュール

4:30 起床。夫のお弁当を作り、家族の夕食の準備をする。
7:10 家を出る。1時間半かけて通勤。
9:00 始業。メールチェック。回ってくる稟議(りんぎ)に目を通す。
9:30 他団体との契約の中身を確認する。
10:30 決算資料をチェック。
12:00 社員食堂でランチ。
13:00 新事業を計画している部署から、予算取りに関する相談を受ける。
15:00 不動産管理業務についてメンバーと打ち合わせ。
16:00 資産運用について金融機関と打ち合わせ。
18:30 退社。
20:00 帰宅して家族3人で夕食を食べる。両親とは生活パターンが異なるので、一緒に食べたり食べなかったり。
23:00 家事をしてから就寝。

相澤さんのプライベート

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2015年3月、ボーイスカウトをしている息子とともにオーバーナイトハイクに参加。一晩かけて、地図を頼りにゴールを目指すスカウトを陰ながら見守り、ともに夜通し歩く。歩測、地図記号、方位磁石を駆使してゴールを目指す彼らが、間違った道を選んでも口を出せない歯がゆさも、また楽しい。

 

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2016年春、財団の同僚と家族ぐるみで西表島へ。雨模様で気温が上がらない中、カヤックで滝を目指し、2時間必死で河を遡上した思い出の一枚。毎年一緒に旅行に行き、互いの子どもの成長を感じながら仕事の疲れを癒している。

 

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週末には、家族でふらっと海釣りに出かけることも。防波堤から釣り糸を垂らしてのんびり魚を待つのが、いいリフレッシュになっている。

 

取材・文/田中瑠子 撮影/鈴木慶子

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