WOMAN'S CAREER

Vol.192 松竹株式会社

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はら・あきこ●経理部経理課。34歳。東京都出身。国際基督教大学教養学部国際関係学科卒業。2004年入社。夫、5歳の息子と3人暮らし。

映画宣伝の現場を知った上で経理へ。映画ビジネス全体への理解が深まった

映画の宣伝の仕事に就きたい――。そう思ったきっかけは、学生時代、洋画の宣伝担当者を追うドキュメンタリー番組を見たことだった。

もともとメディアを通じたコミュニケーションについて授業で学ぶほか、大学の広報誌制作に携わるなど、広告や出版業界にも興味を持っていた原 麻希子さん。たまたまやっていたテレビで、映画の宣伝という未知の仕事を目にし、「裏方に徹する姿ってかっこいい」と強い憧れを抱いたという。
「番組では、外国人俳優の来日イベントを企画、宣伝し、英語を使って俳優陣やスタッフとコミュニケーションを取りながら、イベントを無事終えていく姿に密着していました。実際の宣伝の仕事は、華やかさとはかけ離れたものだと入社してから気づいたのですが(笑)、英語を使って仕事をバリバリと進めていく様子は、語学力を生かして仕事をしたいと思っていた私に強く響きました」

 

念願だった、映画・演劇の製作から興行、配給、二次利用までを手がける松竹に入社するも、配属されたのは、経理部。飛び交う専門用語がまったくわからず、毎日必死でメモを取りながら、わからないことを上司や同僚に都度聞きながら仕事を覚えていった。松竹では、若手のうちに社内のいろいろな仕事に就きながらキャリアの幅を広げていく。9人の同期も、営業部門から管理部門までさまざまな部署に配属されており、「まずはここで社会人としての基礎を身につけよう」と経理の知識を貪欲に吸収していったという。
「仕事は主に、グループ会社との連結決算(※)業務でした。1年目は先輩たちが話す言葉の意味を理解することで精いっぱい。1年が1サイクルなので、2年目にようやく決算業務の全体像が見えてきました。今振り返ると、戦力としてあまり役に立っていなかったと思うのに、先輩も上司も本当に優しく教えてくれました。丸2年終えて、ようやく仕事の流れがわかってきたと思った矢先、異動に。後輩への引き継ぎで、業務内容を教える立場になって初めて、『順序立てて説明できるようになるなんて成長したんだな』と実感しました」

 

(※)親会社のほかに、子会社や関連会社を含む企業グループ全体の事業や財務活動の会計を加えた決算。

 

異動先は、映画宣伝部の邦画担当。「華やかそうに見えて、とても地道で泥臭い仕事」という先輩の言葉通り、細かな調整、確認業務に追われる毎日が始まった。
「映画宣伝部の仕事は、担当映画のプロモーションを企画し、メディアに打診し、実施する仕事。パブリシティ担当としてメディアに作品を紹介してもらうこともあれば、アシスタントプロデューサーとして、映画の製作委員会各社と連携してプロモーションを企画・実施することもあります。例えば、出版社の雑誌編集担当やライター、新聞社の記者、テレビ局の番組プロデューサーに連絡をして作品を売り込み、作品紹介記事や映画に出演している俳優のインタビューなどを依頼します。インタビューが決まったら、すぐに俳優が所属する事務所に連絡し日程を調整。取材や番組の出演日程を押さえて、ようやく宣伝の機会が設けられます。ほかにも、担当の映画が恋愛ものだったら、バレンタインデーと絡めたイベントの企画・運営や、各メディアへの試写会案内と実施、映画封切り初日の舞台あいさつの準備など、仕事の範囲は多岐にわたります。映画が公開される日は決まっているので、限られた時間でいかに露出を増やせるかが、宣伝部の腕の見せ所。ここまでやればいい、という正解がなく、メディアの方といかに密なコミュニケーションを重ねられるかが成果につながるので、常に行動あるのみです。1本の映画が世に出る裏側で、宣伝部がこれほど汗を流していたなんて、想像もしていませんでした」

 

パブリシティ担当として意識したのは、メディアの先にいる視聴者が何を知りたいか、という、番組プロデューサーの目線に立った提案をすることだった。チームメンバーとは常に「この映画を、この媒体に売り込む理由は何か」を議論し、番組にとっても映画を宣伝するメリットがあるよう、情報を整理して持っていくようにしていたという。
「『60歳のラブレター』という大人の恋愛を描いた映画を担当した際は、主婦層をターゲットにしたワイドショーで宣伝できないかと考えていました。ちょうどそのころ、博報堂生活総合研究所がシニア層の消費行動が高まっているという数値データを出していたので、シニア層がアクティブであるという社会事象と絡めて、映画をPRする企画を立案。プロデューサーに『こんな情報があります』と持っていくことで、『この人は番組のためになるいいネタを提供してくれる』と思ってもらえる。そんなふうに信頼関係を築くことで手応えを感じ、宣伝の仕事が楽しくなっていきました」

 

入社3年目からアシスタントプロデューサーやパブリシティとして宣伝部に7年間在籍し、10本の映画を担当。「宣伝の仕事は、やろうと思えばいくらでもある」という多忙な毎日を過ごしていた入社8年目に、長男を出産した。1年2カ月の産休・育休を経て時短勤務で復帰した時、映画宣伝部としては初のワーキングマザーだった。初めてゆえに周りが気づかってくれ、「帰らなくていいの?」と先回りして声をかけてくれることがありがたかったという。
「復帰後、半年間は宣伝部の業務を担当していました。外部の関係者との打ち合わせが発生し、保育園の迎えを実母にお願いすることも少なからずありました。定時過ぎまで仕事をしていると『今日は大丈夫なの? 息子さん、待っているんじゃない?』とみんなが心配してくれましたね」

 

現在は、10年目から異動になった経理部で松竹単体の決算業務を担当。映画宣伝部で現場の動きを経験してきたため、会社の数字をよりリアルに感じられる上、数字を通して映像ビジネスの全体像がわかるのが面白いという。
「宣伝部にいる時は、劇場での興行成績までが数字のすべてでした。しかし、経理にくると、一次利用と呼ばれる劇場収益の先に、DVD販売やライセンスビジネス展開、放映権や配信料の売り上げなど、二次利用のさまざまな収益方法があり、映画1本がもたらすビジネスチャンスの広さに驚きました。現在は映像部門のほかに不動産部門も担当しているのですが、数字を見るようになってあらためて、不動産による収益が会社を安定的に支えているという事実を実感しました。専門的なスキルを身につけるべく簿記2級を取得し、新人時代には気づかなかった“数字から会社を見る奥深さ”を楽しんでいます」

 

2016年夏には、再び映画宣伝部に異動し、宣伝プロデューサーとして、宣伝費の予算管理からプロジェクト全体を管理する立場になった原さん。経理として得た数字の感覚を、現場で生かせることにわくわくしているという。
「経理を2度経験した強みを生かして、映画の二次利用まで見据えながら、宣伝プランを立てていけるプロデューサーになりたい。経理を深く勉強したことで、現場に戻ったらまた違う景色が見えてくるはず。それが、今からとても楽しみですね」

 

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経理システムで担当部署の決算をチェックし、メンバーと状況を共有する。

 

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部長に担当部署の月次決算の数字を報告する。

 

原さんのキャリアステップ

STEP1 入社1年目、2週間の新人研修を経て、経理部に配属される

経理部主計課に配属になり、主にグループ会社との連結決算業務を担当。まったく知識のない簿記や会計の世界に戸惑いながら、基本用語を一つひとつ覚えていった。「入社10年目に再び経理部に配属になった時、1~2年目で得た基礎知識がとても役立ちました。細かな確認業務が多かった点は、映画宣伝部に異動した際に生き、社会人としての基本を経理部で身につけられたことは、キャリアの財産になりました」。

STEP2 入社3年目、映画宣伝部に異動

希望していた映画宣伝部に配属され、アシスタントプロデューサーやパブリシティとして7年間で10本の映画を担当。メディアや製作委員会各社、俳優が所属する事務所との調整業務に追われ「イメージされがちな華やかさは皆無でした」と笑う。雪山を舞台にした映画『ミッドナイト・イーグル』を担当した際は、宣伝材料として撮影秘話を知る必要があり、約1カ月間、撮影現場の雪山で監督や俳優、製作スタッフの方々と過ごしたこともあった。

STEP3 入社8年目、長男を出産。1年2カ月の産休・育休を経て復帰

映画宣伝部在籍中に長男を出産。当時、映画宣伝部にワーキングマザーはおらず、原さんが第1号に。同部に時短勤務で復帰後、どうしても残業が必要な際は、近くに住む実母に保育園の迎えを頼むなど協力してもらった。「遅くまで残っていると、周りが必ず心配してくれる、とても温かい職場でした」。

STEP4 入社10年目、再び経理部に異動

松竹単体の決算業務のうち、映像部門の二次利用に関する部署と不動産部などを担当。毎月の決算で、各部門の損益が適切に計上されているかをチェックするほか、四半期決算時には、会計士からの質問に回答し、決算発表までに監査が滞りなく進むよう対応する。部門から会計・税務に関する相談を受けることもあるため、会計士や税理士に相談の上、適切な処理を部門の担当者と一緒に考えることもあった。経理の専門的な知識を身につけるため、仕事と育児の合間をぬって、簿記2級を取得した。「四半期決算時は多少の残業はありますが、自分でスケジュールが組みやすいので仕事とプライベートの両立がしやすくなりました。数字を通して会社の状態がわかるのは経理の魅力。宣伝部にいた時には見えなかった数字の動きを知れるのはとても面白いです」。

ある一日のスケジュール

6:30 起床、食事の支度。
8:30 保育園へ子どもを預ける。
9:30 出社。担当部署と会計処理に関する打ち合わせ。
11:00 経理システムで担当部署の決算をチェック。
12:30 ランチ。
14:00 会計士からの質問に関して回答、資料提出。
15:00 経理部の会議で、担当部署の月次決算の数字を報告。
17:00 退社(週3日は時短勤務。週2日は夫が保育園へ迎えに行くため、定時まで働く)。
18:00 保育園へ子どもを迎えに行く。
19:00 夕食。その後、子どもとテレビを見たり、本を読んで遊ぶ。
20:30 子どもと入浴し、寝かしつけ。
22:00 映画鑑賞など自分の時間を過ごす。
24:00 就寝。

原さんのプライベート

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長期休暇を利用し、家族3人でシンガポールへ。好奇心旺盛な息子にいろんな世界を見せたいと考えている。

 

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2014年夏、「フジロックフェスティバル」を見に。夏フェスの会場の熱気が大好き。

 

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七五三を家族でお祝い。袴を着ていても元気に走り回る息子。

 

取材・文/田中瑠子 撮影/鈴木慶子

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