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理系のシゴトバ

掲載日:2010年9月15日

Vol.31 エレクトロニクス社会の発展を電子部品の開発を通じて支える

TDK テクニカルセンター
TDKは東京工業大学電気化学科の加藤与五郎博士と武井武博士によって発明された磁性材料フェライト(酸化鉄を主成分とするセラミック)の工業化を目的として、1935年に設立された電子部品・電子デバイスのメーカーです。創業当時の社名は東京電気化学工業。フェライトを発明した二人の博士の所属大学の研究室名をつけたことからもわかるとおり、今で言う大学発ベンチャーとしてスタートしました。以来、そのフェライト技術の応用により、ハードディスクドライブ用のヘッド部品をはじめ、積層セラミックチップコンデンサ、インダクタ(コイル)、センサ、マグネットなどの電子部品・電子材料を開発。これらの製品は国内で高いシェアを有するまでに発展しました。現在は情報家電や高速・大容量ネットワーク、カーエレクトロニクスという成長分野に注力。さらに最近は太陽光発電や風力発電などのエネルギー分野にも参入しています。今回は新たな製品、技術の開発に挑戦し続けているTDKテクニカルセンターのシゴトバを訪問しました。

ハイブリッド車、電気自動車向けDC-DCコンバータを開発

テクニカルセンターがあるのは、千葉県市川市。東京駅からJR総武線で約20分という距離にあるため、首都圏のベッドタウンとして発展している町です。テクニカルセンターが完成したのは1990年。それ以前はフェライトを中心とした電子部品を製造する工場でした。今は本社組織であるテクノロジーグループの開発拠点となっており、一部の本社機能も担っています。
テクニカルセンターを案内してくれたのは、パワーシステムズビジネスグループ EV電源部 製品開発グループを率いている佐藤国広さん。EV電源部ではハイブリッド車や電気自動車向けのDC-DCコンバータ(直流電圧を別の直流電圧に変換するモジュール)の開発から評価までを担当しています。
写真は佐藤さんの部署が開発したDC-DCコンバータ。DC-DCコンバータはハイブリッドシステムを構成する中核部品の一つで、本田技研工業のハイブリッド車「インサイト」などに搭載されています。
「自動車メーカーのニーズは、小さく軽くしたいということ。とはいえ今の車はほとんどが電子制御されているため、それなりのパワーが必要です。大きなパワーを発生させようとすると大きな電力を使うため、熱が発生します。その熱を逃がす工夫(放熱技術)が必要になる。しかし筐体(きょうたい:外装のこと)を小型化すればするほど、放熱技術は難しくなる。そこがDC-DCコンバータの開発で最も難しいところですが、今回、開発を進める中で、従来品より重量の半減を達成しました」(佐藤さん)
小型・軽量化が図られたこの製品は、2009年度「モノづくり推進会議共同議長賞」(モノづくり推進会議/日刊工業新聞社主催)を受賞しています。
製品開発はまず、技術ロードマップを作成するところから始まります。ロードマップは自動車の5〜10年先を見据えたもの。そしてそこから逆算し、1〜2年後にはこういう技術を開発していこうという目標を立てます。その製品を開発するには、どういう素材が必要か、どのようにすれば効率よい回路ができるのか、どういう構造にすればよいのかなど、目標値を決めていきます。
「小型・軽量化を図るためには、いかに部品点数を少なくするか、いかに効率の良い回路を構成するかが求められます。そのような回路を開発するためには、電気回路や磁気回路の知識はもちろん、部品配置の構造を含めた幅広い技術が必要。メカニカル(機構)や電子部品の材料のこともわからないと、モジュールの小型化が図れないところまできているんです」(佐藤さん)
写真はできあがったモジュールを、回路設計を担当するメンバーで評価しているところです。
「どこをどう工夫すればより小型化が図れ、効率の良い回路が開発できるか、日々、検討しています」(佐藤さん)
これまでの車載用DC-DCコンバータは、バッテリーから出力された100〜400ボルトの高電圧直流を車載電装品や制御機器を駆動できるよう13〜15ボルトに変換する役割だけを担っていればよかったのですが、3〜4年前より車を最適な条件で動かせるようにソフトウェアによる制御も求められるようになってきました。
「例えば車と通信しながら電圧を変換する通信機能や、故障したときにどこが壊れたか記録する機能など、DC-DCコンバータにも車を高機能化するさまざまなアプリケーションの搭載が求められています。それらの開発もEV電源部で行っています。プログラムができ上がると正しく動くかどうかを、パソコンのすぐ横に設置している検証ツールで検証し、開発を進めていきます」(佐藤さん)
車載用DC-DCコンバータを収める機構(筐体)の設計では、熱だけではなく振動対策も重要になります。
「車載用DC-DCコンバータは常に振動を受けます。そのような状況下でも壊れないようにするには、強度を上げなければなりません。しかしそうすると重くなる。強度を保ちながらいかに軽くするか、構造を考えるのです。そのためには部品配置も考えなければならないので、機構だけではなく、回路のことなど電気的知識も必要になります」(佐藤さん)
写真は設計した機構の振動を解析しているところ。
「実際にモノを作る前にシミュレーションで、熱や振動対策がきちんとできているかを確認します。解析するのは設計者自身。シミュレーション結果を素早く設計に反映するためです。TDKでは、エンジニアが自分の手を動かして仕事を進めることはとても大事なことだと思っています」(佐藤さん)
電波暗室です。「最も大きな電波暗室は体育館ぐらいの広さです」(佐藤さん)というように、10メートル法電波暗室(写真)の寸法は奥行き30メートル×幅20メートル×高さ11.6メートル。電子機器は、高性能化と小型化が加速することで電子部品の過密化と信号の高周波化が進み、電磁波をより高精度に測定することが必要となってきているとのことで、このような電波暗室もTDKの重要な「製品」なのだそうです。
「この10メートル法電波暗室では車載用DC-DCコンバータをはじめとする自動車用電子部品やデジタル家電などの電子機器の電磁妨害および電磁感受性を測定します。車を運び込んで測定することもあります。日々の開発シーンにおいて、開発製品のノイズ測定をする場合は、実験室にある小さな電波暗室を使います」(佐藤さん)
テクニカルセンターでは、電子部品の開発だけでなく、自社の電子部品が使用されている製品を解析し、より性能を上げる使い方を提案することも行われています。この仕事を担うのが、評価・解析センターです。写真は携帯電話のセット解析を行っているところ。セット解析を行うことで、自社技術を新しいアプリケーション開発(技術の実用化)へとつなげる役割も担っています。
テクノロジーグループ 評価・解析センターの木内由香里さん(写真左)に、具体的なセット解析の仕事内容について、たずねました。
「携帯電話の筐体を実際にあけて、アンテナ、高周波、オーディオ部分などの各回路がどんな構成、どんな設計になっているのかなど、携帯全体を見て回路を解析していく作業です。携帯電話メーカー各社の製品設計の特徴を理解しながら、『このICを使っている場合は、TDKのこの部品を使うと、より性能が上がるはず』と見当をつけ、それを検証して、推奨部品として携帯電話メーカー各社に使ってもらうようにするのです」(木内さん)
ハタラクヒト
開発した部品が身近なものに使われ、役に立つ喜び
 社員を代表して、佐藤さん(写真右)と木内さん(左)にお話をうかがいました。
 佐藤さんが率いるEV電源部では、DC-DCコンバータ開発におけるいずれの工程においても「電子回路設計の担当者なら電気電子の知識、機構設計の担当者なら機械の知識だけということでは、仕事は進みません。電子回路設計においても機構や材料の知識、機構設計においても回路や材料の知識というように、DC-DCコンバータにかかわる周辺の知識が必要になる」そうです。
 そのためメンバーの出身専攻は「さまざまですね」と佐藤さん。さらに3年前ぐらいからは、ソフトウェアの開発も行われるようになったため、電気電子系だけではなく、情報工学系の人たちにも活躍の場が用意されています。
「核となる専門知識は必要ですが、重要なのはバランス感覚です。センスよく幅広い視点でモノごとを見られるかどうかが、当社の仕事では大事ですね」(佐藤さん)

 セット解析を担当している木内さんは工学部電気系の出身。
「電気回路の基本的な知識はありましたが、今の仕事をするために必要な知識は会社に入ってから身につけました。入社後半年間は秋田県内の工場で製造実習を行い、材料を作るところから学ぶことができたのが、今の仕事に大いに役立っています」(木内さん)
 その後、携帯電話用アンテナの開発に携わることに。
「高周波回路を入社後に一から勉強しなおしたことで、携帯電話の見方が変わりました。高周波回路は設置する位置や方向、周囲の部品、素材、また実際に使う人の持ち方によっても性能が変わります。高周波回路の開発だけでも、さまざまな視点からとらえなければなりません。ただし、このような多角的な開発視点は仕事を通して身につけていくもの。理系の基本的な知識とモノづくりの好奇心さえあれば、大学の専攻は関係ないと思います」(木内さん)

 理系のシゴトバではどうしても女性比率が低くなりがちです。TDKも決して、女性比率は高いわけではありません。働き心地について木内さんに聞いてみたところ、「働きやすいです」と即答でした。
「女性だから、男性だからという違いを感じることはありません。なんといっても良いのは、若手のうちから仕事の進め方などは自由に任せてもらえるところ。何か困ったことが起こっても、上司や先輩に相談しやすい雰囲気もある。働き心地のよい職場です」(木内さん)
「指示を待つのではなく、自分の考えで仕事を進めてほしいという思いが、私たち上司の側にもあります。たとえ壁にぶつかってもくじけることなく、何度でも立ち上がり、むしろそのつまずきをエネルギーに変えて乗り越えていくような人に活躍してほしいですね」(佐藤さん)

 佐藤さん、木内さんそれぞれに仕事のやりがいについて聞いてみました。
「私たちが開発しているDC-DCコンバータはハイブリッド車や電気自動車向け。最先端かつ地球の環境に貢献できる仕事です。しかも実際に自分が開発した製品が搭載された車が走っているさまを見ることもできる。いちばんのやりがいはそこですね」(佐藤さん)
「私も実際に当社の部品が搭載された携帯電話を街中で見かけたときに、やりがいを感じます。自分が携わった部品が、身近な製品に使われて役に立っている。この仕事をしてよかったなと感じる瞬間です」(木内さん)

素材から手がけるメーカーならではの設備

TDKはフェライト技術をベースに発展してきた会社です。素材まで踏み込んで開発できるのが同社の強みとなっています。
「例えば新しい材料を使って開発した製品に、何か不具合が発生しても、素材までさかのぼって解析することができます。材料をわかっている人材がいる。これが私たちの強みなんです」(佐藤さん)
写真は非常に細かい素材を分析するための透過型電子顕微鏡(TEM)です。
「原因究明にあたり、これで結晶構造を原子レベルで確認します」」(佐藤さん)
TDKは毎年、ITおよびエレクトロニクスの総合展示会「CEATEC JAPAN」に出展しています。このような社外の展示会で説明を行うのも技術系社員の役割の一つです。
「出展ブースで説明員としてエンジニアが参加するのですが、若手のエンジニアも、積極的に参加を求められます。私も入社2年目・3年目のときに、説明員を経験しました。日ごろ、自分が携わっていない製品についても質問される可能性があるので、展示する製品について一生懸命勉強しました。すごく大変でしたが、TDKの技術・製品を知ることができてよい経験になりました」(木内さん)
写真は2009年度の同社出展ブースの様子です。
食堂は昼食だけでなく、休憩や社内の打ち合わせにも使われます。昼食はメニューが豊富で、社員の間でもおいしいと評判だそうです。
「定食は3種類、日替わりで用意されています。そのほかにも日替わりパスタ、ラーメン、カレーライス、うどん、そばなどがラインナップされています。からすがれいの幽庵焼き、チキンから揚げ四川風ねぎソースかけなんていう、ちょっと凝ったメニューも登場します。私たち社員にとって、ホッとできる空間ですね」(木内さん)

TDKにまつわる3つの数字

フェライト技術から発展し、現在は電子材料、電子デバイス、記録デバイスなどの分野で市場をけん引するTDK。以下の数字は何を表しているのでしょうか? 正解は、次回の記事で!

1
75年
2
10件目
3
87パーセント

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取材・文/中村仁美 撮影/臼田尚史 デザイン/ラナデザインアソシエイツ

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