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ビジネスパーソン研究FILE

掲載日:2010年9月24日

Vol.100 過去の常識を覆す技術を取り入れて新製法を具現化

入社1年目から核酸系調味料の新製法開発プロジェクトに参画。5年目には新製法が完成

うま味調味料の代表格「味の素®」の原料は、さとうきびからとれる糖蜜や、でんぷんなど。微生物の力で発酵させて、糖蜜からアミノ酸の一種であるグルタミン酸(昆布や野菜のうま味の成分)をつくり、グルタミン酸ナトリウムの結晶にする。それと同じ発酵という技術を使って取り出した核酸の一種のイノシン酸ナトリウム(かつお節のうま味成分)や、グアニル酸ナトリウム(しいたけのうま味成分)を配合することで、うま味調味料が完成するのだ。
「アミノ酸や核酸は、うま味調味料やアミノ酸サプリメント、飼料や医薬品など、当社の製品に幅広く使われています。私たちは、発酵液からアミノ酸や核酸を取り出して製品化するまでの工程を担う単離精製技術を開発しています。アミノ酸や核酸などの目的物質が含まれている発酵液から、膜、樹脂、晶析、濃縮といったプロセスの分離操作を行って、純度が高い目的物質の結晶を取り出していくんです」

橘高さんが所属するのは、どのようなプロセスをどう組み合わせて目的物質を高品質で単離精製するかを研究する部門。ここでは、目的物質以外に発生する副生物を肥料化、飼料化することや、また、プロセスから発生する排水を少なくするための研究も行っている。その中で橘高さんが入社以来携わってきたのは、目的物質である核酸系調味料を単離精製する研究開発だ。
「5〜10年後を見据えた抜本的な新製法の研究だけでなく、1年先をめどに毎日工場で生産されている製品のプロセス効率を上げる研究など、さまざまな期間と規模の開発を同時に行っています。また、世の中の動きに伴う“ベスト”なプロセスを追究することも重要な仕事。例えば、さとうきびの不作で原料価格が高騰すると、従来の方法では生産コストがアップする。それを最小限に抑えるための研究開発など、経済性や社会環境を考慮したうえで永続的に生産していくための開発を行います。それが生産技術であり、私たちのミッションなんです」

入社前は単離精製と言われてもまったくピンとこなかった橘高さんだが、入社1年目からイノシン酸の単離精製プロセスの新製法開発を担当することになり、入社2年目には九州工場に異動となった。
「1年目は川崎にある研究所で先輩と一緒に新製法開発の実験を行っていました。九州工場に異動したのは『研究所よりも工場で実験を行う方が生産現場をイメージしやすいし、現場技術者にすぐに相談できる』という判断からだったと思います。実際に、生産設備を見たり、生産現場を長年経験した方と論議する機会も増え、開発中の新製法を生産の場で実現するためには何が必要かを考えるようになりました」

自分の思う通りに研究を行える環境での仕事は面白く、生産技術の考え方や研究の進め方も身についた。とはいえ、実験室ではうまくいくことが工場ではそのまま実現できないことも多い。分離操作の方法を変えるなどの試行錯誤を繰り返して5年目、イノシン酸の新製法の技術パッケージをまとめあげた。

室のメンバーは4、5グループに分かれて開発をしているので、橘高さんは各グループの定例報告会に参加。個々の研究開発の進捗状況や今後の方向性を論議する。

新製法を取り入れた核酸系調味料の工場をタイに新設。プロジェクトメンバーとして立上げに貢献

2000年、橘高さんはタイに新設する核酸系調味料工場建設のプロジェクトメンバーに。
「タイに建設するのは、イノシン酸とグアニル酸を比率1対1で生産する工場。だから、それまでに開発したイノシン酸の新製法パッケージをそのまま使うことはできませんでした。しかも、比率を1対1にするのは非常に難しい技術。発酵から単離精製までのプロセスの研究開発に、非常に多くの人と取り組みました」

2001年に新製法パッケージが完成し、2002年、橘高さんを含む単離精製プロセス担当や設備担当のエンジニアが現地に赴任した。
「最初からこの技術開発に携わってきた者として、その新製法が工場で具現化する現場を自分の目で確かめたいと思っていました。ですから、出向が決まったときは『タイで頑張ろう!』とやる気満々だったんです」

施工期間は約2年。図面は完成していても、現地での建設段階ではさまざまな課題が発生するため、橘高さんはエンジニアとその解決に奔走した。そして2004年春、ようやくタイ工場が完成し、稼動し始めた。しかし、最初の約半年間は決して順調な滑り出しとは言えなかった。
「設計どおりの生産量が達成できないうえに、製品の品質が合格ラインに達していないという日々が続きました。実験と現場は違うとはいえ、これはかなり危機的状況でしたね」

しかし、工場はすでに完成しており、引き下がることはできない。精神的に追い込まれる日々が続いたが、ようやく問題の本質にたどり着き、半年後には順調に稼動し始めた。
「そのときの気持ちは…『どうだ、遂にやったぞ!』ですね(笑)。新製法プロセスの中には、従来の常識では生産の場で実現するのが困難だと考えられていた技術を取り入れていたので、いろいろな苦労をしました。ただ、その苦労を共にした仲間との絆や、プロジェクトに携わったすべての方々の成長は自分にとっても会社にとっても大きな財産になっていると思います」

タイで5年間を過ごした橘高さんは、現在は25名のメンバーを統率する室長として、単離精製の新製法開発に取り組んでいる。
「過去を学ぶことは必要ですが、現状がベストだと満足していては、発見も進歩もありません。既存の技術を知ったうえで、今までとは違う新しい何かを考えなくては、この部署にいる意味がないんです。誰も思いつかなかったこと、無理だと思っていたことを新製法に織り込んでこそ、より良い成果が生まれる。研究開発は経験と共に発想力が求められる仕事です。化学の原理原則に立ち返り、一歩引いたところから見直してみることがブレイクスルーにつながります。多くの日本企業が世界的企業に成長してきたのは、世界に誇れる優れた生産技術をつくってきたからだと思うのです。これからも、生産技術にこだわって、『どうだ、見たか!』と胸を張って言える新技術を開発し、生産の場で実現していきたいですね」

メンバーから提出された技術レポートに目を通し、承認や修正の指示を与える。室長になってからの橘高さんは、実験室よりもデスクでの仕事が中心だ。

橘高さんのキャリアステップ

STEP1
1995年 核酸系調味料の新製法プロジェクトメンバーに(入社1年目)
5月中旬までは事務系も含めた全体の新人研修、6月末までは単離精製分野の新人実習に参加。7月より川崎にある生産技術研究所の単離・精製技術室(現所属部署の前身)に配属され、核酸系調味料の新製法開発に従事。プロジェクトの全体像もわからないままに、先輩が立てた実験計画に従って仕事に取り組む。24時間データを追っていく実験も多く、昼夜を問わずがむしゃらに働いた時期。
STEP2
1996年 新工場の建設を視野に、引き続き新製法を開発(入社2年目)
2〜5年目は九州工場技術部に異動し、引き続き核酸系調味料の製法開発に従事。生産現場の経験者のアドバイスを踏まえながら生産技術の基礎を学び、研究開発の仕事が俄然楽しくなる。6年目に再び川崎の発酵技術研究所の単離・精製技術開発室に戻り、タイでの核酸系調味料新工場の建設プロジェクトに参加。新しい製法パッケージを開発する。
STEP3
2002年 タイ味の素に出向。現地で新工場の建設プロジェクトに従事(入社8年目)
バンコク北部にあるカンペンペットに核酸系調味料の新工場を建設するため、タイ味の素に出向。新工場を軌道に乗せた04年秋、工場近くにあるタイ技術開発センターカンペンペット支部に異動し、新工場の生産倍増計画や、現地工場の技術指導などを担当。「異国で仕事をする際は、日本にいるとき以上に緊密なコミュニケーションが重要だ」ということや、「現地スタッフとの接し方は、文化などの『違い』にとらわれすぎず、同じ人間としての『共通点』に基づいて考えるべきだ」ということを赴任中に学んだ。
STEP4
2007年 単離・精製技術開発室に戻り、室長として25名の部下をマネジメント(入社13年目)
タイから帰国。古巣である発酵技術研究所の単離・精製技術開発室に戻って、主に海外工場に導入する調味料などの新製法開発に携わる。09年には室長となり、25名のメンバーを統率する立場となり、現在にいたる。毎年配属される新人は、単離・精製技術に関するグループ実習を受けるため、その指導も行っている。

ある一日のスケジュール

8:30
出社してメールチェックとその日のスケジュールを確認。9時からは担当業務のメンバーとの定例ミーティングに参加。
11:00
メンバーと個別打ち合わせ。重点開発テーマに関して話し合い、今後の開発の方向性を整理して指示する。その後、同僚と一緒に社員食堂で昼食。
13:15
週1で行われる室内会に参加。会社の業績などの連絡事項を共有し、実験などの安全衛生に関してメンバーに注意喚起を促す。
14:00
プロジェクト進捗会議に参加。組織横断的に進めているプロジェクトに関して、各部門での進捗の共有化やプロジェクト全体での今後の開発の方向性を論議。
16:00
実験室などを回る。メンバーとじかにコミュニケーションをとりながら、職場運営や個別テーマに関する意見交換を行う。
17:00
欧米やアジアの海外法人の技術者とテレビ会議。協力して進めている開発テーマに関して進捗を報告し、今後の進め方を擦り合わせる。
19:00
デスクに戻ってメールをチェック。翌日以降のスケジュールを確認して、20:30ごろ退社。

橘高さんのプライベート

部門のメンバーとバーベキューパーティーを楽しむ。写真は、2009年秋に家族を伴って東京都立川市にある昭和記念公園に出かけたとき。「食べるのに夢中で、写真を撮ったのは帰る直前でした(笑)」
タイに赴任中、家族はバンコクで暮らし、カンペンペットへは単身赴任。車で4時間の距離を週末ごとに往復した。正月などの長い休暇は、タイ国内を家族で旅行。写真はサムイ島にて。
子どもが3人となって、週末はほとんど家族と過ごしている。写真は08年の年末に出かけた山梨への1泊旅行。2番目と3番目の子どもは、赴任先のタイで産まれた。

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取材・文/笠井貞子 撮影/刑部友康 デザイン/ラナデザインアソシエイツ

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