塩澤さんが最初に担当した仕事は、仕組債の商品開発。仕組債とは、債券とデリバティブ(金融派生商品)を組み合わせて、発行体と投資家の両方のニーズに応えられるよう設計する金融商品で、通常の国債に比べて高い金利を生む可能性が高い。「商品はオリジナルですが、金融商品には特許がないので、マーケットに出すとすぐに他社が類似商品を出してくる。ですから、商品構成を工夫したり、魅力的な価格を提示するなどして差別化していくことが重要です」
入社後2カ月間、仕組債の商品企画に携わり、その後ロンドン研修に参加した塩澤さん。そして9月、ロンドン研修から帰国して正式配属となったのは、日本国債のトレーディングチーム。トレーダーとして、日本国債のマーケットメーキングを担当することになった。
債券は上場されている株のように値段が明らかにされていないので、投資家が売買したいという注文に対して、売りと買いの価格を提示していく。これがマーケットメーキングだ。顧客は法人で、セールス担当を通してトレーダーに入ってくる売買注文に従って、マーケットの動きを予測しながらマーケットメーキングを行っていく。トレーダーのミッションは、言うまでもなく利益を上げること。マーケットは刻々と変わるので、値段が映し出されるモニターから片時も目を離すことができない。非常に緊張感を強いられる仕事だ。「日本の国債は300銘柄近くあり、週1〜2回の頻度で新しい入札が行われています。マーケットで頻繁に売り買いされている国債なら値段はわかりやすいんですが、古い国債ともなると売り値と買い値の幅が広くて、どのあたりが適正価格なのかを読みにくい。安く売っては損失を与えてしまうし、高すぎればマーケットでの信用を失ってしまう。10億円単位の仕事なので、最初はその額の大きさにも戸惑いました」
数カ月後には何百億円単位の取引にも慣れたという塩澤さんだが、今でも覚えているのは初日の取引成果。「初日の利益は17万円でした。今と比べれば本当にわずかな金額ですが、そのときはうれしかったですね」
塩澤さんが考えるトレーダーに必要な資質。それは“セルフコントロール力”だという。「負けているときは、値段が戻るまで待ちたくなるもの。でも、そこで待ってしまうと、損をより膨らませて、なかなか取り返せない大きさにしてしまうリスクがある。ダメなときは、損切りするという決断も必要なんです。取引は1日に何度も行うので、失敗と成功の繰り返しです。数秒前に勝っていたのに数秒後には負けていることなど珍しくありませんし、夜寝て朝起きたら負けていて会社に行きたくなくなる日もあります(笑)。でも、プロが集まって行っている取引ですから、無理もありません。クヨクヨと翌日に引きずらずに、失敗は反省材料にして、次の取引に生かすよう気持ちを切り替えています」
そしてもう一つが“数学的な瞬発力”。「顧客に値段を聞かれたときに、0.001%単位という細かさで即答できなくてはいけませんし、どの商品とどの商品を何対何で取引すべきかを、瞬時に暗算できなくてはいけない。高度な数学力は必要ありませんが、数字嫌いの人にはトレーダーは向かないかもしれませんね」