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ビジネスパーソン研究FILE

掲載日:2010年10月22日

Vol.104 入社3年目にして2000億円の取引を成就

取引は失敗と成功の繰り返し。失敗は反省材料にして、気持ちを切り替える

塩澤さんが最初に担当した仕事は、仕組債の商品開発。仕組債とは、債券とデリバティブ(金融派生商品)を組み合わせて、発行体と投資家の両方のニーズに応えられるよう設計する金融商品で、通常の国債に比べて高い金利を生む可能性が高い。「商品はオリジナルですが、金融商品には特許がないので、マーケットに出すとすぐに他社が類似商品を出してくる。ですから、商品構成を工夫したり、魅力的な価格を提示するなどして差別化していくことが重要です」

入社後2カ月間、仕組債の商品企画に携わり、その後ロンドン研修に参加した塩澤さん。そして9月、ロンドン研修から帰国して正式配属となったのは、日本国債のトレーディングチーム。トレーダーとして、日本国債のマーケットメーキングを担当することになった。

債券は上場されている株のように値段が明らかにされていないので、投資家が売買したいという注文に対して、売りと買いの価格を提示していく。これがマーケットメーキングだ。顧客は法人で、セールス担当を通してトレーダーに入ってくる売買注文に従って、マーケットの動きを予測しながらマーケットメーキングを行っていく。トレーダーのミッションは、言うまでもなく利益を上げること。マーケットは刻々と変わるので、値段が映し出されるモニターから片時も目を離すことができない。非常に緊張感を強いられる仕事だ。「日本の国債は300銘柄近くあり、週1〜2回の頻度で新しい入札が行われています。マーケットで頻繁に売り買いされている国債なら値段はわかりやすいんですが、古い国債ともなると売り値と買い値の幅が広くて、どのあたりが適正価格なのかを読みにくい。安く売っては損失を与えてしまうし、高すぎればマーケットでの信用を失ってしまう。10億円単位の仕事なので、最初はその額の大きさにも戸惑いました」

数カ月後には何百億円単位の取引にも慣れたという塩澤さんだが、今でも覚えているのは初日の取引成果。「初日の利益は17万円でした。今と比べれば本当にわずかな金額ですが、そのときはうれしかったですね」

塩澤さんが考えるトレーダーに必要な資質。それは“セルフコントロール力”だという。「負けているときは、値段が戻るまで待ちたくなるもの。でも、そこで待ってしまうと、損をより膨らませて、なかなか取り返せない大きさにしてしまうリスクがある。ダメなときは、損切りするという決断も必要なんです。取引は1日に何度も行うので、失敗と成功の繰り返しです。数秒前に勝っていたのに数秒後には負けていることなど珍しくありませんし、夜寝て朝起きたら負けていて会社に行きたくなくなる日もあります(笑)。でも、プロが集まって行っている取引ですから、無理もありません。クヨクヨと翌日に引きずらずに、失敗は反省材料にして、次の取引に生かすよう気持ちを切り替えています」

そしてもう一つが“数学的な瞬発力”。「顧客に値段を聞かれたときに、0.001%単位という細かさで即答できなくてはいけませんし、どの商品とどの商品を何対何で取引すべきかを、瞬時に暗算できなくてはいけない。高度な数学力は必要ありませんが、数字嫌いの人にはトレーダーは向かないかもしれませんね」

スタンドマイクはブローカー(売り手と買い手の仲立人)との専用回線。売買注文をしている最中にも、セールス担当やブローカーとは頻繁に電話でやりとりする。

2000億円の取引を経験をしたことで、より大きなリスクをとれるトレーダーに

2年間、日本国債のマーケットメーキングを経験した後、2009年より担当しているのはクロスカレンシ―スワップと呼ばれる異通貨間の金利スワップのマーケットメーキング。クロスカレンシ―スワップとは、2つの異なる通貨の金利を交換すること。日本の投資家がアメリカの債券を購入したいが、払われる金利は米ドル。そこで、アメリカの債券で受け取る米ドルの金利をスワップ(交換)相手に渡して、日本円で金利をもらう。このような取引を成立させるのが塩澤さんの仕事だ。海外で広く資金調達したい企業や海外の債券に投資したい投資家、国内外の金融機関などを相手に取引している。
「この仕事の難しさは、アメリカの金利や為替はもちろん、ほかのさまざまなリスクファクターに常に注意を払わなくてはいけないこと。難しい反面、参加者が少ないので、その分、利益を取るチャンスがあり、そこが楽しさでもあります。また、グローバルな醍醐味を味わえるのも僕にとっては魅力です。例えば、資金を調達したい海外の企業と日本の投資家をつなぐなど、世界中の顧客や現地オフィスのスタッフと共に働けること。海外で起こったことがすぐにマーケットに反映されるのも、この仕事ならではですね」

印象に残っているのは、2009年秋に上司と2人で成功させた外国企業との2000億円規模の取引。これだけ巨額になると抱えるリスクが大きくなるので、塩澤さんは1週間という時間をかけてリスクヘッジのための準備を整え、最終的にはリスクがなくなる状態まで調整していった。
「マーケットの動きにドキドキした1週間でしたが、無事に成功してホッとしました。今までにない大きなリスクをとる経験をしたことで、今後はより大きなリスクをとれる自信がつきました。ドイツ証券の良いところは、僕のような入社数年の若手にも大きな仕事をさせてくれること。もちろん結果も求められる厳しい世界ですが、先輩に相談すれば親身になって教えてくれますし、会社全体に社員を長期的視点で育てようという風潮があるので、働きやすい環境だと思います」

塩澤さんが目指しているのは、ずばり“稼げるトレーダー”だ。
「リスクを抱えたときに、自分に都合の良い面ばかり見ていると失敗しがち。だから、今は自分の考えが本当に合っているのかを常に確認し、自分の考えと逆の側面からもリスクを見て相対的に判断するようにしています。10年勝ち続ける人は、なかなかいませんが、僕の目標はトレーダーとしてもっと利益を上げられるようになること。先輩のスゴイ点を見習いつつ、でも同じ道を辿っても越えられないので、自分なりの道を模索している最中です」

毎日定例で行うミーティング風景。マーケットが開いている間は集まれないので、早朝もしくはランチタイムに行っている。

塩澤さんのキャリアステップ

STEP1
2007年 商品開発部への仮配属時期(入社1年目)
7月まで商品開発部に仮配属となり、さまざまな仕組債を開発したり、その価格や条件などを提示するオファーシートを作成する業務などを学ぶ。商品は、セールス担当がヒアリングしてきた顧客ニーズに基づいて設計することもあれば、リスク管理担当者とトレーダー間でマーケット環境を予測しながら魅力的な商品を考案することも。わからないことは、まず自分なりに調べてやってみたうえで先輩に教えてもらうようにして、仕事を覚えていった。
STEP2
2007年 ロンドンでのグローバル研修に参加(入社1年目)
金融の中心ロンドンにて、同社の新人が世界各地から集まる2カ月間のグローバルな研修に参加。ホテルの会議室を利用して、経済や統計、金融商品知識などの基礎を学んだ。「インド系の人たちは真面目だし、ラテン系の人たちは陽気で賑やか。国民性の違いがわかって面白かったし、大学の講義みたいで楽しかったですね。研修の後は皆で飲みに行ったりしたのも良い思い出。一緒に研修を受けた外国人スタッフとは、今でも時々連絡を取り合っています」。
STEP3
2007年 日本国債のマーケットメーキングを担当(入社1年目)
9月、ロンドン研修から戻ってトレーディング部に本配属となる。通常は仮配属だった部署に配属になるのだが、トレーダーに欠員が出たために急遽トレーディング部となった。「半年で異動になったのはビックリしましたが、ロンドン研修中にトレーダーに欠員が出たことを聞いていたので、ある程度は予想していました」。日本国債のマーケットメーキング担当として、あらためて新しい業務を習得していった。
STEP4
2009年 金利スワップのマーケットメーキングを担当(入社3年目)
10月より、異通貨間の金利スワップのマーケットメーキングを担当することに。債券を担当していたころは、日本円の金利を注視していればよかったが、金利スワップでは海外の金利や為替などを広くカバーしていく力が求められるように。2000億円という大きな取引を経験したことで、より大きなリスクをとれる度胸がついた。

ある一日のスケジュール

7:00
出社。寝ている間に変動したロンドンとニューヨークのマーケットをチェック。その動きを踏まえて今日1日の戦略を立てる。
8:00
毎朝のミーティングに参加。アナリストから海外指標の解説、トレーダーから商品動向と予測、セールス担当から顧客動向の説明を聞く。引き続き、英語でも同様の打ち合わせを行う。
8:40
取引のスタンバイ。9時にマーケットが開いたら、絶えずモニターで値動きを確認しながら売買注文を行う。
11:00
午前のマーケットが終了。ミーティングを行うこともあるが、週2、3日は外にランチに出る。
12:30
午後のマーケットが開くので、午前と同様に売り買い注文を行う。
15:00
ひと区切りつけて、今日1日の損益計算書を作成し、取引記録をシステムに入力する。
17:00
ロンドンのスタッフが出社するので、電話で情報交換や引き継ぎを行う。残った業務を片づけて、19時ごろ退社。

塩澤さんのプライベート

中学校時代からテニスを続けている。大学ではサークルに入っていたので、社会人になってからも月2回程度はサークルの仲間とプレイを楽しむ。ときには会社の人たちが参加することも。
料理は食べるのも作るのも好き。平日は外食ばかりなので、健康を考えて、土・日は自炊を心がけている。写真は韓国風冷麺。「料理は気分転換になります。よく作るのはイタリアンですね」。
写真は、9月に友人のライブに行ったときのもの。プロ、アマチュアを問わず、ライブにはよく足を運んでいる。「好きなのはジャズやハウス。ライブに行くとストレス発散になりますよ」。

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取材・文/笠井貞子 撮影/刑部友康 デザイン/ラナデザインアソシエイツ

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