木部さんが入社以来所属している電力部隊は、海外でのIPP事業(独立発電事業)やEPC(発電所建設の請負)を行う丸紅の重点事業の一つであり、現在はその中でも海外IPP事業を行う部署に所属している。1995年の電気事業法改正で、一般事業者がIPP事業に参入している中、丸紅は持分発電容量7599メガワット(2010年6月現在)と、日本の発電事業者としてトップクラスの地位を築いているのだ。
最初の配属は、丸紅電力開発株式会社への出向。海外電力事業案件の開発・運営を行う関連会社の税務や会計などの管理業務に当たった。初仕事は、香港の関係会社の会計をスムーズに管理するレポーティングパッケージのオンライン化。香港オフィスのニーズを聞きながら、日本の都市銀行のオンラインシステムを最適化して導入する業務だ。配属先は課長がいない部長直轄の組織で、最初の打ち合わせこそ先輩が同席したものの、後は木部さんが主担当となって業務をこなし、初めての香港出張も一人で行った。
「そこで、まずは社内の資料が保存されている共有フォルダから過去の類似案件を探して参考にしました。自分なりに仕事を進め、一日の終わりに先輩が僕の業務報告書を読んで軌道修正してくれる。この繰り返しで仕事を覚えていきましたね。先輩も仕事をたくさん抱えているので、後輩に引き継がなければ新しい案件に手をつけられない。だから、お互い必死です(笑)。会計や税務など、各分野に明るい先輩が身近にいたので、その点では非常に恵まれていましたね」
その後は、海外にある持ち株会社を担当。アジア・中近東などの担当チームや現地オフィスから依頼される案件にかかわり、最適な投資構造を考える業務に就いた。契約までの流れを簡単に説明すると、現地スタッフが探して絞り込んだ案件を、東京オフィスでさらに精査。タックスストラクチャー(節税対策)や収益性などの投資構造を構築し、本社の承認が下りたら入札に参加。入札で事業者に選定されると独占交渉権を得られ、両者でさらに細かい条件を詰め、最終合意に達したら書面での契約締結…となる。
「日本が出資するにあたって最適なタックスストラクチャーを構築するために、子会社を経由させることは珍しくありません。『この案件は××国の子会社を経由させたほうが良い』など、案件ごとの国際的なタックスストラクチャリングを考える仕事です。税務に関する幅広い知識が必要となり、本来は経験を積んだ人たちが担当する業務なので、プレッシャーはありましたね」
2008年に異動となった電力インフラアセットマネジメント部アセットマネジメントチームは、世界各地で動いているプロジェクトの収益を迅速に把握するべく発足した新しい組織である。
「うれしかったのは、自分の部門別会計報告が部長に上がり、会社の報告書として使われたこと。自分が苦労してはじき出した数字が使われていたのを見たときは、感激しましたね」
年4回のIPP事業の予算管理と、年2回の中長期計画をまとめた部門別会計の報告を担当するようになり、木部さんが実感するようになったのは説明責任を全うする大切さ。これは営業担当となった現在も変わらない。
「僕の役割の1つは、常日頃上司からいわれていることの受け売りですが、『良い案件かどうかを目利きして獲得する』こと。もう1つは、その案件について部門や社内の理解を得られるまで説明すること。地味で難しい作業ですが、全社純利益の底支えとなるべき事業なので、あらゆる手段で説明責任を果たすべきだという意識を持つようになりました」