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ビジネスパーソン研究FILE

掲載日:2012年3月30日

Vol.164 日本経済を支える石油・天然ガス開発を推進

コストコントロールの基本を学んだ若手社員時代

「経済活動を支える原油のほとんどを輸入に頼る日本は、非常に不安定な基盤の上に成り立っています。その基盤となる石油に携わり、グローバルに働きたいと思ったのです」

世界各地で油田・ガス田の開発・生産に参画し、日本への安定的なエネルギー供給を担う国際石油開発帝石(INPEX)。そこで働く高野さんが大学時代に実感したのが、日本にとっての石油・天然ガスなどの天然資源の重要性だった。大学時代に経験したシリア留学や、休学中のリビアでのアラビア語通訳の経験、また中東諸国を転々と旅する中で、石油の存在感を目の当たりにしたのだ。

世界各地の油ガス田の探鉱・開発プロジェクトへの参加を期待して入社したものの、資材部に配属された当初、担当したのは社内のインフラ整備。先輩社員が世界各地の探鉱・開発プロジェクトにかかわる中、高野さんはWindowsの社内パソコンへのインストール作業200台分や電話交換機導入に伴う業者の選定、社内にプロジェクト室を立ち上げる際のIT環境の整備など、国内業務を担当することに。一見、石油開発から程遠い仕事でがっかりしたが、その後、入社1年目の6月から4カ月間、同業他社に研修生として出向し、秋田県男鹿半島の掘削現場で資材調達を担当する機会を得た。初めての現場は学ぶことばかりで、失敗の連続だったという。
「掘削責任者とのコミュニケーション不足から、調泥剤(掘削時に、比重や増粘調整のため坑内循環させる流体に投入する薬剤)の発注量を誤ったことがあります。掘削の進み具合に応じて教科書通りの発注をしたのですが、掘削責任者は数日後に通常より多くの調泥剤を必要とする作業を予想していたのです。その作業方針を十分に確認しておらず、当日調泥剤が足りなくなるという事態に。結果的には、次回の調達で間に合うことになりましたが、工程表に「WOM(Wait on Material:資材待ち)」と示されるのは資材調達担当の恥。作業レポートだけを見て判断するのではなく、作業担当者に直接、今後の予定を確認することや、技術的な内容も可能な限り理解し、次にどのような工程が予定されているのかを見通すことの大切さを実感しました」

それからは、業務開始前や昼休みも惜しんで勉強を重ねるとともに、わからないことは恥ずかしがらずに人に聞くように。出向終了後は少しずつ海外の現場での資材調達関連の業務も任されるようになり、入社2年目には念願の海外赴任が実現した。行き先は中東の某国。INPEXが中心となり進める石油開発プロジェクトで、高野さんは約1年半、中東の海外事務所に勤務した。その後、陸上生産施設の基本設計を請け負うエンジニアリング会社の事務所(フランス)に1年間駐在し、コストコントローラーとして、陸上施設設計チームの予算作成や作業進捗の管理を行う業務を担った。

石油開発業界におけるコストコントローラーは、上流開発プロジェクトにおいて、プロジェクト費用の予測・管理・分析を担う。開発作業費、資機材費、人件費をはじめとする一般管理費など、開発作業にかかる予算を作成した上で、作業進捗をコスト面から把握。作業の進捗を工程表と比較しながら管理するスケジューラーと連携を取りながら、決められた工期・予算内で作業が進められているかなどをチェックしていく。また、予算や工程の見直し、コスト超過が予見された場合の予防策をプロジェクトマネージャーに進言し、判断を仰ぐ。
「発注先であるエンジニアリング企業から提出される図面と照らし合わせながら、設計図や設計にかかった人件費が適切かどうか、毎月末にチェックしていました。当初は見るもの聞くものすべてが新しい経験。けれど、仕事を進めていくうちに、コストコントローラーに求められるのは、技術的な側面も理解しながら予算と工程を把握し、コストのトレンド(傾向)を予測して、手遅れになる前にマネジメントに予防策や判断材料を提供することだとわかりました。そのためには、実際に予算を使う部署が何を考え、どのような発注をしようとしているのかを把握することが大切。担当者の元にできるだけ足を運ぶなど、綿密なコミュニケーションを心がけるようになりました」

アザデガン油田の陸上生産施設の基本設計エンジニアとの打ち合わせ(2006年)。こまめに打ち合わせを行い、作業の進捗を確認する。

カザフスタンの開発現場。多国籍な環境の中、ゼロからの仕組みづくりに取り組む

入社して5年目。高野さんは東京本社に戻り、人事での採用業務やオーストラリアで進められている天然ガス田開発プロジェクト「イクシス」のコストコントロール部門へのサポート業務などを経て、入社6年目に大きな成長の機会を得た。カザフスタンのカスピ海にある巨大油田「カシャガン油田」の開発を進めるジョイントベンチャー(JV)への出向だ。このJVは、TOTAL(仏)やShell(英)、ExxonMobil(米)をはじめとした石油メジャー5社(※1)とカザフスタン国営石油会社、そしてINPEXの計7社が出資して設立したオペレーター会社。各パートナー会社からの出向者で構成される組織で人員の募集が始まった際、上司に勧められた高野さんはすぐに応募。面接をクリアして出向が実現した。高野さんに求められたのは、コストコントロールの業務手順や仕組みをゼロから構築・整備する役割。しかし、その作業は苦労の連続だった。
(※1)石油の探鉱(採掘)、生産、輸送、精製、販売までの全段階をカバーする国際的な活動を展開している欧米の巨大企業複合体の総称。

「企業文化も仕事の進め方も異なる7社から約400人の人材が集まり、その国籍は28カ国に上っていました。その多様性の中で、業務ルールを作っていくのは大変でしたね。用語一つをとっても、アメリカの会社同士でさえ『複数年度予算』を表す言葉が違っていたり…どの言葉を共通の用語にするのか、決裁権限は誰に与えられ、どのような書式で手続きを行うのか、などについて上司や関係部署と一つずつ議論し、ルール・業務手順を整備していきました」

とはいえ、最初の1年間は、議論で相手に譲ってしまい、不本意な内容でルールが決まってしまって、後悔することもあったという。
「私はコストコントロールについて一定の経験がありましたが、相手はさらに豊富な経験を持ち、当社より事業規模が格段に大きい石油メジャー出身の社員。当初は気後れして譲ってしまうこともあり、『交渉術が足りないのでは』という不安を感じていました。しかし、議論を重ねていくうちに、大事なのは、自分は何が正しいと思うのか、その考えと理由をはっきりさせ、一度正しいと思ったことは簡単には曲げないことだと気づきました。でなければ、『こいつには意見がないんだな』と思われて、聞く耳を持ってもらえなくなるのです。それからは、会議ではとにかく発言して存在感を示し、正しいと思ったことはロジックを組み立てて一生懸命に説くことを心がけるようになりました。そうするうちに、『この件はタカノに聞いてみよう』と頼りにしてもらえるようになりました」

出向1年目に仕組みを整え、2年目に運用してみて発生した問題点を修正し、3年目にはJV内の業務フローを安定的に運用できるようになった。出向期間が終了しカザフスタンを離れる時は、ゼロから業務ルールを立ち上げた苦労が思い出され、上司や同僚と別れを惜しんで涙したという。
「口論は絶えず、一生懸命作った資料を破られて床に叩き付けられるなど、苦労もたくさんありました。自分が譲ってしまったためにのちのち運用が難しくなった業務もあり、後悔が残るところもありますが、何もないところから日常業務を回せる仕組みをつくりあげられたことは、大きな達成感を得た経験となりましたね」

そして、2011年12月に帰国した高野さんは、本社で新しい仕事に挑戦している。新規案件発掘のための情報収集・分析、そして契約交渉まで行う企画渉外・法務ユニットだ。高野さんは中東、ロシア、CIS(独立国家共同体)、南米、アフリカを担当。コストコントロールとはまったく異なる仕事だが、長期的なキャリアプランに生きてくる仕事だと捉えているという。
「JVでの3年間を通して、会社に頼らずに生きていくくらいの意識がなければ海外では戦えないと感じました。JVで一緒に働いた外国人たちはそれぞれが専門性を持っており、これが強みになっている。そこで、私自身はまずはコスト・エンジニアリングという自分の専門領域を強化したいと考えています。コスト・エンジニアリングとは、プロジェクト・マネジメントの一部として、これまで経験したコストコントロールに加え、経済性計算、見積もり、予算立案、進捗管理など、プロジェクト運営にかかるコスト一切の管理を担う分野。日本ではまだなじみのない分野ですが、アメリカでは資格認証機関もある分野です。現部署では投資した際の経済性計算も行いますし、また契約交渉にもかかわっていくので、いずれの知識・経験もプラスになるでしょう。これまでの経験を生かしつつ、今後さらに自身を成長させるために、スキルアップを続けていきたいと思います」

カシャガン油田の開発に関する契約書をExxonMobilから出向していた同僚とチェック(2010年)。契約内容に従い、コストコントロールを進める。

高野さんのキャリアステップ

STEP1
2003年 本社資材・保険ユニットにて、資材調達を担当(入社1年目)
同じ部署の先輩社員が世界各地のオペレーター/ノンオペレーター(※2)プロジェクトに必要な資機材をアレンジしている一方、自分はWindowsを社内パソコン200台にインストールする、という仕事からスタート。入社1年目の6月からは、4カ月間同業他社に出向、秋田県で実施された基礎試錐(国内探鉱活動を促進するための基礎調査)の現場で資材調達を担当。その後は、本社移転のアレンジなど社内インフラの整備を担当しつつ、INPEXが権益を持つ海外の現場での資材調達に関する申請書のチェックなども少しずつ任されるようになった。「パソコン調達を担当した際は石油開発とはまったく関係のない仕事に驚きました。しかし今思い返すと、決まった予算・期間・人的資源の中で関係者と協力して物事を進めていったこの業務は上流開発プロジェクトのマネジメントと同じなので、得るものは多かったです。また、秋田の現場で身につけた資材調達に関する知識はコストコントロールにも大いに役立っています」。
(※2)オペレーター:プロジェクト推進を担うリーダー企業。
ノンオペレーター:資金・情報提供でオペレーターをサポートする企業。
STEP2
2004年 中東における油田開発プロジェクト室に異動。中東某国へ赴任(入社2年目)
04年9月に中東のある都市に赴任し、1年半は各部署のコストコントローラーから上がってくる情報の集約と報告書作成を担った。学生時代の海外経験から英語の通常使用には不自由しなかったものの、ビジネス・プレゼンテーションを行う際、くだけた英語ではなく、正しい英語を使用することに苦労したという。05年12月には、陸上生産施設の基本設計が開始されるにあたり、フランスに転任。基本設計を請け負うエンジニアリング会社の事務所に常駐し、基本設計のコストコントロールを担当した。
STEP3
2008年 カシャガンプロジェクト オペレーター組織に出向。パリへ赴任(入社6年目)
07年1月に本社に戻り、人事ユニットにて新卒・中途採用と海外駐在事務所の労務管理を担当。08年9月には資材・保険ユニットに異動し、イクシスプロジェクトのコストコントロールをサポートするため、2カ月間オーストラリアのパースに出張。その間にカシャガン(カザフスタン)プロジェクトのオペレーター組織(JV)への出向に応募し、08年12月より事務所を開設したパリに赴任。10年6月には本拠地移転に伴い、フランスからカザフスタンの首都アスタナに転任した。
STEP4
2011年 本社企画渉外・法務ユニットにて新規案件の発掘を担当(入社9年目)
中東、ロシア、CIS、南米、アフリカを担当。日々、各種の情報収集をしつつ、コンサルタントや投資銀行などから提供される新規投資案件情報に目を光らせている。経済性、治安・政情なども鑑みて有望だと判断できる鉱区が見つかれば入札に参加し、落札後契約締結に向けた交渉を進める。

ある一日のスケジュール※カザフスタン駐在時代

8:00
出社。前日に立てたTo do listとスケジュールを見直し、懸案事項の解決策をコーヒーを飲みながら検討。その後、ニュースとメールを確認。
9:00
上司(アメリカ人)と毎朝定例のミーティング。作業の進捗確認、課題の洗い出しなどを行う。終了後は、部下(イギリス人、カザフスタン人)と情報を共有。
10:30
技術部門とのミーティング。設計作業の達成度を確認し、新たな作業指示が必要かどうか、予算と照らし合わせながら話し合う。
12:00
同僚と近くのロシア料理店に行き、ランチ。
14:00
パリ、ロンドンの事務所が開くのに合わせ、担当者と電話会議。各部署が提出した次年度予算の妥当性を確認する。
15:30
カザフスタン国営石油会社担当局を上司と共に訪問。今年度の支出見通しを説明する。17時ごろ帰社し、カザフスタン側の懸念内容をメモにまとめ、関係者にメール。その後、たまったメールや承認事項を処理。
19:00
ヒューストンにいるExxonMobil担当者と電話会議。発注している地質・油層評価の進捗と作業費用の妥当性について確認。その後、翌日の仮To do listを作成してスケジュールを確認し、20時ごろ退社。同僚と夕食に行くことも。

高野さんのプライベート

カザフスタン赴任中に乗馬を始め、毎週末楽しんでいた。もともと遊牧民で草原を駆けまわっていたカザフ人にとって馬はとても身近な存在。日本と比べて気軽に乗馬を楽しめる。高野さんも、一時は仕事帰りに通うほどはまったという。
大学時代に自転車を始め、駐在から一時帰国した際には北海道を半周したり、秋田県の男鹿半島から宮城県気仙沼市まで東北地方を横断するなどして楽しんでいた。「風を感じて走るのが気持ちいいですね」。
フランス、カザフスタン時代の週末は、同僚や友人とのホームパーティーを楽しんでいた。とりわけカザフスタンの冬は平均マイナス20度の厳寒の上、娯楽が少ないため、ほぼ毎週末実施。写真はパリ駐在時に、友人宅にて。
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取材・文/浅田夕香 撮影/刑部友康 デザイン/ラナデザインアソシエイツ

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