株式会社明治座

きし・さやか●宣伝部 宣伝課 主任。大妻女子大学文学部英文学科卒業。2007年入社。大学時代にテーマパークでアルバイトをしていた経験から、就職活動では顧客と直接ふれ合うことのできる仕事を志望。好きな演劇にも携わりたいと、劇場運営会社や映画配給会社を中心に、百貨店、スーパーなどにも応募した。明治座への入社の決め手は、社員も接客業務を担当できるなど(当時)、自分の希望を実現する環境があったこと。

劇場内のサービスを担当して実感した、明治座の親しみやすさ

1873年に東京・日本橋で開場し、2013年には創業140周年を迎えた明治座。歌舞伎や演劇、落語、演歌歌手によるコンサート、コメディアンによる舞台など、公演内容の幅は広い。これらの公演の宣伝を担当しているのが岸さんだ。

「歴史はあるけど親しみやすい、というのが明治座の売りなんです」

 

宣伝課に異動したのは入社3年目。それまでは、来場者の受け付けや客席案内など、劇場内のサービス全般を担当していた。そこで実感したのが、明治座の親しみやすい雰囲気だったという。

「明治座という劇場が好きで、定期的に通ってくださる常連のお客さまが何人もいらっしゃったんです。そして、先輩たちは皆『あの方は足が不自由で必ずエレベーターで帰られるのでご案内しよう』『あの方は目が不自由で、終演後のお買い物は、お手伝いさせていただこう』など、お一人おひとりに合わせた対応をしていて。この温かみとお客さまとのつながりが明治座の強みだと思いました」

 

自分も先輩たちのようになりたいという思いで、お客さまについて教わるたびにメモを残して覚えていたという岸さん。2年近くかけて劇場内のスタッフとしてやるべきことを身につけ、さらにお客さまに対するサービススキルを高めていきたいと考えていたが、入社3年目に辞令を受け、宣伝課に異動することとなった。

「これから頑張ろうと意気込んでいたので、異動を聞いた時は、『なぜこのタイミング?』と思う気持ちはありましたね。ですが、これまでの経験を生かして、明治座の素晴らしさをより多くの人に伝えるという宣伝の仕事を頑張ろうと、すぐに気持ちを切り替えました」

 

公演に関する情報を発信し、1人でも多くの人に来場をうながすのが宣伝課の役割。明治座では、1公演につき2人が主担当となり、1人がチラシやポスター、 新聞広告、プログラムなどの印刷物を、もう1人が制作発表やイベント、取材対応やテレビ、ラジオ出演のブッキング(予約)をはじめとしたプロモーションを担当するのが現在の基本の形。岸さんも、配属後すぐに担当を持ち、先輩に教わりながらノウハウを学んでいった。まず担当したのは、「忠臣蔵」を題材にした舞台。PRイベントの一つとして、出演者による赤穂浪士(あこうろうし※)たちへの墓参りを企画した時、仕事に対する意識の持ち方を学んだという。

「墓参りだけではインパクトが薄いため、お寺の本堂も借りて何かやりたかったのですが、使用許可が下りなかったんです。私も、お寺だからできないこともあるだろうと強くお願いしなかったのですが、社内からは『墓参りだけだとイベントとしてインパクトがないから考え直した方がいい』『お寺側にはかけあったのか?』と指摘を受けて。先輩と一緒にもう一度相談にうかがったら、許可が下りたんです。最終的には、本堂で成功祈願のご祈祷(きとう)もしてもらって、マスコミに公開したのですが、自分がやりたいと思ったことを実現させるためには、広い視野でさまざまな方法を考えなくてはいけないと思いました」

(※)「忠臣蔵」の事件の主人公となる浪人(兵庫県の武士)

 

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現在の部署である宣伝課の同僚と打ち合わせ。担当する公演のPRイベントについて、当日の流れ・役割分担などを説明する。

 

ターゲットに応じた方法で宣伝し、チケットの売り上げに貢献

その後も幅広いジャンルの公演の宣伝を担当し、経験を積んだ岸さん。チケットの売り上げという結果を出すために意識しているのは、公演を見たいと思う世代を見極め、その世代に合った方法で情報発信することだという。その意識が成果となって表れた一つが、入社8年目に担当した萩本欽一さんの舞台の宣伝だ。

「例えば、歌舞伎公演は、インターネットからチケット予約をされる方や、若い世代のお客さまが増えているんです。そのため、Web広告を増やしたり、公式Twitterの更新頻度を高めたり、動画配信を行ったりとSNSを活用します。一方、萩本さんの舞台の場合だと、一番見たいと思われるのは、70年代に何本もの冠番組を持ってテレビで活躍されている萩本さんを見ていた世代。そのような方々に届くのは、やはり、マスメディアだろうと考え、萩本さんに新聞やテレビのインタビューにたくさんご協力いただき、駅貼りのポスターを増やしたりしました。その結果、テレビのインタビューをご覧になられた方がすぐに電話でチケットのお問い合わせをしてくださるなど、売り上げにつなげることができたんです」

 

また、萩本さんは、この公演を最後に舞台公演から引退することを宣言していた。それも岸さんにとって大きな学びになったという。

「『THE LAST』と銘打った今回の公演と過去の公演とでは、チケットの売れ行きやマスコミの反応がまったく違ったんです。長年、定期的に行われていた公演の最後のものを明治座でやるということは、出演者の方だけでなく、ずっと見続けてきたファンの方や世の中にとっても大きなことなのだと知り、PRする立場にいる責任の重さを感じました。『絶対にお客さまを呼びたい』『“公演があることを知ったら絶対に見に行く”という方とできる限り接点が持てるよう宣伝方法を考えよう』と気が引き締まりましたね」

 

伝わってくるパワーの強さや、見ると元気になれることなど、本物を自分の目で見て感じるからこそ得られる経験を、1人でも多くの方にしていただきたいと話す岸さん。宣伝に携わるようになって7年たち、新しい目標も見据えている。

「これからは、宣伝業務を通して、明治座の名前をより広く知ってもらうための取り組みもやっていければと思っています。公演のジャンルが幅広いのでさまざまな年齢層の方にお越しいただくことができるのが明治座の強みです。といっても、明治座の名前をまだご存じない方や、一度も足を踏み入れたことがない方がまだまだたくさんいらっしゃいます。今検討しているのは、祖父母世代の方が主なターゲットになる公演で、お孫さんとの観劇をお勧めする企画。このような、公演の強みを生かしながら客層を広げるような宣伝方法を企画し、1人でも多くの方に明治座に足を運んでいただき、温かみや親しみやすさを知ってもらいたいですね」

 

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明治座の歴史について取材に来た記者に館内を案内する。同社では、マスコミからの公演以外に関する取材や問い合わせも、宣伝担当が対応している。

 

岸さんのキャリアステップ

STEP1 2007年 3カ月間の研修で、劇場運営にかかわる仕事を把握する(入社1年目)

チケットセンターでの電話予約受け付け、チケットの発送、総合案内での電話応対、劇場ロビーでの接客・客席案内、売店での販売など、劇場運営にかかわる業務をひと通り経験した。苦労したのは、チケットセンターや総合案内での電話応対。「○時△分、東京駅発の新幹線には公演が終わってからでも間に合うか?」など、公演以外の質問を受けることも多く、知識不足に悩んだという。「すぐに答えられなかったことはとにかく先輩に聞いて、調べて、メモして覚えました」。

STEP2 2007年7月 サービス部観客課に配属。劇場内のサービス全般を担当(入社1年目)

観客課の主な業務は、公演時の来場者の受け付けと客席案内。客席案内や劇場内の見回り、プログラムの販売など多岐にわたる。劇場内の混雑状況に応じて、チケットのもぎり(入場券の半券を取る)をスピードアップするなどして人の流れを円滑にしたり、上演中に出演者が一般客も利用するロビーを使って移動する場合の出演者と観客の安全確保を行ったりするなど、公演終了まで来場者・出演者が安全かつ快適に過ごせるよう立ち回ることが求められた。「劇場内でPRイベントを行うときに安全性を考慮した物の配置を考えるなど、『お客さまにとってどうか』という視点が持てるのは、観客課を経験したからこそだと思います」。

STEP3 2009年 宣伝部宣伝課に異動。公演の宣伝を担当することに(入社3年目)

すぐに公演プログラムの制作やPRイベントの企画・運営などの担当に入り、しばらくの間は、先輩社員と一緒に業務に取り組みながら仕事のやり方を学んでいった。「1つの公演をPRするのに、マスコミから社内のプロデューサー、出演者の事務所、印刷会社、デザイン会社まで、調整しなければならない相手がものすごく多いですし、印刷に関する知識など、知らないことも多かったです。そのため、例えば、関係者にお願い事をする場合、どのような言葉で、どんなふうに話を進めるのか、先輩が電話で話している様子を観察し、まねしてみるなど、先輩のやり方を盗もう(笑)と思いました」。

STEP4 2013年 大規模なPRイベントの成功が自信に(入社7年目)

異動から3年半たった13年、氷川きよしさんの公演PRイベントの一つとして、出演者が舞台衣装を着て街を練り歩く「お練り」を実施した。「『お練り』は、たくさんの方が見に来てくださればニュースにもなりますし、ニュースになればチケットの売り上げにもつながります。ただ、警備や誘導などにたくさんの人が必要ですし、道路申請など準備も大変。皆の安全を確保した上で、マスコミが撮りたい画を提供するにはどうすべきか、現地に何度も足を運んで確認し、同僚に協力を仰ぎながら関係者と調整しました。最終的に3000人ほどの方に足を運んでいただき、無事にやり遂げられたことは、自信になりましたね」。また、同じく7年目に、プログラムの表紙が見えるよう、プログラムを封入する袋を透明にすることを提案。プログラムの好調な売れ行きに、以後、透明な袋での販売が定着した。入社5年目には副主任に、入社7年目には主任に昇進。

 

ある日のスケジュール

10:00 出社。メールチェックと新聞の切り抜きをする。新聞は一般紙からスポーツ紙まで約15紙を部署で購読し、1人2〜3紙をチェック。明治座や出演予定者に関する記事があれば切り抜いてファイリングしている。
11:00 取材対応。取材スタッフを迎えて取材場所へ案内し、セッティングに立ち会う。
12:00 出演者を迎えて、取材開始。1つの公演につき、平均で7〜8件取材が入り、すべてに立ち会う。明治座で行う取材以外の、テレビ収録やラジオ出演にも立ち会う。
13:00 昼食。社員食堂に行ったり、外に食べに行ったり、デスクで食べたり。後輩と一緒に食べることが多いが、一人で食べる日もある。
14:00 チラシ、雑誌などに掲載する公演情報の校正や、取材の調整。
16:00 今後催される公演のイベントに関する資料やスケジュールを作成。マスコミ用、出演者・スタッフ用、社内の関係者用の3種類に分けて作成する。開催が近いイベントや取材に関する打ち合わせが入ることも。
19:00 退社。帰り道にスーパーへ寄って食材を買い、好きな料理を作ってゆったり過ごすことが多い。

プライベート

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2015年1月に1週間の休暇を取ってアメリカ・カリフォルニアへ。好きな映画の舞台を再現したテーマパークを楽しんだ。「1月は公演の担当についていなかったので仕事のやりくりがしやすかったんです。念願がかないました!」。

 

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毎日、1時間ほど湯船につかって一日を振り返るため、さまざまな入浴剤を買いそろえておいて、気分に応じて使い分けている。「仕事の日は頭がスッキリするもの、休日前はよく眠れるもの、休日は気持ちが上がるものやリラックスできるものなどを入れることが多いです」。

 

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休日に地元の友人とスイーツを食べに行った時の1枚。基本的には土日休みにしているが、公演の初日や、取材が入った場合は出勤し、代わりに平日に休みをとる。「仕事のことを考えない時間をつくるために、外出してリフレッシュしています」。

 

取材・文/浅田夕香 撮影/刑部友康

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