国立研究開発法人 産業技術総合研究所 清水さん(入社10年目・イノベーション推進本部 産学官・国際連携推進部 連携管理室 主査)【先輩たちのワーク&ライフ】

しみず・たくや●イノベーション推進本部 産学官・国際連携推進部 連携管理室 主査。横浜市立大学国際文化学部国際関係学科卒業。2006年4月入所。就職活動ではメーカーでのモノづくり、電力やガスなどのインフラによる街づくりといったビジネスを中心に約30社にエントリー。偶然見かけたポスターで産業技術総合研究所を知り、利潤の追求を目的とする企業で働くよりも、公益の観点で広く役に立てる職場で働きたいと考え、入所を決意。

相手が言いたいことに耳を傾け、そしゃくし、まとめる力が求められることを実感

産業技術総合研究所(産総研)は、持続可能な社会の構築を目指し、産業技術の研究開発を行っている日本最大級の公的研究機関。太陽光発電や環境リスク評価(※1)などを始めとするグリーン・テクノロジーや、再生医療や創薬技術などのライフ・テクノロジー(※2)について研究を行う。ただ基礎研究を行うだけでなく、研究成果を実際のビジネスで使えるレベルまで磨き上げる研究(橋渡し研究)を行うことで、研究成果を社会に還元している。入所後、関東産学官連携センターに配属となった清水さんが最初に経験したのは、中小企業に産総研との共同研究を提案し、企業と産総研を結び付ける業務。一般的には「提案営業」のような仕事だ。清水さんはそうした中小企業が集まる交流会に参加して、積極的に企業と関係を構築。相手の業種や研究したいこと、研究開発で困っていることなどを聞き出し、共同研究の可能性を探っていった。ところが、文系出身の新人である清水さんには、産総研にどんな研究者がいて、どんな分野に強いのかがよくわからない。そこで、最初は先方から聞き出した内容を上司や先輩に報告し、さらに話を進めていくべきなのかを判断していった。同時に、専門知識を養うために、毎週のように発表される産総研のプレスリリース(※3)に目を通し、どの分野の研究者がどんな研究成果を発表したのかをチェック。わからないことは自分で調べて、インプットしていった。

「1年後には、相手の話を聞いて、可能性の有無をある程度自分で判断できるようになりました。とはいえ、研究開発は企業にとっては極秘事項ですから核心に触れる話に到達するまでが難しい。契約締結に至る確率は20件に1件程度なんです」

(※1)環境中の化学物質による地球環境に与えるリスクの評価

(※2)健康で長生きできる質の高い社会や生活を実現できるように、「人間」について科学的理解を深め、それによって得られた知見を基にして、健康で安全・安心な社会を構築するための技術

(※3)企業や団体が報道機関に向けて発信する業績動向やPRなどの情報

企業への訪問や提案を繰り返し、ある企業と契約寸前まで話が進んだのは2年目の後半。産総研の得意分野である流量計(※4)の共同開発だった。

「結果的には共同研究には至らず、企業と産総研の研究者の関係をつなぐところまででしたが、これまで付き合いのなかった企業とのコネクションができた意義は大きかったと思います。企業と研究者との関係を構築し、日本の技術力を底上げすることも、私たちのミッションの1つですから」

(※4)水やガスなどの流量を計量する計器

2年間の経験から学んだのは、相手の話をしっかりと聞いて、自分の中でそしゃくすること。

「たとえ専門的な技術はわからなくても、相手が何を言いたいのかを把握し、まとめる力が大切だとわかりました。また、自らイニシアチブを取って話を進めていくことも重要。ただ待っているのではなく、自分から話しを持ち出し、自分から提案していくことで、相手も積極的に応えてくれることを実感しました」

2008年、能力開発研究部門 人材開発企画室に異動した清水さんは、人材育成業務に従事。研修の企画や採用活動を経験した。

「それまで研究所以外の方とかかわることが多かったので、『産総研が外部からどう見えているのか』を聞く機会が多かったんです。就職説明会ではその経験を生かして、学生にわかりやすい説明を心がけました」

達成感を得られたのは、09年から導入された新入職員向けOJT(※5)の制度化に携わった時。それまでは各配属先の裁量に任せていたOJTを、専任担当者を決めて組織的に新人の育成に取り組む仕組みを整えたのだ。

「配属先の負担増加を心配する声もありましたが、OJTは新人のための制度。この導入により、新人が何に悩んでいるのか、成長がどのレベルに達しているのかという進捗状況を把握できるようになりました。新入職員からも、『やるべきことが明確になり、自分の成長を確認できた』と評価してもらえましたね」

(※5)On-the-job-Training。実際に仕事を行いながら仕事を学ぶこと。

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作成した研究費の獲得支援に関する資料を室長に提出。内容を確認してもらいながら、その場でアドバイスを受ける。

調整した契約が締結され、研究がスタート。研究者からの「ありがとう」が原動力に

10年からの2年間は、経済産業省に出向。産業技術政策課で、経済産業省の技術政策のとりまとめや関係省庁との調整を担当した。産総研で研究開発の現場を見てきた清水さんが、経済産業省では、国の政策で1000億円規模の研究開発予算を動かす上流部分を経験することに。
「政府の中でどのような議論が行われ、どのようなプロセスを経て政策としてまとめられていくか、実際に中に入ってその過程を経験できたことはとてもいい勉強になりました。また、山のような資料から得た情報を整理・分析し、簡潔で説得力のある資料や文章にまとめていくテクニックはここで身についたように思います。一方で、どんな政策もそれを実施する “現場”がなければカタチにすることはできないわけで、産総研のような研究の“現場”が良い成果を出すこと、また、良い成果を出せるよう“現場”をしっかりと支えていくことが重要だとあらためて感じました」

13年、清水さんは産学官・国際連携推進部プロジェクト支援室に異動。プロジェクト支援室のミッションは、大きく分けると2つ。産総研が国や企業と研究開発プロジェクトを行う場合に研究費をどのように集めて執行・管理するか。研究開発プロジェクトを通じて発見された新しい発明や特許を誰にどう帰属させるかなどを関係者と調整し、研究に着手する前に契約にまとめ、研究プロジェクトの立ち上げを支援すること。ここで、清水さんは難しい案件を担当することになる。新しい物質を作り出したA社の物質を、ビジネスに活用したいと考えるB社からの「物質の性質を分析し、応用の可能性について産総研の知見で評価してほしい」という依頼(受託研究)だった。産総研の契約先はB社だが、物質提供元のA社は「物質を渡した後、分析結果がきちんと自分たち(A社)に知らされるのか」「特許はどうなるのか」と不安を抱いていたため、調整は難航。清水さんは、根気よく協議を重ねて3者が納得する契約書を作成し、合意にこぎつけた。
「通常の契約では一定のひな形を使用するので、1、2週間で締結に至るのですが、今回はイレギュラーな事項が多かったため、約5カ月かかりました。無事に契約を締結し、産総研の研究者から『これで、ようやく研究を始められる。本当にありがとう!』という言葉をもらった時は、研究者の役に立てた喜びでいっぱいでした」

産総研には、世界の研究の最先端を担う研究者が2000人以上在籍している。清水さんたち事務職員の使命は、こうした優れた研究者が活躍できる環境を作り、研究現場を支えていくこと。
「研究者が自身の研究に打ち込み、活躍してくれることが、私の仕事の喜びの原点です。自分が契約締結にかかわった研究が、5年後、10年後に世の中の役に立つ――そんな日が来ることを想像するだけで、すごくワクワクします。これからも研究者に頼られ、感謝されるような仕事を心がけ、世の中に貢献していきたいですね」

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民間企業から受託した研究案件についてメンバーと打ち合わせ。続いて、経営陣への提案資料を作成するため、意見を出し合う。

清水さんのキャリアステップ

STEP1 2006年 中小企業との共同研究をコーディネートする仕事を経験(入所1年目)

4月に入所し、1週間の新規採用職員研修に参加。ビジネスマナーや事業形態、経営戦略などを学んだのち、産学官連携推進部門(現:産学官・国際連携推進部) 関東産学官連携センターに配属となる。中小企業を中心に産総研との共同研究を提案し、企業と産総研の研究者を結び付ける業務に2年間携わる。手に取って見てもらえるような具体的な商材がない中で提案を行うことの難しさ、産総研や技術そのものに関する知識不足を痛感しながらも、無我夢中で仕事に取り組む。

STEP2 2008年 人事部にて人材育成や採用活動に携わる(入所3年目)

能力開発研究部門(現:人事部) 人材開発企画室に異動し、研修企画などの人材育成、採用活動に携わる。自分の知識不足・経験不足から企画提案を十分にまとめられず壁にぶち当たるも悩みを相談した先輩に励まされて奮起し、OJT制度の導入にこぎつける。どんな時もへこまず前向きに仕事に臨むタフな精神力の必要性を痛感。

STEP3 2010年 経済産業省で技術政策のとりまとめや関係省庁との調整に携わる(入所5年目)

2年間、経済産業省に出向。産業技術政策課にて、経済産業省の技術政策のとりまとめや、総合科学技術会議(議長:総理大臣)をはじめとする関係省庁との調整に携わる。科学技術基本計画の策定にも携わり、11年に閣議決定されて形になった達成感を味わう。簡潔で説得力のある資料の作り方や文章表現の仕方はここで会得。12年、産総研に帰任し企画本部に着任。産総研と経済産業省との間の各種調整を担当。同年、主査に昇進。

STEP4 2013年 プロジェクト支援室で契約の立案・締結、外部研究資金の獲得支援に携わる(入所8年目)

4月、イノベーション推進本部 産学官・国際連携推進部プロジェクト支援室に異動し、受託研究や共同研究の契約立案・締結に関する業務に従事。契約案件は年間3000件にも及ぶため、担当者は1人で年間約100件を扱う。15年4月、同じ部の連携管理室に異動。現在は研究プロジェクトがコンプライアンスを保って進められているかチェックする業務を担当。

ある日のスケジュール

8:00 自宅を出発。子ども2人を近くの保育園に預けた後、出勤。
9:30 出社。メールをチェックし、研究者からの急ぎの問い合わせに対応。
10:30 新規研究プロジェクトについて、研究者と企業担当者と3者で打ち合わせ。特許や研究費の取り扱いについて整理し、関係者で締結に合意。
12:00 ランチ。自宅から持参した妻の手作り弁当をデスクで食べる。
14:00 研究費獲得支援に関する企画資料を上司に提出。上司のアドバイスを踏まえて資料を手直しする。
16:00 デスクワーク。契約書作成などを行う。
18:45 退社。週1日程度は、同僚やほかの部署の若手たちと飲みに行っている。

プライベート

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仲の良い職場の先輩や後輩と一緒に、群馬に旅行し、ラフティングに挑戦。写真は10年の夏。このほかにもスキーやBBQ、旅行など、プライベートタイムも職場の仲間と一緒に楽しんでいる。

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大学時代にトロンボーンを始め、現在は研究所内の有志で結成したビッグバンドサークル「Jazzやる部」に所属。練習は毎週金曜の終業後。写真は15年の研究所の一般公開日での演奏風景。

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週末は、4歳の長男と1歳の長女と一緒に近所の公園などで遊ぶ。写真は、15年7月末に地元のお祭りに行った時。「実家が横須賀なので、夏休みは実家近くの海に行きました」。

取材・文/笠井貞子 撮影/刑部友康

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