日本銀行

ふるや・ゆうき●金融市場局総務課市場分析グループ。東京大学法学部公法コース卒業。2008年4月入行。大学時代に経験した東南アジアへの1カ月間の一人旅や、日米学生会議への参加などを通して、日本経済の豊かさにあらためて気づかされ、「日本経済を支える仕事がしたい」と考えるように。公的機関や金融機関、商社などを中心に就職活動を進める中で、「日本経済によりダイレクトに貢献できる」と日本銀行への入行を決める。

東日本大震災当日、全行を挙げて金融機関の資金決済・業務状況を確認し、金融システム安定への貢献を実感

「金融システムの安定に貢献することを一つの切り口に、日本経済を支えたい」との思いを持って、日本銀行に入行した古屋さん。いつかは、国内外の金融機関と連携を取りながら、金融システムの信用秩序を維持する「プルーデンス政策」のエキスパートになりたいと考えていた。

 

入行後、初めて配属されたのは山口県下関支店。県内の企業を多い時で1週間約10社のペースで訪問し、企業のトップなどに業況や景気動向の見方などのヒアリング調査を行う傍ら、県内経済の統計分析なども行い、県内景気の判断に貢献したほか、「全国企業短期経済観測調査(短観)」(※1)や「地域経済報告(さくらレポート)」(※2)の作成にも従事した。

 

(※1) 全国の約1万社の企業を対象に、日本銀行が四半期ごとに実施している統計調査。全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することが目的。

(※2) 地方支店などからの報告をもとに日本銀行が四半期ごとに取りまとめる、全国9地域の経済情勢報告。

 

 

「県内の大企業から中小企業までさまざまな企業を回りました。温泉旅館やかまぼこ工場、酒造会社なども訪問しましたね。この仕事は、いかに訪問先企業の懐に入り込み、自社の経営に関する本音を引き出すかが勝負。おかげで、まずは自分を知っていただく、地元の話題や世間話を交えながら場を温める、などコミュニケーションのコツを覚えました」

 

下関支店には、2008年5月から1年4カ月在籍したが、その間にリーマン・ショックが起こる。業況が急速に悪化する企業を目の当たりにし、「グローバルに経済が不安定になると、地方の企業にしわ寄せが行く」ことを身をもって学んだという。

 

09年9月、金融機構局に異動。金融モニタリング課大手金融グループに配属となり、担当金融機関の収益状況や日々の資金繰りを確認する役割を担った。

 

「担当金融機関から日々報告いただくデータを見ながら、資金繰りなどに問題がないか毎日確認し、気になる点があれば電話で確認したり、面談で意見交換しました。金融機関によって、リスク管理の方法はさまざま。詳しく理解するために、できるだけ先方担当者と密にコミュニケーションを取るよう心がけました。下関支店で鍛えられたコミュニケーション力がここで役立ちましたね」

 

リスク管理の方法に改善の余地があると感じた金融機関に対しては、資金運用に関する判断基準の見直し、金融市場が大きく変動した際のロスカット・ルール(あらかじめ定めた限度以上の損失が出そうになった場合、それ以上損失が膨らまないようにするためのルール)の精緻化、資金繰り管理の改善など、リスク管理の枠組み構築に関する議論を行い、ある金融機関との間では半年かけて改善を実現。この間、ずっとその金融機関に伴走し続け、コンサルタントのような役割を担った。

 

同部署には1年10カ月在籍したが、心に強く残っているのが、東日本大震災当日のこと。会議中に突然起こった激しい揺れに驚きながらも、この大地震による金融機関への影響を心配していたという。揺れが収まった後、各金融機関の被害状況を確認し、金融システムへの影響の有無を確認して回った。

 

「最終的に資金繰りなどに問題がないことを確認し終えた後、誰とはなしに拍手が起こり、日本の金融システムの安定維持に貢献できたことを実感しましたね。胸が熱くなるとともに、この仕事の責任の大きさをあらためて痛感しました」

 

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国内株式市場の動向について同僚とディスカッション。古屋さんいわく、「日銀の職員は皆、日本の金融をより良くしたいという熱い思いと、目の前の事象を着実に判断し分析する冷静さを併せ持っている」。

 

自身の調査、分析レポートが金融政策に大きな影響を与える。責任は重いが、やりがいも大きい

11年7月に考査運営課信用リスク考査第2グループに局内異動し、担当金融機関に立ち入って信用リスク管理の状況を把握するための調査を行った後、翌年8月から1年間、英国ケンブリッジ大学大学院にMBA留学した。

 

「日本銀行では若手総合職を対象に、行内の応募選考試験を経て、海外大学院に留学する制度があります。グローバルな社会のもとで日本の金融システムの安定性を高めていくためには、海外のビジネスパーソンと渡り合う経験が必要不可欠であると意識していたため、すぐに手を挙げました。ただ、現地では苦労の連続でしたね。英語はある程度勉強していたつもりでしたが、なかなか自分の意見の“価値”を理解してもらうことができず、どういう言葉を使えばそれが伝わるのか、悩みました。『何でそう思うんだ?』とどんどん掘り下げられるので、ひたすら根拠を積み上げていくことで納得してもらうしかない。日々勉強でしたが、世界を相手に競争するというのはこういうことなのだ、と学びました」

 

帰国後、13年9月からは金融市場局の市場企画課市場整備グループに配属。ここでの主なミッションは「金融市場のインフラ整備」。

 

「金融市場の整備に関するあらゆる業務を担当する部署。私も、約2年の在籍期間中に、さまざまな業務にかかわりました。具体的には、金融機関との対話の場の整備や、「債券市場サーベイ(債券市場の動向に関する調査発表)」の企画・立案、国内300余りの金融機関に対する短期金融市場の動向調査など。本当に守備範囲の広い部署なので、さまざまな経験を積み、知識を得ることができました」

 

中でも思い出深いのは、日本の資金・国債決済を一手に担う「新日銀ネット」(※3)の全面稼動に向けた業務。約600もの金融機関が参加する総合運転試験の一部を取り仕切ることになった。

 

(※3)日本銀行当座預金等を利用し、民間金融機関同士の間や民間金融機関と日本銀行の間などの資金・国債決済を行うコンピューター・ネットワークシステム。1988年から稼動を開始しているが、経済・金融の国際化の一段の進展など近年の環境変化を踏まえて、2015年10月に汎用性の高い最新情報処理技術を取り込む形で構築した、新日銀ネットシステムが全面稼動した。

 

「『2015年10月13日に全面稼動』というゴールが決まっている中で、どれぐらいのレベルのシステムテストを、どのようなスケジューリングで進めていくのか、一から考えなければなりませんでした。業界団体を通じた参加金融機関との交渉や行内各部署との調整を行いながらスケジュールを組みますが、さまざまな制約やニーズからすべてを見直さなければならないつらさも味わいましたね。テスト環境というシステム上の制約の中で、どれぐらい本番に近い環境を作れるかについても試行錯誤しました。ほかの業務と並行して行っていたので目が回るほどの忙しさでしたが、ビジネスパーソンとして鍛えられたと感じています」

 

2015年5月からは、同局の総務課に異動。市場分析グループで、株式市場の分析業務を務めている。年14回ある金融政策決定会合(※4)などに向け、国内外の株式市場の動向を調査・分析し、取りまとめた情報をレポートするのが主な役割。

 

(※4)日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の会合のうち、金融政策の運営に関する事項を審議・決定する会合、2016年以降は年8回の開催。

 

「株価の動向はもちろん、金利、為替、先物オプションなどさまざまなデータをもとに、機関投資家や証券会社、海外投資家などの『市場参加者』と意見交換を行うなどして、定量・定性両面での調査・分析を行います。公表されている各種データの分析結果に、市場参加者の声を引き出しながら情報の付加価値を付けてレポートする必要があり、ここでもコミュニケーション力が試されていると感じますね。自身の分析結果が、金融政策に影響を与えることに責任の重さを覚えつつも、日々の市場におけるダイナミックな変化も感じることができ、大きなやりがいにつながっています」

 

入行して8年目。さまざまな役割を経験し、日本銀行の仕事の幅広さを感じるとともに、自分の中で「日本の金融システムの安定を通じて日本経済に貢献したい」という当初の思いがどんどん強まっているという。

 

「日本の金融市場は、当然ですが国内だけで成り立っているものではありません。海外の経済や金融市場の動向にも大きく左右されますし、海外投資家などの影響も非常に強い。日本の金融システムをより良くしていくためには、制度や枠組みの構築に際して海外当局や投資家に対して議論の主導権を握る努力も重要です。私はずっと国内市場を中心に担当してきましたが、今後はぜひ海外とかかわる部署で業務に就き、世界市場における日本のあり方を探り、日本の金融システムが世界のフロントランナーとなれるように尽力したいと思っています」

 

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金融情報端末などから得た情報をもとに、市場動向を考察し、分析。証券会社や機関投資家など株式市場参加者に電話ヒアリングすることも多い。

 

古屋さんのキャリアステップ

STEP1 2008年 下関支店に配属、地域経済アナリスト業務を経験(入行1年目)

総合職は、1年目に全国の支店を経験する。山口県にある下関支店に配属となり、発券課、業務課を経て、1年間山口県の経済動向調査にかかわる。非製造業全般の業況に加え、雇用や物価の動向調査なども担当。分析力の向上とともに、さまざまな立場の人たちと、腹を割って話し信頼を得る重要性を学んだ。ここで養われたコミュニケーション力は、後々の業務にも大いに生きている。

STEP2 2009年 金融機関のリスク管理を担当。金融システムの安定を通じた喜び、やりがいを知る(入行2年目)

金融機関ごとに方法や考え方が異なる「リスク管理」。資金繰りなどの状況を日々確認する中で、改善余地のある金融機関に対してリスク管理の向上に関する働きかけを行う。ときにはコンサルタントのようにさまざまなアドバイスも行い、改善までの伴走を行うことも。東日本大震災では各金融機関と緊密なコミュニケーションを取り、金融システムの安定維持に尽力。日本経済に貢献できたという実感を持つことができた。

STEP3 2012年 研修プログラムの一環で、英ケンブリッジ大学大学院にMBA留学(入行5年目)

大学時代から、いずれは海外留学して、世界との交渉力を養いたいと思っていた。海外留学の応募選考試験に手を挙げ、これを突破して1年間留学。現地では経営学を学ぶ中で、さまざまな国の価値観に触れた。2013年4月に「量的・質的金融緩和」が導入されたことなどから日本銀行や日本の金融市場に関する質問を受けることも多く、海外市場における日本の存在をあらためて強く考えるようになった。

STEP4 2015年 金融市場局でさまざまな業務を担当、金融のプロフェッショナルとして経験を積む(入行8年目)

帰国後に配属となった金融市場局において、債券市場サーベイの企画立案や、新日銀ネットの全面稼動に向けた総合運転試験内の市場取引に係るテストの企画立案、取りまとめなどさまざまな業務にかかわり経験を積む。現在は、国内外の株式市場動向を調査・分析するアナリスト業務を担当。機関投資家や海外投資家、ときには証券会社の営業部門などにもヒアリングして、多方面から情報を収集。金融政策の一助を担っている責任とやりがいを実感する日々。

ある日のスケジュール

8:00 出勤。欧米の株式市場の動向などを確認し、金融機関が発行した株式レポートなどに目を通す。この日は金融政策決定会合が近いため早めに出勤したが、フレックス制度が導入されているため、9時過ぎに出勤することもある。
9:30 所属部署内での市況報告の傍聴。海外金融市場の前日の動向を聞く。
10:00 金融政策決定会合に向けた作成資料の打ち合わせと、データ分析や資料の作成。打ち合わせでは同僚とそれぞれの仮説を土台に意見交換を実施。
12:30 ランチ。同僚と行内の食堂で週末の出来事や趣味の話題などで盛り上がり、リラックス。この日は激辛カレーをチョイス。
13:30 作成資料の構成や内容、分析の十分性などについて同僚とディスカッション。それぞれの担当者が異なる市場を担当しているので、異なった視点による有意義な議論ができる。
15:00 市場参加者との面談のために外出。この日は証券会社のストラテジストを訪問。金融政策決定会合に向け、最近の株式動向や先行きに対する見方をヒアリング。
16:30 ヒアリング情報をまとめつつ、市場動向の分析や資料の作成を継続。そのかたわら、行内で共有されているそのほかのヒアリング情報や分析メモなどに目を通す。
17:10 所属部署内で行われる、国内金融市場の市況報告を傍聴。
18:30 仕事のめどがついたので退行。19時半ごろに帰宅し、IT企業に勤める妻と夕食を取る。その後、録り貯めたTV番組を見たり、語学の勉強などを行い、23時ごろに就寝。

プライベート

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2014年10月に妻とウズベキスタンに旅行。タジキスタンとの国境近くにある古都・サマルカンドに向かう途中、砂漠の中でタクシーを降りて撮影した。700キロ走ったが、タクシー料金は約5000円と格安。サマルカンドでさまざまな民族が入り乱れた大陸の歴史に思いを馳せた。

 

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子どものころからサッカーが大好きで、入行後は日本銀行サッカー部に所属。週1回週末に試合を行っている。写真は、15年3月、主要な官民の金融機関などで構成されるインターバンク・リーグで勝ち上がり、2部昇格を決めた時のもよう。

 

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ピアノも趣味。5歳の時から習い始め、一時中断する時期もあったが、「細くても長く続ける」ことをモットーに継続している。写真は15年11月、翌月の発表会のためのレッスンを受けている時のもの。

 

取材・文/伊藤理子 撮影/刑部友康

 

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