Evernote CEO フィル・リービンさん

フィル・リービン●1972年、ロシア生まれ。幼少期にニューヨークに移住。高校時代から複数のネット企業を創世期から急成長させた実績を持つ。経営者としての抜群のセンスに加え、自ら4種類の技術特許を保持するソフトウェア開発のエンジニアでもある。2004年には、InfoWorld誌の“Innovator of the Year”に選ばれた。07年、Evernote CEO就任。

社員に求めることは、食いしん坊で自分より優秀な起業家であること

僕は、物心ついたときからPCをいじっているのが幸せという子どもでした。16歳のころ、友達とソフトウェア開発の会社を立ち上げて、後に500ドルでその会社を売りました。それが、この業界での初のビジネス体験です。会社に就職し、管理職になって社長になるというようなプロセスは踏んでいなくて、好きなソフトを開発してそれを世に出すために会社を立ち上げ、自然な流れの中でCEOになりました。

僕が仕事を一緒にしていきたい人を選ぶときの条件は、まず僕よりずっと優秀であること。職場ではいつも、自分より機転が利いていて才能がある仲間に囲まれていたいし、チームの中で、自分自身が一番優秀で頼れる存在になってしまうことのないように、いつも心がけています。そうすれば、チームはいつも新たな可能性を発見できるし、何よりも一緒に仕事をしていて楽しいよね。それに早く気がついたことが今の成功につながっていると思います。

それから、次に同じくらい大切にしているのは、「食べること」に興味のある人ということ。僕は、食に興味のない人は、まず信用しませんね。食いしん坊であることも大切な条件。そして、最後に、起業家魂のある人。EvernoteのゴールはいつもEvernoteのスタートであるべき。だから、毎朝オフィスに入ってきて、「こういう事業を興してみたい」という人が必要で、「今日は何すればいいですか?」という人は必要ないのです。僕の会社では、誰もがCEO。毎日、何か大切なことを成しえたいという気持ちでいてほしい。

100年後も世界中の人を幸せにする会社にしたい

スポーツをしないせいかもしれないけれど、僕は誰かと競って負かしたいと思ったことはないし、勝負に興味もありません。他者と競争して勝つということにモチベーションを感じることはないんです。自分が楽しいと思えることをやって、ほかの人も同じように自分が楽しいと思えることをやっていける世の中がいいでしょう。他人を打ち負かしても幸せにはなれないような気がするんです。

アメリカでも、中国やインドの市場参加をけん制したり、恐れたりする人はいます。でも、今、アメリカ人がしているような生活を、中国やインドの何十億もの人ができるようになることはとてもいいことではないかと僕は考えます。誰かを締め出したり、打ちのめしたりして、自分が勝つという考え方は僕にはそぐわない。経済はゼロサムゲームではないでしょう。

誰かが損をしなくては誰かが勝てないという考え方には違和感があります。日本の学生の皆さんにも、新興市場を競争相手とみなして恐れる必要はないと伝えたいですね。すべての人が幸せになれるような世の中に変えていく、100年後もそんな会社であり続けたいと思っています。

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企画力の高さとその緻密さ…日本にぞっこんです

Evernoteが日本で幅広く受け入れられているのは、日本文化と僕の会社の製品に多くの共通点があるからだと思います。今の生活をより便利に、効率的にというEvernoteのコンセプトは、日本人が最も得意とする分野でしょう? 日本人のユーザーを増やし続けている一番の要因はそこにあると思います。日本の企業文化ともいえる、情報を集める、それを分析して最も効率のいい方法を編み出す、そういうことには、うってつけのツールなのでしょう。東京支社も今後もっと人材を増やして、ユーザーとより良い関係を築いていきたいと思います。

日本市場の可能性は膨大です。僕はいろいろな国の若い開発者や起業家と話をする機会が多いのですが、日本ほどアイデアが豊富で僕をうならせる企画を持った若い開発者が多い国はないですね。

また日本のユーザーは、デザインや使いやすさなどに、非常に細かいレベルのこだわりを持っている。これは日本文化の長い歴史と関係があるのかもしれません。この細部にわたるこだわりの強さに、仕事に対する真面目さ、すなわちハードワークが加わると、世界最強ですよね。

こうした要素があるのに、日本がネットビジネスで上位に踏み込めない理由の一つに、投資環境があるでしょう。シリコンバレーと東京では、ネット業界への投資額の規模がまったく異なります。

ただ、これからのネットビジネスには、巨額の投資は必要なくなるかもしれません。スマートフォンなどの台頭で世界はもはや一つのマーケットで、起業に要する費用が圧倒的に少なくてすみます。巨額の投資マネーが必要なくなった今こそ、日本の起業家が十分に戦える時が来たといえます。ここ2~3年は大きなビジネスチャンスだと僕らは考えています。

今、自分にとって必要なこと、やっていて楽しいことだけをやる

初めて日本に来たのは2001年のことです。以来、何か理由をつけて来たいと思わせる国です。新しいものに敏感なのに、100年以上続いている会社がいくつもある。日本的なものとシリコンバレーの起業家的なものを融合させる役割を果たしたいと強く思うようになりました。

札幌や京都、名古屋、奈良、福岡と地方の都市にも行きましたし、いつか沖縄にも行ってみたい。どこへ行っても食べ物がおいしくて驚かされますが、何と言っても東京が面白い。今や僕にとっては、第二のふるさとのような街で、出張中に東京を散歩しているだけでも、さまざまなアイデアが浮かんできます。

日本人やアジアの国の人々は、保守的で仕事に対しても我慢してやるものだと考えている人が多いと思います。もちろんアメリカでもそういう考え方の人はいます。でもシリコンバレーで働く僕たちの仲間は違います。20歳そこそこの学生が「そんな仕事やりたくないからやらない」とはっきり言います。その分、自分が面白い、やってやる、と思った仕事は、最大限の努力をします。土日もないし、定時で終わることもない。

だから、趣味を問われれば僕は「仕事」と答えます。でも好きなことをやっているんだから苦にならない。仕事ってそういうふうになれば本当に楽しいし、世界を変えていると実感できることは、幸せなことだと思います。

もちろん仕事である以上、金銭的な要素を無視できないことはわかっています。でも、成功する起業家というのは、自分のやりたいことの裏付けに金銭を求めていないように思います。

例えば、GoogleやAppleなどの起業家は、お金儲けが目的でその会社をつくったわけではないはずです。彼らを突き動かしているのは、世の中を変えてやろう、という強い思い。そこに投資家のお金が動くのです。世の中を変えてやろうという思いと、自分がやりたいと思うことをやっている、この2つが僕の仕事に対するこだわりです。

Evernoteは、年齢や職業、仕事、プライベートなどの区分なく、自分にとって必要な情報をまるごと整理するツールです。だから、「今」自分にとって必要なことをする、「今」自分がやっていて楽しいことをする、そういう考え方が大切。世界の数十億の人が、自分のために役に立つ情報を整理して有効に利用できる、そういう世の中にすることが、今、僕が一番やりたいことですから。

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これから社会にでる皆さんへ

学生時代の僕は、内気で引っ込み思案でスポーツは苦手だしガールフレンドはいない、PCだけが友達のような、いわゆる「オタク」でした。自分が将来何をしたいのか、まったくわからなかった。大人になればわかるだろうと思っていたけど、自分が実際大人になってみると、大人も自分が何をしたいのかわらないんだということがわかったんです。

30歳になる少し前、何のことについてかはよく覚えてないのですが、すごく落ち込むことがあって、クヨクヨしていたんです。とことん落ち込んだら、急に悩んでいることがバカバカしくなって・・・。世の中は楽しいことや面白いことであふれているのに、自分だけが自分の心の世界にこもっていると気づいたのです。

それからというもの、二度と落ち込んだり後ろ向きになったりすることはなくなりました。面白いこと、興味深いことは、自分の中にあるのではなく、外の世界にこそある。青い空の下、美術館でも行った方がいいのです。「食」に興味を持ち始めたのも、そのころです。世界の楽しいことに目を向けるようになって、世界中の食事を楽しむことができるようになりました。それまでの僕はガリガリに痩せていましたから(笑)。

僕にとって「平均」であることはまったく意味がありません。平均的日本人、平均的会社員という表現には価値を感じませんね。奇人や変人、大いに結構。「変人」と呼ばれるような貴重な学生こそ、僕がまさに探している人材です。

今は、世界中の経済が停滞していると言われていて、失敗や結果がうまく出ないと落ち込んだり臆病になってしまったりすることが多いと思いますが、僕は、景気が悪い時にこそチャンスがあると考えています。

景気がいい時は、すべての人にチャンスがあり、PRが上手な企業が成功していますが、不景気の時は本物のビジネスしか残らない。多くの成長を遂げた企業が不況時にスタートしています。僕がこの会社を設立した2008年もリーマン・ショックの最中で、資金繰りに苦労し、経済環境は最悪でした。
ぜひ皆さんも、失敗を恐れることなく、外の世界に目を向けて自分のやりたいことをやってみてください。

フィル・リービンさんHISTORY

1987年
高校生のとき友人と立ち上げた、コンピュータのプログラム開発会社を500ドルで売る。高校在学中から起業やプログラミング開発技術特許に深い関心を持ちつつ、ボストンの大学へ進学。
1997年
ボストンのインターネットソフトウェアの開発会社Engine5社のCEOに就任。
2001年
スマート信用証明や認証管理技術を政府や世界有数の大企業に提供するトップカンパニーの一つであるCoreStreet社を立ち上げ、社長を務める。在任中の2001年、初来日。
2007年
Everonote CEO就任。2008年6月からサービス開始。
2011年
Evernoteの全世界のユーザー数は5000万(2013年3月現在)。日本国内ユーザー数は500万に迫り、国別のユーザー数では世界第2位。海外拠点は、チューリッヒ、モスクワ、東京、北京、台湾、シンガポール、ソウル(7カ所)。『Info World誌』の“Innovator of the Year” (2004年)に選出された。2011年には、米Inc Magazine誌の「Company of the Year」を受賞。

愛読書は?

15年以上も前になりますが、日本の漫画を27巻、一気に読みました。『子連れ狼』(英語版)です。読み始めた経緯は忘れましたが、とにかく読み始めたら、面白くて止まらなくなりました。日本文化との初めての出合いですね。日本のサムライを通じて、日本のビジネスパーソンのメンタリティなどを垣間見ました。新鮮でしたね。日本との付き合いの原点になっているかもしれません。

フィルさんの愛用品

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日本製のメモ帳(abrAsus製。アイデアがひらめいたらメモして、このメモ帳にはさんでおきます。後でiPhoneで写真を撮ってEvernoteで保存しています。日本のものが大好きなので、腕時計は、グランドセイコーを使っています。ずっと欲しかった時計。数年かかってやっと東京で見つけた時はうれしかったですね。これは針が動くメカニズムが、ほかの時計とはまったく異なるのです。秒針の流れるような時の刻み方が、素晴らしい。

今の時代、誰もが携帯電話で時間をチェックし、ディスカウントストアに行けば数百円で時計が買える。それでも、あえてこだわってこういう製品をつくる。この時計を直せる職人は、現在世界に5人しかいません。まさに匠の世界。その技術を自分が身につけていて、周りの人がそれに気がついていないというのも愉快です。メモ帳はアナログ、iPhoneとEvernoteはデジタル、この時計はその中間といったところでしょうか。

取材・文/釣田美加 撮影/刑部友康

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