三菱電機株式会社 松本 匡史さん

[INTRODUCTION] 2年目に「師匠」と呼ぶ人に出会い、6年目に初の主担当として火力発電所建設のプロジェクトリーダーとなり、科学と信念で顧客にぶつかって誰も突破できなかった壁を突破した結果、自信と信頼を得る。そして2011年3月。大震災による電力不足を回避するため、通常数年を要する火力発電所建設をわずか5ヵ月で成し遂げる。誰もが不可能と考えたプロジェクトだった。彼らを突き動かしたのは「使命感」。そこで得たものが、また松本をデカくする。

ひとりの力を何十倍にもできる。人間ってすげえぞ。

電力に関係する人々は、よく「電気の品質」と言う。停電させない。命がけで復旧する。その言葉には、使命感とか誇りが詰まっている。僕ら発電所をつくる者も、そんな重いものを背負って仕事をしている。発電所は、すさまじく複雑で、とんでもなくデカい。それを大勢でつくりあげる。完成して、いちばん最初に電気を通す受電の瞬間、僕はいつも心臓が飛び出そうなほど恐い。15年経った今もだ。しかし、無事に電気が通り、巨大なプラントが息をしはじめた瞬間、恐怖が感動に変わる。個人としてできることを遙かに超えたスケールで、そのプラントは世の中のために働きだす。一人の力を仲間たちが何十倍にもしてくれる。そして、歳を取るほどに僕の感動は大きくなってゆく。君に言いたい。人間ってすごいぞ!

「全体を見よ」「ペンを置くな」 師匠。あなたの教えは今もピカピカです。

新人のころ、師匠に出会った。ずっと年上の先輩だった。火力プラントの基本設計は複雑だが、落雷などで発生する事故電流は何アンペアになるのか?だとすれば、どう遮断器を置くのか?すべて計算によって解を求める。恐ろしいことに、計算は間違っていても解は出てしまう。1万アンペアのところを100アンペアと誤ればどうなるか?即、停電だ。師匠は言った。「それが何のための計算なのか。お前、考えながらせなあかんで」。全体を見よ。そして今、自分がしていることを理解せよ。という話だった。師匠は「こうやったら、こう動くんや」とよく言った。膨大な人が関わる大プロジェクトであっても、なぜか物事はいつも師匠が言ったとおり動いた。魔法のよう。それも数年かかるプロジェクトの全体を描いているからこそできたのだと、今なら言える。「これ解らんのですけど・・・」そう聞きに行くと「こんなんも知らんのか!」と大声上げつつ「どれどれ・・・」と師匠はペンを取り出した。そして一緒に最後まで計算につき合ってくれた。どんな複雑な計算であっても、技術にゴールはない。だから自分たちエンジニアは、ペンを置いてはいけないんだと身をもって教えてくれた。

新しい発電技術の話をした数日後、師匠は嬉しそうに言った。「見てきたぞー!こんな形しとってな・・・」休日に奥様と二人で参考になる鉄塔を見に行ったと言って嬉々としていた。こんな公私混同なら幸せだと僕は思った。僕は今、火力プラントづくり全体を引っ張るプロジェクトリーダー。自力でやっているつもりが、ふと師匠の道をなぞっていることに気づく。いい人に出会えた。今さら照れくさくて、そんなこと酒がまわっても本人になんか言えないんだけど。

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3.11 電力の人々の奇跡の足あと。

2011年3月11日。僕はその日、兵庫県赤穂にある変圧器工場でお客さんの見学につき添っていた。14時46分すぎ、会社の携帯の安否確認シグナルが鳴った。即座に携帯に連絡が入った。「東北がすごいことになってます!」揺れゼロの地にいた僕は実感が湧かないまま戻ってテレビをつけた。「なんやこれ!」そこには僕ら関西人が経験した震災を超える惨状が映し出されていた。

東日本大震災。翌日には、被災地の発電所をめざして仲間たちがヘリで飛んだ。離れていても僕らは完全に、その渦の中にいた。発生は金曜。土日で復旧計画を検討し迎えた週明け、1本の連絡が入った。「夏の電力が不足する!なんとか夏に間に合わせて発電所をつくらなければならない!」何を言っているのかと思った。通常、数年はかかるところを、夏に間に合わせるだって?いくらなんでも無理だ。誰もがそう思った。しかし、うちのトップは決断した。「やろう」と。100パーセント使命感からだった。「よし、やろう!」僕ら現場も前を向いた。向きたかった。僕は僕じゃなければできないことをやろうと思った。1日数百枚の検討書。しかし、系統のつなぎ先が確定しない中、電力会社からは変更が相次ぎ、その度ごとに全てやり直し。夜なべが続く。だが、誰ひとり文句を言うヤツはいなかった。国、電力、メーカー、全員が必死だということを全員が知っていたからだ。家にいると嫁さんと息子が怒った。「はよ会社行き!今やれることせんで、どうするの!」いい家族だと思った。僕らは過去の実績があるモノで適合できるモノを総動員した。ゼロからの設計では物理的に不可能だからだ。僕たちは、たったひとつの目的のためにメシも忘れた。

そして8月28日、一号機が働き始めた。関東の各地に電気を送るために。不可能は成し遂げられた。誰が主役でもない。全員が誇りという勲章に値したと僕は思う。僕はまたひとつエンジニアとして階段を上った気がした。そして今、僕はまた次の階段を上り始めている。来年夏の電力確保に向けた新たな発電所づくりに奮闘する毎日だ。
大企業の人は歯車だと言う人がいる。しかし、大企業だからこそ世の中にできることの大きさを僕は震災で知った。人はあきらめず力を合わせることで、想像を超えたことができる。やっぱり人間って、すごいぞ!

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