高橋智隆さん(ロボットクリエイター)の「仕事とは?」|後編

たかはし・ともたか●1975年、京都府生まれ。1998年立命館大学産業社会学部卒業。2003年京都大学工学部卒業と同時に株式会社ロボ・ガレージを創業し、京都大学内入居べンチャー第1号となる。代表作にロボット宇宙飛行士「キロボ」、ロボットスマホ「ロボホン」、雑誌の付録のパーツを集めてロボットを作るデアゴスティーニ『週刊 ロビ』、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定されている。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、大阪電気通信大学総合情報学部情報学科客員教授、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問、主に釣り用品を製造・販売するグローブライド株式会社社外取締役などを兼任。

前編では高橋さんがどのような思いや考え方でロボットを作っているのかをお話しいただきました。
後編ではロボットを仕事にするまでの経緯や、好きなことを仕事にして生きて行くために大切なことをうかがいます。

就職活動の失敗が転機となり、ロボット作りの道へ

-幼稚園のころから「ロボット科学者」になりたかったとおっしゃっていましたが、「ロボットひと筋」ではなかったそうですね。

ものを作るのはずっと好きでしたが、インドア派というわけではありませんでした。学校はやったことはひと通りやって、小学校高学年以降は釣りにはまりました。高校卒業後は付属の大学の文系学部に進みましたが、特に学びたいことがあったのではなく、なんとなくラクそうな学部だからと選んだのが正直なところです。バブル景気の中、大学入学後はスキーに釣り、1年間の海外留学と気ままな学生生活を送り、就職も何とかなるだろうとたかをくくっていました。

ところが、大学在学中にバブルが崩壊。企業からの内定取り消しに泣く先輩たちの姿を目の前にしてようやく将来について考え、「もの作りを仕事にしたい」と思いました。社会の厳しさを感じたからこそ、好きなことと仕事を一致させないとやっていけないと考えたんです。そこで、釣り具メーカーの開発職を希望して就職活動を開始。第1志望の会社の最終面接まで進んで「絶対受かる」と思っていたのに、結果は不採用でした。内定を頂いた会社もありましたが、就職活動の過程で「もの作りをしたいなら、工学部に進めばよかった」と後悔していたことから、予備校に通って1年間勉強。京都大学の工学部に入り直し、子どものころ憧れたロボットの道に進むことにしました。

-「ロボットの道」とは?

大学ではロボット関連の研究室に進みましたが、ロボットの「作り方」を教えてくれるわけではありませんでした。そもそもロボットに適した構造や材料なんて誰にもわかりませんから、参考になりそうな科目を履修しながら、自宅でロボットを作っていました。最初に作ったのは、ガンダムのプラモデルの足の裏に電磁石を仕込んだ二足歩行ロボット。予想以上にうまく動き、大学を通して特許を取得して、商品化もされました。

在学中は新しいロボットを作っては展示会やコンテストにも参加しました。今度こそ希望通りの就職をしたかったので、「うちの会社に来ないか」と言ってもらうために業界に名前を売ろうともくろんだんです。起業しようとは考えていませんでした。でも、当時はちょうど大学発のベンチャーを支援する機運が高まっていて、京大にもベンチャーインキュベーション(起業家の育成や新しいビジネスを支援する施設)を作ってもらえることになりまして…。その入居第1号として声をかけてもらい、「うまくいかなかったら、就職しよう」という軽い気持ちで「ロボ・ガレージ」を設立。社会人としてスタートを切りました。実績のないベンチャーにとって京大内に事務所を構えることの恩恵は大きく、本当にありがたかったです。

「ユニーク」であることが大切

-自分の好きなことを仕事にしたいと望む人はたくさんいますが、好きなことと仕事を一致させるには何が大事だとお考えになりますか?

「ユニーク」であることだと思います。僕は大学在学中から「ロボットクリエイター」という肩書で活動していますが、これは僕が勝手に作った言葉。ロボットの企画・設計から製作、発表まで一貫してやる職業を表現しました。つまり、そのような既存の職業が見当たらなかったということです。好きなものがあってその世界で生きていきたいと思っても、すでにたくさんの人がやっていることで生き残るのは至難の業。自分がやろうとしていることにどれだけオリジナリティがあるのかは見極めた方がいいと思います。

逆に言えば、オリジナリティさえあれば、新しい市場をつくり出せる可能性があります。そのオリジナリティの根源はやはり「好きなことにこだわる」ということに尽きるでしょうね。僕もそうでしたし、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズしかり。そして、自分に本当にオリジナリティがあるのかどうかは、世界を見なければ判断できません。社会に出て、会社なり、業界なりあるグループに属してしまうと、どうしても「井の中のかわず」になりがち。自由にものを見て、考えることができる学生時代のうちに、旅をしたり、さまざまな人に出会ったりして、世の中の広さを知ることが大切だと思います。

学生へのメッセージ

僕は就職活動で第1志望の釣り具メーカーに入ることができませんでしたが、2015年からその会社の社外取締役をやっています。ロボットクリエイターとしてのこれまでをメディアに取材された記事を見て、オファーをしてくれたそうです。大学生活を2度送るという「回り道」もしましたが、その時々で自分が「面白そう」と感じる道を選んだ結果ですし、最終的には帳尻も合っています。ただ、「回り道のススメ」のようなことを言うつもりはありません。学生時代にもう少しきちんと将来のイメージを描き、就職活動というものがどういうものかを知っていれば、抱えずに済んだリスクもあったはず。僕自身の反省から、後悔のない就職活動をするには、戦略を立てて動くことをお勧めします。

高橋さんにとって仕事とは?

−その1 新しいものが求められる世界で、平均的なものを作っても意味がない

−その2 いいものを作るのはもちろん、作ったものをどう世の中に広めるかを考える

−その3 好きなことで生きていきたいなら、オリジナリティを極めることが大切

INFORMATION

2013年に初版を創刊後、第3版まで版を重ね、約15万台を世に送り出した「ロビ」を進化させ、さまざまな機能を搭載した新しい「ロビ」が完成するのが、『週刊 ロビ2』。2017年6月創刊・全80号で、「ロビ」をサポートするロボット「Q-bo(キューボ)」も完成する。ドライバー1本で初心者の方でも安心して組み立てることができ、組み立てが不安な方には「組み立てサービス(有料)」が用意されている。

『ロビ2』特設ホームページ https://deagostini.jp/rot/

編集後記

高橋さんは子どもを対象としたロボット教室の監修・アドバイザーも務めています。教室は全国に1000拠点以上あり、小学生を中心に1万5000人を超える生徒がいるそうです。ロボット教育で高橋さんが大切にしているのは、「ロボットを作りたい」という子どもたちの思いを真っすぐ伸ばすことだそうです。「大人はロボットの作り方を系統立てて教えがちですが、それでは子どもは面白くなくて、ロボットを作りたいと思えなくなってしまう。一番楽しそうな部分から組み立て始めるなど、子どもがロボットに愛着を持てるようカリキュラムを工夫しています。アイデアコンテストの全国大会も開催していて、『これは僕も負けられない』と思うようなアイデアを持った子に出会えたりもするんですよ」とうれしそうな高橋さん。ロボット普及への思いが伝わってきました。(編集担当I)

取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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