重工編・2016年【業界トレンド】

各社は収益力を高めるため事業の組み替えを実行。航空・宇宙・防衛分野が成長の期待大

重工メーカーとは、船舶、鉄道車両、旅客機、発電・送電機械などのエネルギー関連設備、防衛・宇宙産業品、橋梁(きょうりょう)をはじめとする社会インフラ関連品などを手がける企業を指す。三菱重工業、IHI、川崎重工業、住友重機械工業、三井造船、日立造船などが代表格。また、日立製作所や東芝も火力・原子力発電プラントなどを手がけており、重工メーカーに分類されることもある。どの企業も製品のラインナップが幅広く、プロジェクトの規模が大きくて受注から引き渡しまでの期間が長いのが特徴だ。また、設備や機械などの「ハード面」のみならず、運用ノウハウや情報システムなどの「ソフト面」も一括で提供しているケースが多い。

リーマン・ショックが起きた2008年、業界は厳しい経営状況にさらされた。例えば日本産業機械工業会が公表している「産業機械受注状況」によると、09年の産業機械受注金額は4兆1508億円で、前年より37.0パーセント減と大きく落ちこんだ。その後、10年には4兆7731億円(対前年比15.0パーセント増)、11年には5兆2656億円(10.3パーセント増)と回復の兆しが見えたが、12年は5兆2392億円(0.5パーセント減)、13年には4兆7742億円(8.9パーセント減)と2年連続で減少。14年には5兆6975億円(19.3パーセント増)と盛り返したが、15年は5兆4189億円(4.9パーセント減)と再び下落に転じた。重機械、造船、鉄道などの各分野で国内需要は頭打ち。今後は海外需要の取り込みが成長のカギとなりそうだ。

こうした中、各社は大胆な事業ポートフォリオ(事業の組み合わせ方のこと)の再構築を進めている。例えば三菱重工業は、低採算事業の撤退・縮小に伴う費用として16年度以降の3年間に最大1500億円の特別損失を計上すると発表。高収益部門である航空機部品・オイル&ガス関連事業などに注力する一方、大型クレーン事業を住友重機械工業に譲渡、掘削機事業をIHI・JFEエンジニアリングと統合する予定だ。ほかの企業でも、事業売却や他社との事業提携などにより、得意分野に集中する動きが活発化している。

リスク管理も、各社にとって課題の一つ。例えばIHIは、インドネシアの子会社が手がけていた発電所向けボイラーが品質問題を起こして特別損失が発生。三菱重工業も、大型客船の納期が大幅に遅れて特別損失を計上した。こうした問題を最小限に抑えるため、「インターネットを活用して製造工程を効率よく管理する」「ビッグデータを分析することで生産性向上に役立てる」などの取り組みが進められている。重工メーカーでは長期的プロジェクトが多いため、先端技術を生かして管理能力を高めようとする試みは今後も進んでいくだろう。

近年特に注目を集めているのが、航空・宇宙・防衛関連の領域だ。三菱航空機が主導し、さまざまな国内企業が協力して開発されている小型ジェット旅客機の「MRJ(三菱リージョナルジェット)」は、15年11月、初飛行に成功。全日本空輸や日本航空をはじめ、各国の航空会社から受注を獲得している。また、日本がオーストラリアに対して提案している次期潜水艦は、三菱重工業と川崎重工業が製造。さらに三菱重工業・川崎重工業・富士重工業の3社は、ボーイング社に対して次世代小型旅客器の共同開発を提案している。業界内で協力し、いわば「オールジャパン体制」で新製品を開発する動きは、海外向け製品を中心に今後も広がるとみられる。また、日本政府は15年1月に「宇宙基本計画」を策定。16年3月には「宇宙活動法案」と「衛星リモートセンシング法案」を閣議決定した(ニュース記事参照)。法律の基盤が整ったことで、宇宙事業への参入も盛んになりそうだ。

各社が注力する領域はそれぞれ異なる

三菱重工業
エネルギー・環境…40パーセント

機械・設備システム…32パーセント

交通・輸送…13パーセント

防衛・宇宙…12パーセント

IHI
航空・宇宙・防衛…30パーセント

資源・エネルギー・環境…28パーセント

産業システム・汎用機械…27パーセント

社会基盤・海洋…13パーセント

川崎重工業
モーターサイクル&エンジン…23パーセント

航空宇宙…23パーセント

ガスタービン・機械…16パーセント

精密機械…10パーセント

住友重機械工業
建設機械…30パーセント

精密機械…22パーセント

機械コンポーネント…16パーセント

環境・プラント…16パーセント

※2014年度の有価証券報告書をもとに各社のセグメント別売上高比率を算出し、それぞれの上位4分野を掲載した。ひと口に「重工メーカー」と言っても、注力している分野は異なることがわかるだろう。

このニュースだけは要チェック <各社は海外事業を積極的に展開中>

・IHIが住友商事とともに、アフリカ・モザンビーク共和国でガス火力発電所の建設を受注した。受注額は約170億円で、IHIが発電設備の供給を担当。この施設で同国の電力の約2割をまかなう計画だ。IHIがサハラ砂漠以南で発電事業に参画するのは今回が初めてとされる。(2016年2月17日)

・政府は、ロケット打ち上げ時の損害賠償などについて制度化した「宇宙活動法案」と、衛星から撮影した画像の取り扱い方法を定めた「衛星リモートセンシング法案」を閣議決定。法律を整備することで、民間企業が宇宙事業に参入しやすい環境を整えようとしている。(2016年3月4日)

この業界とも深いつながりが <新型旅客機を空運会社に納入>

鉄道
海外の鉄道整備プロジェクトを進めるためには鉄道会社との協業が不可欠

総合商社
総合商社と手を組み、海外火力発電所の建設など大型プロジェクトを進める

空運(旅客)
新開発の小型ジェット旅客機は、地方の航空路線などでの就航が決まっている

この業界の指南役

日本総合研究所 未来デザイン・ラボ シニアマネージャー 田中靖記氏

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大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修修了。同大学院工学研究科客員研究員。専門は、未来洞察、中長期事業戦略策定、シナリオプランニング、海外市場進出戦略策定など。主に社会インフラ関連業界を担当。また、インド・ASEAN市場の開拓案件を数多く手がけている。

取材・文/白谷輝英
イラスト/坂谷はるか


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