CRO編・2016年【業界トレンド】

医薬品業界全般の変化により需要が増加。今後は医薬品メーカーへの「提案力」も重要になる

CROとは、Contract Research Organization、またはClinical Research Organizationの略で、医薬品メーカーから依頼を受け、開発業務の一部を受託する「医薬品開発業務受託機関」。病院・診療所といった医療機関で実施される臨床試験を監視したり、集まったデータの集計・分析などを行ったりする。欧米では1970年代から始まった業態で、医薬品開発で臨床試験などの業務が複雑化する中で存在感を拡大してきた。グローバル市場では、クインタイルズ・トランスナショナルとパレクセル・インターナショナル(共にアメリカ)がよく知られている。一方、国内市場ではクインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン、シミック、イーピーエス、パレクセル・インターナショナルなどが大手だ。

日本CRO協会によれば、協会会員企業30社の2015年における総売上高は、対前年比6パーセント増の1529億円。10年(1132億円)と比べると、市場規模は35パーセントも拡大した。同協会では16年の総売上高を1666億円と予想しており、今後もしばらくは成長が見込める業界と言えそうだ。なお、総売上高のうち日本系顧客の割合は51パーセントで、外資系顧客は49パーセント。10年(日系66パーセント、外資系34パーセント)や05年(日系77パーセント、外資系23パーセント)と比較すると、外資系企業から業務を請け負う機会は着実に増えている。

CROの業務としては、臨床試験(キーワード参照)が適切な方法で進められているか確認する「モニタリング」、集められた症例を集めコンピュータに入力して管理する「データマネジメント」、各種データを解析する「統計解析」、省庁への申請書類や報告書を法律にのっとって作成する「メディカルライティング」、医薬品メーカーや学会などから集まった情報や症例を分析して安全性情報を管理する「ファーマコヴィジランス」などがある。このうち、成長著しいのがファーマコヴィジランスの分野で、15年の売上高は前年より38パーセントも伸びた。

成長の背景にあるのは、医薬品業界全体の変化だ。現在の日本では、医療費抑制のためにジェネリック医薬品(キーワード参照)の使用拡大が進行中。先発医薬品の売り上げ比率が高い大手医薬品メーカーでは、これまで大きな売り上げを生み出していた「長期収載品」(キーワード参照)が、ジェネリック医薬品に取って代わられようとしている。そこで大手各社は売り上げ減を補うため、創薬部門を強化したり国内外の製薬ベンチャーを買収したりして、より多くの新薬開発を行おうとしているのだ。しかし、社内の人的資源には限りがあるため、医薬品メーカーは開発業務の一部や、薬の副作用情報を収集して厚生労働省に報告する業務(ファーマコヴィジランスが担当する分野)をCROに外注する傾向を強めている。

20年もしくは25年の特許切れまでの期間を長くして売り上げ増につなげるため、新薬をできるだけ早く製品化したいという医薬品メーカーからの要望は強まる一方。そうした声に対応し、CRO側主導で臨床試験の効率化を進める動きもある。例えば、「モニタリング担当者が病院に出向かなくても、インターネットを通じてカルテや症例報告書を確認できるようにする(リモートSDVと呼ばれる)」「臨床試験の報告書や新薬承認申請書などの形式・構成を統一する」「すべての症例ではなく、リスクが高い症例だけをモニタリングする手法(Risk-Based Monitoring。RBMと略すこともある)を提案する」などの取り組みが進められているところだ。従来のCROには医薬品メーカーから受託した業務をこなすイメージもあったが、今後はCROが医薬品メーカーや官公庁などに働きかけて業務改善を目指す事例が多くなるだろう。

これまでのCROは、モニタリングやデータマネジメントなど開発の一部分だけを担うことが多かった。しかし、これからは臨床試験の計画づくりから臨床試験全体のマネジメント、新薬の申請といった過程などを一括して手がけるケースも増えるだろう。そうなると、経営規模の大きな企業の方が有利なので、他社との合併・提携によって拡大を目指すCROも現れるとみられる。また、CROを志望する学生から見れば、今後は新薬開発業務の幅広い局面に携わるチャンスが拡大しそうだ。そこで経験を積めば、医薬品メーカーのマネジメント職や戦略部門、ARO(キーワード参照)など多彩な道で活躍できる可能性がある。

CRO志望者が知っておきたいキーワード

臨床試験
医薬品などの効き目や安全性を確かめるため、治療を兼ねて行われるテストを一般的に「臨床試験」と呼ぶ。これに対し、新薬の開発に的を絞って治療を兼ねて行われるテストが「治験」。つまり、治験も臨床試験の一種である。

ジェネリック医薬品
後発医薬品、ゾロ薬とも呼ばれる。特許期間が終了した医薬品を、他社が製造・販売するもの。研究開発費があまりかからないため一般の医薬品より安く、医療費抑制を目指す国によって普及が進められている。これに対し、新薬として開発されたものを「先発医薬品」と呼ぶ。

長期収載品
「ちょうきしゅうさいひん」と読む。特許期間が終了した後も、長期間にわたって「薬価基準」に掲載されている医薬品のこと。特許切れ前に比べて値段が引き下げられているケースが多いが、それでも医薬品メーカーにとっては大きな売り上げが期待できる製品だった。ところが、ジェネリック医薬品への切り替えが進み、今後は売り上げの激減が予想される。

ARO
Academic Research Organization(アカデミック臨床研究機関)の略。大学などの研究機関が主導して臨床試験を進める仕組みのこと。新薬の効果を証明する段階までは大学が受け持ち、結果が出れば医薬品メーカーやCROにバトンタッチして開発・申請業務を進める。CROで経験を積んだ人が、将来、AROで活躍するチャンスもありそうだ。

このニュースだけは要チェック <新たな分野に進出する動きが活発に>

・クインタイルズ・トランスナショナルが、アメリカのヘルスケア関連調査会社のIMSヘルスと合併すると発表。IMSヘルスが得意とする「治療現場におけるデータ収集力」を活用して医薬品の販売戦略立案に生かすなど、新たなビジネスの創出を目指している。(2016年5月3日)

・イーピーエスの持ち株会社であるEPSホールディングスが、グループ内で臨床研究の支援を行う部門を集約し、子会社を新設。臨床研究の企画から、大学などの研究者が論文を作成する際の支援などを一貫して手がける仕組みを提供する。(2015年10月21日)

この業界とも深いつながりが <医薬品メーカーに対して提案を行うケースが増加>

医薬品メーカー
医薬品開発業務の一部を受託。業務効率化のため、CROから提案するケースも

病院・診療所
臨床試験は、病院や診療所などの協力を受けて行われるケースが多い

IT(情報システム系)
ITを積極的に取り入れることで、新薬開発業務の効率アップを目指す

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 ヘルスケア・事業創造グループ 部長/プリンシパル 
南雲俊一郎氏

南雲俊一郎さん

東北大学大学院工学系研究科原子核工学修士課程修了。新規事業の創出支援、技術の事業化支援を必要とする新規事業創出が専門領域。公的研究機関における技術開発戦略構築支援や、公的研究機関における研究開発評価の実績も豊富。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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