自動車タイヤ編・2017年【業界トレンド】

新興国メーカーの低価格戦略は脅威。各社はナノ技術を駆使して高性能タイヤの開発に注力している

一般社団法人日本自動車タイヤ協会によれば、2015年の国内タイヤ販売実績は前年比2パーセント減の1億1366万本だった。リーマン・ショック(08年)、東日本大震災(11年)によって落ち込んだ年を除けば、09年以降はおおむね1億1千万台で横ばいとなっている。一方、国内大手タイヤメーカーであるブリヂストンが公表しているデータ「ブリヂストンデータ2016」によれば、04年に920億米ドルだった世界市場は、14年になると1799億米ドルと大きく成長している。国内最大手のブリヂストン(15年度の海外売上比率は83パーセント)を筆頭に、住友ゴム工業(同56パーセント)、横浜ゴム(同43パーセント)、東洋ゴム工業(同63パーセント)といった国内メーカーはいずれも海外売上比率が高く、グローバル市場の成長は追い風と言えそうだ。

なお、世界市場の売り上げトップ3は、ブリヂストン、ミシュラン(フランス)、グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニー(アメリカ)の3社。しかし、ハンコックタイヤ(韓国)や正新ゴム工業(台湾)などアジアのメーカーの台頭によって、競争は激しくなる傾向だ。世界市場に占めるトップ3社のシェアは、05年時点の53.2パーセントから、15年は38.0パーセントに減っている。

アジアメーカーの躍進を支えているのが、価格の安さだ。タイヤの性能は安全性に直結するため、以前はアジアメーカーのタイヤを敬遠する人も少なくなかった。しかし最近では、4本で1万円台という低価格帯の商品が登場し、自動車の維持費を節約したいと考える人々に広く受け入れられている。

低価格戦略によって競争が激化する中、国内メーカー各社は「高性能・高付加価値製品への注力」にシフトしている。とりわけ、環境負荷低減などを目指し、分子レベルの設計技術を駆使した高性能タイヤの開発が活発化している。例えばブリヂストンは、内閣府が進めている研究開発プログラム「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」の一環として、燃費性能を大きく損なうことなく耐摩耗性を高めるゴム配合技術を開発した。また、東洋ゴム工業はタイヤ材料開発を高度化するシミュレーション技術を確立し、燃費性能の向上に役立てるとしている(ニュース参照)。これらの技術は近い将来、各社が出している低燃費タイヤに生かされるだろう。

IoT(Internet of Thingsの略で、「モノのインターネット」と訳されることもある)にも注目しておきたい。これは、さまざまなモノをインターネットに接続して活用しようとする取り組みのこと。例えば、自動車タイヤにセンサーを埋め込み、路面の凍結などを確認するシステムなどがあり、各社が実用化を目指している。

この業界では、ブランド戦略が大きなカギを握っていることも知っておこう。自動車タイヤメーカーは自動車メーカーに新車用のタイヤを納入するだけでなく、タイヤ販売店を通じて交換用のタイヤも販売している。この販売チャネルで消費者の購買判断を大きく左右するのが、ブランド力だ。そこで各社は、モータースポーツの大会で自社タイヤの性能をアピールするなど、さまざまな形でブランドの認知向上を目指している。中でも最大手のブリヂストンは、オリンピックの公式パートナーとなって国内だけでなく全世界を対象としたブランド戦略を展開している。今後もアジアのメーカーとの差別化戦略としてどのような新たな一手が繰り出されるか、注目されるところだ。

自動車タイヤメーカー志望者が知っておきたいキーワード

低燃費タイヤ
「転がり抵抗」(後述)を抑えてエネルギーのロスを小さくすることで、燃費性能を高められるタイヤ。一般的に、転がり抵抗を低くするとタイヤのグリップ力(タイヤが地面に張り付こうとする力のこと)が低下して危険性が増す。そこでタイヤメーカーは、転がり抵抗の低さ(=燃費が良くなる)とグリップ力の高さ(=安全性が高い)の両立を目指して努力している。ハイブリッド自動車等のエコカーを中心に採用されている。

転がり抵抗
自動車が走る際に発生するタイヤの抵抗のことで、これが大きいほどエネルギーロスが生じる。要因とされているのは、走行時のタイヤの変形、タイヤが路面と接する際に発生する摩擦、タイヤの回転に伴う空気抵抗の3つ。このうち最も大きいのがタイヤ変形によるロスで、全体の9割程度を占める。

ラベリング制度
消費者に対して適切な情報提供を行うため、転がり抵抗性能とウェットグリップ性能(ぬれた路面で走る際のグリップ力)の両方を等級制度に基づいて表示する仕組みのこと。転がり抵抗性能はAAAからCまでの5段階、ウェットグリップ性能はaからdまでの4段階でランク付けしている。なお、転がり抵抗性能がA以上で、かつウェットグリップ性能がaからdの範囲内にあるタイヤを「低燃費タイヤ」と定義している。

このニュースだけは要チェック <高性能タイヤ開発のため、各社が技術革新を進める>

・東洋ゴム工業が、より高性能なタイヤ開発が可能となる最新技術について発表。ナノ分子レベルでゴムの内部構造を観察する技術と、ゴム材料の粘弾性を短時間で定量化するシミュレーション技術を組み合わせて実用化した。タイヤ開発における解析と分析を、革新的に進化させるとされる。(2016年11月17日)

・住友ゴム工業が、イギリス発のタイヤブランドであるダンロップを約161億円で買収した。以前の住友ゴム工業は、国内など限られた地域でのみダンロップブランドの商品を販売していたが、買収によって欧米やインドなどを除いた世界86カ国でダンロップブランド商品を販売できるようになる。(2016年12月27日)

この業界とも深いつながりが <スポーツ用品を手がける企業もある>

化学
高性能タイヤの開発には、ゴム素材を提供する企業との協力が不可欠

スポーツ用品・アパレル
タイヤメーカーがゴルフクラブやテニスラケットなどを開発するケースも

自動車
燃費のよい車を生み出すために、高性能タイヤを提供している

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント 
橘田尚明氏

橘田尚明

東京大学大学院技術経営戦略学専攻修士課程修了。中長期経営計画策定支援、新規事業テーマ構築支援、未来洞察などのコンサルティングを中心に活動。米国公認会計士。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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